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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
降り積もる雪
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◆5-13 湖畔の町へ

エレノア視点




 「ティナお姉様、湖が見えてきました。

 あれがスリディム湖ですか?」

 リーヴバルトルがフレイスティナに声を掛けた。

 それを聞き、彼女は外に目を向ける。

 「ええ、そうよ。…見事ね。

 相変わらず、山道から見下ろす風景も…とても美しいわ…」

 彼女は郷愁を感じさせる様な大人びた瞳で、窓の外を見つめていた。


 二人の様子を横目で見て、私も本から目を離して外に目を遣る。

 湾曲した道の先を見下ろすと、山の稜線に挟まれた遠方に、銀色の何かが姿を現していた。


 「へぇ…凄い…」

 さっきまで窓の外に向けて嘔吐(えず)いていたアビゲイルも、彼等と同じものを見ながら呟いた。

 彼女は気分が悪かった事も忘れている様子で、その()()姿()に見惚れながら呆けていた。


 その湖面は、陽の光を受けて輝く鏡の様。

 山から吹き下ろす風を受けているだろうに、ほとんど波立たない。

 まるで、時が止まったかの様に静かで穏やか。

 周囲から湖に流れ込む北部連山の雪解け水が、液化した硝子の様にキラキラと光輝く様子が無ければ、静止した絵画を見ている様にも感じる景色だった。


 周囲の残雪と寒冷な空気により鋭さを増した太陽光が湖面に反射して、私達の居る遥か上の山道にまで光が届く。

 その煌めく姿は、乳白色の宝石を散りばめた銀盆の様に美しかった。


 「ええ…あちらがスリディム湖。

 通称、銀湖(シルバーレイク)でございます」

 カーラの説明を受けて、皆が眩しそうに目を細めた。

 「はぁ…これは確かに…美しいわね…」

 アビゲイルが溜息を吐きながら頷いた。

 「我が国の数少ない観光名所でございますから」

 彼女の素直な感想に、カーラは嬉しそうに目尻を下げた。


 大きなお盆の様な銀の湖。

 そこの湖面に小島がひとつ。

 大きな木もなく低木がちらほら。

 そこの中心には、荒れ果てた建物の残骸がポツンとひとつ、残されていた。


 建物は屋根が抜け落ち、外壁は崩れて、元が何かすら判らない。

 ただ、残ったレンガ外壁の残骸だけが高々とそびえ立ち、その風情は、銀の盆に置かれた茶色の帆を掲げている小舟の様に見えた。


 「ほぅ…良い景色ねぇ…。

 特に小島の廃墟が良いアクセントになってるわ。

 紙と絵筆が欲しくなるわね。持ってくれば良かった…」

 アビゲイルが残念そうに呟く。

 「アビ…こほん…。お姉様…、本当に美しいのは()ではないのですよ」

 ティナは楽しそうに湖を見下ろしながら応えた。

 「と言うと…?」

 「今晩あたり見れるかも知れませんね。楽しみにして於いて下さいませ」

 そう言うと、彼女は私に向けてニコリと微笑んだ。

 …太陽が沈む方が美しくなる湖…?


 馬車が小石を弾く音を聞きながら、ティナとアビゲイルは銀盆に浮かぶ小島を黙って眺めていた。



 「ところで目的地は近いのかしら?」

 アビゲイルは、すっかり気分が良くなった様子。

 そんな彼女の問いに、カーラが湖のほとりを指差した。

 「我々の目的の教会はあちらの町にございます。もうすぐですよ」

 彼女の指の先、私達の進む道を下った先の湖畔の東側に、小さな町が在った。


 町の建物はどれも画一的。

 白漆喰の壁と赤瓦で統一された屋根が美しい。

 建物の壁が、湖の銀光を受けてキラキラと輝いていた。


 町の北側には大きな広場。

 小さな町には不釣り合いな程に大きくて立派な教会が、広場に面して建っている。

 そして、その教会を護るかの様に大きな建物が建ち並んでいた。

 教会から離れる程建物は低くなり、その景色は、赤と白の不均衡な小山の様にも見えた。


 「へぇ…意外と立派な教会…」

 アビゲイルがぽつりと零す。

 それを聞いて、カーラが自慢気に説明を始めた。

 「我が国にある教会の中で、此処が一番立派なのですよ。

 当教会の起源は神代の頃にまで遡り…」


 カーラの説明を聴き流しながら、私はじっと町を見つめた。

 私には、教会よりも気になる事があったから。

 それは町を護る壁。

 湖に面した部分を除いて、西南北に分厚い壁。

 村に少し足した程度の小さな町の周囲を、石積の壁がぐるりと覆っていた。


 外壁上には小振りの櫓が等間隔に建ち並び、南北にある大門上には砦のような立派な櫓。

 広場に近い北の大門は、頑強そうな鉄の補強入り。

 明らかに、町の規模とは不釣り合いな程に立派な防衛施設だった。


 「要塞…?」

 私の呟きにティナが気付いた。

 「この近辺では、時折、大型の魔獣や魔物が迷い出る事が有るそうです。

 普通の町と同程度の備えでは簡単に破壊されてしまう…らしいですね」


 「これだけの設備を備えてまで此の町を護るのは、この場所が貴重な観光資源だから?」

 「ええ…それもあるのでしょうね…」

 彼女は銀湖の方に目を向けたまま答えた。


 私達が町に近付くと、丁度、昼を告げる鐘が教会の鐘塔から鳴り響いた。

 「我が国を代表する教会の町、カンパナエでございます」

 カーラは懐かしそうに街を眺めた。


 「ようこそ、私の故郷へ」

 そう言うと、彼女は馬車の窓から身を乗り出し、櫓門に居る門兵に向けて大きく手を振った。




 

思いっ切り体調崩しました…orz

辛い…話は短めですが、御容赦下され…

来週の投稿は遅れるかもしれません…(ノД`)シクシク

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