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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第一章 女神に捧ぐ祭り
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◆1-5 余裕?のミッション

ジェシカ視点




 風に乗った雲が上手く月を隠して、丁度良い暗闇を創り出してくれていた。


 私とクラウディアとパックは、砦の西側を岩に隠れながら走っていた。今夜の異常な雰囲気を感じたのか、虫の音も獣の遠吠えも鳴りを潜めていた。


 砦の南門から500メートル程離れた場所でヘルメス枢機卿が軍隊を休ませている。

 夕刻に到着して設営をしたのち、哨戒を立てて自軍内に引き籠もっている。


 今夜実行というのは伝わっている筈だし、失敗はヘルメスにとって一番避けたいだろうから、ちゃんと動くと思うけどね…。



 砦の周囲は疎らな木々と露出した岩肌の為、大軍は隠せない。

 東西を高い崖に囲まれ寸断されているので、南北は砦を抜けないと行き来が出来ない。

 この砦は南か北の2方向からしか攻められない堅牢な造りをしていた。

 だから占拠した傭兵団は南側の城壁に多くの立哨を置いて、警戒していた。



 私は自分の魔力を『音』として放つ。

 丁度、私達の砂利を踏む足音と『逆の音』になる様に。

『逆の音』を瞬時に探し出して、聞こえる『音』にぶつけると『音』が消える。

『逆の音』を何故『逆』と理解出来るか解らない。


 これが私の『無音』の魔術。原理は知らない。


 この魔術を説明した時、クラウディアは私を「天才だ!」と言った。そして原理を説明してくれたけど…理解出来ずに忘れた。

 「凄く複雑な計算を、頭の中だけで瞬時に行っているんだよ!凄いことなんだよ!」と、彼女は興奮して騒いでた。

 頭の悪い私を「天才」と言ってくれたのは、エレノア様と父ちゃんとクラウディアだけだった。

 特に、周囲から『神童』と言われてるクラウディアに褒められたのは………凄く嬉しかった…


 二人分の足音に上手く合わせるのは難しいけれど、やれないことはない。頑張れ私。父ちゃんに褒めてもらうんだ。



 パックが認識阻害の魔力の『波』を放つ。元々暗闇で視界は悪いが、パックの能力の重ねがけだ。

 クラウディアは『光』の魔術と呼んでいた。視えなくするのに光…?


 パックは妖精だから、人間には難しい(無理な)魔力の扱いに長けている。

 クラウディアは、『光の反射がナントカカントカ…』と言っていたけど、私もパック本人も理解出来なかった。

 空を飛ぶのも『浮力がドーノコーノ…空気抵抗がナンヤソレ…』と言ってたけれど、私達の頭じゃ理解出来ないという事を、いい加減に理解して欲しい。


 兎に角、『注視しない限り視えない』という事らしい。

 こちらを凝視しない限り、私達に気付ける者はいないだろう。父ちゃんやクラウディアみたいな化物以外は。



「クラウ、そろそろお願い」


 私が小さな声で言うと、『もう繋いだわ』と言う声が、頭の中に聞こえた。

 クラウディアの能力、『糸』の魔術だ。昔、この能力の仕組みを説明して貰ったけど、理解出来なくて忘れた。



 クラウディアは魔力が少ない。


 昔、パックがクラウディアに、『魔力器』は膨大なのに、何でこんなに少ないの?と聞いていた事があった。

 『魔力器』の意味はわからないが、クラウディアの操作出来る魔力は平民レベル(プレブススケール)だそうだ。

 魔力が人の価値を決めるこの国に於いて、クラウディアレベルだと『価値なし』と判断される。

 だからクラウディアは知恵で自分の価値を示した。


 クラウディアの使う魔術は、どれも少ない魔力で行使出来る。

 私も全ては知らない(説明されても理解出来ない)が、少ない魔素を更に薄める。すると、周囲の魔素が感じ取りやすくなり、パックの様な妖精達みたいに魔素の動きが見えるらしい。ただ、原理は真逆?とかで妖精達より広範囲を『視る』事が出来るとか何とか…やはりヨクワカラナイ……

 パックも同じ事が出来るはずだと言っていたが、そもそもパックは『抜けている』から、あまり当てには出来ないし。



 『糸を繋いでいるから、出来る限り戦闘は避けてね』と、クラウディアが言ってきた。

 私は『どの程度?』と頭の中で返すと、『無音や光の魔術位なら切れないけど、圧縮魔術が掠めると、多分切れる』と言う。



 クラウディアの様に、空気中や体内の魔素を固化し『物を創り出す』魔術を使える者は結構いる。しかし、クラウディア並に極小の魔力で『糸』を練る事のできる者は見たことがない。魔力が少ないからこそ編み出した技術だそうだ。

 極少ない魔素で練った『糸』は細すぎて見えない。物体もすり抜けるので剣やナイフで切断する事は出来ない。しかし、一定以上の密度の魔力が掠めると切れてしまうらしい。

 戦闘で圧縮魔術を使う者は多いので、戦闘中は維持出来ないそうだ。

 ただ、この『糸』を繋げて会話が出来るので、密談や隠密作戦には最適だ。でも何故、繋ぐと頭に声が聞こえるのかは未だにワカラナイ…『魔素抵抗を無にする事で波の拡散が…』とか説明されても『???』と返すしかない。




◆◆◆




 クラウディアは城壁西側の空堀の中に身を潜めた。

私は見張りが居ないのを確認すると、レンガの僅かな出っ張りに指先と爪先を引っ掛けて登り始めた。土台を含めて10メートル程度の低い城壁なので、音も無くすぐに乗り越えた。

 これなら昔、よく乗り越えていた下町の建物の壁の方が難しかったくらいだ。パックも問題無く付いてきた。



 城壁の内側に着地して、『クラウ、聞こえる?』と言うと、クラウディアから『感度良好』と返ってきた。『カンド?音声?』と聞き直すと『音声良好』と返ってきた。

 クラウディアは時々よく分からない言葉を使う。神童の頭の中はどうなってるのかなぁ…?と考えながら進むと、難無く中庭中央建物の外壁に辿り着いた。


『クラウ、どの部屋?』と聞くと、『そこから20メートル北の通気窓の開いている部屋』と言った。

 キョロキョロ見回すと、地面から5メートル位の高さの所の壁に、頭が入るかどうかという大きさの穴が開いていた。

 穴の下まで来て、『ここ?』と聞くと、間違い無いとの返事が来た。

 私は、クラウディアから預かった小型の円盤状の魔導具を、スイッチを入れて窓から放り込んだ。



 その後、同じ様に誘導されながら無事に3箇所目にも放り込んだ。


 単調になってきた作業に、つい、『何で、火薬庫って同じ様な作りなのかなぁ?』と呟くと、クラウディアから『火薬は保管が難しいから一定の大きさの空気抜き用途の通気口があり、且つ湿気にも弱いから雨が入らず……』と、始まってしまった。


 クラウディアの説明を右から左に聞き流して走っていると、突然『止まって!』と頭に響いた。

 私は『何処?』と聞くと『その右角の先、更に左の角の先からそちらに二人歩いてくる』と言われた。

 私は周りを見渡したが、隠れられる場所が無い事がわかった。仕方なく引き返そうとして、踵を返したが、『そっちにもこれから建物の外に出ようとしている奴がいる。そのまま行くと出くわす』と言われる。


 殺るか…と考えナイフを抜くと、クラウディアから『そこの壁登れる?』と問いかけられた。サッと見て、『出来る』と返すと、『今から言う通りにして』と聞こえてきた。


 私の居た場所の5メートル上空に中央棟から外壁に直接繋がる橋があった。私は指示された通りに壁を登り、橋の下の影になっている空間に入り込み、手足を突っ張って橋の下側に張り付いた。

 更にパックが『光』の魔術で橋の影を濃くしてくれた。


 気付かれたら、瞬時に殺せるように準備をしながら待っていた。


 丁度その時、建物の扉が開き武装した傭兵が出てきた。傭兵はそのまま外壁の所まで行き、その場で用を足し始めた。丁度そこに巡回中の兵士達が来て、私の隠れている所のすぐ真下、2メートルくらいの距離を通り過ぎ、用を足している兵士と一言二言交わしてから、その場を通り過ぎて行った。用を足し終わった兵士は、また建物の中に戻って行った。

 誰も橋の暗闇に潜んでいた私には気付かなかった。


 私は胸をなで下ろし、飛び降りた。そして、その後はより慎重に歩を進めた。



 クラウディアの指示とパックの魔術のおかげで、無事、全てに仕掛け終えて、クラウディアの待つ外壁の空堀まで戻って来た。

 暫くは無言でエレノア様の待つ場所まで走っていたが、途中で緊張が緩んできた為にクスクスと笑い出してしまった。クラウディアも同じ気分だったのか、周りに声が響かない様に二人で笑った。


 パックは、「どうしちゃったの?壊れちゃった?」と心配して、私達の周りを飛び回っていた。


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