◆2-18 探し物は何ですか?
ジェシカ視点
ジェシカは魔獣ウニコルヌスのレクトスから頼み事をされた。
『実はな…我が御主人様のお嬢様が失せ物をしてしまってな。それを探している』
「魔女デーメーテールの娘さんね。何を無くしたの?」
『魔石だ』
「魔石?魔石ならそこら辺に売ってるわよ?」
『そこらの人間が持っている様なクズ魔石では無い。人間の拳大の清廉魔石だ』
「清廉魔石?普通のとは違うの?」
『普通の魔石は、魔力持ちの生き物の体液が混じって固まる。その為に多量の不純物が混じるのだ。
お嬢様のアリス様は、清廉魔石を作り出す事が出来るのだ。不純物の混じる魔石から、長い時間をかけて不純物を取り除く事でな。
それをこの前無くしたそうでな。探している』
…拳大の魔石でも金貨が飛び交うのに、清廉?魔石となったら価値は計り知れないわね…
「そのアリス様に、もう一度作って貰えないの?」
『不純物を抜くにはかなりの時間が掛かるのでな。次のでは間に合わん』
「何に間に合わないの?」
『…それは言えんし、魔石探しには関係の無い事だ』
…まぁ、そうよね。あれ?でも…
「何故、街中を探していたの?」
『アリスお嬢様の魔力の残滓を辿ったところ、あの辺りにあったらしいのだが…見つからんのだ。
以前、ニグレドに探させたのだが、あの馬鹿者めは、途中で何を探していたのかを忘れて帰ってきよった…』
「ああ…なんか抜けてる子だったからね…」
と、黒猫の様子を思い出す。
『御主人様の他の僕では、街中で目立ってしまう、しかし、ニグレドはあてに出来ん。仕方なく私が来たら、貴様に見つかってしまったのだ…』
「貴方も結構目立っていたけどね」
『認識阻害をかけていたから、そこら辺の人間では、私は知覚出来ん筈なのだがな…お主は、かなり魔力が強いみたいだな』
「しかし…魔石ねぇ…清廉魔石の見た目はどんな様子なの?色とか形とか」
『見た目は…私は人間の言うところの『色』が分からん。形は普通の魔石と同じだ』
「どうやって探せと…?」
私は頭を抱えた。
『アリスお嬢様の濃厚な魔素が残っている魔石だ』
「私は、そのお嬢様を知らないし、人間は魔素の違いも分からないわよ」
『ふぅ…人間とは不便なものだな…』
レクトスはフンっと鼻で馬鹿にした。
「アンタだって色が分からないじゃないの…ってあれ?」
『うん…?どうした?』
「アンタの今のセリフ…何処かで聞いた覚えがある…何処だっけ…?こういう時クラウならすぐに教えてくれるのに…」
『考え事をしている所、悪いのだがな…』
「うん?どうしたのよ?」
『何やら人間達がお前を見ている様だが…?』
…話に夢中になってて気付かなかった。
朝起きて、朝食の為の水汲みをしようと家から出てきた子供達が、不思議そうな顔で私を見ている。
「げ…しまった。もうこんな時間か。アンタの姿見られたら話題になっちゃうわ。魔獣ウニコルヌスなんて普通の人は見た事無いでしょうし」
『それは大丈夫だ。私は私に認識阻害を掛け続けている』
「え…?それじゃ、どう見えてるの?」と呟くと、
「お母ちゃん!お父ちゃん! 何か外に変な人が居るよ!宙に浮きながら一人でブツブツ言ってる変なお姉ちゃんなのよ!」
見ていた子供の一人が親を呼びに行った。
………なんじゃ、そりゃああぁぁ!
完全に、頭のおかしな怪しい人じゃん!
やばい!やばいよ!………あ、そうだ!
私は咄嗟にレクトスから飛び降りて、子供達に、
「お姉ちゃんは、怪しい人じゃないよ!皆にプレゼントを持ってきたんだ!」
と言って、ポケットに仕舞っていた銅貨や銀銅貨をばら撒いた。
それを見た子供達は、肉を目の前にした猫の様に飛び掛かってきた。
お金に群がり、こちらには見向きもしなくなった。
「レクトス!こっち来て!」
私はレクトスと一緒に大通りの方へ走り出した。
大通りに出ると、日が差し始めてガス燈の灯りも消えていた。
朝食のパンの為に、パン焼き竈の前には列が出来ていた。
「貴方、どうせ他の人には見えないなら、普通に歩きながら話せば良かったのよ」
『魔力の強い者には認識されてしまうがな』
「魔獣でも私と一緒に歩いていれば、変わったペットだと思われるだけで、それ程話題にはならないと思うわよ」
『ぺ…ペットだと…デーメーテール様の愛馬である私を…?』
「デーメーテール様のペットには違いないじゃない」
『う…むぅ…御主人様にペットと思われるのは不快には感じないが、ただの人間に思われるのは限り無く不快だ…』
「それはどうでもいいわ。しかし、人出が増えてくると探しにくいわね。それに特徴も分からないし、どうしたものやら…」
『お主達がアリスお嬢様の魔素の違いが分かれば良いのだが…人間は、なんて不便な生き物だ…』
「あ!思い出した。同じ事言ってたのが、寄宿舎に居るわ」
『?』
「今度、アリスお嬢様に会わせてもらえないかしら?」
『お嬢様は…人の姿をしているが、人の世界では目立ち過ぎる。連れて来る事は出来ぬ』
「連れて来なくて良いわよ。デーメーテール様もお嬢様も黒の森の近くに住んでいるのでしょう?今度、黒の森の近くで落ち合えないかしら?」
『黒の森の近くというか森の中に住んでおる。そもそも、黒の森と言うのも今の人間達が言い出したもので、昔は豊穣の森と呼ばれていたのだ』
「そうなの?兎に角、今度うちの馬鹿妖精連れて来るから、それにお嬢様の魔素を覚えさせて。そうすれば街中でも堂々と探せるわ」
『…そうだな…そうする事が一番手早く済むことか…。ただ、御主人様とお嬢様のご許可を頂かねばならぬ。一度、御主人様の元に戻って、ご指示を仰いでくるとしよう』
「そうね。…あ、ところで私達の連絡手段はどうしようか?」
『ニグレドを呼べ。あれは場所を飛び越える。連絡役としてだけなら役に立つだろう。
ただし、呼ばれなければ行けないからな…そうだな、決まった時間に呼び出して、お互いに連絡を取るのはどうだ?』
「なるほど、そんな事言ってたわね。閉まっている物を名前を呼びながら開ける…だっけ?」
『そうだが、閉まっている扉でも構わない。そこが外から一切覗けない密室ならな。ある程度以上の大きさの密閉されている箱なら木箱でも部屋でも移動出来る。そういう能力だ』
「じゃあ、夜暗くなってから。そうねぇ…門の閉まる8の鐘が鳴ってから、クラウディアに呼び出して貰うわ。それで今後の事を話し合いましょうか」
『わかった。私は一度戻って御主人様とニグレドにも話をしてくる。では、またな』
そう言うと、レクトスは風のような速さで走り去った。ちょうど2の鐘が鳴り、門が開き始めたと同時に、門番の目の前を全く気付かれずに通り抜けて行った。
…まさか朝の散歩でレアな魔獣に会うなんて…
でも、何だか面白い事になりそうね…
私は、珍しい土産話ができた事が嬉しくて、急いでクラウディア達の所へ帰った。
ほとんど会話のみだったなぁ…




