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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
32/287

挿話 男装の麗人ってさ…善き哉

クラウディア視点


お茶会室騒動〜ヴァネッサとのお話し中、

クラウディアが考えていた事等です。




 『ガシャーン』

 隣の茶会室で食器が落ちて割れたみたい。うるさいなぁ…話が遮られちゃったじゃないの…


 茶会室で男がヘレナを突き飛ばしたわね。

 ヘレナが、あの男子生徒に近づこうとしたから?


 あの男子生徒は…ああ…帝国の王子か。名前は…ええと…


 …ガラティア!起きて!


 『なぁに…?眠いのに…』

 この頃、一日中寝てるなぁ…この娘。


 『あそこに居る帝国の王子、名前何だっけ?』

 『あれは…レヴォーグ家の第3王子、リオネリウス=フラメア=レヴォーグね。フラメアという事は、圧縮魔術式の火炎を使うのかしら』


 何かコルヌアルヴァの事で揉めてるのかしら…

 …宰相が許可…コルヌアルヴァ…貴様らの問題…

 帝国と侵略者との間の内輪揉め?宰相がけしかけた?それとも皇帝か?…宰相に罪を被せてる可能性もあるか…

 『前回』は4〜5年前の侵略戦争の事よね。『今回』?また何かやらかしたか…


 突然、大声で「ねー!何であの女のコ、イジメられてるの?」とパックが聞いてきた…耳元でうるさい…


 「さぁ?分からないし、知る必要もないわ」

 ヘレナは嫌いだから、虐められてようが私には関係無いわよ。あまり注目されたくないのに… 


 あ…なんか嫌な感じの奴が、気持ち悪い目でこっち見てる…

 「ほう…分かっているじゃないか。平民貴族が。下賤な輩は耳と目を塞いでろ」

 …あ…? 何コイツ、今日二回目か…○す…


 突然ルーナが魔力暴走させた。

 …今日二回目ですかーヤダー


 咄嗟にルーナに糸をつけて話し掛け、落ち着かせた。

 こちらを心配そうに見るルーナに、「大丈夫、殺さないから」と囁いた。…一応注意されてるしね。


 私が、私を侮辱した男子生徒に近づこうとしたら、リオネリウスが、「申し訳無い。家臣が貴女に無礼を働いた」と謝罪してきた。


 …ほぉ…ちゃんと部下の非礼を詫びれるとは…こやつ出来るな…


 「王子! 貴方のような高貴な身分の御方が、平民貴族如きに謝罪など!」


 …コイツはやはり殺そう。そうしよう。

 『待ちなさい!どうして貴女は…命の尊さというのは…』

 『あ、今はそういうの、間に合ってますんで…』


 とりあえず、リオネリウスは邪魔だな…ヘレナの方に誘導しとくか。

 「私には謝罪は必要ありません。しかし、女性に手を上げておいて、そのまま出ていく事こそ、帝国の顔に泥を塗る行為では御座いませんか?」

 「…確かにそうだな。ヘレナ嬢、大変失礼をした…」

 …よし、邪魔者はあっち行った。


 「王子! 自分の意見より、平民貴族の意見を聞くのですか!」

 …何コイツ?仮にも自分の主君にその言い方は無礼じゃないの? リオネリウスも何でこんな○○を飼ってるんだろう?


 …こういう○○は社会的にも破滅させないとね…

 まずは、私の『糸』をコイツに繋いで…


 『貴方の様な品性下劣な人間を部下に持って…リオネリウス王子もお可哀想に…』


 「何だと!もう一度言ってみろ!」


 …良し良し。乗ってきた。

 周りはコイツが突然独り言を言い出した様にしか見えないだろう。


 リオネリウスは、「おい!ザーレ!」と制止しようとしたが、ザーレは止まらない。


 『聞こえませんでしたの?頭と顔だけでなく耳も悪いのですか?それで良く側近が務まりますわね。帝国も人手不足(はなは)だしいですわ。こんな無能貴族家の人間を雇わないといけないなんて。お可哀想な王子様』


 「ふざけるな! 貴様如き似非貴族が、帝国子爵家を愚弄するか!」


 『たかが下位貴族じゃないの…それで威張るの?そこいらの平民の方が貴方より遥かに頭が良いわよ。立場を交換してきなさい』


 「馬鹿にしやがって!魔力もろくにないゴミが!」


 『貴方、下位貴族カニス家のザーレね。本来高位貴族でないと王子の側近なんてなれないのに。帝国の宰相様に袖の下でも渡して口利きしてもらったのかしら?

 やはり、カニス家は下賤な家柄ね』


 「我が家を侮辱したな!」ザーレが叫ぶ。


 「キャー、何をなさいますのー。お止め下さいませ〜」

 迫真の演技!どや?

 可哀想な美少女が襲われそうだぞ?助けに入って来ても良いんだぞ?


 …ガラティアが可哀想な娘を見る目で私を見ている…なぜ?


 ジェシカ達が「ブッ!」と吹き出し笑いを堪えている。


 …おぃぃ?何故笑う?可憐な美少女が襲われてるんだぞ!助けたくなるだろ?


 ザーレが飛び出す直前、

 「待て!! ザーレ! やめろ!」


 …王子様もそうおっしゃってますよー。危ないよー。


 そんな事考えていたらザーレが私に殴りかかって来た。

 …こんな可憐な美少女を殴ろうと言うのですかそうですか。


 私は身体を横に滑らせ、周囲の人達から死角になる様に殴りかかってくるザーレの手首を取り、手首の点穴に指をめり込ませた。

 ザーレの身体が硬直した一瞬、彼の手首を返して、飛びかかる勢いそのままに、私の後ろの壁に放り投げた。

 ザーレは硬直したまま、壁に顔面から飛び込んだ。


 …あ…やべ…天然石の壁じゃん、これ。


 ゴシャ! あ…死んだ?

 『大丈夫よ。投げる直前に私が制動掛けたから』

 『流石はお姉ちゃん!頼りになる♪』

 『あんたって…こういう時だけ…本当に殺すつもりかと思ったじゃないの!』


 私は皆の居るテーブルに戻って、

 「きゃ〜、怖かったですわ。野蛮な人って嫌ね〜」と言うと、ジェシカとルーナが涙目になりながら笑っていた。


 …結局、全く助けようとしなかったなこいつ等…

 『貴女を信頼しているのよ』

 『え?そう?私って、できる女と思われてる?』

 『ええ、野蛮な事のできる女と思われてるわ』

 …くそぅ……お姉ちゃんが辛辣…


 リオネリウスはザーレの様子を見た後、こちらに近付いて来る。ルーナもジェシカも気付いていて、彼が一定の範囲に入った瞬間、笑いを止めてジェシカが立ち上がった。


 …それ以上近づいたら…殺すぞ…

 そういう目で、帝国の王子を見る。


 リオネリウスは、慌てて「待ってくれ! 謝罪をさせてくれ。うちの者が大変失礼した。後日、改めて謝罪したい」と、言って茶会室を出ていった。


 …謝罪か…まぁ当然よね。傍から見たら、訳の分からない事を叫びながら、可憐な美少女に殴りかかって来た野蛮人。

 皆の前で謝罪しておかないと、帝国の評判が更に悪くなるからね。


 …あら?今度はヘレナがこっちに来た。

 また、文句でもつけに来たのかしら?面倒くさいわ…


 ヘレナは、「ありがとう存じますわ! そして、今朝の事、謝罪させて下さいませ」と、ルーナに言った。

 ルーナは「謝罪する相手は私では無いでしょう」と、冷たく言う。


 …ルーナ…出来る子…


 言われたヘレナは、おずおずと私の方を向いて、「侮辱してごめんなさい。私が悪かったわ。そして、私が(はずかし)められている所を助けてくれてありがとう」と言って、頭を下げた。


 「気にしていないから、貴女も気にしないで」

 …こんなに素直に謝られたら…嫌いになれないじゃないの…

 よく見ると、ちょっと可愛い顔しやがって…


 『これは!…旧世界であったツンデレと言うやつよ!』

 「なるほど、これがツンデレという物か…」


 …ジェシカに何言ってんだコイツっていう目で見られた…




◆◆◆



 「こんにちは、少しお話出来ないかな?」

 私達か食事を終えて、食堂を出ようとすると、ずっとこちらを意識していた美少年が話しかけてきた。


 …ずっと、定期的に弱い波形魔術式を飛ばしてきて、何してんだろうなーと思ってたのよね…


 …しかし、すんごい美少年だな…うちのデミちゃんは格好良い系美少年だけど、これは…超可愛い系美少年!

 なんだろう…お姉さんが守ってあげるよ…って言いたくなる気持ちがわかる。

 でも、なんだろう?この子、どこかで…?


 『はぁ…アンタは…エレノアから聞いていたでしょ。青い髪の少女。波形魔術式を使い、相手の心の中を読むギフテッドの事』

 …青い髪の『少女』?え?女の子?

 『そうよ…生物学的特徴は女性ね。骨格からして間違い無いわ』

 …ヘルメスの娘…?ヴァネッサだっけ?

 『ヴァネッサ=ススルム=リンドバルトね』

 …うーわ、いきなり遭遇したぞ!目的の人物!いかん、冷静になって…


 「奢って頂けるのでしたら」

 …良し。できる女対応!

 『たかるのは、できる女とは違うんじゃ…?』


 「どの様な御用でしょうか。ヴァネッサ様」


 …あれ?悲しそうな顔?

 「やっぱり君達も、ボクの事知ってるのか」

 「ごめんね。こんなボクに話し掛けられたく…無いよね…」


 「言っている意味がわかりませんが?」

 …本当に分からない。


 「え? ボクの噂は知っているでしょ?」


 …ああ、そう言えば。

 「心を読む…とか言われている噂の事でしょうか?」


 「…やっぱり怖いよね?」

 …怖い?怖くはないけれど感情は見せたくないな…一応、ガラティアお願い。


 「いえ? 全く」とガラティアが答えた。

 声の波長、感情の波長を全て普段の私と同じにしてもらって。


 ジェシカが「ちょっと、クラウ! 何の話? ってかどちら様?」と、聞いてきた。


 「ヴァネッサ=ススルム=リンドバルト様。ヘルメス枢機卿のお嬢様よ」


 ジェシカとルーナとイルルカは一斉に、「えー!」と驚いた。


 「何故、男の子の格好をしてますの?」

 …おお、ルーナ、直球。


 「…何でだろう。この世界に対する意趣返し…かな」

 …ふ〜ん…何となくだけど…気持ちが分かるわ…


 「女の格好だと、ボクの年だと踝くらいまでのスカートを穿かないといけないじゃない? 裾が広がると、スカートの周囲が視えなくてね。足元の段差が分からなくなるんだ」


 「?…目が見えていますの?」と、ルーナが聞くと、

 「いや。音で視えるんだ」と、ヴァネッサは答えた。


 …ああ…以前、ジェシカとオマリー神父の能力解説で聞いたわね。

 『そうね。波形魔術式の応用、エコーロケーションよ。覚えていたのね』

 『私、できる子なので』

 『根に持ってるの?』


 私は、以前にガラティアから教わったエコーロケーションの原理を説明した。


 「ふ〜ん?反射する音で凸凹を視てたのか…自分でも何で視えるのかが分からなかったんだ。だから、他の人に説明する事が難しかったんだ」


 …知らないでやっていたのか…この娘もジェシカと同じ天才系か?


 「じゃあさ、じゃあさ、皆が言う『色』っていうのが視えないのは何で?」


 …そっか、色は分からないよね…

 私は、色には凹凸がない事を説明した。そして、


 「ただ、『魔素』自体が未だに明確な解明がされていません。だから、魔素を『光の波長』から『音の波長』に変換し、それを音の受容体で感じ取れるようになれば…もしかしたらですが、将来的には色も『音』で見える様になるのかもしれませんね」

 …自分で説明していて、こういう魔導具あったら便利そう…と思った。


 「ボクには、君の言っている事の意味が、あんまり理解できなかったのだけれど…。

 キミの言葉は、ボクに対する慰めではないのね…

 キミ自身が、本心からそう考えていて、そして、それが正しく、且つ、実現出来ると確信しているんだ…」


 …ほぅほぅ…中々正確に読み取るのね。いいな、この能力…


 …能力を受けるにしても、原理が分かれば、避ける方法はいくらでもありそうだし…ガラティアが居れば嘘も見抜けないだろう。デミちゃんは、失感情症だから声に感情乗らないし、問題無いかな。


 皆と話していたら、ヴァネッサが「出来れば『様』って付けないでくれると嬉しいんだけど…」と、もじもじしながら呟いた。


 …え?

 「一応、上司の上司のお嬢様ですし…」

 …まさか…私達の事知ってて接触してきたんじゃ無いの?


 聞いてみると、単純に、『帝国王子に堂々と意見できる女子、スゲー』と思って、興味が湧いたという事だった。そして、不思議な音…?


 ヴァネッサは徐ろに、自分の能力の説明をしだした。


 …能力自体はほぼ予想通り。

 波形魔術式を相手の声の波にぶつけて、帰ってくる波を普段の波と比べて、どう違うかを感じ取ってるのね。それを、ほぼ無意識でやっている…と。やはり天才だわ…


 「兄様も父様も、ボクと話したがらない。侍従達も、ボクの前では聞かれた事以外は喋らない」と悲しそうに話す。


 …ギフテッドの悩みは色々ね。

 デミちゃんは自分が悩んでいる事にも気づけず、傷口を拡げてしまう。

 ルーナは自分では制御出来ない、人に対する強い拘りのせいで、魔力が暴走しやすい…


 私はヴァネッサに、嘘や感情が分かる原理を説明した。


 「キミは何でも知ってるんだね…」

 『…何でもは知らないわよ、知っている事だけ』


 …え?なんて?

 『旧世界のデータベースに、こう言われたら、こう答えると書かれてたの』

 …ふ〜ん…今度使ってみよう。意味は分からないけど。


 「それで、上司って?」


 …彼女は、ヘルメス枢機卿の仕事に、何も関わって無かったのか…探りを入れられるかと警戒してたのに…


 ヴァネッサは、私達に『様』付けで呼ばれたくないらしい。だから私は、

 「学友として付き合いたいと、おっしゃるのでしたら…ヴァネッサ…と呼んでも良いでしょうか?」と聞いた。


 …流石に失礼だったかしら…


 ヴァネッサは嬉しそうに「うん!お願い」と答えた。


 …何この、可愛い生き物…



 「しかし、君達はボクを怖がらないんだね」


 ジェシカが、何故人が恐怖するのか、何故自分達が怖がらないのかを的確に説明した。


 …やっぱり、この娘、天才だわ。


 「それもあるけど、私達は嘘をつく必要が無いし、他の貴族と違って感情を隠さないからじゃないかしら?」と、ルーナが言うと、

 「お嬢様は、嘘や嫌味を嫌いますからね。貴族令嬢としては〜…」


 …あ…サリーが暴走しだした。相変わらずの阿呆メイド…

 ルーナが照れてサリーの口を塞いだら、サリーが恍惚な表情でルーナの手を握りしめた。


 …阿呆じゃなくて、やばいメイドだ…こいつ…


 「要は心を読まれたく無い時は喋らなければ良いだけでしょ?」とジェシカが言うと、ヴァネッサは、「そう!それだけで良いの!」と、嬉しそうに笑った。


 そして、ヴァネッサは「お願い」を言ってきた。

 「上司の娘とかの命令でなくて、学友としてのお願いなんだけど…その…友達に…なって欲しい…んだ…」


 …何これ、やばい。外見美少年の美少女が友達になりたいとか!?

 『推し』が増える!デミちゃんとヴァネッサ…なんだろう…この心の中から湧き上がる気持ちは…


 『それは…旧世界で言われている『萌え』と言うものじゃないかしら?昔の人は、それで掛け算とかしたらしいわ』

 『掛け算!?どういう事?意味が分からない』

 『外見、美少年同士のカップリング…中身はノーマル…というデータがあったわ。私もあまり良く分からないけれど』

 『お姉ちゃんにも分からない事があるなんて!』


 ジェシカは「え? もう友達でしょ? 何言ってるの?」と軽く返した。流石ジェシカ。

 …すかさず便乗して頷く私。


 ヴァネッサは、とても嬉しそうに「ありがとう」と言った。


 『何これ可愛い!』

 『男装の麗人のデレ…というデータがあったわ』

 『デミちゃん以外にこんな可愛い生き物が居たなんて!』

 『エレノアから、いざと言う時の為の人質、と言われているんだから、あまり感情移入しないでね』

 『困ったわ…いざという時、殺せるかしら…』


 …私は、表情には出さずに頭の中だけで困っていた…



手首の点穴と書いてますが、正確な点穴ではなく、手首の正中神経を圧迫しています。

真似すると障害が残る可能性があるので絶対に真似しないでね。

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