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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-4 穏便に、でも強制的に…

クラウディア視点




 「ヴァネッサを我々の仲間に…」と言うノーラの発言を聞き、ルーナが思わず、「ヘルメス枢機卿が乗っ取られた事と何か関係が…」と口に出した。


 その言葉を聞いた途端セルペンスがジロッとルーナを見た。

 ルーナとパックが、またもや「ひっ!」と言って固まってしまった。


 ノーラが、何の事?と聞いてきた。

 私がセルペンスの方に目を向けると、彼女は諦めた様にため息をついた。

 そして、私に向けて「貴女の…知ってる事を…全部話して…」と言った。


 私はニグレドの言った事を話した。


 ホウエンやノーラは驚いていたけれど、セルペンスは当然知っているという様子で、驚いた反応をしなかった。


 「乗っ取り…ね。貴女、隠してたわね…」

 ノーラがジトッとした目でセルペンスを見ると、セルペンスはアワアワしながら、「ヘルメスに関する事…メンダクスに…止められてて…言えなくて…」と言い訳していた。


 「しかし、豊穣の森の魔女様ですか…メンダクス殿がご存知なら…成る程そういう事ですね…」

 ホウエンが一人で納得したように頷いていた。


 「メンダクス殿が隠すのも無理はないでしょう。我々には荷が勝ち過ぎる。セルペンス殿、メンダクス殿はヘルメス枢機卿の変化には()()()()おられたのですな?」


 ホウエンがそう聞くと、セルペンスは頷いた。


 「ヴァネッサが見破れる事を知っていて、仲間にするといったのかしら…?」

 ノーラがセルペンスを横目で見ながら独り言の様に呟く。


 セルペンスは何も言えず、手をモジモジさせて狼狽えながらノーラを上目遣いで見ていた。



 私は、私も危惧している事があるのだけれど…と言って、セルペンスに質問した。


 『乗っ取られたヘルメス枢機卿の人格』は『更に他の者を乗っ取る』事が出来るのか?

 『魅了』の能力を使えるヘルメスが、更に他者の人格まで乗っ取れたら、その危険性は飛躍的に増加する。


 その危険性を考えて無かった他の子達は青褪めて、セルペンスを見た。



 セルペンスは、それは恐らく出来ないはず…、と言った。

 そして、『敵対者』について説明した。


 『敵対者』に関してはデーメーテールが詳しい、私は良く知らない。

 敵対者の『子供達』は、『特定の条件を満たした者』の人格を乗っ取れると聞いている。

 今回のヘルメスは『終端の駒』だから、他者を乗っ取る『人格』は無い筈だ、とも変態が言っていた。…だそうだ。


 …変態…以前話していた奴の事?

 それが『メンダクス』と言う名前?



 「子供達?終端?」

 ルーナが疑問を口にする。

 セルペンスも「変態が…言っていた事だから…本当かは分からないけど…」そう言って、続けて説明した。


 敵対者は、数名の『子供達(チルドレン)』と呼ばれる自身の力と人格を分け与えた者を使役する。

 『子供達』とは呼ぶが、別に姿形が子供と言う訳ではない。

 その『子供達』が『特定の条件を満たした相手』の人格を塗りつぶす事が出来るらしい。


 「特定の条件?」


 「詳しい事は…分からない…。恐らく…『乗っ取り易い条件』が必要らしい…と…言ってた…」


 メンダクスは、乗っ取られた人間達を何人も見てきた、と言っていた。

 彼らの共通点から恐らくはそうだろう…という『条件』を見つけたが、それが絶対条件かは分からない、とも言っていたそうだ。


 「その条件は?」


 「変態は…『器の空白』とか言ってた…。私は…よく解らなかった…」


 「空白…?

 良く解らないけれど、メンダクスや貴女は人格が乗っ取られる条件は満たしてないわよね?」


 「多分だけれど…私は大丈夫。それに…」


 セルペンスは、私は『乗っ取られない』為の御守(おまも)りを持っていると言って、胸元から首飾りの先に取付けられた3センチ立方体くらいの小さな箱を取り出した。

 それは螺鈿細工の綺麗な木組の小箱で、彼女は「仕組みは知らない。変態がくれた」と言った。



 黙って聞いていたホウエン校長が、ボソッと、「メンダクス殿の許可無く、そこまで話しても宜しかったのか…?」と口にすると、「ノーラに嫌われるよりは…」とセルペンスが言い訳した。



 「今回はヘルメスに接触する可能性の高い子供達に、事前に知らせておかなかったメンダクスが悪いのよ。セルペンスは気に病まなくて良いのよ~」

 そう言いながら、ノーラはセルペンスの顎の下を撫でた。


 「うん…変態が…全部悪い…。私、悪くない…」

 セルペンスは気持ち良さそうにして、ノーラの胸に頭をこすり付けた。


 その様子を見たルーナとサリーとパックは、恐ろしい化け物同士の睦み合いを見た時の様な顔で、ノーラ達を凝視していた。


 「お嬢様…ノーラ様には絶対に逆らってはなりません…」

 「言われなくても解ってるわ…」

 サリーとルーナが小声で話している中、パックはルーナの服の中に潜り込んでガタガタと震えていた。



 「ヴァネッサを私達の中に入れるという判断は、『子供達』にヴァネッサを乗っ取られる危険性を考えての事?」


 私がノーラに聞くと、珍しく真剣な表情で、

 「人格乗っ取りが本当なら、メンダクスの方針転換にはそれも考えられているのかも知れないわね。

 今現在は『特定の条件』を満たしていないから見逃されているだけで、今後満たした際に乗っ取られたら…恐ろしい兵器になるわね…。

 その前に確保しておくというのは、当然の判断よね…」

 と、答えながら眉間にシワを寄せていた。



 「ところで、ヴァネッサにどうやって説明したらいいの?」とジェシカが尋ねると、

 「じゃあ…私から…」とセルペンスが言う。それに被せる様に「貴女は駄目」と即座に却下した。


 「貴女がヴァネッサにした事忘れたの?」とジェシカが言うと、「…親睦を深める…あいさつ?」と首を傾げた。

 ジェシカは、残念な娘を見る目でセルペンスを見た。



 私が、『笛』の事をいきなり教えても混乱して拒否してしまうだろうから、校長先生に協力して貰いましょう。と言って、一つの提案をした。


 …吊り橋効果って、女同士でも効果あるのか分からないけれど…


 それを聞いたホウエンは、成る程…と言って了承した。




◆◆◆




 数日後、学校中で『イベント』の事が話題となっていた。


 『()()遠征訓練』


 「聞いたか? まだ発表されてはいないが、既に噂は広まっているから知っていると思うが…」と言ってマクスウェルが話してきた。


 食堂では、マクスウェルが楽しそうに皆の前で、私の『提案』を話し始めた。


 サンクタム・レリジオでは毎年、剣槍術、砲術・弓術やサバイバル術等の鍛錬系統の選択を取っている者と、軍指揮学や地政学等の軍系統の選択を取得している者達に卒業試験として『遠征訓練』がある。

 『遠征訓練』は、軍指揮学の生徒と他の生徒複数名でチームを組み、指定した『野外』で数日〜数週間、生活するというもの。

 『無事』に過ごし、指定された『物』を『いくつ』取得出来たか、が点数となり、鍛錬・軍系統卒業の順位となる。

 この順位が、卒業後の就職先や軍での地位に繋がる。


 私は、これを拡大してもらった。

 参加・不参加自由。

 希望者のみだが全生徒対象として行う。

 それを単位として卒業の加点として認める様に。


 チームは男女別で4〜6人。事情により加減を認める。

 1人につき1匹まで、従属契約されている獣魔も認める。

 1チームに付き2名まで、同性に限り護衛も認める。

 学校に申請すれば、別途料金で護衛の紹介もしてくれる。


 本来の『遠征訓練』より、かなり緩いルールとする事で門戸を広げた。


 報酬として、参加するだけで基礎4科の単位とし、条件の達成具合で更に成績に加点する。

 1年以内で基礎4科の卒業が出来なさそうな、勉学が苦手な者に好評。

 鍛錬系統の選択を取っている者には、良い事前練習になると好評。

 軍属関連の教師からは、これで選択取得者が増えるかもしれないとの期待に繋がっている。


 「マクスウェルは基礎4科終わってるのよね?

 参加しても利が無いのではないの?」


 「剣術の教師から聞いたんだが、基礎4科が終わっている者は、自分の選んだ選択科目に加点してもらえるらしい。どのみち、昨年は剣術の選択科目は卒業してなかったから、卒業試験の練習にも丁度良いしな」


 …なるほど…ホウエンとしても、基礎4科終わって研究室で(くすぶ)っている頭でっかちにも、運動させる良い機会になった訳ね。

 研究室に籠もったまま卒業する生徒も居るしね。


 「私達は選択科目上、卒業試験の予行練習として必要だから参加するわ。ヴァネッサも参加するわよね?」

 ヴァネッサを見る。


 ヴァネッサは、まだ憔悴していて上の空だった。

 「え…?何…?」


 「私…ヴァネッサと同じチームになりたい!」

 ルーナがおねだりした。

 「チーム…?」

 「ヴァネッサが手伝ってくれれば簡単よね」

 ジェシカが追撃する。

 「手伝う…何…?」

 「ありがとう!手伝ってくれるのね。一緒に頑張りましょう!」

 考える暇も答える暇も与えずに、私が止めを刺す。


 「私も!私も!クラウディア様と一緒のチームになりたいですわ!」

 マリアンヌが手を挙げた。


 …予定外だが、想定内。丁度良い。

 「マリアンヌとヴァネッサと私達で5人ね。

 丁度良いんじゃない?

 ありがとう、マリアンヌ、ヴァネッサ!」


 「では、お嬢様。私は校長先生に参加予約をして参ります」

 サリーがそそくさと食堂を出た。


 「ちょ…ちょちょ…ちょっと待って!何の事?」

 ヴァネッサの意識が覚醒してきた様だ。


 「今度のイベントよ!参加ありがとう!」

 「イベント?何の事??」

 ヴァネッサは慌てて聞いてきた。


 「遠征訓練!ヴァネッサと同じチームだわ!」

 ルーナが喜ぶ。これは彼女の本心だ。

 「え…?目の視えない私が!?無理無理!」

 ヴァネッサは、先程までのメソメソした様子は無くなり、必死になって拒否していた。


 「ヴァネッサの選択授業での魔道銃の命中率は、デミと同じ100発100中じゃないの。

 しかも、いつもデミと同じ的の同じ所に当ててるし。

 …狙ってるんでしょ?

 狙って出来るんだから凄く戦力になるわ。

 どの道、愛するデミと一緒に卒業するなら遠征訓練の練習しておかないとね」

 ジェシカがニヤニヤしながら話す。


 …ジェシカって、意外とこういう話し好きね。

 自分がやられると嫌な顔するのに。


 「ちょ!そんな訳な…い…狙ってなんか…」

 ヴァネッサがデミトリクスを意識しながら、顔を真っ赤にして否定を…しきれてない。


 ヴァネッサのすぐ隣に座っていたデミトリクスが、止めの一撃!

 「お姉ちゃんとも同じチームなら、僕も安心出来るな。

 お姉ちゃん、僕の大事なヴァネッサを護ってあげてね」


 …デミちゃんのナイスアドリブ!

 凄いわ!成長した!

 お姉ちゃん嬉しい!


 『僕の大事なヴァネッサ』というセリフを聞いた途端、ヴァネッサは顔を真っ赤にして両手で顔を覆いながら机に伏せた。

 盗み聞きしていた周囲の女生徒達から嬌声が聞こえた。


 私は「デミちゃんの頼みなら仕方ない。貴方の『恋人』は私が護ってあげるわ」と高らかに宣言して、なし崩し的に参加させた。

 ヴァネッサは否定しようとしているが、声が小さくて全く聞こえない。


 耳まで真っ赤になったヴァネッサは、頭を抱えて机に突っ伏していた。


 …ゴメンね、ヴァネッサ。無理矢理にでも参加してもらうわ。

 それに、ウジウジ、メソメソされてるのも空気が悪くて嫌だし。


 …デミちゃん…ヴァネッサの頭を撫でてる…

 あれ…?…アドリブ?あのデミちゃんが?


 …もしかして…本心だった…!?



 

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