表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
246/287

◆4-146 おおきくて、こわいもの 前編

8の鐘の直後

晩餐会に出席しなかった正教国の子供達の様子


第三者視点




 「予定通りなら、今頃かしらね…」

 アルドレダはベッドで横になりながら天井を見つめ、独り言ちていた。

 8の鐘が鳴りやみ、離宮ではクラウディアの立てた作戦が実行されている最中の事だった。


 晩餐会に出席しなかった子供達とその家族は、一足早く晩食を済ませてホテルで休んでいた。


 アルドレダは、万が一帝国が緊急事態に陥った時の為の特別要員として此処に居る。

 その時は、ホテルに居る子供達を正教国まで安全に護送する部隊の総指揮官と成る。

 その為、帝国兵士の特別指揮権も預かっていた。


 「フレイの立てた作戦とはいえ、何に(つまづ)くか分からないし…

 マイア様…全て上手く回ります様に。

 お願い…!何でもしますから!

 正教国まで、子守の決死行なんてゴメンよ…」

 そうならない事を祈りながら、彼女はホテルの部屋で待機していた。


 「…先生、アルドレダ先生…起きていらっしゃいますか?」

 扉が小さく叩かれて、部屋の外から声を掛けられた。

 アルドレダは扉に向けて声を掛けながら、ゴロゴロしていたベッドから起き上がった。


 「…あら、この格好はまずいわね…」

 彼女は、何時でも動ける様な軽装をしていた。

 他の人達は緊急時である事を知らない。

 部屋に居るのに部屋着ではないと指摘されると面倒くさい。


 「…これでいいか…」

 服を隠す様に(くるぶし)丈のガウンを上から羽織ってから、扉を開けた。

 部屋の前には、少し困った顔の女性教師と子供達が居た。


 「あらあら…一体どうしたのです?こんな時間に…。

 早く寝ないと、せっかくの綺麗なお肌が荒れちゃうわよ?」

 アルドレダは冗談めかして教師と子供達に笑いかけた。


 「先生ぇ…お外に…」

 一番背の低い女の子の言葉を皮切りに、皆が次々と口を開いた。


 「こんな時間にアルドレダ先生の部屋を訪れる事は、大変失礼にあたると承知しているのですが…」

 「先生!…外に、外に何か黒い…」

 「何か居るんだ!先生!屋根の上!!」

 「違う!庭よ!」

 「屋根だ!」

 「私が見たのは庭の樹の…」

 「違うね!屋根の上だよ!

 重い何かが静かに歩こうとしている様な…

 ああ!何て言えばいいんだ!?」

 「庭園のね…あの大きな木のトコに…」

 「僕が見たのは庭園の端、倉庫のある辺りで…」

 「怖くて見間違えたんだろ?屋根の上だよ」

 「こ…怖くなんてねーし!」

 「わ…私は違いますよ?平気なのです。

 でも、彼女達が怖がるので…護衛騎士として同行しました!」

 「何言ってるの?フレッド!

 アンタが先生に助けて貰おうって提案したんじゃない!

 アンタが平気なら、アンタが外に確認しに行けば済む話じゃないの!」

 「う…、それは…だな…、え〜…

 夜の外出は禁止されてるし…」

 「外出禁止は街中の事!

 ホテルの庭はいつでも歓迎よ!

 ほれ行け!

 行って、早く食われて来い!!」

 「ひ…ひでぇ!お前達が怖い言うから付き合ってやったのに!」

 「アンタも震えていただろーが!」

 「貴女達!言葉遣いが乱れてましてよ…」

 ちょっとした嫌味に火が着いて簡単に燃え上がる。

 吐き出す言葉はお互いにどんどん酷くなり、罵り合いとなった。


 「まぁまぁ…喧嘩しないで。

 何があったかを詳しく話して頂戴」

 話が見えない子供達の言い争いを抑えて、要点だけを話す様にと言って、皆を落ち着かせた。


 彼等が言うには、何か不審者が存在する。

 アルドレダ先生なら信用があるし、大人達への話も通しやすい。

 取り敢えずは先生の意見を仰ごう…と、結論付けられたらしい。

 状況説明として、一番背の低い少女が口を開いた。


 子供達が寝る時刻、寝室を整えている最中の側仕えが突然悲鳴を上げた。

 庭の方で得体のしれないモノが蠢いていたと言って、腰を抜かしていた。

 恐る恐る自分も外を覗き見ると、ガス燈の灯りに照らされたホテルの庭園、その木の陰に小さな影が。


 「…何…あれは?」

 少女が目を凝らして見てみて、その異常に気が付いた。

 小さな影は物凄く大きかった。

 真っ黒な影に灯る二つの光が、それを見ていた自分達をじっと見返していた。


 彼女の部屋から遠く離れていた庭園だった為に小さく見えたが、隣の木と比べて大きさが判った。

 その木は、このホテルのシンボルである大樹。

 石畳で美しく整備された広場。

 そこの中央にそびえ立つ巨木。

 それの他には周囲に木が無く、大きさを比べられないので失念していた。

 その大樹が、自分達の居るこのホテルより倍以上も高い事に。


 高さは30メートル超。

 横に伸びた枝葉はそれ以上。

 それを支える幹の太さは、大人数人が横に並んでも隠れない。

 巨大なホテルに相応しい巨木。


 その巨木の背後に居た為に小さく見えた影。

 よく見ると、大人数人分でも隠せない太い幹の左右から、それの尻尾と頭()()()物が見えた。

 それが、それを見続けていた少女と側仕えを、じっと観察していた。


 それを聞いて、アルドレダは眉根をひそめた。

 顎に手を当てて考え込んでいる。


 子供達の話を聞いていた引率の先生が口を開いた。

 名前はノーラリンデル。

 彼女はふくよかな体型の中年助祭司で、学校では神学を教えている。


 「こんな時間に押し掛けて、ごめんなさいね。

 アルドレダ先生…わたくしは見たわけでは御座いません。

 しかし、子供達の真剣な様子や、側仕え達の怯えようから、無碍に否定するのも難しくて…」

 左右で彼女に抱き着く子供達の頭を撫でながら続ける。

 「庭を捜索してもらい、何もなければ安心して寝てくれるかと思ったのですけれど…」


 ホテル側に相談したが、従業員も使用人も『大きな影』と聞いて腰が引けてしまい、何かと理由をつけて動こうとしない。


 仕方なく、帝国兵士でも呼ぼうかと考えた。

 しかし、兵士の駐屯所まで行って警護兵を頼もうにも、帝国には伝手が無い。

 人を派遣してくれる保証もなく、暗い街中を護衛も付けずに行くのは危険。

 何より、今は外に出たくない。


 結局、一人で考えても埒が明かないと唸っていた時、騎士見習いの少年がアルドレダ先生はどうか…と提案した。

 此処に居る教師の中では一番身分も高い。

 帝国の大人達も拒否し辛いだろう…と。

 他力本願だけれど。


 アルドレダは腕組みしながら窓の外を覗き込んだ。

 しかし、彼女には『大きな影』とやらは見えなかった。


 「見えない…わね…」

 彼女が思わず呟くと、背の低い女の子は涙目になった。

 「…見たんだもん…」

 「そ…そう!きっと居た!。

 たぶん、もう移動しちゃったのね!

 倉庫の方とか…いろいろ?」

 慌てて、泣きそうになる少女を慰めた。


 「う〜ん…私が確認しないと、他の人に話を持って行く事も出来ないし…。

 此処からでは見えないから、場所を移しましょうか?」

 アルドレダは提案し、皆と一緒に部屋を出た。




 

教師って…本当に大変ですよねぇ…。

感心しちゃいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ