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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
213/287

◆4-113 クララベルの生きる糧

第三者視点




 クララベル達は今迄、帝国国内で正体を隠しながら幾つもの事件を起こしてきた。

 殺人や暴力的な事件が大半だったが、中にはスラムマフィアを利用した、大規模な知能犯罪もあった。

 そしてその度に、王帝の懐刀であるセタンタが裁定して解決した。

 解決といっても、クララベル達が捕まる事は無い。

 必ずスケープゴートが用意されていた。

 彼女達の用意した『犯人』の時もあったし、官憲や役人達が()()()()()()『犯人』の時もあった。

 そして、捜査は必ず途中で打ち切られた。


 クララベルとチェルターメンは、セタンタが現場に入ると顔を隠して襲い掛かったり、遠距離から狙撃したりと、何度も彼を襲撃した。

 だがそれは、彼等にとっては児戯に等しいじゃれ合い程度で止められた。

 本気の立合いになる前に必ず誰かが止めに入ったから。


 止めるのは、宰相の配下貴族の時もあったし、高位役人や官憲の時もあった。時には王帝の部下が来る事もあった。

 彼等の()()は建物を簡単に崩壊させ、民衆にも被害を及ぼすから。

 怒ったマリアベルが、クララベルを狙撃して止めた事もあった位、予定も計画も街も人も、全て目茶苦茶にしてしまう。


 だが、今回は宰相も止められない。

 王帝からの許可も貰った。

 マリアベルからの許可も出た。

 『場』も用意された。

 目撃者は無く、お互いに周囲の目を気にしないで暴れられる。

 本気の立合い(ころしあい)は今回が初めてだった。


 だが、最初の本気で打ち込んだ数合の剣戟で、クララベルは悟ってしまった。

 己の力では…まともな方法では、セタンタには勝てない、と。




 対等に見えた剣戟は、クララベルの馬鹿力をセタンタが剣技だけで抑え込んでいた証拠。

 これまでの戦闘中、セタンタは特別な魔術式を発動していない。

 基本的な身体強化、治癒、圧縮のみ。


 高位の能力者は、大抵の場合、己の魔術式を改良した固有の魔術式を持っている。


 クラウディアの『糸』やジェシカの『無音』。

 ノーラの『毒の支配』にエレノアの『神織布』。

 リオネリウスの『誘爆炎』やドノヴァンの『魔力反発』等など。


 複数の魔術式を組み合わせて完成させた、個々人が持つ秘密の特技。必殺の技。

 才能と努力が実を結んだ者だけが持てる魔術式。


 セタンタも当然持っているし、クララベルも『それ』を知っている。

 子供の頃、目の前で見た『モノ』。

 本気で殺意を持った時のみ発動する、彼固有の魔術式。

 それを、最初の剣戟で引き出す事が出来なかった。


 対してクララベルは、基本的な身体強化の魔術式以外は使えない。

 常人を超える魔力を持っているのに、平民でも使える程度の圧縮魔術式すら使えない。


 ただ、身体強化のみに彼女の溢れる魔力を全て使う為、人外の反応速度で攻撃し、細身の外見からは想像も出来ない膂力(りょりょく)で相手を破壊出来る。

 それが、彼女固有の魔術式『人外の身体強化』。

 単純な攻撃力は、人間は勿論、魔獣や魔物を凌駕する。


 更に、彼女の体内には『子供達(リベリ)』であるチェルターメンの魔石が存在し、意識を共有し、身体の支配を意図的に交換出来る。

 お互いを認識出来る二重人格の様なもの。


 本来、『子供達(リベリ)』の魔石を移植された者は、『魔石の思考』に意識を支配され、元の存在が消える。

 だが、クララベルもチェルターメンもお互いを気に入り、存在を否定しなかった。

 特殊な『共依存』の関係となり、クララベルはチェルターメンに支配される事は無かった。

 クララベルに支障が出た時や、お互いが許可した時に交代出来るし、チェルターメンもそれで良いと考えている。

 そして、そのチェルターメン自身の魔力もクララベルに匹敵する。


 彼女の中には超人二人分の魔石から発する膨大な魔力が存在するが、二人共、身体強化とそれを補助する能力のみに使用している。


 身体強化を発動させれば、彼女の細い指は、人の肉を粘土の様に千切り取る。

 その細腕で相手の顔を叩けば、首の骨は軽く砕ける。

 だから『本気』の彼女の大剣は、鎧兜、馬具、石畳までを容易に貫き破壊する。


 だがセタンタは、彼女の異常な力を剣技のみでいなし続けた。

 元々才能を持つ者が、幼い頃より特別な訓練を受けて、特殊な剛剣を使用しているとはいえ、信じ難い偉業。

 ドラゴンの攻撃を剣一本で受け流し続ける様なもの。


 セタンタも強力な身体強化を使えるし、一時的とはいえ爆発的な力を出す事も出来る。

 だが、身体に大きな負担が掛かる為、連続した使用は出来ないし、剣戟中は行わない。

 大きな隙が出来るから。

 クララベルの攻撃を簡単に捌いていた様に見えた剣戟は、彼の鍛え上げられた技術の賜物。


 だがこれは、剣技があっての事。

 剣を手放した後は、覆い被さる重症の彼女を、セタンタは全力で押し留める事がやっと。

 彼女が力を緩めなかったら、撥ね退ける事も出来なかった。

 一度しっかりと掴まれたら、負傷した彼女の細腕一本を、己の首から外す事も出来ない。

 治療したばかりとはいえ、簡単に腕を潰された。

 全力で身体強化を行っても、首が()し折れるまでの時間を延ばす事が精一杯。

 それくらいに、本気を出した彼女の力は強い。



 クララベルとは違いチェルターメンは、強力な治癒魔術式の他に、固有の魔術式を使用出来る。

 それは、身体の神経伝達物質や脳内麻薬を、意図的に操作・選別する魔術式。


 クララベルの行う『人外の身体強化』は、無痛症である彼女にしか出来ない。

 何故なら、膨大な魔力を神経や筋肉に流す事は、ダムの水圧を細いホースで受ける様なもの。


 強すぎる魔力は、体内の血管や筋肉、神経に大きな負荷を掛け、傷付ける。

 筋断裂や内出血、神経の損傷等は日常茶飯事。

 岩を破壊すれば、その反動で手が壊れるし、早く走れば腱が切れ、骨が折れる。

 チェルターメンは、それらを高速で治癒し続けていた。


 火傷による組織の死滅や開放骨折以外、大剣を振る度に起きていた骨折は、チェルターメンが全て治していた。

 だがこの時、全身に凄まじい激痛が走る。


 クララベル自身は無痛症である為に痛みを感じないが、身体そのものは、身体強化と高速治癒を繰り返す痛みに悲鳴を上げている。

 それをチェルターメンは脳内麻薬を操作して、『モルヒネ』を与える様に痛みを緩和し、脳を落ち着かせ、心肺に掛かる負担を軽減していた。

 クララベルが『人外の身体強化』を使用し続けても死なないのは、チェルターメンの補助が大きく貢献していたから。


 代償として、極端な中毒、精神的依存や興奮と快楽が発露する。

 落ち着いたとしても、反動で、厭世的な思考や破滅願望が起きる。

 故に人格が落ち着かず、男性的思考や女性的思考がぐちゃぐちゃに入り混じる。

 表情がコロコロと変わり、他人から見れば感情豊かに見える時もあり、危険な性格に見える事もある。


 それはチェルターメンにも作用し、二人は常に快楽的な破滅思考と共にあった。

 故に、破滅的な作戦を思いついてしまった。



 数合交えた彼女は、セタンタには勝てないと悟り、それならば…と即興で作戦を考えた。

 それが、自分を巻き込んだ火炎旋風。

 自分を『削る』事で相手も『削る』。

 まさに決死の攻撃。



 生きている感覚(痛み)を感じられない彼女が、しつこく生にしがみついている理由。


 それは、生きていない彼女が、『好きな人』を自分と同じ状態にして死ぬ事。

 好きな人の首を落として、好きな人の血を浴びて、好きな人の首を抱き締めて、月の下で踊る。

 その後、自分も後を追う。


 それが、生きる事を嫌っていた彼女が唯一持てた人生目標。

 酷く自分勝手な醜い目標。


 脳内麻薬の中毒と、身体強化による身体の負担を良く理解していた彼女。

 自身に起きている不幸と悪意を、好きな人に存分にぶつけてから死ぬ事だけが、彼女を生かす原動力となっていた。



 

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