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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
209/287

◆4-109 晩餐会 ダンスホール フェローチェ

第三者視点




 「この程度で死なないで頂戴ね」

 そう言うとクララベルは、持っていた大剣をくるりと回して逆手に持った。

 逆さまにした大剣を両手で握り締め、背後にある中庭とホールを隔てた網入りガラスブロックに突き立てた。



◆◆◆



 この中庭は植物園。


 帝国は気候が極端ではないので、周辺国の植物を育てる事が容易だった。

 なので外国から変わった植物を幾つも取り寄せていた。

 取り寄せた多種多様な植物は、迎賓として招待した外国人達や、この邸宅を借り受けた貴賓達を喜ばせた。


 だが僅かとは言え、この国の気候に合わない植物もある。

 その為、中庭を硬質ガラスのドーム天井で覆い、外気を遮断し、植物の育成がし易い様に、温度・湿度を安定させる構造で建てられていた。

 換気は全てダクトで行われ、通常であれば空気の循環に問題は無かった。

 建物火災の崩落によって、途中の換気ダクトが潰されていなければ…本当に問題は無かった。


 中庭に充満していた白い煙は、可燃性の毒ガスだった。


 この可燃性ガスは、一部の植物から出たものもあるが、大半は外壁保護の為に塗られていた塗料から出たもの。

 本来、火災のせいで外壁用塗料から毒ガスが出たとしても、大気中に散るために問題は無かった。今迄は。

 この中庭の様な、()()()()()()()()()で火災が起きた事は、これ迄無かった。


 発生した大量の可燃性ガスを排出する為の換気ダクトは潰れていて、既にその機能を失っていた。

 更に、一度に大量発生したガスによる内圧のせいで、小さ過ぎる隙間では外気の循環が起きず、中庭では酸素の欠乏が起きていた。


 可燃性ガスはある。

 発火に必要な熱もある。

 足り無いのは酸素だけ。


 酸素が少ないせいで火災はどんどん小さくなり、一見鎮火したかの様に見えた。

 火は弱まった様に見えたが、中庭は依然として高温のまま。

 高熱は外壁保護用の塗料を溶かし続け、可燃性のガスを作り続けていた。

 中庭の視界を埋めていた大量の白い煙は、全て、その可燃性のガスだった。


 そのガスを封じていたガラスブロック製の巨大な窓に、クララベルは意図的に通気口をこじ開けた。

 新鮮な酸素の供給口を開口する事を目的とした行動だった。


 鋼製の網入り硬質ガラスブロック。

 厚さ20センチ以上の特殊な防炎耐熱、耐衝撃耐貫通ガラス。

 高位貴族の使う高威力魔道銃の至近距離射撃でも貫通は不可能。せいぜいひびが入る程度。

 この部屋自体が籠城戦闘を想定しており、中庭に入り込んだ敵の攻撃を完璧に防ぐ事の出来る強度で作ってある。

 それを、彼女はたったの一撃で貫き通してしまった。



◆◆◆



 クララベルの意図を瞬時に察したセタンタは、彼女が大剣を逆手に構えると同時に、壁際にあるテーブルの残骸を足場にして跳んだ。

 そのまま垂直に跳び上がり、数メートル上にある二階の廊下、その床の縁に指の先を引っ掛けた。


 間を置かず、セタンタは片手の指の力だけで己の身体を一気に引き上げる。

 引っ張る勢いそのまま、更に高く空中に跳び上がり、1回転して二階の手摺を飛び越えた。


 その時丁度、クララベルの大剣がガラスブロックを貫通した。


 セタンタは、二階廊下に降り立つと一切立ち止まらずに、一番近くの壁柱と壁の隙間に飛び込んだ。

 息を大きく吸い込み、柱を盾にしてしゃがみ込む。

 彼は、すぐ後に来る惨事に備えた。

 それとほぼ同時に、耳をつんざく爆発音がホール内に響き渡った。



 クララベルは、ガラスブロックを貫通した大剣を引き抜くと同時に、すぐ近くの階段の下に飛び込んだ。

 左腕と左脚で大剣を抑えてしゃがみ込み、階段とその柱、そして大剣の陰で自分の身体を覆った。

 だが、その行動を終える間もなく…


 ドゴォン!


 轟音と共に、ガラスブロックで出来た窓が爆散した。


 全ては一瞬の出来事だった。


 まず最初に、大剣を引き抜いた僅かな隙間から侵入した酸素が、中庭の可燃性ガスと混ざって小さな爆発を起こした。

 その爆発で、補強している鋼線ごと切断されたガラスブロックは爆発の圧力に耐え切れず、粉々に爆散。


 爆散したブロックを中心に周囲が引っ張られ、周りのガラスブロックの鋼線も連鎖的に引き千切れた。

 そのせいでブロック同士を繋いでいた補強が外れ、ガラスブロックの組み合わせで出来た巨大な窓の耐久力が一気に弱まった。


 最初の小爆発で酸素を失った火は、ほんの刹那の間だけ静かになった。

 だが、爆発で空いた穴にホール内の新鮮な酸素が一気に取り込まれると、最初の爆発とは比べ物にならない爆音がホール内に響き渡った。


 最初の爆発と後の爆発の間には、人間が聴き分けられる程の時間的な差は無い。

 二つの爆発は一つの大爆発となって、二人の耳に届いた。



 強靭な鋼線で引っ張られて制御されていた応力が、そのまま反動の力となった。

 引っ張られたバネが一気に縮む様に。

 必死に押さえ付けていた(たが)が外れた箱の様に。

 力のベクトルが窓の中心と端に向かい、そのベクトルは中庭からの爆発に押されて方向を変え、ダンスホールに向けて放たれた。

 その力は爆発の威力に上乗せされる。


 ガラスブロックで出来た強固な窓は、それそのものが巨大な手投げ弾の外殻となり、爆散して室内を襲った。



 中庭側からホール室内に向けて、20センチ立方体の硬質ガラスが散弾の様に飛び込んだ。

 爆発の勢いに押し出されたガラスブロックは、一発一発が大砲の弾の様な威力となった。


 大砲の散弾。

 爆発音と共に建物全体が大きく揺れた。

 ここが避難設備として強固に造られていなければ、建物ごと倒壊して跡形も残らなかっただろう。

 この円筒状のダンスホールが巨大な大黒柱として建物全体を支え、ガラスブロックの散弾を内側で受け止めてくれたお陰で、建物自体の倒壊は免れた。


 だが、被害が軽微だったわけでは無い。


 20センチ立方体の硬質のガラス玉は、砲弾となって、窓とは反対側の壁に向けて撃ち込まれた。

 ガラスの砲弾は2階の通路にまで届き、石で出来た廊下とその手摺を何か所も砕いて、すり潰した。

 その廊下を支えていた1階の飾り柱に命中した砲弾は、飾りをこそぎ落とし、柱に大きな穴を空けた。

 耐久力が落ちて2階より上の廊下の重さを支えきれなくなった柱は、2階廊下の一部、更にはその上の3階廊下の一部もろとも崩落した。

 正面入口側のコンクリート壁に撃ち込まれた砲弾は壁にめり込み、幾つもの穴を穿ち、穴同士を繋ぐ様に正面扉の周辺に巨大なひびを入れた。


 爆発の圧力に耐え切れず、細かく粉々に飛び散った硬質のガラス片は、数千数万の小さな弾丸となり、部屋中に飛び散った。

 小さくなっても、コンクリート製の壁にめり込む程度の威力は保った弾丸。

 それは、二人が壊した家具の残骸を更に細かく削り、数少ない無事だった陶磁器を小さな欠片に作り変えた。

 床の大理石に無数の傷をつけ、黒鋼檀の扉にすらめり込んだ。

 そして2階上方に飛び散った弾丸は、壁柱の陰に隠しきれなかったセタンタの肩の肉を削り取った。


 硬質ガラスの散弾銃。

 もしその場に防ぐものを一切持たない生き物が居れば、一瞬で引き千切れ、肉塊に成っていただろう。


 だがこれまでの被害は、この後に来る真の暴力に比べれば、ほんの前座に過ぎなかった。


 大きなブロック窓からガラスブロックがほとんど消え去り、壁には、四角い形の巨大な口が出来上がった。


 その口が大きく息を吸い込む。


 中庭に残った可燃性ガスに三度(みたび)新鮮な酸素が届けられる。

 その穴から、爆風と共に荒れ狂う熱波が渦を巻きながら、勢い良くホールの中に飛び込んで来た。



 

バックドラフト…映画面白かったですよね…ね?

え…?1991年…?

ゴホンゴホン…持病の癪が…

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