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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
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◆2-8 イルルカという少年と『私』

クラウディア視点


クラウディアの秘密




 『ボン!』


 イルルカと呼ばれた少年が検査器に触れると、検査器の魔導灯が破裂するのではなく、検査器そのものが爆発した。



 周囲の子の中には、びっくりして腰を抜かしている子もいた。


 教師達は事前申告通りだったからか、衝撃は少ない様だけれど、流石に驚いていた。


 …ま……まぁ…よ…予想通りだったし…ちょっとビクッとしたけど…私はビビってないわ…嘘じゃ無いわよ…


 …でも、あの子の魔力器(まりょくうつわ)…何か変ね。一瞬おかしな場所に強い魔素反応があったような…?



 担当教師は「一応、規定なので質問するぞ。能力の内容は?勿論、答えたくなければ答えなくて良い」と言う。


 …これは、『学校は一応質問しました。でも答えなかったので、問題が起きても学校の責任ではありません』という言い訳用ね。


 続けて「こちらは出来れば答えて欲しいのだが、ギフテッドなら何かしらの『不足』があると思うのだが、学校や他の生徒に気を付けて欲しい事はあるか?」と聞いた



 少年は躊躇(ちゅうちょ)した後、「誰か、剣か槍…金属で出来ているものを。そして要らない物を、くれませんか?」と言った。


 教師の一人が建物内に戻り、一振の剣を持ってきて、それを渡した。刃を潰してある訓練用の剣だ。


 少年は「ありがとうございます。」と言って剣を受け取った。そして、

 「俺…私は、鍛冶屋の息子です。だった…です。去年、自分が初めて打った剣を持って試斬り(ためしぎり)をしに行ったんです」と、話し出した。


 「元々、ぼ…私はギフテッドなんかじゃ無かった…小さな獣を探しに、『黒の森』の近くまで行ったん…です。試斬りついでに晩御飯にしようと思って。」


 と、言いながら、受け取った剣を両手に水平になる様に乗せた。そして、魔力を集中させていった。

 周囲の気温が高くなってきた気がする。


 「そうしたら、魔獣に出くわしてしまって…反射的に剣を魔獣に向けたんです…」


 水平に持った剣が、どんどんと赤く輝いていった。


 …暑い…近くの人が離れていく。


 「襲われて、脚を食い千切られて…死んだと思いました」


 剣が、赤から真っ白に光輝く。


 …眩しい…暑い…息苦しい…


 白く光る剣が、僅かに小さくなった様に見えた。


 「気がついたら、食い千切られた筈の脚が繋がっていて、街の城門の外に立って居ました」



 今度は、剣が段々と黒く変色していった。

 高かった気温が、今度は急激に下がってきた。


 …ふぅ…息がしやすくなった…皆も、ゆっくりと深呼吸している。


 「それから工房にあった、親父が打った剣を触って魔力を流してみたら、こういう事が出来る様になってました」


 少年が黒く染まった剣を男性教師に渡した。


 「『不足』が何かと言えば、この脚の事くらいです。ただ、僕が…私が魔導具に触れると、爆発するようになってしまいました」


 剣を受け取った教師が少し驚いた様な顔をして、別の教師に何か指示を出した。指示を受けた教師は急いで、もう一本の剣を持ってきた。


 「下手に高価な魔導具に触れて壊してしまうと不味いと思い、教会に相談しに行ったら、そこに来ていた枢機卿に会いました。枢機卿は相談に乗ってくれました」と言い、一拍置いて、

 「話を聞いてくれた枢機卿は僕を養子として、魔力制御を身に着けさせる為に、ここの学校に入る様に言いました。それで…ここに来ました」


 …この魔力の流れ方と緊張した匂い…何を隠している?

 黒の森の事?それともイリアス枢機卿と何か約束した?

 本当は、黒の森で何があって、どうして命が助かったのか…それを聞きたいわね。

 もし、瀕死の彼を助けた『何か』があるのなら…見てみたいわ…


 「そして、私が使える魔術式はこの圧縮だけです。

 …元々は炉の火種に使う程度でした…」


 担当教師が、先程持ってきて貰ったもう一本の剣を、台と台の間に橋渡しで置いて、イルルカが魔力を込めた剣を振りかざした。


 一刀両断。


 イルルカの剣が、同じ材質で作られた筈の剣を『斬った』。刃を潰してあったから斬れる筈の無い剣で。


 周囲がざわついている。


 「金属を圧縮する程の魔力…?」担当教師が呟く。

 「まるで、熟練の鍛冶師が叩き直した様だ…」


 「圧縮魔術式でも金属を圧縮するのは見たこともない…」


 「これは…凄い事になるぞ…」




◆◆◆




 …やはり分かる人には分かるわね…


 …ガラティア…ガラティア…起きてる?


 『…見てたわ』と頭の中に声がした。


 『どう思う?貴女の知識にある?』


 『あれは…多分、…金属結晶の微細化…不純物の排斥、圧延加工と…その際、一部鋼化しているようね』


 『微細化…?ああ…金属結晶の大きい物を小さく砕いて融着させ直したと言う事かしら? 密度を大きくした?』


 『そうだと思うわ』


 『潰れた刃が鋭くなってるのは全体的に圧延されたからか。

 鋼化は不純物として混ざっていた炭素が微細化時の高熱と高圧で鉄と結合したと言う事ね』


 『相変わらず、理解が早いわね…』



 …私は頭の中にもう一人の『私』を持っている。

 彼女は私が洗礼式を受ける前に、私の頭の中に産まれた。

 彼女の名前は『ガラティア』、私の浸礼名と同じ。


 ガラティアは何故か、私の持ってない知識を持っていた。

 小さい頃からガラティアは、私の先生であり、姉であり、友であり、『私』であった。


 ガラティアはいつも眠っている。しかし、強い魔素反応を感じると起きる。


 私が小さい頃は、彼女が起きた時に、私とデミトリクスの先生をしてもらっていた。

 この事を知っているのはデミちゃんだけ。三人だけの秘密。


 死んだパパもママもエレノア様も、ジェシカやルーナも知らない。秘密の『私』。


 『私』の知識を元に、私は魔導具や回路を理解した。

 『私』の知識を元に、私は新しい魔導具を作った。

 創ったのは『私』。私は作っただけ。


 エレノア様は私を天才と言うけれど…ガラティアの知識を利用しているだけ。


 ガラティアも、『何故私の中に産まれたか?』『何故知識を持ってるか?』を分かってない様子だった。


 人の魔術式を見た時に、『私』が知識を補填し、私が理解する。二人で相談しながら解析する。

 だからほとんどの魔術式を解析出来る。


 …ズルしてるから。


 『私』は私であり、私ではない。

 私は時々入れ替わる。誰も気づかないけど。


 『私』が主人格の時は、冷静で正確。計算が物凄く早い。

 私が主人格の時は…デミちゃんを可愛がる時と人を殺す時。


 『私』は意外と優しい。

 この前も犯罪者達を殺さない程度に手加減していた。顔は潰していたけれど。


 私は『私』に、冷酷で怖いと言われた事があるけと…デミちゃんと仲間以外は、どうなろうと構わないと考える私ぐらい、人間味溢れる人は居ないと思うのだけれど…?


 死体の真ん中で、ちょっとしたジョークを言っただけなのに『私』は引いてたわね…ジェシカとルーナは悪巫山戯(わるふざけ)に乗ってくれたのに…


 『ガラティア…あの能力…危険よね?』


 『そうね…剣や槍程度に使う分には問題ないけどね』


 『気付いた教師も居たようだけれど…』


 『そうね。それと…貴女は気付いたと思うけど…』


 『ええ…イルルカは魔力器(まりょくうつわ)を2つ持ってるわね。首元と左膝』


 『そうね…左膝のはかなり大きいわね。首元のは小さいけど…首元のが元々の彼の魔力器ね。

 さっきの力の根源は左膝の魔力器ね。触れた魔導具が爆発するのも、合わさった魔力の出力が並外れて強過ぎるせいだと思うわ』


 『黒の森で…何かあった…?それを隠している?』


 『多分ね…。知りたければ本人に聞くしかないわね』


 『…機会があればね…』


 『相変わらず、貴女は人見知りなんだから…』


 ガラティアは、私の頭の中で困った妹を見る様な目で私を見て、ため息をついた。


 私だって…やれば出来る子なのに…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ…友達作るのが苦手なだけよ…




◆◆◆




 ただ単純に剣や槍を叩き直す程度の能力なら、私もこんなに驚かない。

 彼がやったのは、鉄の『変質』を、そのままの形と性能を保ったまま行ったという事だ。形を崩さず折れず、剣として使える状態で…だ。

 この国の炉で行うより強い火力で…。


 もし、さっきの微細化と圧延を他の『武器』や『鉱石』で出来たら…応用を幾つも思いついて興奮する…。


 理解していた教師達も同じ気持ちかしら…?



 「貴方の能力実演と説明に、感謝する。」

 と担当教師が礼を言う。


 「他者を殺傷する能力では無いが、傷つける事は出来る能力だ。決して間違った使い方をしないように心掛けてくれ」

 と、注意して終えた。



 …さて、次はデミちゃん、上手くいけるかな…



挿絵(By みてみん)

イルルカ

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