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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
256/287

◆4-156 痛みと覚悟

デミトリクス視点




 ティナお姉ちゃんが、ティアお姉ちゃんを他人に見せた。


 始めての事。

 僕以外には、姿を見せた事は無かったのに。


 父様にも、母様にも…。

 お兄様達にも。

 エレノアお姉ちゃんにも。

 アビーにも。

 ジェシカにも。

 ルーナにも。

 パックにさえ…今迄見せた事は無かった。

 三人だけの秘密。

 それを突然、こんなに大勢の前で…。


 お姉ちゃんが話している間、胸のあたりが締め付けられる様な気がした。

 (かゆ)い…ような?

 重く…でも、痛くはない。

 だけど…気持ち悪い。

 怪我は…ない。これは何?


 …これは病気?

 臓器の疾患?

 いや、違う。

 これは覚えがある。


 あれは昔…藁の中。

 荒くて激しい呼吸。

 目の前で溢れる液体。

 熱い…鉄の匂い。

 …忘れていた…記憶。

 その時に感じた。


 心臓の痒み?胃の痛み?

 怪我の痛みは我慢出来るのに…心が…

 これは…感情?


 恐怖?不安?嫉妬?焦燥?怯え?

 言葉は知ってる。けど判らない。

 嫌なモノ。悪いモノ。


 「…ヴァネッサを(うしな)っても平気?

 貴方を無邪気に慕ってくれている、あのヴァネッサが。

 貴方の前から消えても平気?

 …もし邪魔(いらない)なら、私が処理するよ?」


 ジェシカの言葉を思い出した。

 自然に手が…僕は…胸を押さえた。

 心臓の鼓動に違和感を感じて、無意識に皮膚に爪を立てた。

 …そして、口を抑えた。


 そうだ…これも。

 あの時も…()()()()()()、胸の中が()()()()


 訓練中に吐き戻すのとは違う感覚。

 それよりも…何倍も気持ち悪かった。

 言葉を聴いただけで…想像しただけで、嘔吐(えず)いた。


 あの時、僕は何を話したか憶えていない。けど…

 ジェシカは僕をじっと見て、何も言わずに(きびす)を返した。


 これが感情と呼ばれるモノ?

 こんなに痛いモノ?

 お姉ちゃんは…皆は…他の人は、こんなモノと毎日一緒?

 僕が()()を知らないから、お姉ちゃんは泣きそうな顔で僕を見ていたの?


 心の臓に感じる…()()痒み。

 黒くて重い(モヤモヤ)が頭の中に湧き上がり、狭い頭蓋を圧迫する…痛み。

 首筋を昇る血液が冷たくなる。

 指先の感覚が薄れ、動きが鈍る。

 喉が渇き、声はかすむ。

 なのに目だけは潤み、頬を水が伝い落ちる。


 感じていた感情を思い出し、反芻(はんすう)する。

 繰り返し繰り返し。何度も何度も。

 心臓に『痛み』を定着させる。

 また、忘れない様に。

 お姉ちゃんの泣きそうな顔より、この『痛み』を受け入れる方が良い気がするから。



 ティアお姉ちゃんの話し方は、いつもと全然違っていた。

 ティナお姉ちゃんと僕とティアお姉ちゃん…

 三人でお話ししていた時とは、まるで別人。


 否応無く、相手の頭に情報を叩きつけている。

 相手の意思への考慮も尊重も無い。

 一方的に、暴力的に、機械的に。

 慣れている僕にはあまり影響無いけれど、皆は頭を抱えている。

 いつものティアお姉ちゃんを隠そうとしているみたい。


 演技の様なこの振る舞い…誰かに似ている。

 誰だっけ?


 …そうだ…マリアベルだ。

 学校で彼女を見た時に思った。

 彼女は僕に近くて遠い存在なのだと。

 同じ位置に居て、対極に在る生き物だと。


 まるでティナお姉ちゃんの作る魔導具のような人だった。

 僕の使う魔導銃(どうぐ)と同じ。

 決まった手順で動かすと、決まった的に命中する。

 僕の使う楽器(どうぐ)と同じ。

 決まった弦を弾くと、決まった音が返って来る。

 …ただの無機物。


 皆の前で話すティアお姉ちゃんを見ていて、何故か無機物(マリアベル)を思い出した。

 …そのせいか、余計に胸が()()()()()


 別人の様なティアお姉ちゃん。


 いつも泣きそうな顔で、僕の頭を撫でるティナお姉ちゃんはヒトだ。

 いつもワタワタとして、会うと頬を染めるヴァネッサもヒトだ。


 いつも笑顔で何かに怒っているジェシカも、いつも微笑みながら泣いているルーナもヒト。

 いつも怒った顔で他人(ボク)を助けようとするリオンも、いつも困った顔で他人(ボク)の為に動こうとするイルルカも…ヒト。


 今のガラティアお姉ちゃんは…()()だ。ヒトじゃない。

 …ボクに近くて遠いモノだ…。


 昔、お姉ちゃんが話してくれた、神代の機械類の様だった。



 ティアお姉ちゃんが人前に姿を現したのも黒い煙(モヤモヤ)する。

 機械の様なお姉ちゃんを、何も出来ずに見つめる自分にも黒い煙(モヤモヤ)する。

 でも…、一番の黒い煙(モヤモヤ)は、ここ最近の、ティナお姉ちゃんの笑い顔(泣き顔)


 まばたきの回数、口角筋の上がり具合、湿らせる時に唇を噛む癖。

 いつもと同じに見えて、全てがいつもとは違う。

 固い顔。

 そして僕を見つめる頻度。

 無意識に逃げる視線。


 あの日、あの時…似た表情を見た。

 

 正教国へ急ぎ出立する時の、あの朝のお兄様の顔。

 リンドバルト領内で報告が途絶えた。


 教会に隠れる様にと(おっしゃ)った、あの夜のお父様とお母様の顔。

 館は火に包まれて崩落した。


 枯草の中、ピッチフォークを握りしめて寝たお姉ちゃんの顔。

 …足音を聴いた。


 これまで時々見た同じ表情(かお)

 その度に必ず()()があった。


 お姉ちゃんは何かを決めている。


 経験から感じる…『痛み』。

 それは避けられない運命(こと)

 痛くても定着させなければいけない『感情』。

 予期しても受け止めなければいけない『結果』。

 嫌でも受け入れなければならない『覚悟』。


 …嫌…だ…。これが感情だ。

 大切な『気持ち』。


 僕とお姉ちゃんとの距離が拡がる。

 また、昔みたいにお姉様へと戻る。


 僕は手に入れた。

 痛みを伴う『感情』を。

 僕は手放さない。

 前に進む『覚悟』を。




 

少し短いけど…。

初めて『感情』に意識を向けて、定着させる覚悟を決めたデミちゃん。


何気に初のデミ視点

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