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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
19/287

◆2-6 キャッチ&リリース

可哀想なベネフィカ視点




 何処からか、泣き声がする。

 きっと、誰かが怖い夢を見てるんだ。

 可哀想に。


 悪魔は耳が良いからね。

 静かに…静かに…通り過ぎるのを待たなきゃ。

 みんな、連れて行かれちゃう。


 息が漏れると悪魔に気付かれそうな気がしたの。

 ボクは口を抑えたよ。漏れない様に、しっかりと。

 それなのに…それなのに…喉が勝手に喋りだすよ。


 …パパ…ママ…助けて、悪魔が来るよ…



◆◆◆



 「どうかしたのかしら?」と、金髪の悪魔が喋りだした。金髪の悪魔の服の中から、小さな悪魔が顔を出して「焦点が合ってない…精神が幼児退行を起こしてるみたいだよ」と口を利いた。



 「ギャー!ママー!」と、何処からか叫び声がした。声が漏れない様に、しっかりと口を抑えているボクの手が、激しく震えているのを感じる。

 ボクの手には目から流れ落ちる多くの雫がかかり、びしょびしょに濡れていた。



 「しょうがないわね…」と黒髪の少女の悪魔が呟いた。


 …途端にボクの頭の中を何かが(うごめ)く感じがして、物凄く気持ち悪くなった。


 「ゴボッ!」胃の中の物が溢れた様な気がした。

 ベッドが迫り上がって来て壁になり、自分の顔に枕が押し付けられる。

 …息が…苦しい…


 …気持ちが悪くて目が回る。上と下がワカラナイ…

 グラグラと世界が揺れる…


 暫くして、私の頭が段々とはっきりしてきた。



 「あ!焦点が合ってきたよ。正気になったみたい」と小さな悪魔が大きな声で話す。


 …あの泣き声は…誰の声だ…?



 赤髪の悪魔が、「良かったわ!元気になったのね!」と喜んだ後、静かに私に近づいてきた。

 赤髪の悪魔は、肉厚のナイフで私の頬をペタペタと軽く叩いた。私は、ナイフの冷たさに背筋が凍りついた。


 「ベネフィカさん…ベネフィカさん?…本名は何かしら?」

 綺麗で醜悪な顔を、ニタァと笑い歪めながら聞いてきた。


 死を覚悟した。


 「わ、わ…私、私はディアッソス=フリンと申します。フリン商会の会長をしております」と、いつもの営業で使うセリフが自然と出てきた。


 黒髪の少女の悪魔が

 「間違い無いわ。今、お店の従業員が話しているわ。フリン会長を探してるみたい。 ただ、このフロアは表のお店とは直接、繋がって無いみたいだから、見つけられないようね…」


 「ディアッソスさん…それともフリン会長とお呼びした方が宜しくて?」と、赤髪の悪魔が声を掛ける。


 「ディ…ディアッソスとお呼び下さい。お…嬢様」震えそうになる声を抑えながら、言葉を絞り出した。


 「そう…では、親しみを込めて…」再び「ディアッソス…」と優しく名前を呼ばれた。背中を雷が貫いた気がした。


 赤髪の悪魔は、ナイフをペチペチと私の頬に当てながら、

 「ディアッソス…ディアッソス…生きていたい? それとも…今すぐに死にたい?」と、聞いてきた。


 生き延びられる光明が見えてきて、私は泣きながら、

 「生きたい…です…」と答えた。


 赤髪の悪魔はナイフを私の頬から離すと、「それは良かったわ」と言い、ナイフを持ったまま手を叩いて喜んだ。

 「私達ね…お友達を作りに来たの」と話し始めた。


 「オトモダチ…?」言葉の意味が分からない。

 私を生贄にして悪魔召喚でもするつもりなのか…?


 意味が分からず混乱している私の耳に、赤髪の悪魔は口を近づけて、「私達のお友達になってくれたら…生かしておいてあげる」と囁いた。


 私は何度も頷いた。

 生きられる…?私は、まだ生きていられる…?

 僅かに希望の光が見えてきた、その時…


 家庭教師の姿をした悪魔が、

 「私のお嬢様に手を出そうとした塵芥屑(ゴミクズ)なんぞ…両手両足を切り落とし、生きたまま鼠に食わせてしまえば良いのです…」と、静かに、そして地獄の底から響く、ドロドロと纏わりつく様な声で唸った。


 その瞬間、私の中の血が一気に、頭から足先へと落ちた様な気がした。

 部屋の気温が20℃位一気に下がったかの様に寒い。

 私の身体が、私の恐怖を察してガタガタと震えだした。


 その時、金髪の悪魔が「…ダメよ」と言った。

 「目的を忘れないで」と家庭教師の姿の悪魔を窘めた。


 私は全身から一気に汗が吹き出した。

 止まっていた呼吸がいきなり戻ったかの様に、肺から空気が漏れ出した。



 黒髪の少年の悪魔が、無表情に、

 「そっちはどうする?処理する?」とラセルタを指して聞いてくる。


 赤髪の悪魔が「なんだっけこれ?」と聞くと、


 黒髪の少女の悪魔が「私達をここまで案内してくれた親切な人だから、一応生かしておいたの」と無表情に淡々と話す。



 赤髪の悪魔が少し考えて、「ベネフィカ!」と私を呼んだ。


 「はい!お嬢様!」反射的に返事が出た…


 「コレが起きたら私達の事を話しておいて。私達に従うなら生かして、逆らうなら処分しておいて頂戴」と命令する。


 「(かしこ)まりました、お嬢様!」と、ごく自然に、長年の主従関係の様に返事が出た。


 私は落涙しながら笑っている自分に混乱していた。

 恐怖が転じて、悪魔達に従う事に夢現(ゆめうつつ)の中に居るような喜びを感じてしまっていた。


 …もう、逃れられない…これは…甘美な地獄だ…



 赤髪の悪魔は、微笑みながら、

 「今後、ディアッソスと呼んだら表の仕事を、ベネフィカと呼んだら裏の仕事をお願いするわ。…勿論対価は払うわよ」と言って、金貨を4枚握らせて、

 「では、ベネフィカ…初仕事をお願い。此処まで来る途中に居た、コレの部下…仲間かしら? 処理しておいて。

ホテル『レギア・セプルクラム』で見張ってた奴と、商業区で私達を監視していた2人組、それに裏の乞食ね」と依頼した。


 「承りました。お嬢様」と言って、ベッドから立ち上がり、片膝を付いて(こうべ)を垂れた。


 …長年一緒に仕事をした…裏の仕事をしてきた仲間達を殺そうとしているのに…何も感じない…今、私は赤髪の悪魔に従う事に無上の喜びを感じている…



 冷たい目でこちらを睨みながら、家庭教師の姿の悪魔と黒髪の少年の悪魔が部屋を出ていった。


 金髪の悪魔がニッコリと微笑みながらスカートの裾を摘み、「それでは、お(いとま)致します」と言い、それに付き添っている小さな悪魔が笑いながら「ばいばーい」と手を振って部屋を出た。


 続いて、黒髪の少女の悪魔が無表情に、

 「コンゴトモ、ヨロシクね」と言って、手を振りながら部屋を出た。


 最後に赤髪の悪魔が部屋を出る途中で、

 「そうそう…」と言って立ち止まる。


 私は一瞬で身体が硬直した。


 「ベネフィカ…貴方とコレ…名前忘れたわね…まぁいいわ。

 二人以外は私達の事は秘密よ。私、無駄な殺しは嫌いなの。ちゃぁんと…コレが起きたら伝えてね」とニタァと笑って出ていった。



 …たっぷりと時間が経ってから、息を吐いた。

 …生きてる…生きてるよな…私は…


 産まれて初めて、自分が生きるているという事を実感し、

 産まれて初めて、心の底から神に感謝した。



 「ごほ…ごほ…う…ん…ゴボ!ごほごほ!…ふぅ…ふぅ…」

 ようやくラセルタが気がついた。鼻が潰れて前歯が全部折れている。息がし辛そうだ…


 気が付いた満身創痍のラセルタに、私は悪魔達の事を心の底から理解出来るように説明した。


 二度と悪魔に…逆らえない…逃げられない…。

 私は魂に刻み込まれた…




◆◆◆




 「いやー、思ったより大きい魚が釣れたね〜」

 ジェシカが嬉しそうに話した。


 「そうね…結構大きな商会の会長が釣れて良かったわ」

 と、クラウディア。


 「教科書に少し血が付いちゃった。どうしよう」

 と、ルーナが言うと、


 ジェシカが、「エレノア様は、要るならあげると言ってたし、貰えば良いんじゃない?」

 どうせお金が余っているようだし…と、エレノアの衣装を思い出し、妬む。



 クラウディアが、

 「ねぇ、折角だからお買い物していかない?ノーラが喜ぶ物があるかも知れないわ」と言いながら、フリン商会の表口から店に入った。


 皆が「そういえば商業区来たのに何も買ってなかったわ」と言いながら、クラウディアの後に続いた。



 金貨を何枚も使い、ノーラの植物園では見たことの無い植物や、塩胡椒や珍しい調味料を買い込んで店を出た。



 『金払いの良い、とても育ちの良さそうな貴族の子息令嬢が来てるらしいぞ。』

 『貴族学校の生徒らしいわね。とても礼儀正しい美少年だったわ』

 『私が見たのは可愛らしい、優しそうなお嬢様だったわ。うちの娘も、ああいうお嬢様みたいに育って欲しいわ~』


 …暫くの間、この近辺ではそんな噂が流れていた。


 噂を聞く度に、何故かフリン商会の会長が口を抑えてトイレに駆け込んでいたのを、従業員達は不思議な顔で見ていた。




可哀想なベネフィカさん、片膝ついて頭を垂れている間もズボンは濡れたままです。


ズボンに触れないように、デミちゃんが地下から引き摺って運びました。力持ち。

ただ、随分と階段を引き摺られたので、タンコブいっぱい出来ました。


※この世界は、中世欧州とは違い、ちゃんと下水道は完備されています。

 上水も水道橋と地下水道を敷設し、山からの水を都市に流しています。


 …クサク ナイヨ…


 貧民街以外は…ネ

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