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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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挿話 親愛なるお父様へ




 親愛なるお父様へ


 一筆申し上げます。


 ラプタスの花も咲き誇り、先日まで続いた聖ブリード祭が中央区に春を運んで来て、此処、サンクタム・レリジオも暖かな風に包まれております。お父様の領地と領民にも暖かな風は届いておりますでしょうか。


 さて、実は、ご報告したい事が御座いまして筆を執りました。

 学業も二年目となる今年、(わたくし)、初めてのお友達が出来ました。

 今年から入って来た、新入生一期生の方達です。


 ヨーク家のクラウディア様とデミトリクス様、

 バルト家のジェシカ様、

 キベレ家のルナメリア様、

 そして、メディナ家のイルルカ様です。


 クラウディア様とジェシカ様は、(わたくし)と同い年、

 デミトリクス様はクラウディア様の弟君で1つ年下だそうです。


 ルナメリア様はキベレ家のお嬢様で、まだ9歳だそうですが、頭が物凄く良く、既に高等部の基礎4科も終えてしまいました。小等部では学ぶことが無いので、特例で高等部に入ったそうです。


 イルルカ様は1つ年上の13歳だそうで、お父様と同じ枢機卿のイリアス様が養子にして、この学校に入学させたそうです。


 ルナメリア様とイルルカ様は、(わたくし)と同じギフテッドだそうです。

 

 イルルカ様以外は、お父様の部下の御方の下でお務めになっている方達だそうですね。

 お父様がご存知の方達なのでしょうか。


 彼女達は、(わたくし)の能力を知っていても、私を警戒せずに接してくれました。

 皆が、(わたくし)の力を怖がると話しても、臆する事なく話しかけてくれました。


 (わたくし)は勇気を出して、友達として接して欲しい事を伝えると、彼女達は快く返事をしてくれました。

 彼女達の返事に嘘の響きはありませんでした。



 クラウディア様は、とても面白くて頭の良い方です。

 今日なんて、あのカーティ教授と対等に議論してましたわ。

 ただ時々、彼女の言う冗談が、冗談では無い事がありました。言葉としては冗談に聞こえるのに、響きが本気でした。

 …お馬さんって美味しいのでしょうか?


 ジェシカ様は、とても快活で話していて気持ちが良くなる方です。頭も良くて機転が利いて、運動神経が凄く良いのです。

 クラウディア様とジェシカ様の馬術競走は、とても素晴らしかったらしく、馬術の先生がスカウトしてましたわ。


 ルナメリア様は、凄く頭が良くて、とても小等部の年齢の子とは思えません。話していると、同年代の子と接している気分になります。

 しかし、時折見せる反応が年相応の幼い貴族のご令嬢です。

 その時の話し方はとても可愛らしく、分不相応にも庇護してあげたくなります。


 イルルカ様は、他の方とは先日の春祭りで友達になったばかりだそうです。

 彼は、元平民という事を隠さずに生活している為、授業では時折、貴族の生徒達に嫌がらせをされるそうです。

 しかし、一度目の前で能力を見せると、急に近寄って来なくなるそうです。(わたくし)と同じですね。


 そして、デミトリクス様はとても良い殿方です。

 クラウディア様が弟君を溺愛する気持ちが理解できます。

 そして、とても紳士的な方です。

 (わたくし)、彼の…(字が潰れていて読めない。)


 お友達になって下さった方々、皆様とても良い響きを持っております。今迄会った他の方々と違い、(わたくし)の事を恐怖する音を出しません。


 (わたくし)、この様な『眼』の為に、とても筆不精となってしまい申し訳御座いません。

 お父様の用意して下さった、筆記用の定規を使用して書いておりますが、字が重なったり読み辛くなったりする箇所があるかも知れません。どうかご容赦下さいませ。


 お父様には、御身体に気をつけて過ごされます様、心からお祈り申し上げております。


 かしこ


 ヴァネッサ=ススルム=リンドバルトより


 愛するヘルメスお父様へ




◆◆◆




 娘から手紙が届いた。

 思いもしない内容にびっくりした。


 繋がりが欲しかったオマリーの娘と友達になって……しまった。


 僥倖と見るべきか…?

 …いや…本音では関わって欲しくなかった…


 ジェシカという娘と更に仲良くなってもらい、自然な感じで情報を流して貰う…?しかし、危険な事に巻き込んでいる不安が拭えない。


 偶然仲良く…?出来過ぎな気がする…

 …私に対する人質か…?狸なら、やりかねない。


 いや、オマリーが『笛』なら娘には近付かない様に言うだろう。普通…なら、言うよな…?


 エレノアからは、特に進展した報告は無い。

 マジスの調査でも、オマリーは黒だと思うがエレノアはどちらとも言えない。

 証拠も無いので交渉に持ち込むことも出来ない。

 エレノアは餌にも喰いついて来ない。本当に白なのか…?


 多少危険でも、オマリーの娘からバルト家の事を教えて貰う風を装い、オマリーの動向を調べて貰う様に言うか…?

 仲良くなる様に手紙に書くべきか?

 出来るだけ自然に… いや、しかし…


 そう言えば、気になる事が書いてあった。


 キベレの娘がギフテッドで神童だと言う事は、エレノアから聞いていたから知っていたが、クラウディア…だと?

 あのカーティ教授と議論が出来るくらいに頭が良いだと…?


 エレノアからは、ヨーク家の子供達はハダシュト王国との繋がりを兼ねた人質。将来的には外交官吏として教育し、聖教国の宗教と文化と利益を熟慮出来る外交官にする予定だとは聞いている。


 頭の良い子供達とは聞いてはいたが、12歳でカーティ教授に匹敵していたら…?

 裏の仕事も任せられる様に教育されている可能性は…?


 他の間者からも、キベレの娘については報告されているが、クラウディアとやらについては、大した情報が無い。弟のデミトリクスについても同様だ。

 こんなに頭が良いなら、もっと注目しておくべきだった。


 …こういう時に王国に伝手が無いのが悔やまれる。


 こんな子供が笛に関わっているとは…とても考え難いが、あの変人教授に匹敵する頭脳を持っていたら…?

 それを言ったらキベレの娘も同様だ。9歳で既に高等部の基礎を終えているだと…?


 そしてイルルカ…イリアスの奴がいつの間にかギフテッドを手中に収めていたとはな。

 ただ、手紙の内容からは、後継者にする為の教育をしている様には感じられない。

 何を考えている…?


 しかし…オマリーの娘だけでなく、カーティに匹敵する娘とキベレの娘か…非凡な子供達がエレノアの所に集まり過ぎていないか?


 出来ればヴァネッサから情報を上げてもらいたい。

 自然に…色々と聞き出してもらえるような言い回しで…可能ならば、子供達の能力を詳しく知りたい。

 もし、戦闘や諜報に特化した能力なら、工作員に勧誘される、若しくは既に勧誘されている可能性も高い。

 そうでなくとも、自分の手駒に出来れば将来有用だ。


 これからは娘と頻繁に手紙のやり取りをしていくか?

 しかし、娘に手紙を出すと、それを読み上げる侍女も内容を知ってしまって良くない。『笛』の事は書けないし、娘の友達に過干渉する父親と噂が立つのも外聞が悪い。

 何とか自然な感じで伝える方法は無いものか?


 こんな事なら自分が教育した部下を、娘の側仕えに配置しておくのだった。いや、娘がそれを知ったら軽蔑されてしまうし、隠し通せるとは思えない。


 直接、学校に出向くか?

 しかし、娘に隠し事を知られずに頼み事だけするには、いったいどうやれば良いのだ?


 誰かを経由して伝えるにしても、学校内に信頼出来る者が居らん。帝国の伝手を使い、信頼出来る者を紹介してもらうか?

 いや、流石に帝国に『笛』の情報は流せん。背任行為だ。聖教国を帝国に売り飛ばしたい訳では無い。


 娘は強いカードだが、いざ使おうとすると使い方が難しいな…娘にはあくまで無関係な立ち位置で情報を流して貰いたい。娘が人質に取られるのが一番不味い。



 そう言えば、手紙の中のデミトリクスに関しての娘の記述だけ何かおかしくないか…? まさかな…


 それと、馬が美味しいとは…どういう意味だ?

 何かの暗号か?


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