表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
259/287

◆4-159 召喚

第三者視点




 「…外側(がわ)は作り物です?

 それともクリオ達と同じ様な寄生人格(モノ)

 中身は貴方ですね?…メンダクス……様」

 クラウディアが声を掛けると皆は一斉に振り返り、印象の薄い顔の男に注目した。

 「え…?パウロがメンダクス様…!?」

 「嘘だろ…?さっき酒ぶっかけちまった…」

 疑いの目と驚きの目がクラウディアと彼に集まった。


 「ほぅ…流石です。

 私の擬態、クリオシタス達と比べて如何でしたか?」

 男はニコリと笑いながら首を傾げて聞いてきた。

 「正直言って…まだまだです。

 これに関しては、彼等の方が一日の長があります」

 クラウディアが感想を述べると、カーティが横から口を出して来た。

 「そりゃあそうさ!

 加えて、俺の特技は隠形魔術式だ。

 お前の様な付け焼き刃じゃぁ、コイツの探知は誤魔化せねぇよ」

 カーティはクラウディアの肩を叩きながら胸を反らした。


 「寄生の研究か?相変わらず趣味の悪い奴だな…」

 ファーディア第四王子が彼等の会話に割り込んで来た。

 ただ、少年の口から発せられたその声は、子供の声ではなくて女性のもの。

 年嵩を感じさせる喋り方は、洗礼前の少年の姿には似合わなかった。


 「…ふっ…貴女に言われたくはありませんね。

 いつ少女趣味から少年趣味になったので?」

 彼は慇懃無礼な態度で王子の言葉に応えた。


 「私はキサマ等の様に、魔石(たね)を植え付けて人格を操る事は好まん。

 遠隔共感はこの子自身の能力。私が強要したものではないわ。

 ファーディア(このこ)は次代の巫子だからな。慣らしとるんさね」

 「そうです。

 僕は望んで養母様(おかあさま)に身体を貸しているのです。

 その男の様な使い捨てでは無いのですよ」

 少年の口からは、女性と子供、二つの声が交互に発せられた。


 「使い捨てとは随分と酷い言い方。まるで私が…」

 メンダクスが肩をすくめながら口を開くと、突然セルペンスが彼の言葉を遮った。

 「酷いです魔女様。

 主様は私達を使い捨てなど致しません」


 「そうです、言ってやりなさい。

 どれだけ私が部下を大切にしているかを!」

 メンダクスはファーディアに向けて指をさす。

 それに呼応する様に、セルペンスも口を開いた。

 「主様は動かなくなるまで使い潰します。

 ボロボロの雑巾になる前に捨てるなんて、そんな酷い事致しませんのよ?」

 「違う!そうじゃない!

 …え?私、大切に扱ってるよね?ねっ?」

 メンダクスが笛の部下達を見回すと、彼等は一斉に顔を背けた。



 「それでメンダクス…様、ガラティアの行為は貴方の計画(ずめん)の支障となりますか?

 彼女の行動は貴方の予想通りでした?」

 クラウディアは重ねて尋ねる。

 メンダクスはふっと笑ってから、言葉を返した。


 「…まぁ…私にとっても予想外…でしたね。

 まさか、()()ガラティアがここまで()()とは思っておりませんでした」

 彼は一旦言葉を止めて、クラウディアの顔をじっと見た。

 彼女の目の奥で眠るガラティアの様子でも伺おうとするかの様に。


 「彼女は、そう…冷静で合理的で慎重。…そして、とても臆病。

 他人の為に自分や貴女(よりしろ)を危険に晒す事はしない。

 機会かあるまで潜み隠れて過ごす。…そんな性格でした」

 「まるで、よく知っているかの様な話し方ですね?」

 「ええ…知っているのです。会った事は無いのですがね」

 メンダクスは自分の頭を軽く小突き、この中に…と、呟いた。

 「そんなあの方が、こんなに大勢の前で姿を現すなど…意外でした。

 何故、あんなにも変わったのでしょうね?」

 彼は興味深そうにクラウディアの顔を覗き込んだ。


 「さぁ?私から見れば、大して変わってないのですけれど?」

 クラウディアは、軽く咳をしてから再び口を開いた。

 「私の質問は、彼女の判断が貴方の計画にとっての利と成るのかどうか…でしたよね?」

 「そうでしたね。

 …ん…軽く見積もって、数年分の短縮にはなりましょう。

 彼女の判断で、ヒトの残存確率は格段に上がりました」

 メンダクスは目を伏せて、何かを計算している。

 「ああ…それと同時に、彼女自身の実存確率は下がりましたね」

 不安だか喜色だか判らない微妙な表情で、己の頭を掻いて唸った。

 ヒトとガラティア(神様)を天秤に掛けて、どちらに傾けば良いかを考えあぐねている様子だった。


 「彼女は…彼女の天秤を貴女の為に傾けるつもりですか?」

 「判りません。

 でも彼女の行動は、私の計画にとっては成果でした。

 それが答えかもしれません」

 「どちらに、より優位になったのでしょう?」

 「目的地は違っても、寄り道は同じかもしれません。

 ならば甲乙比べる事は無意味では?」

 「…ふふ、確かに」


 二人の間だけで進む会話は、わざと意味を誤魔化して他者の介入を拒んでいる様だった。

 恐らく、理解している者は極わずか。

 そんな者達も静観している為に、誰も口を挟めなかった。


 「天秤をより良い方に傾ける為にも、貴方の協力が必要です。メンダクス様」

 「ほぅほぅ…、ガラティアの巫女に言われては断りづらい。なんでしょう?」

 彼は目を細めてクスリと笑った。


 「簡単な事です」

 クラウディアは少し躊躇する様に言葉を区切った。

 「…クサントスを…クサントス様をお貸し頂きたい」

 クラウディアの言葉を聞いてエレノアは息を吐き、デミトリクスは息を呑んだ。


 「お…お姉…ちゃん」

 デミトリクスがポツリと呟く。

 ヴァネッサは心配そうに、膝で固く握られている彼の手に自分の手を重ねた。


 

 「…クサントスですか。

 勿論、帰郷の為に待機させてあります。

 …お祖父様の所でしょうか?」

 「まさか。分かっているのでしょう?」

 クラウディアは男の瞳をじっと覗き見て、中に居るメンダクスと向き合う。


 「…決断されている様子。畏まりました。

 一応、忠告致しましょう。

 彼との契約故、私でも彼に命令する事は出来ません。

 ヒントも差し上げられません。

 彼に認められるかどうかは貴女次第。

 それでも宜しいか?」

 「ええ。手札は揃っておりますので」

 メンダクスは、彼女を見つめ返しながら頷いた。


 「…成る程。同行者は?」

 「カーティを」

 「何のことか分からないけど、喜んで!」

 「いちいち飛び付くな!鬱陶しい」

 いきなり全力で突撃して来たカーティの顎に、クラウディアの膝が綺麗に入った。

 彼女は嬉しそうな表情のまま、大きく仰け反った。


 「本当にそれを連れて行くので?」

 メンダクスは汚い物を見るような目で、倒れた彼女を見下ろした。

 「…契約ですから。

 もし()()に拒否されたら、フィクス・ヴェネナータの下に埋めて始末します」

 「…コレの毒でアレが活性化すると困るのですが?」

 「コレの毒で枯死するかもしれないじゃないですか。

 期待しましょう」

 二人は悶えるカーティを挟んで、軽く笑った。


 「では改めて、私もガラティアの為に働くとしましょうか…」

 メンダクスは懐から真っ赤なナイフを取り出した。

 その禍々しさを見て、皆一様に眉をしかめた。

 

 彼は取り出したナイフに酒をかけて消毒し、徐ろに、自分の腕にそれを突き立てた。

 零れ落ちる彼の血は独りでに動き出し、線を伸ばして円を描く。

 だんだんと、絨毯の上には見たことの無い魔法陣が描かれて行く。

 魔法陣が完成すると、彼は徐ろに祝詞を唱え始めた。


 「…我が声を聴け、我が友クサントス。

 友の声を聞き、友の血を辿り、友の仮宿の元へ馳せ参じよ。

 我は貴殿の友であり主である者。

 アルカの操舵士であり、道を標し、導く者キロン…」


 窓の外に、強い風が吹き荒れた。

 (とばり)の下りた外の暗がりに、夜よりも黒い雲が湧き上がり、空を真っ黒に染め上げた。

 黒雲はどんどん溢れ出して体積を増やし、渦を形成して空中に滞留した。


 増えて留まっていた黒雲は、突然、応接室へと向かって真っ直ぐに走り出し、天井の硝子をすり抜けて部屋に飛び込んだ。

 黒雲が描かれた魔法陣の中に入ると、見る間に骨と肉を形成して実体化していった。


 魔法陣の中心では、出現した頭骨と背骨に肉が覆い、黒蒼色の馬の顔と背中が出来上がっていく。

 その(たてがみ)からは青い炎がチロチロと舌を出し、その炎から燻る煙は青く冷たい。

 青い煙がその胴体部を覆うと、そこから3対6本の脚と尾が形成されて、大きな体躯の青黒い馬が姿を現した。

 そしてそれは一声(いなな)くと、静かに床の上に降り立った。


 「お久しぶりです。クサントス様」

 クラウディアが頭を下げると、彼も頭を下げて応じた。

 「おお、久しいの…雪帽子。息災であったか…」

 彼の口は動かなかった。

 しかし彼の声は、部屋中の人達の頭の中に響き渡った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ