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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
176/287

◆4-76 晩餐会 王の祈祷

マクスウェル視点




 僕達がクラウディアに関する噂話に振り回されている内に、いつの間にか大広間には大勢の貴族達が集まっていた。


 「…大人の貴族達は多いけれど、やはり子供達はほとんど居ないわね…」

 周囲を見渡しながらフローレンスが呟いた。


 「そうですね…。

 昼餐の時に、帝国貴族達からの挨拶が多かった家の子達くらい…。

 私達を除いたらほんの数家族ですか…。

 少々、心細いですね」

 リヘザレータは聖教国の子供達を数えている。


 どの家も、聖教国では力のある者達ばかり。

 下位貴族はマクスウェル達とリヘザレータくらいしか居ない。

 フローレンスの取り巻きでも、契約の予定が無い下位貴族達は欠席した。


 「おそらく〜、現在、個室で食事中の家族もあるでしょう。

 それを加味しても、参加者は昼餐の半分以下…といったところでしょうか〜?

 広間も昼餐の時の半分程度に仕切り直されているから、それ程閑散とはしてませんけれど〜。

 多分、誰かさん目的の参加者達は、昼間の事でほとんど脱落したのでしょうねぇ…そうは思いません?」


 アデリン先生はニコニコしながら、カーティ教授を睨んだ。


 「むぐむぐ…誰かは知らないけれど良い事したわね。

 脳の足りない連中が消えてくれて、風通しが良くなった。

 息の臭い連中が消えてくれて、空気が綺麗になった。

 足の汚い連中が消えてくれて、広間が綺麗になった。

 素晴らしい功績ね!褒めて遣わす!

 あ…このジュース、結構うめぇ!見た目は酷いけど!」


 嫌味を無視して飲み食いを続ける元凶。

 混ざらない極彩色の絵の具の様な色をしたジュースを飲んで、唇を舐め回している。

 フローレンス達は、意図的に彼女から視線を外していた。


 歯に衣着せぬ言動、戸の立たない口。

 相変わらず、彼女の言葉には驚く。

 呆気に取られて彼女を見ていたら、こちらに気付いてニヤリと笑った。

 僕は慌ててカーティ教授から目を逸らし、デミトリクス達を探した。


 「皆、見知った顔ばかりだけれど…デミトリクス達は居ないか…。

 来ている子達はサンクタムの生徒達だけか…?

 シエンティアの生徒達は晩餐会には出ないのでしょうか?」

 カーティ教授から話題を逸らしたくて、アデリン先生に声を掛けた。


 「シエンティアの子達は、わざわざこの機会に急いで契約する必要もありませんからねぇ〜。

 晩餐会まで出席する子は居ないのではないですかねぇ?」

 アデリン先生も、周囲を見回している。


 「それもそうか…。

 お陰で周りは大人達ばかりですね」


 周囲は大人ばかりで、子供はポツポツ。

 相変わらず、クラウディアやデミトリクス達は見当たらない。


 昼餐の時に比べれば参加者は随分と減った。

 ただ、それでも100人近くは居る。

 側仕えや護衛、使用人を含めて広間には300人位。

 この数を予想してか、部屋は昼餐時の半分の大きさに造り直されていた。


 …出席者数を予想して造り直せる部屋って便利だな。

 ただ…減った数が多かったのか、部屋は狭くなったのにそれ以上に隙間が目立つな。

 ああ、立食になって円卓が部屋の端に寄せられているせいもあるのか。

 …しかし、あれは何だろう?


 僕の視線の先にある物に気付いたマリアンヌが口を開いた。


 「あれは…舞台でしょうか?

 昼餐の時はありませんでしたわね。

 これから何か、演し物でもあるのでしょうか?」

 極彩色の飲み物を片手に、首を傾げる僕の妹。


 …何とも表現のし辛い…嫌な絵面だな。せっかくこんなに可愛のに…。


 「晩餐会と言えば、音楽では御座いませんの?」

 「楽団の演奏ですか…楽しみですね」

 フローレンスとリヘザレータは、楽しそうに舞台を眺めていた。


 「演劇かもしれないぞ…?」

 「お兄様の好きな騎士物語の上演ですか?」

 「私は悲恋物語が好きです」

 「私も好きだけれど…今は見たくないですわね…」

 「ご…ごめんなさいフロー。そんなつもりでは…」

 「わかってる。気にしないでレータ…」


 「あらあら、演奏も観劇も良いですね。王帝陛下がやるのでしょうか?」

 「髭オッサンの演奏や劇…?ありか?まぁでも…愉しければどちらでも良いけど。

 クラウディアちゃんがやるなら、尚良し!」

 アデリン先生は兎も角、意外な事にカーティ教授も楽しそうに演者を待っていた。


 この人、魔導具以外に興味を持つ事なんてあったのか?

 舞台なんて興味無いって言って出て行くかと思ってた。

 …こう見えても、一応、人間っぽいところもあるのだなぁ。


 「晩餐会は8の鐘で始まる予定でしたけれど…。

 そろそろでしょうか…?」

 「そうですねぇ。もうそろそろ鳴っても良い筈ですけれど。

 王帝陛下のお姿も、まだ見えませんし…?

 あらあら〜?…あちらの扉が動いてますよ?」


 アデリン先生の言葉につられて、そちらに目を遣ると、舞台奥の上手側の扉がゆっくりと開いた。

 周りの貴族達も、何が行われるのかを楽しみにしながらそちらに目を向けた。


 扉が開いて一番最初に顔を見せたのは、赤い髭の大男、ベルンカルトル王帝陛下だった。

 護衛騎士達を引き連れながら、王帝はゆったりとした足取りで舞台に上がった。

 彼の様相を見た貴族達は、感嘆の息を漏らした。


 「あれは…神授の儀で纏う…?」

 「神具ではないか?なぜ…ここで?」

 周囲から小声でヒソヒソと話す声が聞こえる。

 彼等の驚きぶりから、通常の式典ではあり得ない姿らしい。


 「ふぁぁ…凄い迫力ですね…」

 リヘザレータは、驚いて開きっぱなしの口を手で抑えた。


 …確かに。

 これではまるで、これから戦争でもするのかという様な…。

 兵士を鼓舞する指揮官の様な出で立ちだ。

 ただ、本当の戦場ではあり得ない色彩だけど。

 目立ち過ぎて的になってしまう。


 ベルンカルトルは、昼間の豪奢な式典用の正装とは全く違った、儀礼用の真っ白な鎧と真っ白なマントを身に着けて現れた。

 王帝だけでなく彼の護衛騎士達も、揃いの白い鎧を着て、直立不動で彼の周囲を固めた。

 全員が、手に豪華な儀礼用装飾の施された槍を持っている。

 舞台上に並ぶ真っ白な鎧の一団の真ん中に、燃えるような赤い髪と髭を持つ大男が立つ様子は、一種異様な迫力と神々しさを見る者に感じさせた。


 式典広間に居る数百人の人達の間には、息をするのも躊躇(ためら)われるくらいの雰囲気が漂っていた。

 唾を飲み込む音が周囲に響くくらいの冷たい静寂。

 これから何が起きるのだろうという、高揚と期待が辺りを包みこんだ。


 「…ここに居る皆に感謝する」

 静かにゆっくりと、王帝が口を開いた。


 「皆も知っていよう。

 我が国では、血塗られた歴史が繰り返されて来た。

 何度も試し、何度も間違え、何度も立ち止まった。

 幾度も戦い、幾度も壊し、幾度も作り直して来た

 無数の砦が築かれ、無数の城が築かれ、無数の国が作られた。

 それら無数の瓦礫と屍を踏み荒らして、我等は今、此処まで辿り着いた。

 今は、ただ一時の平穏の中に居るだけなのかもしれん…!

 ただ、その一時を創り出す為に血と涙を流した先達!

 ただ、その一時を護る為に身を粉にする貴殿ら!

 ただ、その一時を永遠の時に変える希望である子供達!

 全ての者達に感謝の意を表する!

 我は、神々への想いと同等の感謝を、この場に居る貴殿らと子供達に捧げたい!」


 王帝は、初めはゆったりとしたテンポで、そして段々と早く強く成るように、口上を述べた。

 心の臓に響くような重低音。

 だが、頭の中を爽やかに通り抜ける音質。

 心を鷲掴みにされた様に、僕は彼の発する言葉から目が離せなくなっていた。


 そして…


 「…女神マイアよ!

 貴女の為に作られしこれらの神具を纏い、この場に立った愚かな我を、どうか赦されよ!

 そして、今この時のみ、我らが祈りを女神(あなた)の為だけではなく、我が臣民と、この場に居る我が大切な者達の為に捧げる事を、どうか許したもう!

 女神よ!顕現されよ!

 我らが同胞(はらから)に貴女の祝福を与え給え!」


 王帝が大きな声で宣誓すると、舞台上に居た全員が槍を両手で握り、槍の石突部分を自分達の足元に一斉に叩きつけた。


 ドーーーン!!!


 木で出来た舞台に金属の棒が勢い良くぶつかった。

 その瞬間、広間の魔導灯が一斉に消え、辺りは真の闇に包まれた。




 

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