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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
降り積もる雪
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◆5-15 敵の狙いは

エレノア視点




 フレイスティナによって私に繋げられた糸を凝視した。

 目を凝らした時のみ、霧状の糸が朧気(おぼろげ)に視える。

 知らなければ目の錯覚だと思う程度に幽か。

 アビゲイルや他の人達には全く視えていない様子。

 手で触れてみる。

 糸は私の手をすり抜けて、ゆっくりと空中を揺蕩(たゆた)った。


 見えない『糸電話』越しに、自分が手に入れた情報を皆に伝えるフレイスティナ。

 声音は静か。なのに周囲の音に混ざらず、ハッキリと頭に響いた。

 凄く便利な能力。()()に欲しい…。



 私達の出立後に北西山脈にて異常が確認された。

 獣の異常行動から何かを察したバルバトス卿は、すぐに命令を下した。

 行軍部隊を二つに分け、更にルート変更も指示したのだ。


 バルバトス卿とイリアス枢機卿は中央本道を離れ、側道を南下中。

 私達の通った西部山道を除けば、一番早い山岳ルート。

 次に到着するのは、恐らく彼等。

 護衛は正教国騎兵隊に加えて、フィディス騎士団長が率いる山岳軽装騎兵隊。


 義父のエルフラードは東部の南北本道へと迂回。

 平らな舗装道で、各所に櫓と兵士詰所が置いてある。

 一番安全で一番遠回りな道のり。

 到着はまだまだ先だろう。

 護衛は帝国騎兵隊に加えて、アルアドル騎士団長補佐が率いる重装騎兵隊。


 フレイスティナの兄達は本邸の警備を固めた後、斥候の報告を受けてから出立するらしい。


 居残り組はホーエンハイム邸を完全封鎖して籠城。

 邸宅に残る親衛隊は戦闘特化のツワモノ揃い。

 私の専属護衛(オマリー)程の化け物では無いが、幾つもの死地を乗り越えて生き残った手練達。

 そんな彼等全てを、館の警護に残したそうだ。

 彼等と城兵部隊が籠城するから、籠もる夫人や子供達に危険はない。


 まるで今日この時、襲撃される事が分かっていたかの様な兵装と配属とルート選択。



 『…なので皆が揃うのは、どんなに早くても夜になるかと。

 お待たせして申し訳ございません。お姉様方…』

 淡々と話すが、要は各々(わたしたち)の親族を囮にしようと言う事だ。

 今も、何処からかこちらの様子を伺っている誰か。

 その狙いをハッキリさせて敵を絞り込む為に。


 『北西部…私達が通ってきた山道の近くじゃない?

 間一髪だったのかしら?』

 『動き出しの遅さからすると、狙いは私達以外です。

 どの道、私達に襲う価値はありません』

 …ま、確かにね。代わりはいるし。

 子息を人質に取られても殺されても、交渉には応じない。

 それが高位貴族の矜持であり、常識。

 でも、それを淡々と述べるか?本人達を目の前にして…


 『あ…こうかな?聴こえる!?ねえ!!』

 突然、アビゲイルの甲高い声が頭に響いた。

 『五月蝿い。もう少し音を下げろ!』

 思わず苦い顔しながら怒鳴ってしまう。

 彼女(アビー)は腐っても次席。

 もう『糸電話』の原理を理解したらしい。


 『あ〜、あー、うん。

 ごめんごめん。でもこれ…難しくない?主に小声が』

 アビーは喉を押さえながら出力の調節をしている。

 …アビゲイル(こいつ)は無駄に魔力が大きいから、細かい調整が苦手なのよね。

 そのお陰で、昨日は酷い目にあったわ。

 『それで、えっと…襲撃されるかもって話よね…』

 彼女は門の方を凝視しながら、私達の話していた内容をもう一度(さら)った。


 今の所、確認されたのは獣の異常行動だけ。

 それに対して大袈裟過ぎる私達の対応。

 少し警戒し過ぎなのではないのか?

 何か襲撃を受ける確証でもあるの?と、アビゲイルはフレイスティナに尋ねた。

 

 『予言(きざし)があったそうです。お母様の…』

 『お母様のきざしの条件が揃ってしまったそうです』

 フレイスティナの言葉をリーヴバルトルが補足した。

 『お姉様の予言か…ならば証拠は要らないわね』

 『え…?何のこと?』

 『アビーは知らないのか…』

 私はフレイスティナの母親であるルキナ(お姉様)の能力について話した。


 お姉様は、小さな頃からとても鋭い人だった。

 僅かな幾つもの可能性を繋ぎ合わせて、突拍子も無い結論を弾き出す。

 何故そうなるか、万人が納得出来る様な説明はしない。

 本人も説明する事が苦手なので、「糸を紡いで繋げると見える形があってね…」と、理解し難い事を言う。

 他人から見れば正に予言。

 予言発生に必要な幾つかの前提条件があるのだけれど、条件さえ揃えば彼女の(それ)は必ず現実になる。

 その事を知っている者は、彼女のそれを『予言(きざし)』と呼んでいた。


 『他の者なら兎も角、貴女達が言うなら予言(それ)は確実ね…。

 あ〜あ…折角の観光旅行が埃まみれになるのか…』

 アビゲイルは肩を落とした。

 『襲われるのは覚悟の上。日常よ(いつものこと)。問題は…』

 私は、チラリとフレイスティナを見る。

 『お祖父様が6、お父様が1、叔父様が3…くらいでしょうか』

 彼女は私の意図を読んで、素早く答えた。

 『そう。

 枢機卿という立場は抗い難い極上の蜜だからね』

 …良く理解している。



 このタイミングにこの国(ホーエンハイム)で、領主であるバルバトスを襲うメリットは低い。

 内憂は、ほぼ無い。

 国内は安定しているし、バルバトスの統治のお陰で魔獣の被害も極小。

 食糧は正教国(うち)から仕入れた分で数年分の備蓄を用意している。

 反乱を起こす意味(メリット)が無い。

 では、外患は?

 無くはないが、効率の悪さからすると狙う意味が薄い。

 正体を隠した何者かがイリアス枢機卿かエルフラード侯爵を殺せば、自動的に領主の仕業か領主の不手際という両シナリオに持っていけるから。

 一石二鳥も三鳥も狙うならば、枢機卿か侯爵から狙うのが妥当。


 エルフラード侯爵を狙うならば、メリットは?

 第一容疑は帝国自身。

 侯爵の敵対貴族からすれば、王国の一部であるホーエンハイム領内で彼が死んでくれれば、邪魔者が消え、王国を糾弾する材料が出来る。

 第二容疑は正教国。

 建前は王国と帝国に仲良くしろと言うが、中には二国が争う事で利益を得る連中がいる。

 …この場合、枢機卿連中にはメリットは薄い。裏取引があれば別だけど。

 むしろ嫌帝国を掲げているイリアスお父様のメリットになる。…表向きはね。

 もし侯爵を狙うとすれば、南部スラムの戦争屋共か…。

 自国に争いを持ち込まず、他国同士を争わせるのが好きな連中だから。


 正教国にもスラムがある。

 首都だけで百万都市。スラム人口だけで十万は下らない。

 その中には傭兵派遣や戦争で食い扶持を稼ぐ連中が居る。

 主に首都南部一帯を根城にしている戦争屋と呼ばれる連中。

 世界各地に争いの種をばら撒いて、怨敵ハシュマリムとさえ取引する売国奴。

 …他の北や東の連中も、強盗・恐喝・殺人請負、麻薬密売や誘拐に孤児売買、武器の密輸に墓暴き。

 蝙蝠、蛇、蜘蛛…害獣共が私の庭で好き放題やってくれている。

 そのうち綺麗に掃除してあげる。


 一番狙われそうなのは、当然イリアス枢機卿。

 第一容疑はまたしても帝国。

 帝国の中には正教国と王国の間に楔を打ちたがっている連中が居る。反王帝派の連中だ。

 奴等は正教国は嫌いだが、王国はもっと嫌い。

 嫌いな二国が喧嘩してくれれば、これ以上の御馳走は無いだろう。

 第二容疑はハシュマリム。

 理由は反王帝派と同じ。

 第三容疑は正教国自身。

 この場合、動く可能性があるのは…ヘルメスとミハウだけど…。


 ヘルメス枢機卿自身は表向き帝国の後ろ楯を得ていて反王国を表明しているが、個人的にはホーエンハイムと懇意。

 フレイスティナの兄とは酒を酌み交わす仲だそうだし、あまり考え難い。


 ミハウ=アントン枢機卿は、ヘルメスと同じく反王国。

 イリアス枢機卿とは牽制し合う仲。

 しかし彼の領地は正教国南東部。ホーエンハイムからかなり遠い。

 少数の部隊なら発見されずに派遣出来るかも知れないけれど、暗殺は難しい。



 『獣達を誘導して馬車を襲わせる算段かしらね。

 それとも獣を目眩ましにして、直接襲う?』

 私が黒幕について熟考している間に、アビゲイル達が実行犯の手口について議論していた。

 …考え込むと意識が飛ぶのは悪癖よね。怒られちゃう。


 『混乱させて、敵の手札をバラけさせるのは護衛の基本よね』

 『でも、護衛対象が離れ過ぎると防衛力も弱くなるよ…?』

 『今回は路上防衛ではなく、炙り出しだからね。これで良いのよ』

 彼等の議論は戦術にまで発展していた。

 これから襲撃を受けるかも知れないというのに、楽しそうに考察を交わしている3人。


 …良く考えたら4歳児と5歳児なのよね。この二人。

 普通に会話していると、歳を忘れるわね。

 さて、相手の狙いはどれかしら?

 退屈な旅が愉しくなって来たわ。


 私は湧き上がる感情に心を躍らせながら、口角が上がるのを必死に抑えていた。

 側近達に見られないよう顔を伏せる。

 横を見ると、フレイスティナ達も同じだった。

 唯一、リーヴバルトルだけは表情を変えず、遠くを眺めていた。


 その時…

 カン!カン!カン!

 町中に半鐘の音が響き渡った。

 櫓の上から怒号が響き、門の開閉装置を一気に巻き上げる門兵達。

 私達が到着した時とはまるで違う、戦場の様な雰囲気が一気に拡がった。


 町の住人達だけでなく私の側近達ですら、キョロキョロと辺りを見渡しながら困惑している。

 『お祖父様達が狙いだったようですね』

 慌てる大人達に対して、子供であるフレイスティナは淡々と述べた。


 怒声と共に町の門が開かれ、紋章を掲げた数台の馬車と左右を囲んだ騎士団長の部隊が、勢い良く広場に駆け込んで来た。




 

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