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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
201/287

◆4-101 晩餐会 東門壁内通路

第三者視点




 「良し!歩兵突撃!」


 号令に呼応して、騎士達は頭の上を偽装柵の盾で覆いながら破壊された通用門に突撃した。

 その頃には無意味と判断したのか、雨の様に降り注いでいた矢はピタリと止んでいた。


 通用門をくぐり抜けると、複雑に入り組んだ通路が目に入った。

 角が多くて視界の利きにくい通路の先々を、所々で淡く発している頼りない光源が照らしていた。


 一定の距離ごとに置かれた灯明皿から出た芯の先に、小さな火が灯っている。

 それらが、突入した彼等の足元の床や、手探る壁をほんのりと浮かび上がらせ、探索の手助けをしてくれた。


 床は同じ大きさに四角く切られた石材が整然と敷かれ、表面の凹凸はセメントで綺麗に(なら)されていて、歩く事に支障は無い。

 しかし、通路は枝分かれと曲がり角により、多数の死角を作る迷路の様な構造になっていた。

 そして、通路の幅は男性が2人も並ぶと肩がぶつかるくらいに狭い。

 万が一敵に攻め込まれた場合、一気呵成に奥まで突破されない為の設計であり、砦などに使われる建築方法だった。


 だが、通路が狭いからといって、中が狭いわけではない。


 多くの警護兵達の生活する場も兼ねているので、内部は結構広い。

 途中途中に、何処に通じるか不明な階段、多くの兵士控室に宿直室、身分によって使い分ける複数の待合室や取調室、広い台所と食堂に、更に広い食料倉庫、簡易的な牢獄まであった。


 首都の東西南北にある各大門街壁そのものが一つの砦であり、敵に攻め込まれた場合、若しくは街中で暴動が起きた場合、内外どちらにも対応して籠城出来る様に造られていた。


 「伏兵に警戒!各部屋及び、通路の死角を(あらた)めよ!」

 隊長達の命令に従い、部下達は部屋の扉を次々に破壊して、中をざっと検めていった。


 部屋の中には装備品や各種書類、生活用品や食料の他、検疫や検査時に押収されたと思われる品々が木箱に入れられ放置されていた。

 しかし、伏している兵等は何処にも居なかった。


 「も抜け…か…」

 後から街壁内に入って来た大尉が呟く。


 「やはり…情報が漏れていた様ですね。

 無駄な被害を出さない為に退避させたのかもしれませんが…何か嫌な予感がします」

 側近が周囲を確認しながら耳打ちした。


 彼等は、周囲の通路に複数の出入り口がある比較的広い部屋を占領して、簡易的な司令部を設置した。


 「…作戦は街道制圧から、東門確保に変更する。

 制圧後、閣下達に分かる様に狼煙を上げろ」

 大尉の命令を受け、側近達は中隊長達に伝令を出し、各隊長に伝えられた。


 「半分は階段の確保。街壁上部へ通じる道の捜索、及び制圧!

 他の部隊は街中に通じる通用門出口、若しくは、大門を操作する機械室を探せ!」

 各隊長が命令を出し、各々の部下を振り分けていく。


 「警護兵達に魔道銃は無いとしても弓矢はある。

 毒矢を想定し、常に警戒を怠るな!」

 上部制圧を任された部下達は、神妙な顔で頷き、手分けしてそれぞれの階段を駆け上がって行った。


 突入してからは全く抵抗が無い。

 破壊して入ってきた通用門も見張らせているが、外側からの追撃の様子は無い。

 挟撃も伏兵も見当たらない。

 拍子抜けするほど、すんなりと各部屋を制圧出来た。


 「この分だと、意外と簡単に占拠出来そうですな。

 東門(ここ)さえ押さえれば、ベルンカルトルが軍を出しても暫く持ち堪えられます」

 中隊長の一人が、部下たちが次々に扉を破壊して部屋を確認して行く様子を見ながら呟いた。


 「確かに…。

 先に閣下達が到着すれば、通用門か大門を開放して街の外に退避させる事が出来ますし、上手くすれば、此処を拠点にして王宮に攻め入る事も可能です」

 別の中隊長も同意した。


 「こんなに容易ければ、西門や南門では既に占領し終えているかもしれませんな!ハッハッハ…」

 各隊長達の間では、楽観的な空気が拡がっていた。


 そんな中、大尉と一部の側近達だけが困惑した顔で眉間に皺を寄せていた。


 「それにしても、普段はこの様な場所に入らなかったから知らなかったが、何やら甘ったるい様な臭いような…変な匂いがしますな…。

 平民の生活する場だからですかな?」

 側近の一人が鼻をひこつかせながら、手で抑えた。


 「恐らく…押収した品の中に食料があり、それが腐っているのかもしれません」

 隊長達が、部屋の隅にある木箱に目を向けた。


 気になった者が箱を開けてみると、中には腐りかけの果物や枯れた草花が入っていた。

 下の方には、黄土色になった植物だったモノらしい塊が詰っていた。


 「うう…臭い!蓋を閉じろ!」

 側近の一人が鼻を抑えながら命令すると、中隊長が慌てて蓋を被せた。


 そうこうしている内に、各場所に散った部隊の小隊長達が司令室に戻って来て、次々に報告を上げていく。


 「報告します!

 街壁上部に出ると思しき扉を発見。

 現在、部下達が開放作業を行っております」

 階段の探索を行っていた部隊長が報告しに戻って来た。


 「良し!他の隊も集めて扉の前に待機。開放次第、敵警護兵を無力化しろ!

 生死は問わない!飛び道具に注意しろ!」

 報告を受けた中隊長が嬉々として指示を出しながら、部下と一緒に部屋を出て行った。


 入れ違いに、各部屋を検めていた部隊の長が司令室に入って来た。

 「報告します!

 大門を操作する為の機械室を発見!

 敵兵はおりません。

 ただ、操作用の部品が抜かれていて動かす事は不可能だそうです」

 「…倉庫の方を調べろ。代用出来る部品を探せ」

 側近の一人が指示を出すと、部下は敬礼した後、部屋を飛び出して行った。


 「代用部品など、あると思うか…?」

 出て行った部下の後姿を見ながら、大尉が小声で隊長達に話し掛けた。


 側近の一人が苦い顔をしながら応えた。

 「…私なら全て回収、若しくは破棄します。

 こうなると、閣下達を逃がす為には街側の通用門の発見と開放が必須です…」


 東門機械室を制圧しても、大門が開けられなければ意味が無い。

 内側に居る味方を脱出させる為には、迷路の様なこの建物を抜ける道を探さねばならない。

 数百人の部下が四方に散って捜索しているが、未だに街側に通じる扉の発見報告が無い。

 手詰まり感に、司令室の中で皆が唸る。

 

 「報告します!

 恐らく、街中側に出る為の通用門と思われる扉を発見しました」

 「おお!そうか、良くやった!」

 暗い雰囲気の司令室に朗報が届いた。

 直属の部下がもたらした報告を聞いて、喜ぶ中隊長。

 

 「…しかし扉が思っていたより頑丈で、開放に手間取っております!」

 「ふん…お前達だけでは無理か。仕方ない、俺がやってやろう!」

 中隊長は部下に案内されて部屋を出て行った。


 次々に発見の報告が入り、それを受けた各隊長は各場所へ散って行った。

 

 数名の上官達だけが司令室に残った。

 その中で、大尉と側近達はお互いに顔を見合わせた。


 「どうにも薄気味悪い…」


 大尉は、周囲の部下達に聞こえない様に小さく呟いた。

 そして、それに応えるかの様に側近達も頷いた。



◆◆◆



 その通用門出口は、狭い通路の角に隠される様に設置されていた。

 大きめの扉ではあったが、すぐ横に飛び出した壁柱の影に隠れる様に設置されていて、周囲の壁や影に紛れる色合いで塗装されていた。

 この薄暗い通路内だと、注意深く見ないと簡単に見逃してしまう。


 「なんとも…性格の悪い…。良く見つけたな」 


 そう呟きながら、中隊長は頑丈そうな扉に触れて開けられるかどうかを探った。


 「鍵は掛かってない様だが…ビクともせんな…。

 通用門である以上、外側に(かんぬき)を掛ける意味は無い…。

 となると、外に荷物を積み上げて扉を塞いだか…?

 この通路では破城槌も使えないし…力ずくでは無理か…」


 「圧縮魔術式で破壊を試みましたが、表面が焦げるだけで、開く様子はありませんでした…」

 部下達は肩を落とした。


 通用門出口を開いて一番手柄にしようとしていた中隊長は、他の仲間の手助けを受ける事態を(いと)っていた。

 自分の裁量の範囲内で出来る方法で、扉の開放を考えた。


 「なら仕方ないな…。とっておきだ。

 崩落はしないと思うが…粘土火薬を持って来い!」


 破城槌が失敗、若しくは破壊された時に備えて用意していた粘土火薬。

 ハシュマリムから買い取った、自由に形を変形させられて、威力も大きな特殊爆弾。


 「拳大の量で金貨十枚も取られたからな…ちゃんと作動しろよ…?

 ええと…雷管とかいうのを入れて…導線を垂らして…」

 教わった通りに設置していく。


 「これでよし…。

 お前達、通路の角や部屋の中に身を隠せ!」

 中隊長の命令で、周囲で見ていた部下達はすぐに身を隠した。


 「3…2…1…」

 カウントダウンに合わせて、中隊長は導線の発火点に圧縮魔術式を放った。


 シュー…

 導線の火が、火花を散らしながら一気に駆け上がり、粘土爆弾の雷管まで辿り着いた。

 その瞬間…


 ドン!!!


 短い爆音と伴に閃光が走り、通用門が外側に吹き飛んだ。

 圧縮された空気が逆流して、狭い通路や近くの部屋の中で突風となって吹き荒れた。

 爆発と同時に周囲に飛び散った火種は石畳の上で燃え続け、通路を明るく照らしている。

 通用門のあった場所の周りの壁は黒く焼け焦げていたが、通路自体が崩落する様な状態にはならなかった。


 「良し!素晴らしい威力だ!」

 「お見事です!隊長!」

 部下達から拍手が沸き起こった。


 爆発によって飛び散った火花の一つが何かに引火し、通路の隅で小さく燃え出した。

 その火が、通路を奥に向かって静かに進んで行ったが、他の派手な火種に紛れていた為、誰もその事に気付かなかった。



 

粘土火薬≒C-4爆弾


正確には違いますが、そんな感じ。

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