◆2-28 親バカ侯爵
ルナメリア視点
「ルーナの為であって、貴方や貴方の家の為ではないのよ。本当なら、こんな分かりやすい罠に引っ掛かる間抜けな貴族なんて助ける気は無いのよ…」
クラウディアは冷たく言い放つ。マクスウェルは何も言い返せない。
「それと、今回の問題の解決には皆の協力が欲しいのだけれど、お願い出来る?」
「モチロン!何すれば良いの?」
「まず…」と言って、クラウディアが手順を説明した。
◆◆◆
学校に暫く休むと連絡を入れた私は、その日の夕方にサリーと一緒に中央区に在る私邸へ向かって出発した。
この時期は教皇庁での仕事が多いので、父も母も中央区の邸宅に滞在する。
食堂での話合いの直後、私は『話したい事がある』と書いた父宛の手紙を持たせ、早馬を出した。すぐに早馬は帰ってきて父からの返信を渡された。
内容は…要約すると、『可愛い娘と食事摂りたいから、早く帰って来い。来ないと話は聞かない。数日は滞在しなさい』という阿呆なものだった。
…お父様ってこんな人だったっけ…?そう言えば、エレノア様の下に来る前は、ちゃんと話した事無かったかも知れない…それどころか、顔も…。
中央区の邸宅なので、学校からはそれ程時間が掛からない。
学校から以前滞在したホテル前の大通りを抜けて、教皇庁方面へ曲がると、すぐに到着した。
…こんなに近かったのね…
そう言えば来たこと無かったかも…
春の会合時期と秋の徴税時期しか滞在しない邸宅なのに、無駄に広い。エレノア司教の私邸と同じくらいだ。
馬車が玄関前の噴水の周りを通る前に、サリーに魔石を出してもらい、魔力を移す。
玄関前に見覚えのある男女が、多くの使用人と一緒に立っていた。
…ああ、良かった。まだ覚えていたわ…
私は、サリーに手を取って貰い、ゆっくりと馬車を降りた。
「ルナメリア…お帰りなさい…大きくなった…わね…」
母はハンカチで口元を抑えながら、涙目で話しかけた。
「ただいま戻りました。お父様、お母様…長々とお会い出来ず申し訳ありませんでした」
私は懐かしい友達に会った様な気分だった。
「………良く来た。ゆっくりと休むが良い」
父はムスッとした表情で、簡単な挨拶で済ませた。
…あら?怒っているのかしら…?流石に突然過ぎたかしら?
私の考えている事に気づいた母は、
「手紙を受け取った時は、走り回って喜んでいたくせに…」と周りに聞こえる声で呟いた。
父は否定も肯定もせずに、顔を真っ赤にしていた。
「と……兎に角、早く入りなさい」
父と母は、私とは一定の距離を保ちながら家に入った。
私とサリーは用意された部屋に通された。
「サラメイア様には続き部屋を用意してございます」
母付の侍女が気を利かせて、隣部屋も掃除してくれていた。
「お気遣いありがとうございます」と、サリーは軽く礼をした。
「ありがとう。突然だったので、準備が大変だったでしょう?ごめんなさいね」
「いいえ。こちらに滞在している間は、お嬢様の部屋も必ず掃除しておりました。侯爵様は、お嬢様がいつ帰ってきても良い様に準備しておいででした」
「…ごめんなさい。お父様とお母様に対して、私が勝手に距離を置いてしまっていたのですね…」と言うと、
「そういうお言葉は、私ではなく、直接侯爵様と奥様におっしゃって下さいませ」と言って頭を下げて出て行った。
サリーが衣装部屋を開けると、そこにはドレスだけで10着以上並んでいた。部屋着と寝間着、軽めの外出着も含めると40着以上あった。更に、ちゃんと大きさの違う下着と靴下まで用意されていた。
「お嬢様、小さいサイズから少し大きいサイズまでの、ドレスから必要な衣類まで、全て用意されていますわ。7歳の頃から毎年用意されていた様ですわね。
紐とリボンでサイズを調整出来る服ばかりですので、問題なく着用出来ます。袖も付け袖ですので調整も簡単ですわ」
私は衣装部屋を見て唖然としてしまった。
…エレノア様の衣装部屋も、感覚が少々おかしいとは思っていたけれど…
…帰るか分からない娘の衣装をこれだけ用意するお父様達も…同類かしら…? それとも、侯爵だとこれが普通なの?
荷物を片付け着替えた後、どの様に話を切り出そうかとサリーと相談していたら、部屋の扉が叩かれた。
扉を開けると、先程案内してくれた侍女が食事の支度が整ったので食堂に来るようにと連絡しにきた。
…久しぶりに会って、いきなりお金の話も品が無いわね。こういう話のタイミングを切り出すのって難しいわ。どうすれば良いのかしら…
食堂に着くと、既に母は着席して待っていた。
侍女が母の隣の下座の席を勧めてくれた。サリーが席を引き、私はそこに腰掛けた。
父が食堂に入ってきて母と私を見ると、少し逡巡とした後に、ゆっくりと私の向かいの席に着いた。
母は「…貴方…」と呆れた様な声で話し掛けた。
父は「今日は…この席に座りたい気分だったのだ」と言い訳をしていた。
「貴方には、立場が御座いますでしょう?」
「久しぶりに娘と話すのに、あの席だと遠いではないか」
貴族当主が上座以外の席に座るのは、更に目上の者が居る時だけだ。第一夫人の母と同列に座れるのは、長男か次期当主、居ない場合は次席夫人。現当主が座って良いのは、せいぜいその席迄だ。ましてや、娘と同列の下座に腰を掛ける当主なんて、普通は居ない。
私は思わず「クスクスクス…」と笑ってしまった。
「ほら、貴方、娘にまで笑われていましてよ」
「むぅ…」
と言って、父は席を立とうとしたが、私がそれを止めた。
「お父様、ありがとうございます。お母様、お客様が居ない時は、私、お父様の近くの席が嬉しいです」
「…そうね、三人だけの時なら…」と母が言うと、父は嬉しそうに顔を綻ばせた。
…私、自分で思っていたより愛されていたのね…2年前は全く周りが見えていなかったのね…
食事が運ばれて来た時、配膳係が困っていたが、気にせず父から配膳するようにと母が指示した。
私の配膳だけはサリーが代わって行った。
食事をしながら教会での生活に関して質問され、学校は馴染めそうか?大丈夫そうか?と尋ねられ、学業や教材だけでなく、必要な衣類の心配までされた。
それら全てがエレノア、クラウディア、ジェシカ達のおかげで問題ないと言ったら、二人共、安心したのと同じ位、がっかりしていた。
そして、入学初日に高等部の基礎4科を卒業したと言ったら、二人と侍女や給仕達皆が、目を見開いて驚いていた。
…クラウディアやジェシカ、サリー達以外と、これだけ沢山お喋りしたのは初めてかも…
しかし、場の雰囲気と合わない為に、どうしてもマクスウェルとメリッサの話を切り出せなかった……。
3日目
その頃のクラウディア
|ω・`)ノ⌒[手紙]




