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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
51/287

◆2-34 陰謀の総括と馬に呆れられる人間と

ジェシカ視点




 私は魔道具組立工組合長レンツォと、ハジス工房の副工房長バーゼルに関して得た情報を、クラウディアに報告した。


 クラウディアは作業の手を止めずに話を聞いて、ノーラの予想通りね…と、相槌を打っていた。


 「それで、魔導具士ギルドはどうすれば良いかな?」

 「そうね…状況証拠からも副ギルド長が真っ黒なのは判ってるのよね…下手に突付いて3人に逃げられると困るのだけれど…物的証拠が欲しいわね」



 状況を整理するとバーゼルの異動経路は…


 最初に、『帝国』の魔導具士バーゼル(恐らく偽名)が魔導具士ギルドの副ギルド長の口利きで、『聖教国』の魔導具士として登録された。

 次に、お金に困っていた魔道具組立工組合レンツォに賄賂を渡し仲間に引き込んだ。

 最後に、レンツォ経由で単純な(ばかな)ハジス工房長が彼を引受けて、副工房長にまでしてしまった。



 「問題といえば、副ギルド長がいつから帝国側の間者をやっていたか、よね…。『私』の技術もいくつ流出してるのかしら…」と、クラウディアが呟いた。




 今回の詐欺の全容を、クラウディアが説明した。


 今回のカニス家とブラウ家の事件は二重の罠が仕掛けられていた。恐らく絵図を描いたのはカニス家の裏の貴族。


 普通に浸礼契約を利用した詐欺が成立していれば、カニス家が。

 実質的にはその後ろ楯の貴族がブラウ家を乗っ取れた。

 カニス家が知っている計画は、恐らくここ迄だろう。



 本命は、詐欺がバレて大きな問題になる事。


 万が一詐欺がバレて証拠を抑えられた場合は、カニス家が犠牲になる。そして、魔導具士ギルドのギルド長と器械組立工組合のハジス組合長が逮捕されるのだろう。


 「裁判になると、どこかから『見覚えの無いの契約書』が証拠として現れる筈よ…」


 ギルド長とハジス工房長が共謀し、出処不明の金銭を使用し魔導具素材を買い占めた契約書。

 契約書の内容を元に、『善意の第三者』を名乗る計画の共謀者が、大量の魔道素材が帝国に送られた。と告発するのだろう。

 そして彼等が、『取引制限法』から逃れ、外国に大量の魔導具素材を迂回輸出していた首謀者という事になる予定…。


 「平民なら、まず死刑でしょうね…。連座でディードも危ないわ」


 そういえば、ハジス工房長に対して、『帝国の人間が積極的に接触していた』という噂も流されていたわね…


 当然、その『取引契約書』の署名押印欄には、魔道具組立工組合ではなく、器械組立工組合のハジスの署名と組合長の印章が使われている筈。


 そして、それを了承した事に()()()()()ギルド長の署名捺印が入っているのだろう。


 副ギルド長とバーゼル副工房長が結託すれば簡単だ。


 「明らかに怪しい契約書でも、頭の悪い騎士団の連中なら証拠採用する可能性は高いわ。

 例え、生贄の羊と分かっていようと、自分達の実績と名声になれば、犯人として殺すでしょうね」


 そうなれば、次の魔導具士ギルド長は、帝国の息のかかった現副ギルド長がなるのだろう。

 魔導具士ギルド自体が帝国の出先機関になる訳だ。


 聖教国の各種精密機械を統括する魔導具士ギルド。

 騎士団や軍に魔道銃等の武器を卸している魔道具組立工組合。

 各種武具の製造に必要な器械を作製している器械組立工組合。



 3枚のカードを、『カニス家』と書かれたカードと交換ね。

 カニス家を犠牲にして、遥かに大きな利益を得られるわ。

 弱小子爵家と交換なら迷わずやるわね。私なら…。


 そう。…もし…私なら…


 詐欺は成功させて、ブラウ家は借金で縛る。

 その後で詐欺をリークして、大問題に発展させて、カニス家を切る。

 あ…ついでに自分を知っているカニス家も潰せて口封じも出来るのか…上手いわね…。


 カニス家の人間が不慮の事故にあっても、帝国からしたら罪を被って消えてくれるありがたい存在になるわ。


 …ノーラとクラウは昨日の時点で気付いていたのか…

 となると、あの手紙は…



 「問題は、契約書を何処に隠しているか…?

 少なくとも、ギルドには無いでしょうね…万が一ギルド長に見つかったら終わりでしょうし。」

 クラウディアは作業をしながら呟いている。


 よくまぁ…こんな複雑な作業をしながら、別の事を考えられるわね。


 「ハジスの所も、同じくハジスに見つかると困るわよね。となると隠れ家か協力者に預けるのが妥当よね」


 「十中八九、レンツォの所でしょうね。

 隠れ家に契約書が置いてあっても、流石に怪しすぎて証拠採用されないでしょ。

 恐らくは詐欺が露呈して裁判になったら、レンツォが、実はこんな契約書を預かってました、とか言って都合良く出してくるのでしょうね。

 『行方不明になる予定』のギルド員から、不正の証拠だから保管しておいて下さい。と言われた、とか言って」


 …面倒くさい仕組みね。頭が混乱してきたわ。


 「問題の規模が大きく成りすぎね…エレノア様に判断を仰いだ方が良いんじゃない?」


 「昼過ぎにノーラが来たから、エレノア様に直接伝えに行って貰ってるわ。早ければ今頃到着してるかしらね。それとは別口でも既に連絡入れてるから、教皇も知ってると思うわよ」


 「教皇猊下を呼び捨てって…」


 「エレノア様の呼び方よりは敬意があるでしょ?」


 …敬意って言い方が合ってるのかなぁ…?


 「それで?私はどうしようか?」

 「多分、遅くても明日には指令があるんじゃない?」

 「…笛の?」

 「笛の。人殺し(おかたづけ)があるかは分からないけど、予想通りならジェシカの仕事になるわ。良く休んでおきなさい」

 「貴女もね。どのくらい寝てないの?」

 「…今朝2時間寝たわ…」

 「私が朝起きたときに寝てなかったら、頭からお湯ぶっかけてそのまま頭を洗ってあげるわね…」

 「…頭洗って寝ます」

 「宜しい」


 地階に行くと、まだ起きていた使用人が居たので、お湯を作ってもらった。銀貨を渡したら喜んで沸かして運んでくれた。


 私達は部屋で、お互いの身体と髪をお湯で拭って、香油を付けてから寝た。


 クラウディアは、久しぶりに日付が変わる前にベッドに潜り込んで、すぐに寝息を立てた。


 それを確認した後で私も眠りに落ちた。




◆◆◆




 次の日、訓練の為、いつも通りに1の鐘で起きて街を飛び回っていると、職人通りに見覚えのある馬が居た。

 魔獣ウニコルヌスのレクトスだった。


 「あれ? どうしたの、こんな所に」

 私が声を掛けると、ため息を付きながら答えた。


 『ようやく見つけたぞ。ニンゲン…全く手間をかけさせおって…どうしたのではないわ…』


 私が首を傾げると、『定期的な連絡をするという約束だったであろうが!』と怒鳴られた。


 「あ…ごめん。今クラウディアが取り込み中で…ニグレドを呼ぶ事、完全に忘れてたわ」と、私は頬をかきながら答えた。


 『ニグレドと同じ程度の頭か…』と、私は再びため息を付かれた。

 『良いか?ニグレドは()()()()()()()()()()のだ。帰ることは出来てもな…』


 「言い訳しておくけど、ニグレドの事を自体は忘れてたけれど、魔木を研究する準備はちゃんと進めてたわよ。連絡するのを忘れていただけで」


 レクトスは、三度(みたび)盛大にため息を付いた後で、魔木フィクス・ベネナータと、それを防いでいるデーメーテールの木の苗を渡す許可が出た事を説明した。

 そして、それらの受け渡しをどうするかで話し合いたい、との事だった。


 私は了解して、今晩にでもニグレドを呼び出す事を約束した。


 「そう言えば、貴方達は、この街での魔石探しは止めてるの?」


 『いいや、引き続き行っておる。今回の連絡は捜索のついでだ。

 ただ、どの道、魔木を枯らす研究をしてもらえるなら並行して進めた方が効率が良いだろうと、御主人様も乗り気だからな』


 「そうね…うちの馬鹿妖精に魔女様のお嬢様の魔素を覚えさせたからと言って、魔石が見つかるとも限らない訳だしね」


 『その通りだ。そちらはあくまで保険だ。それに御主人様もクラウディアとやらに会ってみたいらしくてな』


 「それは光栄ね。本人も喜ぶわ。クラウに伝えておくわね」


 レクトスは夜が明けて、魔力の強い者に見つかる事を厭って、2の鐘には森に戻るそうだ。

 私達はそこで別れた。


 私が部屋に戻るとクラウディアが起きて作業の続きをしていた。


 「もう作業を始めてるの…」と呆れつつ、今朝の事をクラウディアに話した。


 「ああ…忘れてたわね。魔木はノーラとベネフィカに任せて済ましてたわ。そう言えば、魔素マスクの開発計画も途中だった…こちらを優先してたからね」と、クラウディアは手を止めずに話した。


 「でも、私の作る分はそろそろ終わるから。後はエレノア様に頼んである在庫を持ってきて貰えば…数は揃うわ」と言って息を吐いた。


 私は「それが終わったら少しは休みなさい。貴女に何かあったら私が困るのよ」と言って、運動場に行こうとした時にクラウディアに呼び止められた。


 「今日は運動場を休んで、魔導具士ギルドとレンツォ工房とハジス工房の下見に行ってきてくれる?

 早ければ今夜くらいに指令が来るかもしれないから。

 午後には私も同行するけれど、先に周囲の調査を。出来るだけ人に見つからない様に…」



 私は了承した。

 かつらと帽子を被り、目立ちにくい下町の平民の服装に着替えてから、再び街に戻った。 



 

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