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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
258/287

◆4-158 白紙委任の口約束

クラウディア視点


ガラティア講義終了直後




 王宮の応接室。

 ガラティアの講義が終わった事を、私は微睡(まどろ)みの中で感じていた。


 彼女がゆっくりと水底に沈み、私の隣で目を閉じる。

 反対に私の身体がゆっくりと浮かび上がる。

 神経が繋がり、身体の支配権が戻ってきた。


 夢現(ゆめうつつ)だった思考に色が付き始め、指先に熱がともる。

 首を回しながら外に目を向けると、澄んだ空は真っ赤に染まり、(とばり)を下ろす準備に入っていた。


 …こんなに長い間、彼女に身体を貸していたのは何年ぶりかな…?


 彼女が話した内容は朧気(おぼろげ)に聴いていた。

 事前知識も無いこの時代の人間には理解出来ない内容だったろうに、誰に向けた講義だったのかな?


 私は一息吐いて、周りの人達の反応を伺った。

 …う…何?…この惨状?


 額を机に擦り付けて呻く人。

 疲れた様に顔を覆う人。

 服が血だらけのメイドと、顔が血だらけの主人。

 頬を紅潮させ、私を見つめる人。

 泣きながら私を拝む人。

 私の直ぐ側では、悦に入った顔で私を見つめる変人二人と、嬉しそうに笑う、ちっこい一匹。

 皆の瞳がギラギラと光り、狂信的な視線が私に集まっている。


 なんか、皆の目が変…

 ジェシカなんて潤んだ瞳で睨んでくる。怖い。

 …そういえば、姉ちゃんが私の魔術式を借りるとか言ってたけど…

 あの時か?皆に何した…?


 …ガタン…


 そんな中、王帝ベルンカルトルが突然立ち上がった。

 彼は無言で歩き出し、カーティを押し退けて私の横で膝をついた。

 そうして、私とデミトリクスに向けて()()()()()の態度で謝罪を述べた。


 「我が臣下・臣民の非道なる行い…心よりの謝罪を致します。

 我が持てる力全てで、(きた)る時、貴女の望む物をご用意致します…。

 御前の御準備が出来次第、遣いの者をお寄越し下さい…」

 一国の王が他国の一貴族に頭を垂れた。

 しかも、身分の下の者から上の者に対して行う形式で。


 …は?

 意味からすると、ホーエンハイムを攻めたコルヌアルヴァの行為に対する謝罪のようだけど…?

 諜報部の長だし、私達の正体を知っていても不思議ではない…が。

 違法な侵略行為だし、謝罪も理解出来る。

 でも、何故今ここで?何故敬語?

 普通なら、立場的に謝罪は出来ないでしょう?

 しかも部下達の目の前で。

 言っている内容なんて白紙委任の約束手形。

 一国の長として、言って良い内容か!?

 これは大騒ぎに…あれ?ならない…?


 皆に僅かな狼狽が見て取れたが、疑問や非難の声を上げる者は一人も居なかった。


 …もしかして、洗脳したのか?部屋中?

 講義に紛れて、鍵付き(キーワード)タイプを?

 部屋を出れば、この事自体を忘れるとはいえ…

 姉ちゃん、なんてことを…死刑級の犯罪行為じゃない。


 ガラティア姉ちゃんに自由裁量の許可を出したのは私だけどさぁ…

 あれ?もしかして、これ…私の所為になるの?



 ホーエンハイム領はハダシュト王国の所属ではあったが、それは名目上。

 実質的には独立自治国家だった。


 王国とは相互扶助。その他の国とは不戦同盟。

 政治方針は周囲三国との関係を考慮して決定。

 つまり、かの国は緩衝材。


 加えて、ホーエンハイム領には神代の魔導具が存在した。

 その魔導具の管理者はホーエンハイム直系血統。


 各国を守護する魔人・魔女達は、敵対国以外の神代の魔導具の存在地域への侵略を禁止する約定を結んでいる。

 魔人達の約定は被守護者である統治者の法の上。

 それもあって、ホーエンハイム領には宗主国であるハダシュト王国ですら、政治的・軍事的な介入は出来なかった。


 それ故の不可侵国家。その為の不戦同盟。

 それが隣接国全ての暗黙の了解だった。



 その関係を壊したのがコルヌアルヴァ辺境伯。

 コルヌアルヴァも、ホーエンハイムと同じ様な独立自治領。

 そのコルヌアルヴァの暴走の所為で、帝国は、王国だけでなく正教国とも敵対的な関係となった。


 実質的な国家元首であったホーエンハイム伯は亡くなり、辺境伯領は消滅。

 しかし周囲の国家は、暗黙の了解を破ったコルヌアルヴァ辺境伯の当該領地に対する所有・占有・自治領設立を認めない。

 帝国も、宗主国である正教国との敵対を恐れて、コルヌアルヴァに全ての責任を押し付けた。


 ホーエンハイム領に立ち入らず、占領者に占有も認めない以上、帝国本土はコルヌアルヴァの統治に口を出せない。

 自浄の為、帝国がコルヌアルヴァを征伐するには、国内の反対派を一掃しなければならない。

 これまでは帝国も自縄自縛に陥っていた為、当該領地は、未だに外交的空白地帯となっている。

 侵略から数年経った現在は、各地で反帝国部隊(パルチザン)や国人領主が村落単位で自治を行っていた。


 クラウディア達はそこの正統なる姫と王子(いきのこり)

 

 理不尽な被害者であり、正教国に身を寄せる孤児となった姫達。

 暴走を止められず、不可侵領地を滅ぼし、そこの統治を放棄している加害者(帝国)

 帝国の者にしてみれば、弁明も解決も出来ない、もどかしい思いがあるだろう。

 だからといって、表立って謝罪する事は有り得ないし、出来ない。



 今回、帝国の魔女の巫女(エリシュバ)が場を整え、正教国の教皇代理(エレノア)が幕を開け、一柱の女神(ガラティア)を公にした。

 女神を内に宿した少女は、まだ()()では無い。魔女に成れるかも分からない。

 だが、最もゴールに近い魔女候補。

 国境という垣根を無視し、教皇や王帝を超える約定を制定出来る存在に成る。


 王帝は臣下の前で謝罪する事で彼女達に対して誠意を表すと同時に、部下達に対して、二人の本当の地位を顕した。

 王帝の行動も部下達の反応も抵抗無く済んだのは、ガラティアの洗脳と秘密保持の刻印のお陰だった。



 王帝は立ち上がり、皆を見渡した。

 彼は軽い挨拶と労いの言葉を皆に掛け、踵を返した。

 出口へと向かって歩き出す彼を、護衛騎士と夫人達が慌てて追い掛けた。


 王帝と護衛達が扉の敷居を跨ぐ。

 出口の境を一歩踏み出した途端、彼等は、ふと立ち止まった。

 そして何かを思い出そうと首を傾げた。

 だがすぐに、何事も無かったかの様に、再び歩き出した。


 後に続く者達は少し躊躇したものの、覚悟を決めた様に王帝達の後に続いた。

 そして王帝と同じ様に立ち止まるが、皆同様に、振り返らずに歩き出した。



 ソルガ原書

 元々、この本に名前は無い。

 

 この世界の大多数には不要な知識の玩具箱。

 世界を滅ぼした国の各種論文と発明品目録。

 太古の世界の失敗と修正の歴史書。

 識る事も憚られる、()()と言える兵器の原理論。

 …そして、神代の魔導具に関する詳細な説明書。


 古代人の知識を受け継いだ先達の魔人・魔女達が、太古の知識を遺す為に描き写し、世界中にばら撒いた取扱説明書。

 ただし、読み解けるのは神を宿した者達のみ。

 しかも神の特性により、読み解ける本も、内容も、項目も違う。



 ソルガの由来は、ガラティアに繋がる、ある女性。

 だから、その書がガラティアの為に書かれた本だと判った。

 最も読解出来る者が彼女。

 だからこそ、彼女を知っている私達だけで楽しもうと考えていた。

 その為に頑張って蒐集した。


 次々起こる問題で、本の入手が困難になり困っていたところ、性悪女(エリシュバ)が手を差し伸べた。

 入手を手伝う。そして貸与を約束する。

 その代わりに、事が一段落したら要請に従え…と。


 その要請が、このお披露目だった。

 何故かガラティア姉ちゃんは乗り気。

 逆にエレノア姉ちゃんは嫌々だった。


 直前迄お披露目を躊躇していた。

 本の内容を知らせるのも、ガラティアを皆に見せるのも良くはないと考えていた。

 ()()()人物の勘気に触れる可能性も考えて、戸惑っていた。

 それをガラティア姉ちゃんが強行した。


 結果的に得た物が、王帝の洗脳と口約束。


 エリシュバは何を考えている?

 帝国民に死者を出させる約束をしてまで?

 ガラティアの洗脳紛いの行為まで容認していた?

 己と己の魔女の為に行動する巫女(エリシュバ)

 第一は魔女。テイルベリ帝国(じぶんのくに)は二の次三の次という事なのか?


 …私も彼女を見倣うべきか?

 王帝の約束を引き出した以上、もう引き返せない。

 その事を認めて、迷いを断ち切らないと…



 ほとんどの人達は退室し、一時的にだが記憶を失った。

 彼等からガラティアの名前が出る事は無いだろう。

 当然、鍵付き洗脳も発動する機会は無い。

 …ガラティア(お姉ちゃん)が声を掛けるまで。


 私の周りには正教国の面々と仲間達。

 カーティとエリシュバ姉弟を除いて、私に近しい者達だけになった。

 皆、頭を振ったりしながら現状を受け入れようとしている。

 気絶していたルーナも目を覚まし始め、サリーが必死に自分の撒き散らした血痕を拭き取っている。


 心なしかデミちゃんの視線が痛い。

 私がこれからやろうとする事、まだバレては無いと思うけれど。

 まさかガラティア姉ちゃんが何か言った?

 それともエレノア姉ちゃんから聞いてるの?

 …どのみち隠し続けられる事でも無いのだけど…



 私は一つ咳をした。

 一斉に視線が集まる。


 …慣れないなぁ…


 私は改めて、トゥーバ・アポストロの一人に向けて声を掛けた。


 彼は最も印象の薄い顔の男。

 くすんだ茶髪で目立たない茶色の瞳。

 そして、市民に紛れる肌の色。


 髭面の部員と酒の飲み比べをしていた男。

 腕相撲をしながら笑っていた男。

 目立っていた筈なのに、どの男だったか思い出すのが難しい。

 髪の色も瞳の色も肌の色も忘れてしまう。

 目を離すと一瞬で見失う。そんな男。


 私は彼から目を離さない様に凝視して、名前を呼んだ。

 彼の名前ではなく、彼が内包する魔力の持ち主の名前を。


 「メンダクス…貴方はどう感じました?

 止めなかったという事は、貴方の望み通りであったと思って良いのでしょうか?」




 

鍵付き洗脳

①タイプA、相手の脳に種(魔術式)を仕込みます。

②タイプB、キーワードを聴かせるか、見せます。

→設定した条件下で望む結果を得られます。


タイプAは、糸を繋げた最中に。

タイプBは、講義中に頭に描かれた図形。

紫の刻印と鍵付き洗脳で、不用意な暴発は起こらない。


鍵付き洗脳は、リオネリウスが掛けられた洗脳と同じ種類。


通常の洗脳除去での解除は困難。

タイプBが無いと洗脳が発覚しない。

術者が離れていても種は消えない。


ギフテッドか、それ以上の魔力持ちにしか出来ない芸当です。念の為補足

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