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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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◆2-20 選択科目はどうしましょうか?

第三者視点




 学校に3の鐘(8時)が鳴ると同時に、寄宿舎の大食堂が開いた。

 朝の授業を受けていた子達が、朝食を摂りに少しずつ寄宿舎に戻って来た。

 クラウディア達も大食堂前に集まり、デミトリクスと合流した。


 食堂に入ると、席が不自然に空いていた。

 周囲の女生徒達は、不自然に空いた席の中心をチラチラと見ている。

 その中心に居たのはヴァネッサだった。


 ジェシカは自分の分の朝食を取ると、ヴァネッサの席の隣に行き、

 「おはよう、ここ、良いかしら?」と言って、答えを待たずに座った。

 クラウディア達も近くに行き、ルーナを隔離する陣形のいつもの席順で座る。


 「おはよう。みんな」と美少年の格好をした美少女が、ニコリと嬉しそうに微笑みながら挨拶する。

 ルーナが、「いつもこんな感じなの?」と、周囲を見ながら相変わらず、歯に衣着せぬ物言いでヴァネッサに尋ねた。


 「ううん。いつもは個室で食事するから。今日は皆が来るかなと思って、ここで待ってた」


 「ヴァネッサで無ければ…いや…ヴァネッサだからこそ、と言うべきか… 今のセリフでほとんどの女性は倒れるわ…」とジェシカが呟いた。

 ヴァネッサは「?」という顔で首を傾げた。


 クラウディアが「ねぇ…周囲から強烈な殺意と僅かな恐怖を感じるのだけれど…」と聞くと、


 サリーが、「周囲の女生徒の半数以上はヴァネッサ様の支持者です。残りが、デミトリクス様とルナメリアお嬢様の支持者ですわ。殺意のほとんどは、ジェシカ様とクラウディア様に向けられております」と解説し、お嬢様とヴァネッサ様、デミトリクス様は安全ですので、ご安心下さい。とのたまう。


 「何でサリーはそんな事、知ってるの?」とルーナが疑問を口にすると、

 「昨日のうちに侍女友達が出来まして。有力貴族の侍女達と情報交換及び、ルナメリアお嬢様の可愛らしさの宣伝をしてまいりました」と、サリーが言い、ルーナは頭を抱えた。


 ヴァネッサとお友達になりたいが、近づく勇気のない女生徒達が、『偶像』として崇拝し、隠れて後援会を作っているらしい。ヴァネッサ本人の知らない処で、一大組織になっているそうだ。


 「神様かな?女神様かな?」とクラウディアが呟く。


 そして、ルーナは、その可愛らしさに『妹』に欲しいという女生徒達の熱狂的支持者が増えていて、デミトリクスは、無口で綺麗な外見に惚れた女生徒数名が、既に後援会を発足させているらしい。


 「ルーナは美味しいからね!ニンゲンでもルーナが欲しいの?…魔素の良さが分かるんだね!」とパックが言う。


 「そして、その3人の『偶像』の側に堂々と座ったジェシカ様とクラウディア様に、全女生徒の殺意が向いているという訳でございます」と、サリーはルーナの朝食の手伝いをしながら説明した。


 「なんて理不尽な…」と、ジェシカが呟き、「デミちゃんの良さが分かるとは…善き善き…」と、クラウディアがズレた感想を話した。


 「じゃあ、恐怖って言うのは?」とルーナが聞く。

 昨日の件で、クラウディアには『近付くと何やら訳の分からない不幸が降りかかる』という噂が広まっているらしい。

 ヴァネッサに近付くからクラウディアを排除したい。

 けれど怖くて近寄れない。複雑な心境になっている様だ。


 ヴァネッサが眉を八の字にして、

 「ごめんね…僕のせいなのか…」と謝って、立ち上がろうとした。

 クラウディアは、それを咄嗟に「良いのよ。憎まれるのも、怖がられるのも慣れてるから」と言って止めた。


 「キミは…凄いね…本当に…」

 心を読んだヴァネッサが、素直に驚く。


 「私達は雑草だから。一人じゃ何も出来ないお嬢様達なんかには負けないのよ」と、ジェシカが笑った。


 「ごめんなさいね。何も出来ないお嬢様ですよ」と、ルーナが拗ねて、サリーが「お嬢様は、そのままで…いえ、そのままが、良いのですわ」と力説した。


 「でも、僕みたいな能力を持つ人間に近づきたい人なんているの?」とヴァネッサが聞くと、


 「能力の問題ではなくてね…。貴女のその外見で男装していたら…ねぇ…」


 「外見…僕には見えないから…いつも侍女に全部任せてるし…」


 「「侍女、良くわかってる!」」と、クラウディアとサリーが二人同時に親指を立てた。


 ルーナとジェシカは頭を抱えて、デミトリクスは「男の格好をすると良いの?」と、首を傾げていた。



 「お…おはよう。隣いいかな?」と、イルルカがやって来た。

 皆が挨拶した後、デミトリクスが自分のすぐ隣に椅子を持ってきて、イルルカに席を勧めた。


 「なんか…凄いね。視線が…」とイルルカが言うと、


 「そうねぇ…憧憬と崇拝と嫉妬と殺意がね…安心して、後の2つは私とクラウディアだけに向けられているモノだから」とジェシカが笑った。


 「よ…良く分からないけど、大変そうだね」


 「そう言えば、今日から選択科目の体験授業でしょ?何するかは決めてるの?」


 「取り敢えず僕は、魔導具を壊さない為にアルドレダ先生の魔術式学の制御について教わる予定だけど、他はまだ決めてない」


 「私達は、世界情勢の座学と各々の魔術式学よね。アルドレダ先生は全種魔術式学の基礎を教えられるらしいから、それ以上の専門術式はアルドレダ先生の授業を受けてから決めるつもり。

 ヴァネッサは、今、何の選択取ってるの?」


 「領主学と魔術式学の波形上級だけ。父様が、領主学を取っておくようにと言ったから」


 「基礎4科は終わってるの?」


 「うん。だから、2の鐘の空き時間に、領主学の専門の先生に教わってる。でも暇だから、今年から新しい選択も取ろうかなと考えてる。

 領主学なんて、兄様が居るのに目の見えない女のボクが取る必要があるのか……分からないんだけどね」


 「目が見えなくても、周りのサポートがあれば領主くらい出来るわ。私なんて他人が近づけないせいで、対外の折衝も、婚姻も絶望的なのだから。お父様もお母様も初めから諦めているわ」と、ルーナが愚痴る。


 「ルーナはニンゲン嫌いなんだから、魔女になっちゃえば良いんだよー。そうすれば僕とずっと一緒に居られるよ!」


 「魔女って、あのデーメーテールとかの?人間が成れるものなのか?」と、イルルカが聞いた。


 「良く分からないけどねー。森の友達が、数百年前はデーメーテール様はニンゲンだったとか言ってたよ。

 魔獣だって獣が成るものなんだし、多分そうなんじゃないのかなー?」


 「その話は興味あるけれど、話を戻すわ。

 4の鐘からの選択授業はどうする?一緒に周ってみる?」

 と、クラウディアが提案する。


 皆は同意して、一緒に行動することにした。




◆◆◆




 4の鐘(10時)から複数の教室では、選択授業を受け持つ教師が、何の授業をどの様に教えているかを見せる為の簡易授業と授業説明を行っていた。

 選択を希望する生徒は、専門の教師に直接申し込み、その教師の予定に合わせて授業を受ける。

 選択授業専門の教師達は、生徒が居ないと授業が潰れて給料が減らされるので、あの手この手で生徒を勧誘している。



 2の鐘及び4の鐘の座学と、6の鐘の施設授業(運動場や茶会室、舞踏場等を使用する授業)は年間授業料に含まれるので、基本的に無料だ。


 2の鐘(6時)から、基礎4科の授業が行われる。ただ、既に基礎4科を終了している者、若しくは基礎4科を後回しにしてでも選択授業を受けたい者の為に、基礎4科授業の裏で、選択科目の授業も行われている。


 4の鐘(10時)からは、基礎4科もあるが、選択科目が主の時間割だ。

 複数の教室で選択授業が行われている。

 何曜日に、どの教室で、何の授業が行われているかは、予定表が掲示板に貼り出されるので、それを見て授業を受ける。


 6の鐘(14時)からは、施設を使用した授業を受けられる。

 魔術式等の危険が伴う授業や、剣槍格闘術等は運動場。

 馬術を習いたければ、馬場。

 砲術、魔道銃、弓術等は射撃場。

 生存術や探索術等は造成した人工森林。

 貴族礼節や侍女、執事、家令の実技授業は茶会室。

 踊りや楽器演奏等は舞踏場で行なわれる。


 運動場や馬場は2の鐘から開いているので、自主的に使用する事が出来る。

 また、茶会室や舞踏場、射撃場は、お金を払えば時間外でも使用が出来る。

 人工森林は何時でも使えるが、怪我や事故等に関しては、学校側は責任を負わない。


 勿論2〜6の鐘の時間帯に、予定にない選択科目の座学や施設授業等を入れる事も出来る。

 その場合は教師に別料金を支払う訳だが、人気のある教師は、生徒が少な過ぎると授業を断ったり、高い授業料を請求することもある。



 クラウディア達は座学の魔素理論、及び魔導具研究の選択科目を見に来た。


 そこには、白衣を着た金髪青目の女性が教壇に立っていた。


 本来は綺麗に光る筈の彼女の金髪は、全く手入されてない為にボサボサになって光を失っている。話し言葉のアクセントから貴族出身と分かるが、わざとなのか、平民言葉を混ぜて使用している。

 そこでは全く貴族らしくない貴族の女性が教師をしていた。

 その為か、授業を受けている生徒は少ない。

 

 「あ…この声、聞いたことがある。カーティ教授だ。なんで高等部に…?」


 「ヴァネッサ?知ってる人?」とルーナが聞く。


 「声の音程とリズムからカーティ教授に間違いないけど…普段は大学部で教えてると聞いてたの。高等部に来るなんて珍しい」


 「大学部の教授なんて凄いのね」


 「カーティ=ウンブラ=ルトベック教授。魔導具の天才と呼ばれた史上最年少魔導具士だよ。以前、士資格の授与式で少し喋ったのを聞いた事がある」


 「史上最年少も凄いけど…それより、ウンブラを名乗るのも珍しいわね」とジェシカが呟く。


 「教会関係者だと、やっぱりそこが気になるよね」



 この国では浸礼の儀で得た名前を、自身の浸礼名として名乗るのだが、『サンギス』『テネブラム』『ウンブラ』を名乗るものは、ほぼ居ない。あまり良い意味では無いからだ。


 『サンギス』は血の狂乱を意味する戦争の神。

 『テネブラム』は呪いと毒殺を意味する闇の神。

 『ウンブラ』は影に潜む安寧を意味する暗殺の神。


 実のところ、それぞれの浸礼名は、傭兵や戦士、呪術師や呪い(まじない)師、斥候や暗殺者等には大変人気があるが、表立ってその名は使わない。


 高いお金を払って儀式を受けて、その3つの名が出ると、大抵の信者は別の浸礼名を名乗り、本当の浸礼名は隠して使う。

 教会に居るノーラの浸礼名はテネブラムだが、普段は隠してヴィシタを名乗っている。『笛』の仕事をする時のみテネブラムを名乗る。


 「私…ちょっと…お話してみたいわ…」とクラウディアが言ったので、ジェシカ達がびっくりした。


 「クラウが、自分から誰かと話したいなんて言うの…初めて聞いたかも…」と、ルーナが言うと、

 ジェシカが「そっか、クラウは魔導具…に興味があるから」と思わず呟いた。


 ヴァネッサが『おや?』という顔をしたのを見て、クラウディアが「ええ…私、魔導具が好きなの」と話した。



 「君達!そんな所で、ぺちゃくちゃ喋られると迷惑だ!聴きたいなら着席して聴きたまえ!」


 クラウディア達はカーティ教授に怒鳴られた。

 

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