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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
172/287

◆4-72 晩餐会 危機管理

マクスウェル視点




 噂を良く思わない者達が居る。僕達王国民や、王国派閥以外の帝国民の中にも…とマリアンヌが言った。

 

 「()()()、お二人の仲が良い様に見えるせいで要らない噂だけでなく無用な恨みも買ってます。

 全く…表面上()()なのですが…」

 妹は、『表面上』を何度も強調した。


 …確かに内側から見ると、別に二人の関係が良い様には見えないよな…?

 デミトリクスに比べたら、クラウディアなんてむしろ避けている様にすら見えるけれど…


 多くの貴族達は紛争の終結を望んでいるが、当然、反対の意見も一定数存在する。


 王国に妥協したくないという、間違ったプライドを持つ者。

 紛争で利益を得る者。

 そして、レヴォーグ家を引きずり降ろす為に、政治的に紛争を利用しようとする者。


 そういう者達にとって、終結に向かわせる可能性のあるクラウディアの様な者は邪魔でしかない。


 なら、どうするか?

 暗殺してしまえば良い。

 婚約も立ち消え。

 聖教国の司教の被保護者も護れない王帝は、教皇からの信頼を失うだろう。

 少なくとも、帝国国内で王国の高位貴族の子息が暗殺されれば、終結交渉などは不可能になる。

 …そう短絡的に考える者達も一定数存在するだろうから、気を付けるように…と、オマリー司祭が心配していたそうだ。


 …何故、マリアンヌに伝えて僕に話さなかったのだろう?

 マリアンヌより頼りなく思われている…なんて事は無いと思うが…。


 「なので、オマリー様がお姉様の専門護衛に付くと聞いてます。

 既に、その様な話が拡がっているそうですわ。

 お姉様の安全が第一ですから、当然ですわね」

 「確かに、クラウディア様の身の安全を考えれば必要な処置でしょうけれど…。

 政治的には、更なる誤解を生みかねない行為ですわ…

 婚約の噂を強める材料になりそうです…」


 オマリー司祭は聖教国民なのだから、王国民の護衛に付いても何の不思議も無い。

 けれど、帝国の貴族の認識は違う。

 ()()()であるオマリー司祭が、王国民の護衛に付くはずがない。

 つまり、クラウディア嬢は王国を捨てて帝国に付く予定なのだ。…その様な考えを深くするだろう…と、フローレンスは心配している様だった。


 「考えれば考える程、嫌な方向に想像が膨らみますね…」

 僕はフローレンス嬢と同じ様に俯いて唸った。


 「オマリー様がおっしゃっていました。

 お姉様の事よりも、私達が心配だ…と」

 「僕達が…?」


 「もし、お姉様達に手が出せない状況なら、次に狙われる可能性があるのは、私達王国民や聖教国の王国派閥の子供達だろう…と。

 そういう者達は、王国と帝国の仲を割ければ良いだけで、聖教国との関係も周りへの影響も、後々どうなるかすら考えないから…。

 だから、人目につかない所に行く時は、集団で固まる様に…と、おっしゃってました」


 …そんな事にまで気を回して注意を払って下さるなんて…。

 随分と戦略的な思考も出来るのだな。

 流石は英雄と言われるだけのことはある。

 ジェシカの言っていた事は誇張では無かったのだな。


 「確かに…護る対象が一緒に居た方が護る方もやりやすいだろうしな。

 …なら、クラウディアと一緒に居た方が良いのではないのか…?やはり、彼女を探すべきではないか?」


 そう言うと、マリアンヌは少し慌てて、

 「あ…、でも、王族と会合しているかも知れませんし、割り込むのは流石に憚られる…と言いますか…。

 それに、人数が多過ぎては護るのが難しくなるでしょう。

 とりあえず、固まって行動していれば大丈夫ですわ。お兄様」

 しどろもどろになった。


 …何か、知ってるのか?事情があるのかな?

 だが、他人がいる前で問い詰めるのも良くないしなぁ…。


 「まぁまぁ…、確かにこの人数をオマリー様御一人に護って貰うのは無理がありますし〜。

 ここは、王族の力を借りる方が良いのではございませんか〜?」

 アデリン先生が提案した。


 …確かに…。

 流石の英雄でも、一人でこの人数を護るのは現実的ではないな。


 「アデリン…それはそうですけれど…。

 王帝の立場としては、王国民や王国派閥だけ贔屓して護衛を増やす…なんて、難しいのではなくて?

 私達に配分されている護衛数は、既に上限いっぱいでしょうし…」


 「あら〜?フローレンス様は気付いてませんでしたか?

 帝国は既に追加の護衛を配置しておりますのよ?」

 そう言って周りを見回す。


 …そう言われて見ると、確かに。

 こちらを見ずにお喋りをしている貴族達が、こちらに気を遣っているのを感じる。

 視線を向けると、自然に視線をずらしてお喋りを続ける人達がちらほら…。

 あれは、騎士が対象者に気付かれずに護衛を行う時にする視線移動。授業で教わったのに忘れていた。

 王帝は、他の生徒達と比べて贔屓だと避難されない様に、周囲から分からないような護衛を配置してくれていたのか…。

 てっきり、僕達が王国民だから忌避的な目で見ているのかと思っていたが…。僕の目が曇っていたな。


 「それに、必要でしたら更に追加の護衛も頼めますわ〜。

 私が昼間、将軍様達と飲んでいたのは伝手を作るためですし〜」


 「…ただ、飲みたかったから…が八割?」

 「いえ、多分…九割かな…?」

 フローレンスとリヘザレータがアデリン先生の前でコソコソと話す。


 「お二人共酷いですわね〜。

 少しは先生を信じて下さっても良いのですよ〜?」

 アデリンは二人の嫌味を全く気にしていない様に、のほほんとしながら微笑んだ。



 「お〜い!此処に居たの?酷いよ!私も誘ってよ!」


 僕達がお喋りしていると、大声で手を振りながら向かって来る人の姿。

 彼女は昼と同じパンツドレスの裾をひるがえし、ローヒールの靴をバタバタとさせながら、大股で駆け寄って来た。

 周囲の貴族達は危険を回避する様に、さっと避けた。


 …嵐が来た。

 誘うも何も、今迄貴女が何処に居たのかも知らないのだけど?


 「君達が居るという事は、クラウディアちゃんも居るという事!で?、何処?ドコドコドコ?」


 「ドコドコって五月蝿いですわ、カーティ先生。貴女は太鼓ですか?」

 アデリン先生が冷たい目でカーティ教授を見下ろす。


 「残念ですけど、僕達もクラウディアの居所は知りません」

 僕がそう言うと、カーティ教授はショックを受けた顔をした。

 「大体、教授は何故此処に?

 昼餐の挨拶の儀の様子から、晩餐会は出席しないと思ってましたが…」


 「そうなんだよね〜。

 本当は無視して国に帰ろうかと思ったんだけどね〜。

 クラウディアちゃんが、面白いものを見せてくれると約束してくれたからぁ〜」

 カーティ教授は楽しみを抑えきれないという様子で、含み笑いをした。


 「面白いもの…?」

 「晩餐会で披露してくれるって約束してくれたの!」

 「…披露…?」

 僕達は顔を見合わせ、眉根を寄せた。


 「早く始まらないかなぁ…」

 カーティ教授は夢見心地といった様子で、広間の天井を眺めていた。




◆◆◆




 「マリアンヌ(あのこ)にしては上手く誘導してる方かしら。

 ちゃんとオマリー様の護衛対象に関する噂も拡げてくれてるし。

 …しかし、エルフラード様がばら撒いた噂のうち、よりにもよって婚約話が拡がるなんて…ちっ…」

 「あら…?まさか、わたくしのリオンちゃんに何か不満でも?」

 「イエイエ…滅相モゴザイマセン」

 「…ふぅん?まぁ良いわ。

 これで貴女の予定通り、相手の的が2つに纏まったわね。

 でも…大丈夫?あの子達の方は」

 「大丈夫でしょう。最強のカードも付きますし」

 「そのカード、自分に使わなくて良いの?

 オマリー様は貴女に付かないのでしょう?」

 「問題ありません。私にはジョーカーもナイトも必要ありません。

 エースのカードがありますので」


 「こらこら、お喋りはそのくらいにして。

 お客様は揃った様ですね。

 向こう側の出席者も予定通りの場所に来ているそうです。

 皆様、宜しくお願いしますね」


 薄暗い部屋の中で声が響く。

 女性のよく通る声が部屋の空気を引き締めた。


 「…流石に練習する時間が足りなかったですわね…上手く出来るのかしら?」

 「…大丈夫、間違えても僕がフォローするから…」

 「ありがとう存じます。リオンちゃんの親友なら頼れますわ」

 「…貴女が目茶苦茶でも、デミちゃんの旋律さえ無事なら問題無い筈ですよ?ご安心下さいませ」

 「あら…?私の演奏を聴いて、泣いて詫びて下さいませ」


 複数の男女の囁き声が、部屋の中を静かにこだまする。


 「ううん…緊張するぅ…」

 「大丈夫ですわ。お嬢様は出来る子です。

 な…なんでしたら…、き…緊張が解れるように、わ…わ…わたくしが、ギュッとしてあげましょう…?」

 「…それは後にしなさい。衣装が血で汚れると困るわ」

 「ううう……はぃ…」

 「ふふ…ありがとう。大丈夫よ。もう緊張が解れたわ」


 小さく、クスクスと笑う声がする。

 せっかく引き締まった緊張感が、少し緩んだ。


 「しかし…帝国(うち)の図書館に、こんな本があったなんて…。しかも、一般閲覧用の書架に…。

 お陰で、予定していた人員(せんりょく)を他の所に回せたけれど…

 …貴女…良く分かったわね?」

 「こんな効果があるなんて驚きです。

 色々と試してみるまで全く気付きませんでした。

 流石は偉人。彼女の書く本は違いますね!」

 「微妙に質問に答えてない気がするけれど…?

 まぁいいわ…今は時間も無いし。

 今度、ゆっくりと聞かせてもらいましょう」

 「……」


 部屋の中心に居た女性が周りを見渡して口を開いた。


 「さて、宴を始めましょうか。

 お客様達には、是非楽しんで頂きましょう。

 では皆…計画通りに」


 全員が、小さく頷いた。

 大きな身体の男性が部屋の扉を押し開ける。

 眩しい廊下の灯りが、部屋の中に差し込んで来た。


 数名を部屋に残したまま、皆が緊張した顔で歩み出る。


 残された者達は、より暗い方の扉へと歩いて行き、静かに部屋を出て行った。



 

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