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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
219/287

◆4-119 晩餐会 悪魔達は会話がお好き

第三者視点




 燃え落ちた薄暗い廃墟の中では、男女の乾いた笑い声が響いていた。

 セタンタ達は雑談を交えながら動き続け、お互いの身体情報(コンディション)を計っていた。


 「お兄様、クララにお会いするのは久しぶりだったのではございません?

 美しく育ったでしょう?」

 「会うだけなら…しょっちゅう遭っていたので感慨は全く無いかな」

 「そうでしたか?」


 マリアベルは彼の動きから、何が出来て何が出来ないかを観察していた。


 …彼の右腕は動かない事は確実らしい。

 妹の成果だろうか?

 だけれど嘘かも知れない。

 『右腕が使えない』と思い込み油断した隙をついて、投擲してくるかも知れない。

 いつも携帯している魔導銃はどうしたのだろう?

 私が到着する前に発砲した?

 片腕で弾込めが出来ないの?

 でもそれも演技で、突然眉間を狙って発砲するかも…

 何が虚実か、まだ確信が持てない。


 魔獣を超える戦闘能力を持つクララベル()を、あの状態になるまで追い込んだセタンタ()に対して、彼女は決して油断しない。

 残念ながら、魔力量は膨大でも彼女の身体能力は少し動ける騎士程度。

 目にも止まらない早業で近付かれたら、気が付いた時には首が宙を舞うだろう。

 だから、常に彼女を護る魔獣の陰に潜めるように動かないといけない。

 そして、そのせいで攻め切れない。


 「クララベルは、正体を隠して好き勝手に暴れていたからなぁ…。

 靴底通りの返り血(ブラッディー)とか、血溜まり悪魔(レディ)とか…。下らない通り名をいっぱい付けられていたな」

 「不死の少年(イモータル)と書いた新聞屋もございました。

 こちらはチェルターメンの時でした。

 あの子はおっちょこちょいな所がありますからね。

 下手打った場面を見られていた様です」

 「結社を名乗るクララの狂信者集団もいたな…。

 結局クララとの繋がりは掴めなかったがな」

 「当たり前です。

 私が後片付けをしたのですから、証拠を残す筈がありません」

 「…奴等の制圧時、先頭に立って乗り込んだ時の殿下は実にご立派だった」

 「お兄様の第3王子(リオネリウス)自慢は遠慮しておきますわ。

 耳が腐りますの」

 「あの小さくて可愛らしかった殿下が…」

 「五月蝿い。黙れ」


 彼女は彼の小さな動きを確かめる様な攻撃を続けた。

 どの攻撃を避けるか?

 どのくらいの隙を見せれば反撃に転じるか?

 会話で注意を散漫にさせながら、色々な方向からの攻撃を繰り返し、彼が()()()()()()()()()()()を確かめた。


 「クララは、この若さで愚者を熱狂させて()とすのです。

 素晴らしい才能だと思いませんこと?

 皆、この子を勝手に祀り上げて、勝手に結社を造って…。

 この子の為に命を捧げる馬鹿共(ゴミ)

 純粋で、誰の目にも理解(わか)る『力』とは美しい物なのです。

 学園では恐れられている反面、この子の信奉者も多いのですよ?」

 「しっかり手綱を握っておけ。

 高位貴族の生徒だろうと関係ない。

 犯罪者は処分するからな」



 対してセタンタは、全ての攻撃を『避ける』事で彼女の攻撃に応え続けていた。

 避ける以外に余裕が無かったせいだが、反撃する余力がある様に思わせる為にも、避けながら会話を続けた。


 「なぁ…、何故なんだ?」

 「?…何故…とは?」

 「お前達は今まで()()は、正体を隠して行動していただろう?

 帝国での身分を捨て、立場を捨てて、今になって行動に移した理由は何だ?」

 『…答える必要は無い』

 「その声は、ルディ…とか名乗った奴だったな。

 久しぶりに聞いた声だ」

 『…』

 「昔、マリーがクララを回収する為に(あらわ)れた時だったか…。

 マリーの替わりをしてたな。

 声は別人でも、身長と体格、歩き方のせいでバレバレだったが」

 『…』

 「…お兄様以外を騙せれば良いので問題ありません。

 私まで辿り着いた人は居りませんでしたし」

 「辿り着いた奴は東門外の川に浮いてたものな…」

 「()()()事実に変わり無いのですよ?」


 動きに緩急をつける。

 急旋回を混ぜる。

 攻撃を簡単に避けている様に見せる。

 偶に足を縺れさせて攻撃を誘い、それを軽く捌いて避ける。

 動きが悪い振りをしているのか、反撃に転じるつもりなのか、判断し(わかり)難くさせる。


 実は牽制すら出来ない位に体調が悪いのだが、それを彼女に知られない様にする事に集中した。

 その為に攻撃は完全に捨てていた。


 「なぁ…お前達の言う『お母様』とは誰だ?」

 『……』

 「彼女は、お兄様とは口を利きたく無いそうです。

 残念ですね。振られましたわね」

 彼女は口角だけを歪に引き上げた。

 目は笑っていない。


 もし、牽制する余力すら残って無いと判断す(バレ)れば、彼女は一気呵成に距離を詰めて来るだろう。

 そして、もう一つの目的の為にも会話を途切れさせてはならなかった。


 「チェル…ルディ…に、コピ姉と言ったな。名称不明が二人か?

 フィンというのはフィングリッドの事か?

 アイツも『子供達(リベリ)』なのか?」

 「そうですわ。役立たずのフィン」

 『マリー!情報を渡さないで!』

 「役立たずとは酷いな。

 ああ見えて、一応天才だぞ?」

 「間抜けの間違いでしょう?

 爆弾も失敗。潜伏も失敗。

 後片付けを放り出して先に逃げるなんて…」


 既にクララベルとの死闘で満身創痍。

 脚力もかなり落ちている。

 壁を走るなど、かなり無茶な身体強化で成し遂げた。

 無い余裕を在る様に見せていた。

 会話を続け、彼女の癖を探る為に。


 「帝国内に残っている仲間達は、お前達を含めて4人と言うのは本当か?」

 「そうですわ。私達とルディの兄と姉」

 『マリー!』

 「別に、知られても問題ないのでは?」

 『奴を甘く見ないで!何かを企んでいるわ』

 「知られた処で、確認する術は無いでしょう?」


 話し続ければ手の内を晒してくれる…マリアベルがそんな人間で無い事は良く知っている。

 彼女の言う通り、確認する術は無い。

 虚実を混ぜる事で、セタンタの反応を伺っているだけ。


 「お前達は帝国をひっくり返せると…本気で考えていたのか?」

 「当然ではありませんか。

 理想を信じず、行動を起こす者が居りますの?」

 「…それは嘘だな」

 「あらあら…」


 彼女は、相手が弱っている事に確信を持てば、合理的な攻撃で反撃の芽を一つ一つ潰して、詰将棋の様に逃げ場を塞ぎに来るだろう。

 セタンタは、気を付けながら会話を引き延ばした。


 「お前達は帝国での身分に執着など無いだろう?」

 「無いですわね。全く」

 間を置かずに答えた。


 「帝国での身分・立場・資産などは、この魔獣()のエサ程の価値も、ございません」

 「それは本音だな」

 「わたくし、常に本当の事しか話しませんのよ?」

 「嘘つきの常套句だな。笑わせようとしてるのか?」

 「遠慮せずにどうぞ。

 笑って下さってよろしくてよ?」


 セタンタは普段、沈黙している事の方が多い。

 こんなに多くの事柄を義妹と話すなど、彼にとって初めての経験だった。

 だが会話を続けたお陰で、策に繋げる為の彼女の『隙』を発見した。


 「コピ姉というのは『子供達(リベリ)』か?

 彼女達は近くに居るのか?」

 「いいえ。ご安心下さい。

 叫んでも聴こえないところに居ますわ」

 『だから!貴女は何故不利になる事を言うの!』

 「ええ…すぐ側に居ますわ。

 囁いても聴こえる場所に。

 …おねぇちゃ〜ん。助けて〜。

 ご一緒にいかが?」

 「笑えんな」

 『…アンタって、意味わかんない』

 「何故、ルディにまで呆れられるのかしら?心外だわ…」


 セタンタの現時点での目標は、『繋げる』事と『生き延びる』事のみ。

 クララベルの事は諦めるしか無い。

 業腹だが、王帝や『母』の意向に逆らって『奥の手』を使う訳にはいかない。

 最悪、レヴォーグ家が滅びる。


 策を使えるのは一度きり。

 失敗すれば、次に目を覚ますことは絶対に無い。

 彼女の『隙』をついて、確実にあの場所に到達する。

 しかし、その間にも彼女の策が功を奏し始めている事を、肌で感じていた。

 背中を這い上って来る様な威圧感が増す。

 躊躇している時間は無くなりつつあった。


 セタンタは意を決した。



 

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