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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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◆2-11 春祭り 聖ブリード祭

第三者視点




 入学手続きも終わり、昨年度からの繰越学生のクラス分けと初月入学生徒の為のクラス編入手続き、及び、寄宿舎の準備で、学校は、少し休校する。


 クラウディア達も一度教会に帰って、色々と準備をしなければならない。しかしその前に、折角中央区に来てるのだからと、クラウディア達は春祭りに行く事にした。


 街中には黄色いラプタスの花で作られた花冠を被った人達が街を練り歩き、扉に花輪を飾ったお店が軒を連ねていた。


◆◆◆




 聖ブリード祭。通称、春祭り。


 黄色いラプタスの大きな花畑の中に建つ一軒家。

 春の女神フォンス=ヴィシタと彼女の夫、ブリードが仲睦まじく暮らしていた。


 ある時、ブリードに横恋慕した闇の女神テネブラムは、彼が出掛けている間に、魔術で密かにフォンス=ヴィシタを一輪のラプタスの花に変えてしまった。


 突然、妻が居なくなったブリードは嘆き悲しんだ。


 そこにテネブラムが現れ、フォンス=ヴィシタは他の男と出ていったと言って彼を騙し、妻の座に座ろうとした。

 しかし、彼は縋り付くテネブラムを押し退けて、居なくなった妻を探す旅に出た。


 それから毎夜、毎夜、彼の夢に出て、甘言を(ろう)し誘惑したり、戻らぬのならば殺すと脅すテネブラム。

 ブリードは、それに耐えながら魔女の森に辿り着き、魔女ディメルに会う。


 魔女ディメルから、魔封じの人形を貰い、貴方の妻は家に居ると教えられ、花畑の家に戻ることにした。


 家に帰ると妻は居らず、テネブラムだけが待っていた。


 私の元に帰って来てくれたと喜ぶテネブラム。

 妻探しを諦めたと言いながら近付くブリード


 テネブラムに近付くと、隠し持っていたディメルの人形は勝手に動き出し、その小さな手をテネブラムの胸に突き刺した。その途端、テネブラムは痺れた様に動けなくなった。

 その隙をつき、ブリードがテネブラムの首を切り落とすと、テネブラムはディメルの人形に吸い込まれていった。


 テネブラムが消えた後、家の裏で咲いていたラプタスの花畑の中から、眠っているフォンス=ヴィシタが現れた。


 二人は黄色いラプタスの花畑の中の小さな家で幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


 ラプタスの花畑には春が眠っているよ。

 貴方が迎えに来るのを待ってるよ。



◆◆◆




 「と、まぁ…捻りも無くて、つまらないお話なのよ」

 と、クラウディアが解説した。


 それを聞いたルーナは、「ふ〜ん、いいお話だと思うけどなー」と言うと、


 「クラウはひねくれてるからね」とジェシカ。


 クラウディアは、「私がテネブラムなら、女を花なんかに変えずに殺して花壇の肥料にしてるわ」と言う。


 「そこ…自分が悪役だったら…って考えるお話なの?」


 「デミに彼女が出来たら、彼女が肥料にされそうね…」


 「ジェシカだって、『父ちゃん』に彼女が出来て、貴女が捨てられるってなったら、どうするのよ?」


 「…私なら、父ちゃんの幸せ願ってるもん。クラウみたいに酷い事はしないわよ」


 「本当は?」


 「花壇に直接撒くと庭が臭くなるから、灰にしたほうが良くないかしら?」「確かに!」


 「二人共、怖いんですけど!」


 「エレノア様が苦慮しているのは、こういう性格の修整なのでしょうね…」

 と、サリーが溜息をついた。


 話を聞いていたパックが「あれ?その話、昔聞いた事あるよ?」と言うと、「そりゃ、有名な御伽噺(おとぎばなし)だしね」とジェシカ。

 「ううん、そういう事じゃなくてね…ディメル…?」と言って考え込んだ。




 街中にはラプタスの花で作った花冠を売っている子供達が居た。

 「綺麗なお姉ちゃん、私達の作った花冠買って下さい」と子供達が3人近寄って来た。


 ルーナが「わ~綺麗ね。ジェシカ、普通はいくらくらい払うの?」と聞くと、ジェシカが「そうね…一つ銅貨2〜3枚くらいかしらね」と答えた。

 ルーナが「銅貨って何?」と聞いたので、「あんたって娘は…」と頭を抱えた。

 クラウディアが「5個頂戴」と言って、銀銅貨を3枚渡した。子供達は「こんなに!?」と言って、花冠を5個渡した。

 子供達は「お姉ちゃん、ありがとう!」と言って戻って行った。


 「クラウ、あげ過ぎじゃない?」


 「良いじゃない。お祭りなんだから」


 「あんたって、子供には甘いわよね」とジェシカが言った。


 ルーナが「さっきのお金、初めて見た…」と言うと、ジェシカはサリーに、「どういう教育してるのよ?」と睨んだ。


 サリーは「銀貨より安い硬貨をお教えしても、お嬢様には使う機会がありませんもの」と言った。


 クラウディアがルーナに銅貨を見せながら、

 「これが銅貨。これ一つで串焼きが一本買えるわ。リンゴなら2個くらいかしら」と説明する。


 続けて、銅貨の真中に小さな銀粒が埋め込まれた硬貨を出して、「これが銀銅貨。さっきの銅貨10枚分。この銀銅貨が10枚で銀貨よ。 平民は一日働いて、大体この銀銅貨1枚から、多い人で5枚くらい手に入るのよ」と言うと、


 「え?一日働いて銀貨1枚も手に入らないの?」と驚く。


 ジェシカが「銀銅貨1枚でも手に入るなら恵まれている方よ。もっと下だと一日中働いて銅貨1枚か2枚という人も居るわ」と付け加える。



 ふと見ると、さっきの子供達の所に男が来て、子供達が受け取った銀銅貨を取り上げようとしていた。


 ジェシカが音もなく近付いて、周りの観光客に気付かれないように、その男を路地裏に引きずり込む。

 ナイフをその男の手の平に突き立てて、静かな声で、「ベネフィカに伝えろ…祭りで子供を泣かすな。赤髪の悪魔が殺しに行くぞ」と低い声で話した。男は泣きながら逃げて行った。


 男の叫び声も泣き声も、通りには一切聞こえず、子供達以外には誰も一連の騒動に気付かなかった。

 ジェシカは子供達に銀銅貨を握らせて「秘密よ」と言って口に指をあてた。


 「あんたって、子供には甘いわよね」とクラウディアが言うと、ジェシカは、


 「良いじゃない。お祭りなんだから」と言って笑った。




◆◆◆




 クラウディア達がお祭りを楽しんでいると、少年達の言い争う声が聞こえてきた。


 「お前は、もう貴族なんだろ。住む世界が違うんだから寄ってくるんじゃねぇよ」


 「ディード、そんなんじゃない。僕は表向き養子になっただけだ。枢機卿様は家族や友達と別れろとは言ってない」


 「そんなの今だけだ。どうせお前もあっちの世界で楽しくやってんだろうが。一度貴族になった奴は俺達平民には話し掛けようともしなくなるんだからな。お前も俺みたいな平民と話してると貴族の『お友達』に嫌われちまうぞ」


 「そうよねー。貴族の中には阿呆みたいな選民思想持ってる奴ら多いからね。そういう奴らも居るよねー」


 …いつの間にかジェシカが会話に加わっていた。少年達は『誰?』という顔をしていた。


 「でも、貴族にも嫌な奴等ばっかりでも無いのよ?私も初めは、クラウディアが怖かったわよ。天才だの、神童だの言われている貴族なんだから。でも、実際話したら全然貴族っぽく無いし、変に抜けてるし。警戒していた自分が馬鹿みたいだったわ」


 「それは、褒められてるのかしら?」とクラウディア。


 「褒めてるのよ」とジェシカが笑った。


 「君達は…?」と少年が聞いてきた。


 「私?ジェシカ。試験で会ったわよね。元平民の孤児で貧民街出身よ」


 「平民の孤児?試験?」とディードと呼ばれていた少年が聞いた。


 ジェシカがディードに、

 「貴族は確かに嫌な奴等多いわ。でも、そういう括りで見ていると、大切な友達が、『嫌な貴族』になっちゃうわよ。貴方が友達を変えちゃうの。

 貴方のせいで友達が『嫌な貴族』になっちゃったらさ…それってもの凄く嫌な事なんじゃないかしら?」と聞いた。


 ディードは黙り込んでしまった。


 ルーナが、ディードを下から見上げながら、「私も平民の人達からは嫌な貴族って思われてるの…?」と泣きそうな顔で聞いた。


 ディードは慌てて「いや…その…そういうわけじゃ…」と言う。


 クラウディアが「私も平民の人達からは嫌な貴族って思われてるの…?」と嘘泣きしながら聞いた。


 ジェシカが「あんたは平民だけじゃなくて貴族からも、変な貴族って思われてるわよ」と突っ込んだ。


 「まぁ…ジェシカちゃんったら…酷い…」と言いながら泣き真似をする。デミトリクスが、ヨシヨシとクラウディアを撫でた。


 「ディードだっけ? 汚い言葉はどんな刃物より鋭くて、とても抜けにくいわ。友達に使う物じゃないわよ」とジェシカが窘めた。


 「…イルルカ、ごめん。イルルカまで遠くに行っちゃうのかと不安で…」とディードが謝った。


 「ディード、約束する。僕は貴族になってもキミと同じだ。変わらない事を約束する」と言って握手した。


 「良かったわ」と喜んでいるルーナの後ろで、握手する少年達を見て、ハンカチを口に当てながら、何故か興奮しているサリーがいた。


 イルルカはこちらを向いて「君達、ありがとう」と礼を言った。


 サリーが近くの子供から花冠を買ってきて、イルルカとディードの頭に乗せた。

 二人が「「あ…ありがとう…ございます」」と言うと、

 サリーは親指を立てて「こちらこそ」と言った。


 ルーナが「サリーは気が利くわね。流石だわ」と言うと、ジェシカが「本当…流石だわ」と、溜息をついた。




 仲良くなったクラウディア達が、イルルカ達と和気あいあいと話していると、いきなり黒猫が飛び出して来た。


 黒猫は突然、「デーメーテール様!?何故この様な場所に?」と話しかけてきた。


 黒猫がいきなり言葉を発した事に驚いて、皆、「えっ!?」と言って黙ってしまった。


 さっき迄ずっと考え込んでいたパックが、突然、

 「ああ!そうだ!」と叫んだ。

 皆がまたもや「えっ!?」とビックリした。


 パックは「そうだ、そうだ、思い出した!魔女ディメルじゃない! 魔女デーメーテールだ!」と言って、手を打った。



サリーはルーナ推しですが、腐の素養もあります

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