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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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◆2-22 初めての馬術

第三者視点




 6の鐘が鳴った。


 午後は乗馬用に用意した動きやすい服に着替えてから馬場に集合した。

 クラウディアやジェシカも動き易い様に、乗馬用に下にズボンをはいた薄手のコタルディドレスを着ていた。


 学校にはかなり広い馬場があり、数頭が全力で走り回っても問題の無い造りになっていた。

 馬場の中央には障害物もあり、数頭で競走が出来るようにレーンも描いてあった。


 馬術部の生徒達と馬術の専門教師が馬を用意して待っていた。


 「うわぁ…綺麗な体だな…」と、普段は高価な馬を見慣れていないイルルカが感動している。


 馬を見慣れているジェシカは、「なかなか良く手入れされてる子達ね」と言い、クラウディアが「肉付き良いわね。美味しそう…」と呟いた。

 ヴァネッサが慌てて、「クラウディア、食べちゃ駄目だよ」と制止すると、クラウディアが「やぁね…冗談じゃない」と笑う。ヴァネッサは冷や汗を垂らしていた。


 体験授業に来ていた生徒は意外と多く、馬の数が足りなかったので、3人で1頭を交代で乗る事になった。


 ヴァネッサとクラウディア、デミトリクスが組み、白毛の馬があてがわれた。


 ヴァネッサが一人で馬に乗る事は難しいだろうと、クラウディアから聞いていたデミトリクスが、先に馬に飛び乗った。

 そして、ヴァネッサの手を掴み彼女を引き上げ、ピタリと身体をくっつけて、自分の前に座らせた。


 周囲から、女生徒の悲鳴と嬌声が響き渡った。


 クラウディアと、馬を抑えていた馬術部の女生徒が、鼻と口を抑えて震えていた。

 デミトリクスは良く分からずに、周囲を見渡してから首を傾げていたが、ヴァネッサは顔を真っ赤にしていた。


 クラウディアは鼻を抑えながらその場に残り、馬術部の女生徒が紅潮した顔で、二人の王子様が乗った馬の手綱を引いて、ゆっくりと移動した。


 馬場の外には、『白馬に乗った王子様達』の噂を聞いた女生徒達が山となって群がっていた。


 二人の馬が目の前を通る度に嬌声が響いて、数名の女生徒がその場に倒れ込んだ。


 ヴァネッサが恥ずかしがって、デミトリクスから離れようとする度に、デミトリクスが「危ないよ…」と言って、彼女の腰に腕をまわして、ギュッと抑え込んだ。


 馬場の外の女生徒達の悲鳴と嬌声が一際高くなると、馬がビクッとして暴れそうになる。それを、馬術部の女生徒が必死に抑えていた。


 その様子を見ていたジェシカはうんざりした顔で「うわぁ…阿呆な事を企んでたのね…」と呆れていた。


 ジェシカ、ルーナ、イルルカの組には黒毛の馬があてがわれた。馬を連れてきた馬術部の男子生徒が、手助けをしてイルルカを馬に乗せた。


 初めは馬の高さに怖がっていたイルルカだったが、慣れてくると、「うわー」と言って喜んでいた。

 馬術部の男子生徒がゆっくりと手綱を引いて馬場内をグルっと回って来た。


 馬から降りたイルルカは「すっごく高いよ! 凄く楽しい! とても気持ち良かったよ!」と感動していた。

 馬術部の男子生徒も嬉しそうに胸を張っていた。


 ジェシカは、馬術部の男子生徒にルーナの事を説明して、手綱引きを交代してもらった。

 ジェシカがルーナを馬に乗せて、手綱を引いて周回した。


 普段、馬車は使うが、馬には乗った事のないルーナも楽しそうに、年相応にはしゃいでいた。

 その様子を見ていたルーナのファンの女の子達は、ほっこりとした顔で、ルーナを見守っていた。



 皆が帰って来た後、クラウディアと、ジェシカが馬術部の生徒に何事かを話し、離れてもらった。

 そして、二人共コタルディドレスの裾を翻して馬に飛び乗り、馬場の端まで移動した。


 二人は顔を見合わせて頷くと、馬場の中央を一気に駆け抜けた。

 二人とも、見事な手綱さばきで障害物を跳び越えて、曲がり角では馬と一体となって身体を倒しながら曲がり、馬術部の生徒達を驚かせた。


 いくつかの障害物を同時に跳び越えて、二人はほぼ同時にゴールした。


 「やったー勝ったー」と、クラウディアが叫ぶと、


 「私の方が先にゴールしたわよ!」とジェシカが言い返す。


 「私の方が外回りだったのだから、ほぼ同時にゴールしたなら私の勝ちじゃない」


 「クラウは途中で妨害してきたじゃないの」


 「妨害じゃないわ、戦略よ」「うわ!卑怯」


 二人でわちゃわちゃと言い争っていたが、馬術の専門の教師は二人に駆け寄り、(いさか)いを止めて、二人を馬術部にスカウトしていた。

 馬術部の部員たちも二人の周りに集まって、教師と一緒に選択授業の申し込みの木札を押し付けていた。




◆◆◆




 7の鐘で寄宿舎に戻り、着替えてから皆で食堂に集まった。


 食堂に入ると、いつも通り周りの人達が、まるで開く門扉の様に分かれ、クラウディア達を通した。


 クラウディア達は朝と同じ席に腰を掛けて、食事を始めた。


 食事をしながらクラウディアが、「嫉妬と殺意が減ったわね…」と呟いた。


 ヴァネッサが「よく、そういう事がわかるね」と感心していた。


 ルーナの食事の世話をしながら、サリーが、

 「友達から聞いた話ですが、馬術競技を見ていた生徒達の中に、数名ですが、クラウディア様とジェシカ様のファンが出来たみたいですわ」と囁いた。そして、

 「それと、ヴァネッサ様とデミトリクス様の一部のファンの娘達がクラウディア様に感謝しているとか…何とか…。私も馬場に観戦に行けば良かったですわ…」と残念がった。


 「貴女が観に来たら、今晩のルーナの世話をする人がいなくなっていたわ。来なくて正解だったわよ」

 と、ジェシカがヴァネッサ達の事を思い出しながら言った。


 ヴァネッサが馬術授業の事を思い出して真っ赤になり、デミトリクスは意味が分からないと首を傾げていた。



 イルルカとルーナは馬に初めての乗った興奮で、二人仲良く感想を言い合っていた。


 イルルカは「ああ…ディードにも乗せてやりたいなぁ…」と呟いた。


 ルーナは「平民は馬に乗らないの?」と聞くと、


 「馬は高価だから。乗馬用の馬も、馬車も、お金持ちしか持ってないよ」と答える。


 「え?じゃあ、普段はどうやって移動してるの?」


 「え…?普通に歩いて…だけど? ああ、長距離なら乗り合いの馬車もあるよ。けど、乗り合い馬車の馬は、あんなに綺麗じゃなくて、身体も小さいよ。中には馬じゃなくてロバを使っている乗り合いもあるしね。どちらもちゃんと手入れされてなくて…臭いよ」


 「そうなのね…大変なのね…」


 「大変なのかな? 以前はそれが普通だったから、あまり大変だった覚えは無いよ。

 ただ、ここの生活しか知らない貴族なら、嫌がる気持ちも理解できる気がするかな…」


 「私は、まだまだ知らない事が多いわね…。高等部の勉強が済んでいても、全然勉強が足りない事を思い知らされるわ」

 と、ルーナが項垂れる。


 「平民も貴族の事をもっと知れば、敵意だけじゃなく接する事も出来るようになる。貴族も平民の生活に寄り添えば、無意味に蔑んだり見下したりする事も無くなるのでしょうね…」

 と、ジェシカが話すと、イルルカも同意して頷いた。




◆◆◆




 その夜、侍女達はヴァネッサの湯浴みを終えて、寝間着に着替えさせてから退室しようとした。

 彼女達が退室しようとした所をヴァネッサが呼び止めて、羊皮紙とインクを持ってこさせた。


 盲目の彼女でも字が書けるように用意した、スライドする直角定規のついた板に羊皮紙をセットしてもらい、ヴァネッサはペンにインクをつけた。


 彼女は初めの一文に暫く悩んでから、ゆっくりと水平定規に手を置いて書き始めた。


 ヴァネッサはとても楽しそうに、久しぶりに父親宛の手紙を書いたのだった。



※コタルディドレス(乗馬用)

 薄手で、首元からピタリと上半身を覆い、肘下くらいで袖が切ってあります。

 七分丈袖に長いスカートが付いた物だと思って下さい。


 乗馬用としてスカートの下に、踝まで隠すピタリとしたズボンをはいています。

 股下を厚くした、馬に乗っても服が擦り切れないヤツ。


※ヴァネッサの手紙を書く板は、建築士が使う製図板みたいな物です。念の為。

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