表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
241/287

◆4-141 リリンの本気

第三者視点




 マリアベルは柱の陰から『黒』を纏って現れた。


 彼女の周囲には、大量の黒いモノが空中に浮かんでいた。

 リリンが試しに数発撃ち込んでみる。

 しかし、礫は黒いモノに弾かれて四方八方へと散らばった。


 「それは…魔獣の…毛?」

 「…あたり。

 あなたの武器では、このコの鋼毛は貫通出来ないみたいだからね。

 纏ってみました。似合う?」


 溢れ出る大量の魔力を自分の周囲に滞留させ、そこに切り取った魔獣の黒毛をばら撒いて衣服の装飾の如く纏っている。


 元々着ていた桃色のスラリとしたドレスとバルーンパンツの装いの上から、チュールレイヤードの黒色ドレスを羽織る様に。

 黒い半透明の衣装が桃色のドレスを上から覆い、若々しく明るいドレスからゴシック様式の古風なドレスに様変わりした。

 更に余った鋼毛が彼女の周囲をフワフワと漂い、まるで羽衣を身に帯びた天女の様に見えた。

 ただ…酷く禍々しい漆黒の天女。


 リリンは漂う黒毛の薄い部分を目掛けて乱射した。

 しかし、そこにも細い毛は散乱しているようで、礫は彼女の直前で逸れて行った。


 「うん…うん…良い感じね。

 軽いモノならば、このコの毛で逸らす事も可能…と」

 頷きながら自分の装いに目を落とす。

 衣装を見せ付ける様な仕草の中、マリアベルは極自然に片手を振り下ろす。

 リリンが反射的にその場を避けると、一拍遅れて立っていた場所で見えない何かが床を叩き、埃が舞い上がった。

 「やはり当たらないか…見えてるのかしら?」


 リリンはマリアベルに向けて腕を構えて、再度礫を放つ。

 しかし先程と同じく、全ては彼女の周囲にばら撒かれて散乱しただけだった。

 「…ちっ…」

 「だから…無駄ですよ…。

 理解出来ませんの?」

 マリアベルは小馬鹿にした様に首を軽く振った。


 「ならば、直接()()で頭をかち割れば良いだけよ」

 そう言いながら大きな両手剣を片手で持ち、勢い良く振り下ろす。

 剣の風圧で埃が舞い上がった。


 「確かに…貴女の膂力ならば容易に貫通するでしょうね…。

 でも…私に近寄る事なんて出来るの?」

 そう言いながら、彼女が両手を左右から交差させた。

 一拍遅れて、埃を切り裂きながら、見えない鞭が左右からリリンを挟み込む様に飛んでくる。

 彼女は咄嗟に飛び上がって避けた。


 リリンに当たらなかった鞭は彼女の背後にあったヴァネッサを護る障害物(バリケード)に当たった。

 ヴァネッサの前にある障害物(バリケード)が振動して揺れる。


 「もっと近くにいらして下さい。

 私に触れて頂けるのでしょう?」

 そう言いながら両手を軽く拡げて、魔獣の黒毛で出来たスカートの裾を摘んで、カーテシーを行うマリアベル。

 彼女は笑みをこぼしながら挑発した。

 その冷酷な微笑と放たれる威圧で、彼女はこの部屋を支配した。


 リリンは、このままでは埒が明かないと判断した。


 自分の魔導具は効果が無い。

 待っていれば、『不可視の鞭』で際限なく攻撃される。

 そしてマリアベルは、ヴァネッサを害するつもりは無いらしく、最初の一撃以後、彼女に向けてそれを振り下ろしていない。

 リリンにだけ攻撃が届く様に制限している様だった。


 リリンは、視界の端で丸く固まる魔獣を注視していた。


 それは、マリアベルから僅かに離れた位置からヴァネッサを睨み付けていた。

 防御姿勢を崩さず、不意打ちの礫に警戒している様子。

 隙を見せればヴァネッサに飛び掛かり、彼女を人質として使うか、咥えて逃げだすだろう。

 そうなった時点でリリンの敗北が決定する。


 彼女は、立ち位置に気を配りながら、マリアベル達に向けて駆け出した。



◆◆



 リリンはマリアベルではなく魔獣の方へと走った。


 …まず、足を潰す!


 魔獣を仕留めれば、マリアベルの体格ではヴァネッサを運べない。

 魔獣は向かって来るリリンを見て、毛を逆立て臨戦態勢に入った。

 魔導具で礫を発射するが、魔獣は咄嗟に腕で顔を覆い弾を防ぐ。

 リリンもそれは織り込み済みだった。

 魔獣の視界が途切れた時を狙って、姿勢を低くして一足飛びに近付いた。


 「ふふ…」

 マリアベルは珍しく含み笑いをした。

 「ありがとう。予想通りです」

 彼女は下ろしていた手を振り上げた。


 リリンは反射的に飛び上がったが遅かった。

 瓦礫の散乱した床上を這わせて隠していた複数の『不可視の鞭』が、埃や瓦礫を弾き飛ばしながら跳ね上がった。

 そのうちの一本が、リリンの脚を掠めていった。


 「………!」

 見えない鞭がリリンの脚に触れた途端、突然、力が抜けたかの様に膝から崩れ落ちた。

 体勢が崩れた隙をついて、魔獣が爪を横に薙ぐ。

 リリンは剣で受け止めたが、踏ん張りがきかず、剣は弾き飛ばされた。


 片膝をつき、身を護る物がなくなったリリンに対して、魔獣は大きく口を開けて迫りくる。

 リリンは歯を食いしばり、覚悟した。


 「よく噛んで食べなさいな」

 酷薄な笑みを浮かべた後、マリアベルはヴァネッサの方へ向かって歩きだした。

 「さて…出来るだけ鞭を当てないように気を付けたけれど…死んでないわよね?

 死なれると困るのよ…」


 魔獣の居る方から、鋼の防具を食い破り、肉に喰らいつく咀嚼音が聞こえた。



◆◆



 「いったぁ〜い!!」

 間抜けな声が魔獣の口の隙間から聞こえた。

 マリアベルは思わず振り返り、警戒した。


 魔獣は噛み砕こうとして力を込めた。

 しかし…

 「…痛いって…言ってんだろうがぁ!」

 怒声と共にリリンは魔獣の口の中を殴りつけた。

 魔獣は殴られた勢いのまま吹き飛び、壁に激突して気絶した。

 「畜生、ヨダレまみれ!気持ち悪い!」

 リリンは、ほぼ無傷で立っていた。


 リリンの防具はひしゃげていた。

 鋼製の軽鎧の胸当てには魔獣の歯の跡がつき、穴が空いていた。

 手甲の魔導具も粉々になり、咬合力の凄さを見せ付けた。

 下に着ていた服はボロボロ。所々、肌が露出している。

 だが、リリンの肌に傷はついていなかった。


 傷は無かったが、彼女にはハッキリとした変化が現れていた。

 「あ〜!もう!お手入れが大変なのに!」

 リリンの肌には蛇のような鱗模様が出現し、縦長の瞳孔がマリアベルを睨み付けていた。


 「…貴女…魔物?魔人?」

 マリアベルは、彼女から視線を外さずに尋ねた。

 「…?何を言ってるの?」

 キョトンとした顔で首を傾げるリリン。


 「その姿…人間では無いわね。混合児(ミックス)?」

 「みっくす…?意味分かんない」

 「その肌よ」

 「これね〜。酷い乾燥肌よね!

 力を込めると肌がボロボロになるの!

 後で手入れしなきゃ…。ああ…面倒くさい!」

 「…は?」

 マリアベルは、リリンの言っている意味が理解出来なかった。


 「肌荒れするから、本気を出したく無かったのに!」

 叫ぶと同時にリリンは、素手でマリアベルに殴りかかって来た。


 「くっ!」

 マリアベルは咄嗟に、飴のようにねっとりとした濃密な魔素を自分の周囲に展開。

 羽衣状の魔獣の綱毛を前面に並べ、リリンの攻撃を受けた。


 パンッ!

 リリンが殴り掛かると羽衣は千切れ飛び、魔素の表面が大きく揺らいだ。

 攻撃はマリアベルまで通らなかった。

 だが、濃密な魔素を包む膜には激しく振動する波紋が拡がっていった。


 「そこ!」

 マリアベルが腕を振ると周囲に隠していた『不可視の鞭』が一斉にリリンに纏わりついた。

 「無駄よ!」

 リリンは鞭を素手で弾き飛ばし、再び殴りかかって来る。

 「毒が効かない…?」

 リリンの攻撃は再度弾かれ、二人の間では魔素の膜が大きく波打った。

 「単なる特異体質よ。同じ毒は効かないの」

 「体質で済むような話…?」


 マリアベルは、自身の魔素に毒を混ぜていた。


 高濃度の魔素のみだと、昏倒はさせられるが、魔力器の大きい者には効果が薄い。

 なので、散布した神経毒を己の魔素で包み込み、『不可視の鞭』を振るう際に毒をぶつけて流し込む。

 魔素の効かない相手も毒で昏倒する。

 だが、今のリリンにはそれも効かなくなっていた。


 「しっかし…何この膜!破れない!!」

 マリアベルの粘度の高い魔素を包む膜に阻まれて、攻撃が通らない。

 膜が攻撃を止め、粘性のある魔素が衝撃を受け流す。

 濃すぎる魔素は透過する光を曲げるらしく、マリアベルの周囲が歪んで見えた。


 「私は粘性魔素(スライム)…と、呼んでますわ。

 破壊は…諦めた方が賢明ですよ?」

 リリンの拳が膜を叩き、破裂音が部屋に響き渡った。



 「なんて…出鱈目なのかしら…ねぇ」

 「貴女に…言われたくないわね!」

 「しかも…人間…じゃない…なんて…」

 「失礼ね!…私は…はぁ…ちゃんとした人間です!」

 「自分が…化物だと…自覚なさったら?」

 「その言葉、はぁ…はぁ…貴女(自分)に言ってるの?」


 幾度かの攻防で、二人とも息を切らしていた。

 毒は効かなくとも、高濃度の魔素は相手に疲労を蓄積させる。

 繰り返せば、耐性のある人外であってもそのうちに昏倒する。


 対して、常時高濃度の『粘性魔素(スライム)』を展開する事は、マリアベルにとっても体力的に厳しい。

 リリンの昏倒が先か、マリアベルの魔素膜が消えるのが先か。

 両者とも青息吐息で、全力での攻防を展開していた。


 決定打に欠けるこの状況を動かしたのは、マリアベルだった。


 「行け!」

 彼女は突然怒鳴った。

 その命令と同時に気絶していたと思われていた魔獣は跳ね起き、そのまま駆け出した。




 

リリンは特異体質と言っていますが、無意識下の耐毒魔術式です。

認識した毒を分析、自動で分解します。

本人に自覚はありません。

体質だと思い込んでいます。


同じく、魔物化も肌荒れ程度にしか認識していません。

出来るお姉さんを気取るアホの子なので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ