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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
228/287

◆4-128 援軍と裏技

第三者視点



 「これは何の騒ぎか!!」


 扉が勢い良く開き、怒号が部屋中に響き渡る。

 立派な衣装の男性と、その彼の周囲を固めて護衛する4人の屈強な騎士が姿を現した。


 中央の男性が身に着けている白銀の胸当てには、レヴォーグ大公家の直系血族を表す紋章。

 意味は帝国王帝の後継候補。

 右肩から左脇に流した漆黒の天鵞絨(ビロード)マントが、彼の燃えるような赤髪を色相対比で際立たせている。

 白銀と漆黒は帝国将軍の身分色。

 その戦争用儀礼装束を纏うのは、ゼーレベカルトル第2王子。


 射抜く様な彼の鋭い眼が、この部屋の中心は己である事を主張し、細身だが引き締まった身体から発する迫力は、大柄のオマリーにも引けを取らない。

 リオネリウスに似た顔立ちだが柔らかさは感じられず、刺す様な空気で場を掌握した。

 昼餐の時とは別人の様な雰囲気を纏っている。


 彼の周囲を固める騎士達の体躯は、オマリーに匹敵する。

 顔には複数の傷跡があり、過酷な場で歯を強く噛み締め続けた結果であろう、太くなった顎と首が、彼等の経験と実力を物語っていた。


 護衛騎士達の目には、『傀儡化(プーパ)』、若しくは、『思考誘導(ドクス)』に類する精神支配を受けている様な光が宿っている。

 彼等の()()主人が、ゼーレベカルトルかアデリンかは不明だが、どちらにしろオマリーの味方で無い事は確か。

 そのゼーレベカルトルも、視線に『思考誘導(ドクス)』の揺らぎがある事から、正気かどうかは疑わしい。

 全員、晩餐会に出席する様な正装ではなく、対人戦闘用の剣盾を備えて現れた。



 声を張り上げて問うゼーレベカルトルに対し、扉際で机に隠れて魔道銃を発砲していた騎士が振り返り、すぐに銃を仕舞って(ひざまず)いた。

 恭しく頭を下げた後、ゆっくりとだがハッキリとした声量で、ゼーレベカルトルに返答した。


 「緊急故、直に話し掛ける無礼をお許し下さい。

 オマリー様がご乱心なさいました!」

 操られた騎士が、この場にふさわしい答えを返す。

 「突然暴れ出して、彼女達に乱暴を!」

 そして、骨折して気絶している侍女達を指差した。

 「ほう…これは英雄殿と言えど、見過ごすわけには参りませぬな」

 シナリオ通りの受け答えをして、予定通りの指示を出す。

 すると、護衛騎士達はゼーレベカルトルの前に歩み出て、横一列に立ち並んだ。


 「遅かったですね」

 「準備に手間取りまして」

 侍女達の背に隠れていたアデリンは顔を出し、扉前のゼーレベカルトルに向けて気安い様子で話し掛けた。

 しかし誰も、それを「不敬」だと言い出さない。

 全く聴こえていないか、気にしていない。

 その様子は、部屋の中の人達のみならず彼の護衛騎士達までも、アデリンの支配下にある事を示していた。


 「気を付けて。

 英雄様は想定以上の化け物ですわ」

 「この惨状を見れば分かります。

 攻めは愚策でしょう?」

 飛び掛かった末に壁まで投げ返された…と、容易に想像できる格好で倒れている騎士と、その下敷きになっている侍女を横目で見ながら答えた。

 「…そうですね。

 わたしくし達の勝利条件は脱出のみ…で構いませんわ。

 後は弟が掃除します」

 「了承しました」


 ゼーレベカルトルは剣を構え、指示棒の様に正面に向けて振り抜いた。

 「警護姿勢!」

 護衛騎士達は一矢乱れぬ動きで一斉に剣と盾を構えた。

 密集した格好の横並びとなり、右手の剣を牽制するかの様に眼前に突き出し、左手の盾でお互いの半身を隠して腰を落とす。

 彼等は己の身体で、扉とゼーレベカルトルの周囲に壁を形成した。

 魔道銃や飛び道具対策に、鎖帷子(かたびら)と額当ても装備している周到さ。

 「くそっ…分かってはいたが…厄介な!」

 オマリーは、机を盾にした姿勢のまま動きを止めた。

 これ以上アデリンの方に近付けば、屈強な護衛騎士達が一斉に側面から襲いかかって来るだろう。

 いくら強いオマリーでも、装備を整えた同体格の相手4人同時では押し負ける。


 「さて…銀の盾は用意致しました。

 でもでも…まだまだ不安です」

 アデリンは、口に指を当てながらニコリと微笑む。

 「わたくし臆病ですの…。

 怖い殿方に地の果て迄追い掛けられるのは勘弁願います。

 だから、お護りを用意致しますので、少々お待ちを…」

 そう言うと、合図を出すかの様に強力な波形魔術式を再び放った。

 強力な波動の影響を受け、オマリーの全身には鳥肌が立った。


 「もう少しかしら…

 退室の準備が整うまでは、この子達と遊んでいて下さいませ」

 アデリンは周囲の騎士達に指示を出す。

 直ぐ隣で魔道銃の再装填をしていた騎士が、圧縮魔術式の発動準備に入った。

 「私に銃は効かないと…まだ理解出来ませんか?」

 オマリーは盾にした机に半身を隠しながら、腰を落とした。


 「実は、わたくしも貴方と同じく、魔道銃は効きませんのよ?

 秘中の技ですけれど、餞別として特別にお見せ致しましょう」

 そう言って彼女は、何時でも弾丸を発射出来るように準備していた騎士に、小声で指示を出した。


 騎士は頷き、魔道銃の銃口に弾込め棒(ラムロッド)を強く押し込み、捻じ曲げて外れない様に固定した。

 「銃を…壊しているのか?何故だ…」

 そんな事をすれば、二度と魔道銃は使えなくなる。

 嫌な予感がして、冷や汗が頬を伝い落ちた。


 準備の整った騎士は、圧縮魔術式の発動状態を最大限に維持したまま、銃をオマリーに向けて放り投げた。


 「…一体、何を…?」

 魔道銃がオマリーの頭上に来た時に合わせて、アデリンが強烈な波動を放つ。

 その瞬間、魔道銃は膨れ上がり、爆弾の様に破裂した。


 砕けた鉄が四方に飛び散り、周囲に激しく突き刺さった。

 高い音を立てながら一斉に砕け散る陶器類。

 鈍い断音(スタッカート)を奏でながら欠片が突き刺さる家具達。

 ゼーレベカルトルの護衛騎士達の構える盾にも、耳に障る金属音を立てながら、飛び散った鉄片がぶつかった。


 「ぐっ!」

 真下に居たオマリーには、鉄の破片が雨となり降り注いだ。

 すぐに机に身を潜めて防御したが、隠れきれなかった肩や脚に鉄片が深く突き刺さり、周囲に血が飛び散った。

 床に落ちていた真っ白なテーブルクロスに噴き出した血が掛かり、赤く(まだら)な牛柄模様に塗り替えられる。

 噴き出した血は止まらず、その赤い範囲がじわじわと拡がっていった。


 「先程オマリー様のおっしゃった魔道銃の暴発…その再現ですわ。

 似たような事は、わたくしにも出来ますのよ?

 ただ、口を塞いだ分だけ、こちらの方が威力は高いでしょう?」

 アデリンは頬に手を当て微笑んだ。


 「…久しぶりに、怪我といえる怪我をしました。

 他者の魔術式への過干渉による暴発誘導ですか…。

 強力な波形魔術式だと、こんな事も出来るのですね」

 肩や脚に突き刺さった破片を引き抜きながら分析し、彼女を凝視する。

 瞬きせずに睨みつける彼の目に、額から流れ落ちた血が垂れた。


 「普通なら即死、助かっても瀕死…の攻撃なのですけれど…

 やっぱり化け物ですわね。予想通り」


 オマリーは目に入った血を拭い、拭った血でべっとりと染まった袖を引き千切った。

 「中々に色っぽい御姿です。

 とても魅力的ですわ…」

 血だらけの彼の姿を見て、嬉しそうに舌を舐めるアデリン。

 彼女の言葉を無視しながら、千切り取った布を出血部位にぐるりと巻き付けて応急処置を済ませた。


 「こういう時、治癒魔術が使えると便利だなと…切に思いますね」

 「でも、滅多に無い事なのでしょう?

 この機会に、もっと沢山経験しておきましょう?」


 彼女の合図で、魔道銃を持っている騎士達は一斉に弾込めを始めた。

 弾込め棒(ラムロッド)を銃口に突っ込み、無言で床に叩きつけながら曲げて固定する。


 「魅力的な男性に死なれるのは、とてもとても悲しい事。

 でもでも、殺さないと禍根にもなるし…。

 わたくし…本当に辛いのですよ?」

 そう言いながらも、彼女は冷徹に手を振り下ろした。


 彼女の合図に合わせて、銃口を塞がれた魔道銃が複数、オマリー目掛けて一斉に投げ込まれた。



 

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