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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
194/287

◆4-94 晩餐会 南門街壁外の惨劇

第三者視点




 ココン…ココン…ココン!


 門が閉じ、シン…と静まり返った南門外。

 街壁上の投光器が辺りを照らす以外に動きはない。


 先程閉じた南大門。

 そこのすぐ横にある連絡用通用門を、騎士達が静かに叩く。

 昼間、街壁警護兵と飲み交わした時にコッソリと、開ける為の合図を聞いていた。


 暫くすると、門の内側からカタコトと木靴の足音が微かに響き、カチャカチャと内側の鍵を上げる音が聞こえた。


 キィ…微かに軋んだ音を立てて通用口の門が小さく開くと、昼間見た警護兵の顔がぬっと現れた。

 仕事が終わった後なのか、装備は外して身軽な服装に着替えていた。

 手に持った燭台の小さな灯りが揺れ、彼の顔を暗く照らしていた。


 「…やぁ、騎士様。

 もっと寝静まってから来るかと思ったけれど…お早いですね。

 おや?聞いていたより人数が多い様ですが?」

 「仲間に話したら、深夜まで待てぬと言う奴ばかりでな…。

 皆、冷たい土布団には辟易しているのだ」

 「まぁねぇ…まだお若い方ばかりの様ですし。何日も続く野営は酷でしょう。

 …で、約束はお一人様銀銅貨2枚でしたが…?」

 「準備してきた。数えてくれ…」


 騎士が渡した革袋を警護兵が覗き込んだ。


 「ひのふのみの…確かに。承りました」

 警護兵はそう言って懐に仕舞った。


 「他の者達に見つからない通路から案内します。

 良いですか?

 灯りを消して静かについてきて下さい。

 声を立てずに。

 もしバレたら、良くて分け前ハネられる。

 悪けりゃ、ぶん取られた挙げ句に放り出されますのでね。

 それと、娼館(やど)娼婦(ふとん)の支払いは、別途必要ですからね?」


 そう言うと、燭台を持った警護兵は踵を返し、闇に溶け込んで行った。


 騎士達は剣の柄を握り締めたまま、出来るだけ音を建てずに彼の後を追った。


 全員が通用門を潜ると扉は自然に閉まり、落とし鍵の掛かる音だけが小さく響いた。



◆◆◆



 「くそ…まだか…?」

 騎士隊長は落ち着かない様子で右往左往していた。


 「隊長殿。彼等は入ってからまだ、四半刻(30分)も経っておりません。

 騒がせずに全員を処理するには、もう少しばかり時間が必要です」

 中隊長が諌めるが、隊長はイライラが止まらなかった。

 繋いである馬にまで不機嫌さが伝わり、時折大きく(いなな)いては馬丁が大人しくさせていた。


 「そう言えば、あのバカはまだ戻って来んのか!?」

 今度は、馬を探しに行ったまま帰って来ない、参謀のメロニウスに文句が飛び火した。


 確かに、探しに行ってからずいぶんと時間が経っている。


 「そう言えば、何やら弱気な事を申しておりましたな…。まさか、逃亡したのでは?」

 「逃亡だと!?…あり得るな、クソ平民が!」


 グチグチと、篝火(かがりび)を囲って文句を言い合う中隊長達。

 事情を知らない騎士達は、携帯食を頬張りながら首を傾げていた。

 騎士ならともかく、兵士が居なくなることは良くある。

 最悪、馬さえ取り戻せれば損はしない。


 それよりも、彼らには中隊長達の言う『逃亡』という言葉の意味が理解出来なかった。

 お互い顔を見合わせながら、何か悪い事が起きるのでは無いか?と、コソコソと言い合っていた。


 彼等は『護衛』としか聞いていない。

 精々、獣や魔獣退治も付帯業務に在るだろうとは解っているが。

 こんな多くの投光器で照らされた街壁門の側に、わざわざ近づく獣など居ない。

 むしろ、光の届かない林の中の方が遥かに危険だ。


 街中からは、お祭り騒ぎの賑やかな声しかしない。

 後は、時折放たれる花火の音と金物を叩いて騒ぐ酔っぱらいの喧嘩声。

 平和そのもの。なのに、此処から『逃亡』した者が居るらしい。

 そんな、何とも表現のし難い『不安』が、騎士達の間に拡がっていた。


 当の、口を滑らせた中隊長達は、その事に気付いていないのだが。



◆◆◆



 そもそも予定では、まず、街中で連続して『爆発』が起こり『大虐殺』が繰り広げられる。

 そして、北門側から大量の『魔獣』が押し寄せる。


 各門の警護兵達は、閉門作業前に爆発や魔獣(それら)の対応に駆り出される事になる。


 各街壁門外に待機している仲間の騎士達は、各々の主と、首都の民達(後の支援者)を助け出す為に街中に突撃する。

 ついでに、魔獣を街中に引き込んだ犯人だと言って、ハダシュト王国や正教国の連中を退治する。

 更にこの機会に、仲間達と共謀して帝国内の敵対勢力を減らす。


 こちらには、宰相閣下とゼーレベカルトル第二王子、そしてドノヴァン少将がついている。


 首都の民達を助けたのは我々。

 正義は我々にある。成功は約束されたもの。

 中隊長達以上の者達が聞かされていた内容は、そんな絵図だった。


 なのに、『爆発』は起きない。

 『大虐殺』の様子は無い。

 『魔獣』が暴れている声も聞こえない。

 遠くから微かに聞こえる、魔獣か酔っ払いか判別出来ない声を理由に突撃するには躊躇する。


 隊長も中隊長も困惑していた。


 日が落ちてから混乱が起きれば民達は正確な情報を把握出来ないから、8の鐘と同時に事が起きる筈だった。

 逆に、何も起きずに門を閉められる…とは考えて無かった。


 仕方無く、カートス伯爵達が脱出出来る様に南門を押さえておくしか無い…と判断した。

 最悪失敗しても宰相か第二王子、伯爵か少将が戻って来れば、ハシュマリムと協力して一大勢力を興せる。

 反乱の連座でただ処刑されるよりは…と、藁でも掴む為の策だった。



 ゴン…ゴン…ゴン…


 そんな時、街壁の上から騎士達の野営テントに向けて、何かが連続して放り込まれた。


 「何だ!?何の音だ?」


 暗くて、何が投げ込まれたか分からない。


 ゴン!バシャン!


 投げ込まれた一つが直接篝火にぶち当たり、火の粉を撒き散らした。


 「……!?ぎゃっ!!」


 それを見た騎士の一人が叫んだ。

 飛び散る火の粉に照らされて、その『何か』を直接目にしてしまった。

 先程、街中に女を買いに壁内に入った仲間の生首だった。


 投げ込まれたモノの正体に気付くと、騎士達はパニックを起こした。

 すぐに装備を整え直せた者は極僅か。

 呑気に食事をしていたほとんどの者達は、装備を外したまま散り散りに逃げ出した。


 「何をしている!戻れ!お前等!逃亡は極…!」

 そこまで怒鳴った隊長は、最後まで言い終わらずに崩れ落ちた。


 ドンドンドン…!


 城壁の上から、篝火の周りに居た中隊長達に魔道銃の銃弾が浴びせられた。


 指揮官達が軒並み倒れると、今度は何者かによって野営地の篝火が消されていく。

 街壁の上に並んでいた投光器も次々に消された。

 壁の外に必要な命綱である『灯り』が、片端から切られていく。

 次々と起きる出来事に対処出来た者は、ほとんど居なかった。


 指揮官が倒れて灯りが消えた野営地では、叫び声と馬の嘶きのみが響き渡った。

 暗闇の中でお互いにぶつかり、パニックを起こした者同士が剣と槍を振り回した。

 何が起きているのかは分からないが、周りに仲間を殺害した者達が潜んでいる。

 隊が全滅した理由は疑心暗鬼。


 結局、真っ暗な林の中に逃げ込んだ者達の中で運が良かった者と、テントの中で動かずに丸まって居た者達だけが、長い夜を生きて越えられた。



◆◆◆



 「ああ…やっぱりなぁ…」

 林の奥の闇の中から野営地の阿鼻叫喚を覗き見ていた男は、魔獣の背の上で寝そべりながら呟いた。

 魔獣の口はモゴモゴと動いており、口の端から馬の蹄が見えていた。


 「この手際じゃあ、全部バレてたなぁ…。

 取り敢えず母様に報告に戻らないと…。

 アイツら、生きて戻れるかぁ?」


 メロニウスと呼ばれていた男は独り呟くと、魔獣と共に姿を消した。

 


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