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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-7 遠征訓練 出発

クラウディア視点




『簡易遠征訓練』出発当日。


 一部の生徒達の間では、『遠征を馬鹿にしている!』だとか、『騎士になるということの矜持とはな…』等と偉そうな事を言っていた者達も居たが、実際に始まると皆一様に楽しそうにはしゃいでいた。


 「何だかんだ言って偉そうにしてても、皆、まだまだ子供ね」

 ジェシカが呆れて、笑っている騎士見習い達を見た。


 「そう言うジェシカも楽しそうだね…」

 デミトリクスがジェシカに話し掛けた。


 …デミちゃんが、人の感情を読んだ…!?

 私が感動していると、どうしたのお姉ちゃん?、と聞いてきた。

 私が無言でデミトリクスの頭を撫でていたら、ヴァネッサから嫉妬の視線を感じた。


 え…?ヴァネッサの…視線?

 波形魔術式で魔素の波を操作して、視線みたいにして一点にぶつけたの?

 怖!才能怖い…!

 そんな使い方も出来るんだ…


 「デミちゃん…もう立派な男の子なんだから『お姉ちゃん』じゃなく、『お姉様』と呼びなさい」

 「元から男の子でしょう…クラウも『デミちゃん』呼びは卒業したら?」

 「やだ!」

 「サリー、この子供を何とかして…」

 「無理です。馬鹿に付ける薬はありません。お嬢様」

 「クラウディアってルーナよりコドモなの?

 ルーナよりも大きいのに?

 ニンゲンの歳ってワカラナイねー」


 …ルーナにまで呆れられた…


 「しくしく…()()()()メイドに馬鹿にされ…」

 いきなり金属製の串を投げつけてきた。


 あぶな!


 咄嗟に身体を捻って回避した。


 「危ないじゃないの…」

 「当たっても死なない所を狙いました。ご安心下さい。

 行き遅れの私如きの治癒魔術でも治りますわ。

 跡は残るかも知れませんが…」

 殺意の籠もった笑ってない目でニタリと笑い掛けられた。


 …なるほど、この笑い方はこういう時に効果的なんだな…。

 私が笑うと怖がられるのはこれが原因?


 投げる処を見ていたマリアンヌと、本気の殺意を感じたヴァネッサが、驚いて口を開けたまま固まった。


 「ほらほら、楽しいからってじゃれてないの。二人に呆れられてるじゃない」と、ジェシカが明るく場を和ませようとする…。

 する…?

 違うわね…。何も考えてない顔だわ…。


 一歩間違えたら死ぬんじゃないの…?とマリアンヌが呟く。

 それを聞いたヴァネッサは何度も頷いた。


 デミトリクスは、何故か嬉しそうなジェシカに、何かあったの?、と聞いていた。

 ジェシカは鼻歌を歌いながら「想像して、考えてごらん。貴方への宿題よ」と言った。


 …この数日、ジェシカがとても嬉しそうだ。

 久しぶりに会うからしょうがないね。



 「やあ、お待たせ。…どうしたの?」

 イルルカとマクスウェルがやって来た。


 ニコニコと笑いながら鉄串を持ち殺意を発するメイド。

 それを警戒して、いつでも避けられる姿勢の私。

 殺意増々メイドの横で呆れ返るお嬢様。

 それを見て怯えるヴァネッサとマリアンヌ。

 その横で鼻歌を歌いながら準備をするジェシカ。


 …うん、混沌(カオス)だ。


 「何でも無いのよ。ほら、サリーも止めなさい」

 ルーナが止めると、サリーも殺意を抑えた。



 「皆様、お待たせいたしました」

 「よう!待ったか?」

 「待ってないわ。お帰りはあちらよ」

 「うわ!酷え」

 最後に到着したリオネリウスは、初めから地を出してきた。

 後ろに控えたセタンタが苦笑いしている。


 「アンタ…学校内くらいは『王子様』演じなさいよ…」

 ジェシカが呆れて注意する。


 「どうせ、支度に忙しくて誰も注目しちゃいねえって」

 「王子…私が見ておりますが…」

 セタンタがニッコリと笑いながらリオネリウスの肩を掴む。


 そんなセタンタを無視して、「よう!デミ!婚約おめっとう」と軽く話す。

 セタンタがリオネリウスの肩においた手に力を入れると、イタタタ、暴力反対、と呻いた。


 「おま!主人に暴力ふるうなって!」

 「私の主人はリオネリウス『王子』で御座います。口の悪い『馬鹿』では御座いません」

 ニコニコしながら殺意を発する。


 この子、サリータイプか…


 「わかっ!分かった!ゴホン…。

 デミトリクス=ヨーク、ヴァネッサ=リンドバルト、二人の友が将来の契を交わした事、心より嬉しく思う。

 永遠(とわ)に二人が心安く在る様、マイア様の祝福がある事を望む…てな感じでいいか?」

 「…雑ですが、まぁ良いでしょう」

 「あー…肩凝る…」

 「もっと、肩をお揉みいたしますか?『王子』?」

 「固辞いたします!」

 「下の者に(へりくだ)るな!」

 「イタタタ…!」


 「仲良いのね…」ルーナが呆れて呟いた。


 「ああ…ガキの頃からこれだからな。目上に対して遠慮しねぇ…」

 「遠慮しないで私を諫めろ、私の直ぐ側に控えろ。

 私を1人にするな!、と言ったのは王子でしたね…」

 「ちょ…おま…洗礼式前の事、持ち出すな!」

 リオネリウスは顔を赤くして慌てていた。


 へぇ~、と言いながらサリーとマリアンヌがニヤついていた。


 また…、コイツらは…何でも良いのか?



 馬鹿なやり取りをしていたら、ガラガラガラ…と大きな音が響いてきた。

 4頭引きの大きな馬車が数台やって来た。

 内装は、向かい合わせの三人がけ長椅子が二組の計4列。

 12人まで乗れる大きな物だった。


 御者台には装飾の入った屋根と壁があるだけじゃなく、椅子には綿の詰め込まれた防水本革シートが付いている。

 長時間馬を操っても腰が痛くならないように。


 あ…そうか、先生や生徒達が御者をする事も想定して作ってあるのか…無駄に豪華ね…。

 一応は戦いを想定した遠征訓練だというのに…

 こんなので実際の戦場に行ったら、一斉に狙われそうね。



 平民が使っていた駅馬車を元に、貴族の子弟を大勢、且つ、一度に運べる様に作り替えた物だそうだ。


 内装を豪華な彫刻と高級なニスで仕上げて、革張りシートと毛足の長い絨毯を敷くことで、貴族の保護者達にも文句を言わせない様な造りにしてある。


 馬車を引いてきた御者役の教師達が使用人に命じて、生徒達が荷造りして準備した荷車と連結させた。


 護衛役が居る生徒達のチームでは、教師は御者台から降りて、護衛役が御者を交代する。


 今回、ほとんどの生徒は自分達の護衛役を連れてきているので、一部の教師を除いて御者台から降りた。

 そして、そのまま馬車に乗り込んだり、馬に乗り換えたりした。


 教師達はこの後、採点と緊急時の護衛も兼ねて生徒達の馬車について行く事になっている。

 しかし、これでも授業なので基本的には一切手を出さない、と事前通知されている。


 デミトリクスチームは、セタンタが生徒兼護衛役として登録したらしく、セタンタが御者台に座った。


 私達のチームは、護衛役とは現地で会う事になっていたので、馬車を引いてきたアルドレダが、そのまま御者台に座った。


 …と言う体で、現地での仕事の監視がメインだけど…。

 遠征訓練のポイントも稼ぐ、本業の仕事もする…。

 本当、人遣いが荒いわ…。



 「さて、これから遠征訓練を開始する。騎士団や軍部所属を目指す者は勿論の事、それ以外の生徒達は仲間との交流をもって、新しい発見や経験を積む事を期待する」

 ホウエン校長先生が壇上に立って皆を鼓舞する。


 「今回の遠征訓練では、事前の連絡通り『獣や魔獣を狩れた者』だけでなく『金銭的価値のある自然物』を発見、持ち帰ったチーム全体に成績の加点がある。この加点は卒業時の貴方達の行き先を照らす一助になると考えて、鋭意努力する様に」


 ホウエン校長先生は続けて、「ただし…」と言って注意を述べた。


 加点分が取得出来なかったとしても、参加したという事だけでも卒業時の評価に加えられる。だから、無理だと思ったら護衛役に任せなさい。

 無理をして命を無くしたら元も子もない。

 退くことも勇気。撤退も作戦の一つだ。

 そう言って生徒達に「無事に戻る様に」と釘を刺した。



 他の皆が、それぞれ別の目的地に向けて出発していく。


 人目が少なくなった中、男装しているヴァネッサがデミトリクスに、突然ギュッと抱き着いた。


 「怪我しないでね…」ヴァネッサが瞳を潤ませながらデミトリクスに話し掛ける。

 デミトリクスはヴァネッサを抱き締めつつ、彼女の頭を優しく撫でた。


 …知らない人が見たら、美少年恋人同士の絡み合いに見えるでしょうね…。

 私は無表情のままだが、脳内では興奮していた。


 …ハァ…デミちゃん、ヴァネッサも…尊い…。


 サリーとマリアンヌが、興奮のあまり口を押さえて震えている。

 ルーナは目に涙を溜め、感動のあまりハンカチで口を押さえて震えている。


 同じ『口を押さえる』でも、こんなに綺麗さが違うのね。

 …ああ…純粋なルーナが羨ましい…


 『ほっほ~う…これはいい絵だわね』

 …あ、起きた…

 『寝てて良かったのに…』

 『貴女の興奮で目が覚めたのよ…五月蠅(うるさ)くて…』


 『いい絵でしょ?』

 『普通の男女なのに、何故か背徳的な匂いがするわ。

 昔の人達はこういう感覚を愉しんだのかしら…?』

 『今でも十分愉しんでいる奴等もいるわよ』

 そう言って、マリアンヌ達を見た。


 『二千年経っても変わらないものね…』

 『お姉ちゃんの知識の根源…?』

 『え…?…そうなのかな…?』

 ガラティアが考え込んだ。しかし、ヴァネッサ達からは目を離さなかったが…



 「おい、仲が良いのは結構だが、出発出来ない。そろそろ離れろ」

 リオネリウスが言うと、マクスウェルやイルルカも頷いた。


 デミトリクスが、ごめんね…、と言いながらヴァネッサを引き離して、自分達の馬車に向かった。


 マリアンヌとサリーの殺気の籠もった視線を感じたのか、マクスウェル達は馬車に逃げ込んだ。


 殺意を真正面から受けながらも、ヤレヤレと言って受け流したリオネリウスは、デミトリクスと一緒に馬車に乗り込んだ。


 …殺意に慣れているのか、無頓着なのか…強いわね。



 「さて、私達もそろそろ出るわよ。皆、乗って」

 アルドレダの言葉で、ようやく皆は動き出した。


 嬉しそうに馬車に飛び乗るのはジェシカ。

 その後をルーナとサリーとパックが続き、名残惜しそうなヴァネッサの手を引いてマリアンヌが乗り込む。

 私が最後に、馬車の扉を閉めて鍵を下ろした。


 馬車はゆっくり走り始め、デミトリクスの馬車とは別の方向へと進んでいった。


 ヴァネッサはデミトリクス達の馬車を、見えなくなるまで見えない目で、無言で見つめていた。



 

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