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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
200/287

◆4-100 晩餐会 東門街壁外 開戦

第三者視点




 8の鐘が鳴る直前、街壁の東門前では言葉による小競り合いが起きていた。


 「だからっ!…何度言えば理解出来るのだ!

 我々は魔導科学研究所のフィングリッド様の身辺警護の為に呼ばれているのだ!

 ウェルギット子爵から彼の警護を命じられている。

 早く中に入れろ!」


 帝国の南東、ウェルギット子爵領から派遣された騎士団と東門を護る警護兵との間で、押し問答が繰り広げられていた。


 「そうは言われましても…首都所属の軍属で無い方は、事前に申請して頂いた人数を超えて入れない規則となっております。

 フィングリッド=エーギル上級研究員が連れて入られた護衛は規定数上限に達しております」


 この数日間は、首都に入る人数に制限が設けられていた。

 特に今日は式典の日。

 街の宿も事前の予約でいっぱいになっている。

 街に入れて下手に路上で寝られでもしたら、いくら巡回の兵士が居ても、朝には良くて裸、悪ければ死体が出来上がる。

 なので、各領主が王帝の許可無く連れてきた者達は、平民・貴族に関係なく、街壁外広場での野営をさせる事になっていた。

 篝火を焚いて立哨を置き、テントで休めば、街中で寝るより遥かに安全だからだ。


 「規定に従って本日は外広場でお休み下さい。

 テントや篝火の追加が必要でしたら、8の鐘迄に申し付け下さい。

 代金は、後日ウェルギット様に請求致します」


 警護兵とも思えぬ胆力で、身分が上の騎士に対して滔々(とうとう)と言葉を返していた。

 事前に通達されていた規則に従った返答なので、騎士の方も言い返す事が難しく、中々思い通りにいかないのでイライラしていた。


 「だから…!

 その護衛に何かあったかも知れんのだ!

 もし死んでいたら追加出来るだろう?

 確認せねばならん!」

 と、騎士が言うと、

 「何か…とは何でしょう?

 亡くなったという報告は受けておりません。

 憶測での通行は許可出来ません」

 と、兵士が応える。


 「だから!それを確認しに行くのだ!」

 「何故そう考えるかの理由を仰って下さい。

 その理由をもって上司に伺いを立てますので」

 「だから…!…何となくわかるのだ!」

 「申し訳ございません。私には分かりません。

 理由が分からないと、上司に話を持って行く事も出来ません」


 騎士の怒鳴り声を平然と躱す兵士。

 ああ言えばこう言うで、全く取り合わない。


 「一刻前に此処にいた兵士に代われ!貴様では話にならん!」

 「彼は既に退勤致しました。明日の朝までお待ち下さい」

 「話の分からん奴だな!口答えしとらんで、さっさと通せ!」

 「規則ですので、私の判断では許可を出せません」

 「…この!」


 騎士からしても、詳しい理由を話す事は出来ない。

 何故、異変を察知しているかの理由は話せない。

 のれんに腕押しで既に四半刻(30分)浪費し、いつ8の鐘が鳴ってもおかしくは無い。


 「まずいですよ大尉。

 フィングリッドの監視をしていた護衛達からの定刻連絡がないまま予定時刻になってしまいます…」

 騎士と兵士のやり取りを離れて見ていたウェルギット私兵の中隊長が、軍隊長に耳打ちした。



 フィングリッドの護衛隊の役目は二つあった。


 エーギル家からの護衛が期待出来ないフィングリッドの身辺警護。

 職場で干されているとはいえ、彼の才能は本物。

 万が一を危惧していた。


 そして、フィングリッドの動向を監視し、彼の様子を逐次報告する任務。

 ハシュマリムとの繋がりが強すぎる事を心配した。

 何かしらの裏取引をして、予定外の行動を取られる事を危惧していた。


 彼が危険に曝されないように。

 そして予定時刻の前には退避させて庇護下(監視下)に置く為に。


 その監視連絡が、半刻前の『本人に同行し中央区の路地裏に入る』という護衛隊長からの連絡を最期に、消えた。


 護衛隊から連絡が無ければ、中継ぎ連絡員から『連絡取れず』の報告がある筈なのに、その報告すら無い。

 何かあった事は確実なのだが、連絡員やウェルギット家が買収した兵士達含め、全員と連絡が取れなくなっていた。


 このまま作戦を実行するべきか否か、離宮に居る当主に伺いを立てようにも、中継ぎの連絡員と繋ぎが取れない以上どうしようもない。

 内容が内容だけに、通行許可を持つ商会の馬車に中継ぎを頼むわけにもいかない。


 「明らかに異常事態なのに…!」

 大尉と呼ばれた男は歯噛みした。

 中隊長や側近達にも動揺が拡がっていった。


 カーン…カーン…


 そうこうしている内に8の鐘が鳴り、花火が上がった。

 壁の内側から街の人達の歓声が上がり、同時に、小さく爆発音が響いた。


 「くそっ!時間だ!…作戦実行…しろ」

 「作戦実行!」

 側近が部下に命令を出した。


 ドーン!!


 その瞬間、東門が閉じるより早く、街門外の落とし格子が落下した。

 落下する直前に街門警護兵が押し問答していた相手を突き飛ばしたので怪我人は出なかったが、一歩間違えれば押し潰されていた。


 「なっ!何をする!」

 「申し訳ありません。

 落とし格子の調子が悪く、危険と判断したので咄嗟に手が出てしまいました。お許し下さい」

 警護兵は表情を変えずに淡々と謝罪した。


 「何が危険だ!

 あらかじめ口頭で注意すれば良かっただろうが!

 わざとギリギリまで待ってから突き飛ばしたな!」


 心の伴わない彼の謝罪に、怒りで顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

 彼の怒鳴り声を合図に、待機していた騎士達が集まり、落とし格子越しに警護兵達と睨み合いになった。


 「一体何事だ!貴様が騎士に手を上げたのか?」

 「我々に入られると困る事でもあるのか?」

 「先程の爆発音はなんだ!街の中から聞こえたぞ!」

 「子爵の身に何かあったのではないか!?」

 「隠し立てするのか?力づくで通れと言うのか!?」

 これ幸いと騎士達は、次々に『予定されていた言葉』を口にした。


 「爆発音?歓声を聞き間違えたのでしょう?

 ほら…楽しげな歌声が響いてきてますよ?

 皆様も楽しんで下さい…」

 巨大な格子越しに、馬鹿にする様に話す警護兵。


 「…それが騎士に対する口のきき方か!」


 自分達より身分の低い警護兵に馬鹿にされたと感じた騎士達は怒り心頭に発し、剣を抜いて格子越しに突き立てた。

 警護兵はゆっくりと後退りして、届かない剣や槍を横目に閉門作業に入った。


 「大尉…まずいです。完全に作戦がバレてます。恐らく連絡員達も既に…」

 「分かっている!爆発の規模も小さ過ぎる…。

 だがっ…!だからこそっ!主を街から救い出さねばならん!」

 大尉と中隊長は小声で言い合っていた。


 本来は首都で危機が起こり、それを理由に主を助ける口実で堂々と大門から入る予定だった。

 その嘘が既にバレていたが、結局突入しなければ主を見殺しにしてしまう。

 結局やる事は一緒だが、難易度は遥かに高い。


 「小型破城槌を用意しろ!狙うは通用門!」

 大尉が命令を出した。

 万が一、こういう事態も想定して準備をして来ていた。


 騎士達は、すぐに各場所に設置してあった指揮所用テントを解体しだした。

 素早く帆布を剥ぎ取り、固定していた紐を解き、各所の杭を抜いていく。

 斜めの筋交(すじか)い杭を一本ずつ外し、数人がかりで残った中央の太い柱を地面から引き抜いた。

 引き抜かれた柱は先端が尖っていて、そこに鋼板が被せられていた。

 そしてその柱を、馬車から外した荷車に乗せて固定した。

 荷車にテントの紐を巻き付けて6人分の引手を付け、小さな破城槌を完成させた。


 その様子を見た街壁上の警護兵達が、一斉に矢を放つ。

 対して、騎士達は野営地の外柵に偽装していた盾を持ち出して頭上に掲げ、矢を受け止めた。

 鋼板を裏打ちした偽装柵は、警護兵の放つ矢を軽く受け流した。

 騎士達も牽制のために魔道銃で応戦するが、距離があり、胸壁に身を隠した警護兵には当たらない。


 「突撃!東門を開放しろ!」

 「奴等は魔道銃は使えない!矢毒にだけ気をつけろ!」

 「「「オオー!」」」


 怖さを紛らわす為の気合の喚声と共に、破城槌を構えた部隊が、大門のすぐ横にある通用門に向けて突撃した。

 雨のように降り注ぐ矢を、別の騎士達が偽装柵を傘の様に掲げて突撃隊を護る。

 外側に警護兵は置いていないので、矢が当たらない突撃隊を止める者は居なかった。


 ドゴン!


 破城槌が通用門の一部を変形させる。

 ぶつかる音に合わせるかの様に、街中から陽気な太鼓の音が聞こえてきた。


 ドン…ドン…ドン…

 「第二波!用意…突撃!」


 第一の突撃隊が素早く横に避けると、次の破城槌が通用門に向けて突撃した。


 ドゴン!!

 ウワァー!

 ドン…ドン…ドドン!


 陽気な太鼓の音に重なる様に、第二波が通用門にぶつかった。

 街中から響く歓声と騎士達の喚声が合わさって、祭りの様な熱狂に包まれて行く。

 雨の様に降り注ぐ矢を流石に防ぎきれず、一人、また一人と倒れていく。

 それでも、ウェルギットの騎士達はひるまなかった。


 「第三波!突撃!」


 ドン…ドン…ドドン…

 ドゴン!!

 メキメキ…


 とうとう通用門の鍵と金具が壊れ、片方の扉が倒れた。


 「良し!歩兵突撃ー!!」

 軍隊長の命令で騎士達は、頭の上に盾を掲げながら開いた通用口に殺到した。




 

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