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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
225/287

◆4-125 質問と詰問

第三者視点




 「お二人は控室へ」

 助手の女性はそれだけ言うと、オマリーとアデリンを医療室から追い出して扉を閉めた。


 「あらまぁ…中々に…え〜…さっぱりしているお嬢様ですねぇ…」

 「…私達が居ても何も出来ませんし、至極合理的な判断でしょう。

 何かあれば呼ぶ。それまで待ってろ…と言う事ですね…」

 二人は苦笑しながら歩き出した。


 幾つもの治療室や高度医療室が並ぶ廊下を進む。

 先程まで騒いでいた騎士達は居なくなり、怒鳴った看護師も部屋に戻った様で、一転して静かになっていた。

 二人は、看板の指示に従い指定された控室へと向かった。


 治療室の並ぶ広い廊下と、中庭テラス方面に向かう細い廊下が丁字に交わる角に、その部屋はあった。

 大きな扉のある出入り口が2箇所。

 各扉前に警備兵付きの特別広い控室。

 警備兵達は入室する人達を選別していた。


 「フーリエ侍医長の担当患者の関係者の方ですね?

 連絡は受けております。

 どうぞ、お入りください」

 扉の前に立つ警備兵には(あらかじ)め話が通っていたらしく、すぐに鍵を開けて二人を部屋の中に招き入れてくれた。


 「ほお…これは…」

 「あらあら…面白いデザインのお部屋ですねぇ〜」

 オマリー達は感嘆し、思わず声を上げた。


 部屋に入って最初に感じるのは違和感。

 と言っても、奇妙なものでは無い。

 ほとんどの人は、その他多くの部屋とは一線を画す窓のデザインに驚く。


 控室の壁には、色々な箇所にはめ殺しのガラス窓が設置されていた。

 高い位置や、低い位置など様々。

 形も横長や縦長、巨大な正方形の窓もある。

 全てが歪みの一切無い、美しい一枚の板ガラス。

 その出来栄えから、帝国ガラス職人の技術力の高さが伺い知れる。


 「あらぁ…綺麗ですわねぇ。

 このガラス一枚で私の年収くらい…?」

 「この窓、適当な位置に取り付けられている訳ではないのですな…」


 それぞれの窓は、植栽彩る中庭の風景や隣接する二階テラスの様子、向かいの建物の光景を切り取る様な位置に設置されていた。


 中庭を映す窓からは、綿密に計算して手入れされた植物達と中心にある噴水広場が、星の淡い光と仄暗いガス燈の灯りによって幻想的に浮かび上がる風景が。


 テラスを覗く窓からは、白磁の様なテーブルセットとテラスの手すり枠。

 昼間ならば、そこの席でくつろぐ淑女の様子が見れるのだろう。

 今は、誰も居ない席に輝く星空が。


 向かいの建物を切り取る窓からは、先程まで居た晩餐会が行われている会場と、そこから漏れる魔導灯の光煌めく一枚の絵画が。


 様々な形の窓で切り取られた各々の光景は、重厚な窓枠縁に彫られた精密な装飾で周囲を飾られていた。


 「成る程…此処は控室であり、美術館でもあるのか…。

 この部屋を使う者達は、近親者の怪我や病気等で心を乱している…」

 「…だから、落ち着かせる為に…ですかぁ…?」


 「左様でございます。

 加えて申しますと、本物の絵画ですと絵の具の香りで気分を害される方もいらっしゃるから…との先代様のお心遣いで御座います。

 患者様付き添いの御方様ですね?

 御席にご案内致します」

 二人が呆気に取られて部屋を見渡していると、すぐ横から声を掛けられた。


 数人の侍女を従えた年嵩の女性が、二人を空いている席に案内した。


 彼女は、落ち着かずに爪を噛みながら膝を動かす貴族の従者や、頭を抱えて項垂(うなだ)れている騎士達の席の間を抜ける。

 そして、彼等から少し離れた窓に近い席の椅子を引いて、二人に着席を促した。


 二人が腰を掛けると、彼女達は好みの茶葉や菓子の種類を聞き取り、足音を立てずに部屋から出て行った。


 テーブルは、堅木の一枚板の天板を美しく滑らかに加工した高級机。

 その重厚な装飾に合わせた丁寧な造りの椅子。

 今此処ですぐに、高位貴族の茶会や会合が行える位の品の良い設え。

 壁際には仕切り板も用意されていて、本当に会合が行える様になっていた。



 「オマリー様…あの子を運んで下さり、誠に有難う御座いました。

 流石は人を導く司祭様ですわ」

 席に着き、茶が用意されるとアデリンが改めて口を開いた。

 いつもの抜けた様な口調ではなく、少し硬い雰囲気になっている。急に教師の衣を纏った様に。


 「…いえいえ。

 私が出来た、だから行った…当然の事。

 司祭などは関係無い事です。

 人は皆、常に…」

 「…常にマイア様に御照覧頂ける、(けがれ)無き行いを…ですか?

 オマリー様の日曜礼拝での決まり文句ですものね」

 アデリンはフフ…と微笑んだ。

 普段の厭世的な態度とは違う物言い。

 オマリーは目を細めて頷いた。


 「…オマリー様は、何故あの子が倒れたかについて…お心当たりは御座いませんか?

 私には…丁度、あの光るカーテンが発現した直後だった様に感じました…」

 アデリンは窓の外、カーテンの残滓に目を遣りながら尋ねた。

 この部屋からは中庭しか見えないが、離宮全体に掛る魔術式は中庭の空も覆っている。

 ほとんど消えかけてはいるが、透明な膜が未だ微かにだが揺蕩(たゆた)っているのが判る。


 「アレと関係御座いますの?」

 オマリーは何も言わずに首を傾げている。しきりに首の後ろ辺りを手で撫でながら。

 その態度は、『はい』とも『いいえ』とも取れる様だった。

 アデリンは生徒に詰問する教師の様に彼を見つめた。


 「窓の外の異変は何なのですか?

 アレを発動させたのは貴方がた?

 それとも王族?」

 彼女は確信を持っている様だった。

 オマリーはしきりに首の後ろを掻いている。


 「先生…いえ、古代魔術史の専門家アデリン=メロウビット女史は…何だと思います?」

 「質問を質問で返すのは褒められた行為ではございませんよ?

 まぁ…いいです。

 私には、あれが古い魔術式の様にも新しい魔術式の様にも見えます。

 …正直言って、判りません。

 初めて見ましたし、今迄調べた文献の何処にも記述が御座いませんでした」


 オマリーはカップを手に持ったまま、窓の外に目を遣った。

 「…美しい魔術式ですよね…」

 彼は外の魔術式に見惚れながら呟く。


 「えっ?…ええ…。ではなく!

 私が答えたのですから、次は貴方の番です。

 アレは誰の魔術式ですの?

 あんな大規模魔術、どの様に発現させました?

 マイア様に誓って真実をお教え下さい!

 リヘザレータ様の不調の原因は貴方達なのですね!?」

 アデリンは研究者の顔でオマリーに迫った。


 彼は驚愕した顔で彼女を凝視した。

 そのすぐ後、難しい顔をしたかと思うと、悲しそうな顔になる。

 百面相の様に表情が変化したかと思うと…

 「くっくっく……ワハハハ!」

 突然笑い出した。


 ガチャ!


 彼の異常な変わり様に驚いて、彼女はカップを取り落としてしまった。



 

足立美術館の窓から覗く庭園は見事ですよね。

病院のサンルームにも、あの様な設えがあると焦燥感が薄まるのになぁ…と思った事があったもので。

つい、こだわってしまいました。

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