◆1-2 お祭りの準備をしましょう 2
第三者視点
プロローグ 2
「皆…もういいわよ」
クラウディアが突然そう言うと、皆の会話が止んだ。
「誰だったか…わかる?」
と、扉をじっと見ながらジェシカが尋ねる。
「わからない…けど地階から後をつけて来ていたから、食糧搬入をしていた誰かだと思う。目的は…分からないわね」と、答えた。
皆がふぅ…と息を吐いて、エレノア司教とジェシカが椅子の背にもたれ掛かる。さっき迄の貴族令嬢達の団らんの様な雰囲気は霧散していた。
エレノア司教は、天井を眺めながら静かな声で、
「誰だか分からなくても、誰がやらせたかは予想がつくわ。目的もね…問題無いわ」そして、冷たく小さな声で「こちらで探して処分しておくわ」と話した。
徐ろに、ジェシカが立ち上がり、
「父ちゃん、お嬢様の真似事、疲れたよー」と言いながら、オマリー神父の膝にちょこんと座り、彼の顎髭を引張って遊び始めた。
オマリー神父は「頑張ったな。偉いぞ、お嬢様」と言いながらジェシカの頭を優しく撫でた。
エレノア司教は、腰を掛けていた長椅子をパシパシと叩きながら、ノーラを呼んだ。
ノーラは「はいはい。しょうがない子ね」と言いながら立ち上がり、彼女の横に腰を掛ける。
エレノア司教はノーラの太腿に頭を乗せて靴を脱ぎ、脚を投げ出して横になった。
クラウディアの横に座っていた黒髪の少年が無表情のまま、「お姉ちゃん、お疲れ様…」と言うと、クラウディアは能面の様だった表情をへにょりと崩し、「お姉ちゃん、疲れたよ…デミトリクス成分を補充しないと!」と言いながら、自分の椅子を少年の椅子にくっつけて、彼の頭をギュッと抱えて撫で回した。
三者三様で疲れを癒やしているその様子からは、さっき迄の緊張感も威厳もお嬢様の空気も、何処かへ消えてしまっていた。
オマリー神父とノーラは、「やれやれ…」といった表情で、お互いに顔を見合わせた。
◆◆◆
「それで」と、ノーラが口を開いて、
「エレノア様、皆を呼んだ理由をお聞かせ願えますか?」と質問した。
「もう少し癒やされたかったのに…」とぶつぶつ言いながら、名残惜しそうに身体を起こすと、
「…この度、例の北のお客様を接待するように、ヘルメス枢機卿から教皇猊下に依頼があり、私達にそのお役目を任されました」と話した。
「今回私は、その為の下見に行ってきたのだ」と、髭を引張って遊ぶジェシカを窘めながら、オマリー神父が説明した。
「それで、僕達は何をすれば良いのですか?」と、クラウディアに頭を抱き締められたままのデミトリクスが尋ねると、エレノア司教は、そうね…と考えながら頬に手を当てて、ゆっくりと口を開いた。
「クラウディア、昨日話した花火の準備は出来てる?」
そう聞かれると、クラウディアはデミトリクスの頭をギュッと抱えたまま、顔だけをエレノアの方にキリッと向けて、「在庫を合わせれば、注文された個数は出来ています」と答えた。
「そう…じゃぁまず…ジェシカにはクラウディアの作った花火の設置をお願いするわ」
そう言われたジェシカは、少し考えてから頭を振り、
「エレノア様、流石に一人では手が足りません」と答えた。
「大丈夫よ。ルーナにパックを借してもらえる様に話しておいたから。クラウディアもサポートにつくわ」
ジェシカは「それなら大丈夫かな…?」と頬に手を当てて考え込んだ。
「今回ルーナは来ないから。ジェシカにはパックの説得をお願いね」と軽く言われ、ジェシカは「えっ!?ちょっ!」と発し絶望したような顔をした。
「クラウディアとデミトリクスには代表者への対応をお願い。饗す場所はオマリーが知ってるわ。後で詳しい説明を受けて」と言うと、クラウディアはデミトリクスの頭を抱き締めたまま、真剣な表情で頷いた。
続けて、「オマリーには、ヘルメス枢機卿と連携して接待の準備をお願い。道具は…コエトス・フレンティウムの特別製を用意しておくわ。クラウディアの作った魔導具も持って行ってね。少し重いけど…」
オマリーは『コエトス・フレンティウム』と聞いて嫌な顔をした後、少し考えて、「……教皇猊下の許可は下りているのですか?」と尋ねる。
「計画書は教皇に提出してあるわ。構わないそうよ。派手にやって良いって」と答えた。
「私は何をすれば宜しいですか?」と、ノーラが尋ねると、
「貴女には、貴女の得意料理を用意して欲しいの」と答えた。
「得意料理ですか?」
「ええ、相手様の人数が多いから、屋外で対応出来る量が必要よ」と言うと、ノーラは口に手を当てて考え込み、ぶつぶつと何かを計算した。そして、
「かしこまりました。結構な量になりますね…在庫を確認して、早めに準備に取り掛かります」と頷いた。
ジェシカが手を上げて、
「相手は人数が多いのですよね?ルーナが居なくて大丈夫ですか?」と尋ねると、
「今回は遅い時間に接待しないといけないからね。子供には無理させられないの。それに、ルーナ無しでも問題無い様に計画を立てたから」と、エレノア司教が答える。
それに対して「私達も、まだ子供なんですけど…」と不満を漏らしながら、「特別手当つきますよね?」とニヤリと笑った。
エレノア司教はゆっくりと立ち上がり、手を叩いて、
「北からのお客様へのお饗しの日は、一週間後の夜を予定しています。皆、大切なお客様への準備を怠らないように。」と言うと、皆が一斉に了承の返事をした。
クラウディア
ジェシカ
ちょい短いけど…第一話の補足みたいな回です。




