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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
降り積もる雪
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◆5-10 せきにんのとりかた




 「まさか…あの石造りの噴水を粉々に吹き飛ばすとは…な…」

 「一体何が起これば、一体どうすれば…あそこまで出来るのだ?」

 「でも、誰も怪我しなくて良かったわねぇ〜。

 辺り一帯が水浸しになったけれどぉ」

 「うちの馬鹿娘が…大変申し訳ない!」

 お父様達は頭を抱えていた。


 噴水崩壊()()

 ()()ではなく、()()

 古くなった配管の詰まりにより、堰き止められた水の急激な昇圧による管の破裂。

 そこからの連鎖的な崩壊…と言う事で周囲には取り繕い、皆で口裏を合わせた。

 丁度人払いして於いたので、噴水のある庭側には誰も居なかった事が幸いした。

 お陰で、こんな苦しい言い訳でも無理矢理通せた。

 …噴水の破損具合から、見る人が見れば違うと分かるけど、立ち入り禁止にしたから多分大丈夫。


 「いや〜、ちょっと失敗しちゃったねぇ…」

 「ちょっとじゃない!!」

 エルフラード侯爵が、アビゲイルの頭に拳骨を落とした。

 「ぐきゃっっ!…うぐぐ…」

 「うわぁ…痛そう…」

 彼女は頭を抱えながらしゃがみ込んだ。


 現在、私達はお父様の執務室に居る。

 関わった四人、一列に並ばされてお説教を受けている最中。


 先程までエルフラードは、実娘であるアビゲイルが元凶と知って、青褪めた顔で必死に謝罪していた。

 しかし今度は、全く反省の色が無い実娘を見て、腕を震わせながら顔を真っ赤にしている。

 …青白から真っ赤っ赤。結構面白い…かも。


 「まぁまぁ…誰も怪我しなかったことですし…」

 「甘い!

 この馬鹿娘は反省しとらん!

 しっかりと頭に叩き込んで…!」

 「しかし、うちの子供達も一緒にやった事ですから、アビゲイル嬢ばかりを責めるのは…」

 「いや!一歩間違えれば大惨事であった事、バルバトス卿は理解しておられぬ…」

 今度は、彼の口撃がお父様に向いた。

 怒りのあまり、興奮し過ぎている様子。


 イリアスお祖父様もルキナお母様も、困った顔をしながら様子を伺っている。

 下手に口を挟むと、叔父様の口撃が自分に向かうかも知れないしね。しょうが無い。

 なんとか落ち着かないかしら…


 執務室内は、事情を知る親族や近しい者達以外は退室させてある。

 なので、この場に居るのは気の置けない間柄の者達だけ。

 エルフラードは口調を崩し、なおもアビゲイルを叱り続けていた。


 長く喋り続けるエルフラード侯爵の様子を見かねたのか、これ迄黙って聞いていた彼の侍女頭ドリアテッサが静かに手を挙げた。

 「バルバトス様…僭越ながら、後はわたくしにお任せ下さいませんか?」

 辟易していたバルバトスは黙ったまま頷き、彼女に許可を出した。

 するとエルフラードとアビゲイル、急に二人の顔色が悪くなった。


 初老の侍女頭は一言も発せず、ただ静かに歩くだけ。

 ただそれだけなのに、急に空気が重く、冷たくなった。

 何故か、私は足を揃えて背筋を伸ばす。

 誰かの唾を飲み込む音が聴こえた。

 部屋の中は静まり返り、糸が張ったような緊張感に包まれていた。


 ドリアテッサは静かな足取りで私達の前を通り過ぎた。

 そしてそのままエルフラードの目の前まで歩き、その場でクルリと向きを変えて、彼の瞳を真下からギロリと覗き込んだ。


 「ん…?あ…え…?」

 自分に来るとは思わなかったらしい。

 彼女を前にしたエルフラードは、半歩後退った。


 「…エルフラード様。

 まず一つ…女性に暴力は感心できませんね…。

 そして二つ目…お嬢様ばかりを叱ってらっしゃいますけれど…。

 そもそも、許可を出したのはどなたでしたか?」

 「…う…いや!しかしだな…!

 こんなに危険な実験をやるだなんて、誰が想像出来ると…」

 「()()お嬢様が何をするかも把握せずに、貴方は許可を出したのですよね?」

 「あ…う…」

 「把握せずに許可を出したと…おっしゃいましたね?」

 繰り返し問い詰められ言葉に窮する侯爵。

 彼女の迫力に、誰も声を上げられなかった。

 帝国の最高位に近い権力者が、己の侍女頭に怯えていた。


 「…確かに…私自身で監督せずに、エレノア嬢に丸投げした責は…」

 「ご主人様に帰する責で御座いますね!」

 「はいっ!」

 主人が、使用人に対して縮み上がっていた。


 ドリアテッサはクルリとバルバトスの方に向き直る。

 そして、ニコリと微笑みながら口を開いた。

 「隣のお部屋をお貸し頂けませんか?」

 彼女の言葉の迫力に圧され、バルバトスはコクコクと頷いた。


 「皆様…大変お騒がせ致しました。

 …少々、()()()()()は、席を外させて頂きます。」

 彼女はそう言って礼をすると、エルフラードの腕をむんずと掴んで歩き出した。


 「ちょ…ま!えっ?イタタタ…」

 皆がポカンとしている間、彼女は私達の前を再び通りかかる。

 「お嬢様…貴女もですよ?」

 そう言いながら、今度は反対の手でアビゲイルの耳を素早く摘んだ。

 「ひぃ!…痛い!痛い痛い痛い!!」

 初老の女性が、自分より身体の大きい女性と、筋肉質で体格の良い男性を軽々と引き摺って行く。

 その迫力に圧された執事は、無言で隣室に続く扉を開いた。


 3人が隣室へと消えていく間際、アビゲイルは私達に助けを求めるかの様に、必死に手を伸ばしてきた。


 手を差し出された(リーヴ)は首を傾げながら私を見たが、私は静かに首を横に振る。

 いつの間にかエレノアは手を胸の前で組み、祈祷の姿勢で彼女を見送っていた。

 弟も、エレノアの真似をして胸の前で手を組み、静かに黙祷を捧げていた。


 「この薄情者ども〜!」


 小声で葬送の祝詞(しのびごと)を唱えているエレノアの声が耳に入ってくる。

 彼女の誄詞(いのり)が終わる前に隣室に続く扉は静かに閉じられ、アビゲイルの声は虚空へと消えていった。


 「…ゴホン!…まぁ…なんだ…

 この事は他言せぬようにな!」

 イリアスお祖父様が言い難そうに釘を刺した。


 「…ああ…今後は気を付ける様に。私からは以上だ」

 「あまり危ない事をしてはいけませんよ…?」

 お父様達が軽く注意をして、説教は終わった。


 全てを丸く収めるコツ…

 誰かを生贄に捧げる。


 アビゲイルお姉様…

 貴女の尊い犠牲のお陰で、全てが済し崩し的に終わりました。

 大変感謝いたします。

 どうか、迷わず女神様の元へとお上がり下さいませ…。

 また来世でお逢い出来ることを祈っておきますね♪


 「さて…本当は午後に行う予定だったが丁度良いな。

 今、行う方が何かと都合が良かろう。

 フレイスティナ、リーヴバルトル。

 お前達の役目を先に終わらせようか」

 お父様が合図をすると、側近達が慌ただしく動き出した。




 

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