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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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◆2-30 調査と準備

ジェシカ視点




 「ルーナの為であって、貴方や貴方の家の為ではないのよ。本当なら、こんな分かりやすい罠に引っ掛かる間抜けな貴族なんて助ける気は無いのよ…」


 クラウディアは冷たく言い放つ。マクスウェルは何も言い返せない。


 「それと、今回の問題の解決には皆の協力が欲しいのだけれど、お願い出来る?」


 「分かったわ…何するの?」


 「まず…」と言って、クラウディアが手順を説明した。




◆◆◆




 私は学校を暫く休むと連絡を入れて、クラウディアに頼まれた仕事の準備を始めた。そして、日が落ちて暗くなってから、人に見られない様、気を付けてベネフィカの所に来た。


 「今朝も来たばかりなのに悪いわね」


 「と…とんでも御座いません、お…お嬢様。ただ、今朝の事に関しては、まだ準備が整わずお待たせしている事が大変申し訳なく…」と、ベネフィカは早口で言い訳しているが、今回は別件だ。


 「ごめんなさい、ベネフィカ。その件は後回し…いや表の仕事は、部下に命じて任せなさい。貴方には、裏の仕事を頼みたいの」


 ベネフィカはキョトンとした顔で、沈黙した。


 私は、ベネフィカにクラウディアから渡されたリストを見せた。


 「こいつらは…」


 誰だか分かるか、と聞くと、この中央区の手工業組合やギルドの有力者の名前だと答えた。


 …クラウはいつの間に、この中央区の有力者を把握したのかしら…


 「こいつらの人脈とお金の流れを調べて欲しいの。特にこの三人」と言って、私は魔道具組立工組合長と器械組立工組合長、そして魔導具士ギルド長の三人を指した。


 「人脈とお金の流れですと一人あたり一日は必要かと…」


 「そう…ならこの三人の人脈を最優先で。金銭の流れはついででも良いわ。情報料はいくらかしら?」


 「とんでもございません!お嬢様から頂くなど…」


 「ベネフィカ…私は『友達』にただ働きさせる程、非道な人間では無いわよ。私は、『普段、情報料としていくら取ってるの?』と聞いてるのよ?」


 「…一人の情報で、金銭の流れや借金情報ですと金銀貨一枚。人脈の情報ですと銀貨一枚〜金貨一枚と幅がございます。これは調査する人間の身分で危険度が変化するからです」


 なるほど…と言って、私は金貨3枚と金銀貨3枚を渡した。

 「取り敢えず手付金よ。リストの他の連中の情報の値段は、そちらで付けて頂戴」


 「…この三人…かなりやばい事に手を出しましたか?」


 「さあ?うちの参謀が重要視しているだけ。何も出なくても、金貨を返せとは言わないわ」


 「…承りました。三日後にまたお越し下さいませ」

 ベネフィカは深々と礼をした。


 私は窓の方へ向かう直前で足を止めて振り返り、

 「…ところで、私達の事は調べたのかしら?」と聞いた。


 ベネフィカは顔から汗を噴き出し、震えだした。


 「…そう。秘密よ。貴方の大切な人達の為にもね」

 私はそれだけ言うとベランダから、夜の闇に飛び出した。


 ベネフィカが汗だくで跪くのが目の端に見えた。


 …本当に裏まで調べられたら、かなり優秀な手駒だけれど…

 そしたら、既に生きてはいないわね。


 私は、夜中に寄宿舎に戻り、明日の準備をしてから眠りについた。




◆◆◆




 私はいつも通り1の鐘で目を覚まし、軽く街中でトレーニングをした後、男物の乗馬服を着込みクラウディアから預かった手紙と纏めた荷物を持って厩舎へ向かった。

 そこで一番体力のある馬を借りて、2の鐘と同時に北方教会区へと向かった。


 途中で村に立ち寄り馬を休ませている間に、私は、人目につかない所で乗馬服の上から修道服を被った。

 ウィンプルを深く被り、自分の目立つ赤髪と顔を隠して遠目には誰だか分からないようにしてから、エレノアの統括教会に向けて再出発した。



 ほとんど休み無く馬を走らせたが、懐かしの教会に帰り着く頃には太陽は高く登っていた。

 私は、教会裏手にある厩舎に馬を繋ぎ、何食わぬ顔で地階にある使用人用の裏口から教会に入った。


 この時間帯は昼食の準備の為に人の出入りが多いので、誰も修道士ひとりひとりの顔は見ていないのを知っている。

 私は堂々と歩いて、食堂と孤児院棟の脇を抜け、西側通路を通り中庭にある植物園に向かった。


 私は、顔を伏せ気味にしつつノーラの植物園に来た。


 植物の世話の為に、一日に数回はノーラが来るのを知っている。

 彼女を植物園で待ち伏せしようと思い向かったのだが、丁度そこにノーラが居た。

 恍惚した表情で、毒草を愛おしそうに眺めていた。


 …私の周りって変人しか居ないのかしら?


 私は顔を伏せながら、小声でノーラの名を呼んだ。


 ノーラは私の顔を見て驚いていたが、事情を聞かずにエレノアとの秘密の面会時間を作ってくれた。



 「それで、ここに来るまでは誰にも見られていない?」

 とエレノアが聞くので、私は、

 「恐らくは。私に注視する視線は感じませんでした」

 と答えた。


 「それで? クラウディアからの手紙は受け取ってるけど、準備はまだ出来てないわよ?」


 「今回戻ったのはその事ではなく…」

 私は、クラウディアから預かった手紙を、直接エレノアに手渡す様に言われた事、

 クラウディアが作業部屋に保管してる作り掛けの魔導具素材と、この教会に備蓄してある魔導具の完成部材を持って来る様に頼まれた事、

 出来れば、ノーラとノーラの秘蔵品を持って来るように言われた事を話した。


 「なるほど…取り敢えず手紙を見せて頂戴」

 エレノアが手紙を一読すると、

 「帝国が浸礼契約を利用して、堂々と詐欺をするなんてね…」と呟いた。


 エレノアは、ノーラにクラウディアの作業部屋の鍵を渡し、魔導具素材の在庫を取って来る様に言うと、

 「この教会にある魔導具部材は後程届けるわ。持ち出すのにも手続きが必要だからね」と言った。


 ノーラが魔導具素材の入った箱を持って来ると、エレノアは、彼女にもクラウディアの手紙を見せて、ジェシカと一緒に行くように命じた。

 ノーラはすぐに準備しますと言って部屋を出て行った。


 ノーラの準備が整うまで時間がかかるし、誰かに見られると不味いからと、私はエレノアの寝室に放り込まれた。


 私は司教公認で、部屋にあった冷めたお茶とお菓子をむさぼり食べた。

 夕方にはノーラが食事を運んで来てくれて、寝室で隠れて食事をした。その後、エレノアと一緒に湯浴みをして、夜はエレノアと一緒の布団で寝た。




◆◆◆




 次の早朝にはノーラの出発の準備が整った。


 「じゃあ、行ってくるわね。ちゃんと教えた手順で毒見をしなさいね」

 「分かってるわよ、お姉ちゃん。植物園の世話はいつもの修道女に頼んであるし、こちらは気にせずに仕事してきてね」


 エレノアとは寝室で別れ、素材の入った箱で顔を隠しながら地階へ降りた。

 私達は裏口から、まだ日が昇らなくて暗い教会の外に出た。


 ノーラは厩舎から自分の馬を連れて来ると、持っていた箱を括り付けた。

 私の馬にも箱を分けて括り付けると、周りから目立たない様にゆっくりと馬を走らせた。まるで、これから近隣の村に物資を運ぶ仕事を任された修道女の様な振りをして。


 私達は、目立たない様にゆっくりと移動しながら、人目の少ない脇道に入り、人家がほとんど無い林に囲まれた田舎道の辺りを通った。

 小川の近くに差し掛かると、周囲に人の気配が無いのを確認してから、木々の間に馬を繋ぎ休ませる。

 私達は修道服を手早く脱ぎ身軽な乗馬服に着替えてると、再び馬を走らせた。


 貴重な荷物を運んでいるので、ゆっくりと移動していたせいと、道中で女子供と荷物を狙った野盗達を『処理』しなければならなかった為に、無駄な時間がかかった。


 …後処理を考えて、森の中に誘導してたから時間が掛かったわ。死体は放置しても良かったのだけれど…。

 村に近かったので獣害と疫病を心配したノーラが、ちゃんと埋めましょう、と言ったから…疲れた…。

 何でノーラは、携帯型スコップを持ってたのかな…?



 中央区に着いたのは7の鐘が鳴った後しばらく経ってからだった。


 「思っていたより時間がかかった…門が開いてて良かった…」

 私は、クタクタになりながら門を通り抜けた。


 「ジェシカちゃんが居てくれて良かったわ。

 貴重な(しな)を無駄にしなくて済んだわ〜」


 「…(かた)す時、手伝ってくれても良かったのですけれど…」

 とジト目で睨むと、

 「埋めるのは手伝ったじゃないの〜」

 と答えた。


 「男って無駄に重くて嫌…臭いし、ベタつくし臭いし…ああ…気持ち悪い…臭いし…」と、ブツブツと文句を言っていると、

 「あの可愛いデミちゃんも、あんなのに成るのかしら…」

 ふと、ノーラが呟いた。


 「う…想像したくない…」

 嫌な想像をして気持ちが悪くなった。


 「オマリーは…」

 ニヤニヤしながらノーラが言い掛けると、

 「お父ちゃんは臭くないし、気持ち悪くないわ」

 と、被せるように否定した。


 私とノーラは大した話ではない事の様に『処理』の話題を、町中で堂々とお喋りしながら学校へと移動する。


 ノーラは暫くホテルに泊まると言って、私に素材の入った箱を渡し寄宿舎前で別れた。



 「ただいま〜疲れたわ…」と言って部屋に戻ると、クラウディアが二人部屋の一部を作業部屋に改装して待っていた。


 「お帰りなさい。待ってたわ」と言って、クラウディアは手早く箱を開けて、埃が入らないよう作業部屋に持ち運ぶと、4方をレースのカーテンで二重に密閉してから仕事に取り掛かった。


 「これからやるの?」

 「まだ追加納品数には足りて無いからね。先に寝てて良いわよ」


 私は、自分の匂いを嗅ぎながら「寝る前にお湯が欲しいわ…」と呟いた。


 …運んだ男達の体臭が移っている気がして、気持ち悪い。


 「まだ下働きが居る筈よ。頼んできたら?」

 「うん…お湯貰って軽くつまんだら寝るわ…」

 「おやすみ」


 クラウディアが作業に没頭しだしたので、私は静かに部屋を後にした。



5日目

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