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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
42/287

◆2-25 またお会いしましたね

第三者視点




 3の鐘が鳴り、皆が食堂にやって来る。


 私達を見て、他の生徒達が避けていくのが当たり前になってきた。

 時折引っ掛けようと伸びてくる足を、踊る様に華麗に(かわ)しながら、クラウディアが朝食を持って席に着く。


 「それで、どうだったの?」と、クラウディアがジェシカに尋ねた。


 「何が?」


 「運動場で暴れてきたんじゃないの?見込みありそうなの居た?」


 「う〜ん…そうねぇ…何人か居たけど、凄く良いかと言われると、一長一短なのよねぇ…」


 「ボク、ジェシカの動き視てたけど…凄かったね」とヴァネッサが話に入る。

 「昨日の馬術も凄かったけど、専門的な戦闘訓練でもしてるの?」


 「訓練はしてないわね。趣味で鍛錬してるけど」


 「動きが凄いって…あまり目立つのは…」と、クラウディアが言葉を濁すと、


 「目立つのは今更でしょ」とルーナが突っ込み、イルルカが頷く。


 「一応、手加減はしてたわよ」


 「剣、槍術選択の騎士見習いに全勝してたけど…」


 「わざと負けるのは嫌いなの」


 「格闘術選択教師達の勧誘が凄かったね」


 「汗臭い男は嫌いなの」


 「それで、嫌いな中でも良さそうなのは居たの?」と、クラウディアが尋ねると、


 「そうねぇ…帝国のナントカいう王子と、この前、嫌味女を突き飛ばしてた奴…ハダシュト王国の名前忘れた男爵家の息子と…我が国の子爵令嬢…名前忘れたわ」


 「全部忘れてるわね…」と、クラウディアが呆れる。


 「会えば思い出すから、いいのよ。ナントカいう王子はなかなかの腕前だったわね。その護衛騎士見習い?ってのも。

 男爵家の息子は攻撃が重かったわね。それに対して子爵家の娘は目が良くて、素早かったわ」


 「皆、ジェシカより年上だったのに勝てなかったね。特に、護衛騎士の人はジェシカに対して凄く嫌な音を出してたね」


 「嫌な音?」とルーナが聞くと、


 「うん…声や心の波長や音程が、何て言えば良いのかな?

 あまり聞いた事の無い…金属を引っ掻く音を聞いた時の様な…怒りや憎しみに近くて…でも違うの。凄く気持ち悪かったよ」

 と、ヴァネッサは嫌な顔をしながら説明した。


 「ああ…あれは本気の殺意よ」


 「あれが…?良く平気だね…」


 「私の育った環境だと、日常茶飯事だったからね〜。毎日の挨拶みたいなものよ」


 ヴァネッサ驚いた顔をして、教会育ちの貴族…じゃなかったの…?、と尋ねた。


 「うん?…私、貧民街育ちで拾われたのよ」と、あっけらかんと話すジェシカ。「あいつ、事故に見せかけて殺すつもりだったわね。無理だけど」と笑った。


 ヴァネッサは、驚きの余り言葉を失っていた。


 「あら? ヴァネッサはジェシカが貧民出身と聞いて、嫌いになった?」とクラウディアが意地悪く聞くと、ヴァネッサは否定した。


 「ボクは、父様や兄様とは違うから。身分で差別はしないよ。私自身が『特別』という名前の差別を受けてきたから…。

 そうじゃなくて、下町の生活に驚いたの。平民達は…いつもそんな殺伐とした生活しているの…?生きるか死ぬかみたいな?」

 イルルカが慌てて、ジェシカの生活は僕からしても驚きだから。平民もそこまで殺伐とはしてないから。と訂正すると、「そうなの?…良かった…」と息をついた。

 

 「でも、結局は目立ちまくったわけね…」と、クラウディアが溜息をついて、

 「また、面白い噂が広まっているか、確認しておきますね」と、サリーが微笑みながら言った。




◆◆◆




 4の鐘からは選択授業だが、来週までは体験授業中だ。受けても受けなくても構わない。交代で全部の授業を見せる為でもあり、人気があっても無くても同じ教科は週一回。昨日のカーティ教授の次の授業は来週だ。


 アルドレダ先生も、今日は基礎4科の授業だけで選択授業が無いので、クラウディア達は興味の出そうな授業は無いものかと、色々な授業を覗いていた。


 初日からトラブル続きの高位貴族家と問題児の集団が選択授業に顔を出す度に、教師達は緊張していたのか、間違えたり声がうわずったりしていた。


 「法律の授業はなかなか面白かったわね」と、クラウディアが言うと、


 「私は眠くてたまらなかったわ…宗教法も嫌いなのに…追加でやりたくないわ」と、眠そうにジェシカが答える。


 「ボクは、興味深かったけれど…法律の本が読めないのが辛いな。誰かが声に出してくれないと、皆がどの法律について話してるか解らなかったよ…」と、ヴァネッサが困った表情で話した。


 「宗教法の時はどうしたの?」


 「基礎4科は全部、特別教室で。アルドレダ先生が読み上げてくれたの。テストも先生が声に出して読み上げて、ボクが口頭で解答する方法でやってくれたんだ」


 「あの先生、結構面倒見がいいのね…」とジェシカが呟くと、


 「君達知らずにこの学校来てたの?学校長のお孫様、かなり評判良いんだよ」


 「生憎、北方区までは評判も届かないのよ」



 「今日の科目は法律ばかりなのね…」ルーナが掲示板の予定表を見ながら呟くと、


 「貴族は、やはり法律にも詳しくないと駄目だよね…」と、項垂れながらイルルカが聞いてきた。イルルカも法律は苦手な様だった。


 クラウディアが「うん?別に詳しくなくても良いんじゃない? 必要なら専門家を雇えばいいのよ。その為に国家資格があるのだし」と答えた。


 「そうか! そうだよね。良かった…」

 イルルカは安心して息をついた。


 「そうだね…僕も難しい話は苦手だから…つい、お姉ちゃんに頼っちゃう…」と、デミトリクスが言うと、


 「いくらでも頼って良いのよ!」と撫でる。


 「はいはーい。私も難しい話、苦手だから。クラウに頼らせてね」と、ジェシカが微笑みながら言うと、


 「後で料金表を作成するわ」「酷くない!?」

 言葉が被った。


 「デミちゃんは可愛い。以上よ」


 ヴァネッサとルーナがくすくすと笑っていた。




◆◆◆




 昼食も終わり、午後の施設授業の選択はどこを見ようかと話しながら歩いていた時、ヴァネッサが「何か嫌な響きが聞こえる」と言った。


 耳を澄ませると、遠くの方から微かに声のような物が聞こえるが、良くは聴こえない。


 「弱い者を一方的にいたぶる様な…嫌な感情…嘘がいっぱいで気持ち悪い…」ヴァネッサがふらつくのをデミトリクスが支えている。


 「何を言っているかは聞こえるの?」とクラウディアが聞くと「片方が、何かお願いをしている…。それを馬鹿にしながら否定する…。この感じ…一昨日のクラウディアに向けられてた感情に似てる…人を見下し馬鹿にする…あの、嫌な男子生徒と同じ響き…ガラスを引っ掻くような…」と気持ち悪そうに話した。


 「居た…しょうが無いわね…皆、ここに居て」と言ってクラウディアが駆け出した。

 ふぅ…と溜息をついて、「デミトリクス、皆を頼むわね」と言って、ジェシカが後を追った。




 校舎の裏手、この時間帯に授業のある施設とは離れていて、人の寄り付かない場所で、二人の男子生徒が居た。


 一人が地面に頭を擦りつけて頼み込み、もう一人がその様子を見て、ニヤニヤと笑っていた。


 ニヤニヤ笑いしている生徒は、一昨日、茶会室で壁に激突して気絶した男子生徒だった。鼻を含む顔半分に包帯を巻いていた。


 わざと足音を立てながら近づくと、二人はハッと顔を上げてクラウディアの方を見た。


 地面に膝をついていた方の生徒は、誰だか分からないと困惑した顔をしていたが、顔に包帯を巻いた方の生徒は、クラウディアに気付くと、殺意を込めた目で睨んできた。



 「ねぇ…貴方…気持ち悪い音を出すその口、縫い合わせてくれないかしら?」



忘れた方のために、ザーレ=カニス子爵令息です。


私も名前忘れて調べ直したのは秘密

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