表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第一章 女神に捧ぐ祭り
5/285

◆1-4 お持て成しの為の下準備をしよう 2

第三者視点




 一行は砦の近くの村まで来た。

 村で貨幣代わりの岩塩と交換に、肉と情報を手に入れた六人は、村から少し離れた場所で肉を焼きながら話し合っていた。


「やはり、戦場になるかもしれないという噂が広まっています。村人の半数近くは親戚を頼って避難したようです。残っているのは近隣に頼る親戚のいない村人と、土地を離れられない農奴と農民達だそうです。」


ノーラとオマリーが集めてきた情報を話すと、エレノアが、

「クリストフの奴が近隣に避難勧告出したらしいからね。教皇の命令で近隣の領主の館や教会を一部開放させたから、始まる前には皆、避難するでしょ」と話した。


「エレノア様…枢機卿を奴呼ばわりはお止めください…」

と、オマリーは頭を抱えながら注意した。エレノアは、

「私、あのキラキラ、嫌いなの」と言った。



「そんな事より、この目立つ馬車どうしますか?」と、クラウディアが尋ねると、オマリーが「そんな事…」と呟きながら、地図を指差しながら、

「この先の道を外れた場所に放棄された農家がある。そこの納屋を拠点にする予定だ。このくらいの馬車なら充分隠せる大きさだ」と答えた。そして、

「ヘルメス枢機卿の軍隊の進路とも離れているしな。ただ、ここから先は隠密行動の為、火の使用は厳禁だ。獣と魔獣には警戒しておいてくれ」と言うと、クラウディアは頷いた。



 ジェシカは、手元の肉を見ながら残念そうに、

「焼いたお肉はここまでか…黒パンと干し肉は食欲無くなるのよね…」

と呟くと、それを聞いた妖精のパックがジェシカの周りを飛びながら、

「相変わらずニンゲンって不便だなー!食べ物によって魔素の質が変わるンだから!ボク達みたいに直接魔素を貰えれば、食べなくて済むのにねー」

と、子供の様な高い声で話す。


「人間は魔素や栄養だけの為にご飯を食べるんじゃ無いのよ。妖精達はともかく、食事の必要が無い魔獣だって獲物を狩って食べるでしょ?」と、ジェシカが聞くと、


「そーなの?食べるってカンジはよくワカラナイなー」


それを聞いていたクラウディアが、

「そうね…えーと……パックは、何故ルーナが好きなの?生きる為なら他の人の魔素でも良いんじゃない?」と尋ねると、


「だってルーナの魔素は……あー、そーゆーカンジか!」


「そーゆーこと。…多分。魔素の味とかわからないけど」


「ルーナの魔素がお肉なんだな!んで、ジェシーやクラウが干し肉とか黒パン!」


「「なんか、ムカつくわね…」」二人のセリフが被った。


「あらあら、面白い話しているのね。じゃあ、パックにとって、デミトリクスの魔素はどんな味なのかしら?」と、ノーラが話に加わってきた。


「デミーはねー…何だか目が回るの!ルーナみたいに『オイシイ?』んだけど、貰いすぎると真っ直ぐ飛べなくなるの!」


「お酒みたいなものなのかしら?」と、横からエレノアが聞いてきた。


「よくエレノアとかノーラが飲んでるヤツー?目が回るのにナンデ飲むのー?」


「それが面白いんじゃない。あー、お酒呑みたーい!持ってきてー!」


「ありません。任務が終わるまでは我慢して下さい」と、オマリーが窘めた。それを見て、ノーラはクスクスと笑っていた。




◆◆◆




 一行は廃墟となった農家の納屋に着いた。

 馬車を納屋に隠して、金具を外して馬を休ませた。


 その後すぐに、各々の武器を取り出して組み立て始めた。


 長さ2メートル位の巨大なボウガンと弦を引く為の滑車。

 穂先が大きくて見たこともない魔導具の付いている短槍。

 異常な程に長くて大きな、特殊な形状の魔導銃。

 回路に魔力を流すと、羽が回転して強風を起こす魔導具。

 用途の分からない円盤状の小さな魔導具、等々。


 ボウガン以外は全てクラウディアの作品で、一般には知られていない魔導具ばかりだ。



 魔道具の中でも魔石と回路を使う複雑な構造の物を魔導具と言う。

 魔導具は、国の定めた資格を持つ者以外は制作が禁じられているが、クラウディアは齢9つで、国家魔導具士の資格を取得している。

 それ以前までの取得者の最低年齢が25歳だったので、紛れもなく天才である。

 ただ、一般にはクラウディアの名前は知られていない。エレノアが権力と財力を使い、情報を隠匿したのだ。自分と、クラウディア本人の為に。



「クラウの作るものって、変わった物ばかりよね」と、ジェシカが言うと、

「どれも素晴らしい物よ」と、エレノアが言い、

「魔導灯等は、昔のものに比べると随分と良くなりましたわ」と、ノーラが続ける。


「昔の魔導灯を知らないから良く分からないわ」


「昔の魔導灯は長持ちしなかったの。就寝時間迄に一回は魔石交換しないといけませんでしたの」


「そうね。交換し忘れると真っ暗な中で交換しに行かないといけなかったわね…」


「よく、エレノアちゃんが泣きべそかいて『お姉ちゃん』って部屋に来たわね」と、ノーラが言うと、エレノアが慌てる。


「えー!見たかったなぁ」とジェシカが言うと、

「お姉ちゃん?」とデミトリクスが聞いた。


「貴方達には無かったけど、私達には姉妹制度があったのよ。」と、エレノアが答えた。


「教会内は貴族の子女でも側仕えを付けられないから、年上の女性が年下の女性の面倒を見たの。エレノアちゃんの姉役が私。エレノアちゃんは高位貴族の令嬢だったのに、我儘なところがなくてね。とても可愛かったわ」と、ノーラが説明すると、エレノアの顔が真っ赤になった。


「だからお二人は仲が良いのね。我儘じゃない貴族なんていたんだ。流石エレノア様!」と、ジェシカが言うと、何故かオマリーがドヤ顔をしていた。



「魔導灯の話が出たので、新商品を紹介します」と、クラウディアが無表情のまま話に入ってきた。

「こちら携帯型魔導灯、『魔導ランタン』です。ツマミを回すことで明るさを調整出来るようにしました。」と突然商品説明を始める。


「凄いわね…どうやったら明るさを変えられる構造に出来るの…」と、エレノアが呟くと、


「良くぞ聞いてくれました!」と、クラウディアが叫ぶと、エレノアは『しまった』という顔をした。


「私の作った魔素半導体と、限りなく魔素抵抗を無くした魔導回路を用い魔素トランジスターと魔素抵抗器と魔石の組合せで……」と、クラウディアが早口で喋りだした。


「待って!待って!!待って!!! 解らないし! 頭が痛くなるから!」と、ジェシカが怒鳴る。


 ノーラとオマリーは、我関せずと遠くを眺めていた。

 デミトリクスだけは、全く理解はしていないが、「流石お姉ちゃん」と、無表情で相槌を打っていた。


 意外な事に、パックだけが魔導ランタンをじっと見つめて、「凄い…魔素が面白い動きしてる…何で?」と呟いた。




◆◆◆




「準備はできたかしら?」と、エレノアが言うと、全員が頷いた。


 エレノアは、徐ろに鞄から砦の図面と周辺の手描きの地図を取り出して説明を始めた。


「まず、ジェシカにはこの5箇所に『花火』を仕掛けて欲しいの」と、図面を指す。全て、砦中庭にある中央建物の外周部分に面している部屋だった。


「隠れ場所が少なくて難しい所ですね…視線を遮る物もあまり無いようですし」


「視線はパックが認識阻害をかけてくれるから、貴女は音を消して。出来るだけパックから離れないで」


「突然、巡回に出くわすと認識阻害も効きませんよね」


「そこはクラウディア、お願いね」と、エレノアがクラウディアを見ながら言うと、彼女は黙って頷いた。


「結構な距離があるけど大丈夫?」と、ジェシカが聞くと、


「外堀の近くまで行けば範囲内だから」と、クラウディアが答えた。



 エレノアは頷いて続ける。

「ノーラはこの位置に行って準備しておいて。準備が終わったら合図して。ジェシカが脱出したら合図を返すから」と、砦の西側の崖の上を指し、「今夜は西風よ」と言った。


「合図はいつものですか?」と聞くと、


「せっかくクラウディアが面白い物を作ってくれたから、これを使いましょう」と、魔導ランタンを出した。

「光を弱く設定して、相手に向けて大きく回して…」と、ランタンを手に持って大きな円を描いた。


「敵に気づかれませんか?」と言うと、


「音よりは警戒されないわ。見られても他者に伝える前に効果が出るだろうし。もしかしたら、幽霊や魔獣だと思ってくれるかもね」と答えた。

「合図を確認し次第、作戦を開始して」と言うと、ノーラは静かに頷いた。



「効果が出たら、デミトリクスはこの位置から狙撃。相手は二人、常にこの部屋にいるわ」と地図と図面を指差した。


「私が監視している間、二人共毎晩そこにいた。暗殺を警戒しているのだろう。普通の魔道銃や火器では届かないからな」と、オマリーが付け加える。


「お姉ちゃんが手伝ってくれれば大丈夫…」と言うと、クラウディアは表情を変えず無言のまま、デミトリクスの頭を抱き締めて撫で回した。



「仕上げは、オマリーよ」と声をかけた。

「門から離れたこの位置。火器の射程外よ。灯りを点けなければ気付かれないと思うけどね。」と地図を指す。

「デミトリクスの射撃音がしたら、オマリーも射撃体制に入って。花火が上がったら行動開始。」


「問題は、敵よりヘルメス枢機卿の軍ですが…」と言うと、


「話は通してあるけれど、一応顔は隠して行って。ヘルメスにバレても構わないけど、他の一般兵士に顔を見られるのは避けてね。問答になったら狸爺の名前出していいから」


「教皇猊下をそのように呼ぶのはお止めください…」オマリーは頭を抱えた。



 エレノアは皆の前で腰に手を当てて立ち、

「さあ!ヘルメスの奴を助けるのは業腹だけど、狸爺のつまらないメンツと、私の大事な出世の為に頑張って!」

 それから祈りの姿勢をとり、

「クズ共の命を女神様に捧げましょう!『いらない』って言われるかも知れないけどね!」と、エレノアが号令をかける。


 オマリーは「あああ…」と言いながら頭を抑え、ノーラはクスクスと笑い、ジェシカは腹を抱えて笑っていた。



挿絵(By みてみん)

妖精パック

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ