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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
174/287

◆4-74 晩餐会直前 沈思黙考

ベルンカルトル視点




 晩餐会開始の鐘半分(1時間)程前。


「そろそろ、参加者の入場が始まった頃か…。

 さて、こちらの準備は済んだ…奴等はどう動くかな…」


 私は一人で、執務室の革張りソファに深く背を預けながら、相手の思考に意識を巡らせる。


 …今回、リオネリウスの主催者権利を奪ってまで私が主催して良かった…。あの子には悪い事をしたが…


 私は、リオネリウスから学校交流会の話を持ち込まれた時、これだけ大事になるならば、政治的にも調略的にも利用出来るのではないかと考えた。

 そして、相手も自分と同じ事を考えるだろう…とも考えた。


 情報を受け取ったほぼ同じ時刻に、聖教国から()が来た。


 彼は常に、一番いいタイミングで姿を見せる。

 聖教国首都から帝国首都(ここ)まで、どんなに早くても1週間以上は掛かる筈なのに。

 国境を越えたという報告も、首都の門をくぐったとの報告も無く、いつも誰も気付かぬ間に現れて私の部屋の戸を叩く。


 その彼も私と同じ事を考えていた。

 聖教国も協力するので、今回のイベントを利用して紛争解決と帝国の掃除に乗り出さないか…と、打診された。

 渡りに船だった。一も二もなく、私は彼に協力を求めた。


 まず私は、エレノア侯爵令嬢が『聖教国の司教』の身分で、教皇猊下の『遣い』として来訪する事が確定したという情報を、反王帝派に忍び込ませた協力者を利用してばら撒いた。

 加えて、交流会の来賓という名目で、ハダシュト国王の『遣い』の高位貴族が同行するという情報も。


 ハダシュト王国の高位貴族が来訪すると聞けば、当然皆、紛争地域の話し合いだと考える。


 コルヌアルヴァによる、突然のホーエンハイム領への侵攻から、既に4年近く経過した。


 当初に比べてコルヌアルヴァの連中は、まともに話し合いにも応じなくなってしまい、今では帝国内の鼻つまみ者だ。

 ホーエンハイム領の再興に、手間と時間と金がかかると言い訳して、各領主に振り分けられている官吏としての仕事もしていない。

 その上、もう何年も納税していない。

 そもそも、地元のコルヌアルヴァ領の管理すら放ったらかしだという噂。


 放ったらかしにして何をやっているのか…。それとも、やらせているのか…。


 流石に介入しない訳にはいかないが、ホーエンハイム領どころかコルヌアルヴァの領地にすら、なんだかんだと理由をつけて監察官を入れさせない。

 とはいえ、帝国所属の貴族である以上、コルヌアルヴァの行いに対してレヴォーグ家(われわれ)にも責任はある。放置するわけにもいかない。


 独立を唱えたり表立って反抗すれば、逆賊として正規軍を差し向けられるが、相手は自領の軍をこちらに向けているわけでは無い。

 貴族の義務を指摘しても、のらりくらりと躱して、こちらに攻め込む大義名分を与えない。

 だから今迄は、解決の為に『秘密裏』にハダシュト国王と情報交換をするくらいしか手立てが無かった。


 『秘密裏』の理由は、帝国のタカ派貴族達のせい。


 コルヌアルヴァを罰する為に動こうとすると、必ず邪魔が入る。

 奴等はコルヌアルヴァを支援して、ハダシュト王国との全面戦争を望んでいる。

 王国嫌いの連中にとっては、正義はコルヌアルヴァであり、それを邪魔する我々が悪なのだ。

 その為にも、戦争を止めるレヴォーグ家(われわれ)を王帝の座から引きずり下ろそうとしている。


 …自分達はコルヌアルヴァを盾にして、最前線に出る気も無いくせにな。


 コルヌアルヴァの問題解決前に、まずは邪魔をする連中を片付けなければならない。


 私と()は、この大規模学校交流イベントを周知すれば、奴等なら必ず何かをやるだろうと考えたのだ。


 まず初めに考えた、連中のやりそうな事は、歓迎式典のぶち壊しとリオネリウスの引きずり下ろし。


 これだけの大規模イベントだ。

 まだ若いリオネリウスに成功させる事は難しいと、初めから分かっていた。

 奴等なら、人脈と日和見(ひよりみ)貴族を利用して、わざとリオネリウスに泥を被せようとするだろうと予測出来た。


 具体的には、昼餐と晩餐の出席者数の落差を利用する方法。

 これが一番簡単で、大したお金も掛からない。

 すぐに実行が出来て効果も高く、例え裏で糸を引いている事がバレても罰せられる事は無い。


 昼餐に出席した貴族達を、脅しや賄賂を用いて、晩餐会には欠席させる。

 勿論欠席は自由だから、主催者に止める権利は無い。


 …晩餐会を空っぽにするつもりだったのだろうな。

 皆でリオンを笑い者にするつもりだったのが見え見えだ。


 出席者数の落差が激しければ激しい程、リオネリウスの株は下がる。


 リオネリウスが馬鹿にされれば、レヴォーグ家として対処しなければならない。

 しかし万が一、仕掛けて来た相手が多過ぎた場合、あの子を見捨てないといけなくなる。

 それは、リオネリウスの失墜という問題だけではなく、あの子を第3王子として擁立した私の決定自体の汚点にもなる。


 それを理由に、諸侯に反乱を(そそのか)すつもりだったのだろうな…。


 内通者からも、タカ派の連中が根回しを開始したとの報告を受けた。

 私は、その報告内容に目を疑った。

 手当たり次第に金をばら撒いて、貴族達を勧誘していた。

 何処にそんなに資本があったのかと驚いた。

 高位貴族は元より下位貴族、果ては平民の富豪まで掻き集めていると。

 総数は200を超えるだろう…と。


 昼餐に、側仕えや護衛含めて500人近くを用意して、晩餐会を空っぽにする。

 そんな式典が開かれれば、リオネリウスは歴史に名を残すだろう。嘲笑の記録として。


 私は、参加者名簿の整理始めの時点で、リオネリウスを説得して王帝主催に切り替えた。

 王帝主催という時点で、多くの日和見貴族は晩餐会を欠席し辛くなる。

 リオネリウスは兎も角、王帝本人(私自身)に砂をかける行為をする程の度胸があれば、日和見貴族などしていないだろう。


 更に、エルフラード=トゥールベール侯爵に助力を頼み、参加者を掻き集めさせ、人数を上乗せした。

 そうすれば敵対貴族達や、脅されている日和見貴族、富豪達が欠席しても、晩餐会が悪目立ちするほど空になる事はない。

 500が0になれば大失敗だが、1000が500になったとしても、式典としては成功だ。

 そしてそれは同時に、敵対貴族の失点になる。


 「リオンがやっていたら奴等の計画通りに進み、最悪のケースとして死んでいた可能性がある…」

 私は無意識に呟いていた。


 …若輩のリオンから削り取っていくつもりだったのだろう。

 …リオンの招待した分だけでも、素晴らしい実績だったからな。奴等の手で汚される事は我慢ならん。

 ()の計画の内ではあったが、エレノア司教の招待に成功した事は事実。

 彼女の秘蔵娘にまで辿り着いたのは、運か、あの子の実力か…



 式典が王帝主催となり、計画通りにいかない事を悟った連中は、よりによって、我々と敵対しているハシュマリム教国の協力を仰いだとの報告を受けた。

 そして、大量の爆薬と魔石を購入した事を聞いた。


 私はすぐに、セルペンス中佐に調査をさせた。

 彼女の調査で、かなりの威力の魔導爆弾が製造された事が分かった。

 そして、全ての爆弾が既に首都に運び込まれた事も。


 設置された場所を特定する為に調査をさせていたが、かなり巧妙に隠しているせいで、聖教国の子供達が到着する前までに全ては見つからなかった。


 だが、初めに到着した子供達の中に『笛の子』が居た。

 彼女は到着してすぐに、色々な場所に忍び込んでいた。

 将軍の不倫情報から麻薬の取引まで、僅か数日で発見してしまった。

 私は彼女を止めるべきか迷ったが、敢えて放置した。

 その能力は利用出来ると考えたからだ。


 すぐにエレノア司教と連絡をとり、セルペンス中佐を彼女と引き合わせた。

 セルペンス中佐が軍部や騎士団の重要箇所に監察名目で入った隙に、彼女に片端から調査させた。

 彼女は、あっと言う間に間者(スパイ)達を発見した。

 後は中佐の領分によって、全ての爆弾の発見に成功した。


 「天性の勘か…?

 僅かな視線移動や表情、動き方で、二心(ふたごころ)ある者を見抜いてしまう…。

 彼女が『笛』でなければ欲しかったのだがな…」

 

 奴等は晩餐会に合わせて爆弾を起爆し、街中を混乱させる。

 混乱を収める為と言い訳しながら、近隣街の騎士団に変装させた自分達の軍隊を街に入れ、街中で適当に虐殺をした上で、王宮と離宮(ここ)を制圧する予定。

 騎士団の統括責任者である、リオネリウスの命令だとか言いながら。


 当然、我々がその様な反乱を黙って見逃す筈はない。

 奴等は、私が正規軍を出して妨害してくる事も想定していた。

 我々にそれをさせない為に、奴等はコルヌアルヴァを利用した。


 ホーエンハイム領にある古代遺物『ガラティアム・ダンティス』。

 世界に散らばる神代の魔導具の一つ。


 理由は不明だが、コルヌアルヴァの侵攻以来、その魔導具が停止しているらしい。

 連中も、何故か再起動させないで放置しているとか。

 お陰で土中の魔素濃度は危険域に達し、影響を受けた動植物が変異を起こし、魔獣が大量発生しているらしい。


 どうやったかは知らんが、連中は魔獣達の数を纏めてコルヌアルヴァ領を通過させ、こちらに誘導した。

 報告を受けた私は、急遽、軍隊を派遣した。

 魔女様の協力もあり、一群となった魔獣達を散らす事には成功した。

 相手は小物ばかりであったが、それでも魔獣。

 こちらの被害も大きく、晩餐会までに全軍が帰還する事は叶わなかった。


 「だが、『あの子』が帰る事には間に合った。お陰で、どうにかなりそうだ…」



 …一番の問題は、馬鹿な連中に材料(ばくだん)を提供した奴等だ。

 セルペンス中佐の調査によれば、かなり高性能・高威力の爆弾だったらしい。

 作動したら、隣接した建物だけでなく区画ごと吹き飛びかねない威力だったそうだ。

 混乱が起きるレベルを遥かに超えている。

 仕掛けた奴等はそれを理解しているのか?


 解除に協力してくれた二人には感謝しかない。

 隠された爆弾を一瞬で発見し、簡単に処理するとは…彼女は良い手札を持っているな。


 連中の目的は、この王帝(ただ)の椅子。

 革張りの高級椅子ではあるが、責任だけ大きい重い椅子。

 空いた席に自分をねじ込ませる算段だったのだろう。

 だが実際には、この椅子自体を破壊しようとしている連中が居る。

 混乱に乗じて帝国そのものを破壊しようとしている奴等が…。


 「浅慮な連中も、奴等にとっては我々と同じ生贄か…?

 背中に爆弾を背負った案山子(かかし)…というところかな。巻き込まれるのは勘弁だな。

 取り敢えず、爆弾()は消した。

 後は、案山子共と裏で操っている奴等の処理か…。

 奴等みたいに安易に暗殺手段を取れれば楽なのだがな」

 王帝は独り言ちた。


 知らずにこの日を迎えていたら、首都は壊滅、聖教国の生徒達も殆ど生き残れなかっただろうな…。

 流石の魔女様も、これを見過ごす事は出来なかった様だな。

 護りたかったのは愛し子か、聖教国の魔人との約定かは判らんが…、お陰で助かった。


 裏で操っている奴等の目的は王帝の椅子では無い。

 この国を潰す事。

 地図上から消して、そこに自領の版図を拡げる事。


 「ハシュマリムのテディウスだろうな。

 後はメンダクス殿の言う通りに、案山子共を走らせれば良い。

 立ち止まらせず、出来る限り熟考も警戒もさせずに…」


 ブツブツと独り言を言いながら考え事をしていた時、扉を叩く音が聞こえた。

 今は護衛騎士達に席を外させているので、自分で扉を開ける。


 「ご足労いただき、恐縮に御座います…」

 私は頭を下げて来客を迎え入れた。



 

ご連絡&ゴメンナサイ


3月は確定申告、子供の卒園、入学準備と忙しくなるので、更新ペースを落とさせて頂きます。

ごめんなさいm(_ _;)m


最低週2回は更新する予定ですが、投稿日はランダムになります。


( ´ー`)ふぅ…用意してある話も、修正しないと辻褄が…

トウコウマエノ チェックガ マニアワナイノ…グチグチ…


( ;∀;)ああ…確定申告面倒くさいよぅ


いつも読んでくださっている方々に感謝(⌒▽⌒)

今週は今日で最後の投稿です。

また、来週から読んでいただけると、ワタクシ狂喜乱舞致します(*´ω`*)


愚痴&乱文失礼致しました。

ありがとうございましたm(_ _)m




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