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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
169/287

◆4-69 教授のあしらい方と扱い方

マクスウェル視点




 「クラウディアちゃんはまだなの!?」

 待つ事に飽きたカーティ教授が、卓を叩いて騒ぎ出した。


 凄いなぁ…相変わらずの傍若無人っぷり。

 なんだか慣れてきてしまった。

 近頃は彼女が何をしても動じなくなってきた気がするぞ?


 「教授、教授…、クラウディア嬢が帰って来るまでの間、ミランドラ卿の最新魔導具や、教授の最近の研究内容についても詳しく知りたいのですが、ご教授願えませんでしょうか?

 確か…音の波長と魔素が持つ固有振動数の相関関係について研究されているとか…?」

 暴れ出そうと立ち上がるカーティ教授を見て、咄嗟にファルクカルトル第一王子が声を掛けた。


 王帝から彼女の対応を押し付けられた可哀想な人だ。

 周りの将軍達は、ファルクカルトルの媚びる様な態度を良く思ってはいないのか、僅かに表情が固い。


 研究内容…?波長?

 うん…言っている意味が全然わからない。…けど…

 流石は帝国。カーティ教授の研究内容まで把握済みか。全然知らなかった。

 ミランドラ卿だとか、教授の研究内容だとか…クラウディアなら知ってるのだろうか…?

 こんな呪文の様な内容も、王族の基礎知識の範囲内なのか?

 …そもそも聖教国の極秘研究じゃないのか?

 あの気難しいカーティ教授が大人しく他人(ひと)に教えるのかなぁ…?


 カーティ教授は騒ぐのを止めて、キョトンとした顔でファルクカルトルの顔をじっと見た。


 「え…?へぇぇ〜…よく知ってるねぇ?

 そお?知りたいの?私の成果…。

 本当は、秘密だから教えちゃ駄目!って、言われているのだけれど〜…。

 そっかぁ、私の研究に興味があるのかぁ…?

 どうせ〜そこまで知ってるなら〜教えても教えなくても変わらないよねぇ…?

 …なら、しょうがないよねぇ…知りたいならねぇ…?」


 …駄目だ、カーティ(コイツ)…。早く何とかしないと。

 マジで教える気か?聖教国の国家機密じゃないのか?

 …でもハダシュト王国(うち)も知りたい…。理解出来るかどうかは別にして。


 良くも悪くも、この変人の研究内容は国を動かす。

 僕は耳をそばだてた。


 「…私独自の研究では…魔素自体の持つ固有振動に数種の……。

 その性質を利用して…特定の周波数で…。

 …で、その事象を確認してから、数ヶ月にわたり実験をしているのだけれどね…」


 …マジで?

 結構凄い内容だけれど、良いのか?聞かせて…?

 話しは半分…いや三分の一も理解出来ないけれど、画期的な内容だとは解る。

 成る程…結構面白い所に目を付ける。

 変人でも変態でも性格破綻者でも、やはり彼女は優秀なのだなぁ…。


 初めは、彼女の王子への言葉遣いに対して眉間にシワを寄せていた将軍達だったが、教授の研究自体には興味があったらしい。

 今では彼女の話を聞きながら、素直に頷いている。

 彼女の話した内容について、王子や将軍達同士で討論を始めて、それがどんどん盛り上がってくる。

 話している内容が、兵器転用の事ばかりだったのが物騒だったけれども。


 「それで、結果がね…」

 「ゴホン!!」


 突然、王子に同席していたアデリン先生が咳払いをした。

 皆は一瞬静かになり、彼女の方を向いた。


 「…カーティ先生ぇ…?」


 アデリン先生が笑顔のまま教授を睨みつけると、教授は慌てて両手で口を塞いだ。

 周りの将軍達も静かになって、彼女から目を逸らした。


 怖…!

 女性の笑顔って怖い!

 凄…あの教授が静かになった…。

 アデリン先生って、こんなに怖いの?


 「まぁまぁ…、アデリン先生。

 教授も悪気があった訳では無いようですし…」


 オマリー司祭がアデリン先生を宥めて落ち着かせた。

 その途端、彼女からの威圧感が薄らいだ。

 僕は溜息を一つ吐いて、椅子の背にもたれ掛かった。


 「カーティ教授もね…、あまり機密を話さないで下さい。

 どうか、お願いします」

 そう言って、ニコニコしながら頭を下げた。


 オマリー司祭の穏やかな口調で、緊張した空気が緩んだ。

 教授は目を泳がせながら、「ま…まぁ、どうせ素人には意味のわからない事だしね〜」と言って誤魔化していた。


 …結構面白かったな。

 しかし、内容が高度過ぎだ。

 こんな内容についていけるなんて、クラウディアの頭の中はどうなっているんだ…?


 そんな事を考えていた時…、


 ガチャ…


 扉の開く音がした。

 丁度、クラウディア達が帰ってきた。


 「「エレノア司教様、クラウ、お帰りなさい」」

 「お姉様、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」

 「お姉ちゃん…。お帰り…」


 皆が彼女達を出迎えた。

 エレノア司教は軽く手を振って皆に応えた。

 しかし、クラウディアは周囲の人達を無視して一直線に自分の卓に向かい、座っていたデミトリクスにいきなり抱き着いた。

 ギュッと抱きしめながら、彼の頭をゆっくりと撫で回している。


 はぁ…ここでもやるか…?王族の前だぞ?

 ほら、周りを見ろ。将軍達が目をむいて驚いている…。


 クラウディアが疲れた時によくやる行動だ。

 よく、「デミちゃん成分補給中…」とか、意味のわからない事を呟いている。


 ああ…此処にヴァネッサが居なくて良かった。

 彼女は機嫌が悪くなると、ウジウジジメジメして面倒くさいからな。


 クラウディアにしては珍しく、かなり疲れた様子。

 エリシュバ王女との会合だと聞かされたけれど、何か嫌なことでもあったのかな?

 一体、何を話したのだろう?


 「お帰りなさいませ。クラウディア様…」

 そんな彼女に、ミヒャエラ夫人が話し掛けた。

 「娘が挨拶の儀を途中で中断させてしまい、大変失礼致しました」

 そう言って、深々と頭を下げた。


 第二夫人とはいえ、帝国の王妃がハダシュト王国の一介の貴族に頭を下げる光景は、普通はあり得ない事だった。

 その様子を見た将軍達はビックリしていたが、ファルクカルトルだけは彼女がそうする事を知っていたかの様に、全く気にしていなかった。


 自分に対して話し掛けられている事に気付いていないのか、クラウディアはデミトリクスに抱き着いたままミヒャエラ夫人をボーッと眺めていた。

 ふと、意識が戻って来て、ようやっと口を開いた。


 「ああ…失礼致しました。

 いえ…お気になさらず。どうせ誰も挨拶なんて来ません。

 エリシュバ様との会合は私にとっては丁度良かったし、利もございましたから…。

 ミヒャエラ様が気に病む事は御座いません」


 応答はまともだったが、デミトリクスを抱きしめたまま。

 そして、受け答えが心此処にあらずといった様子。


 「クラウディアちゃん!!」


 突然、デミトリクスに抱き着いたままのクラウディアの背中に向けて、カーティ教授が突撃した。


 …あ…クラウディアの背中に教授の頭が刺さった。

 痛そうだな…

 海老反りになって固まっている…。


 「どこ行ってたの?

 何話してたの?

 私以外と秘密のお話しだなんて、許せない!」


 クラウディアの背中に刺さった頭をグリグリさせながら、彼女の腰に抱き着いて質問を浴びせ掛けるカーティ教授。


 これでも大人なのか?

 …本当に何をするか分からない人だな。


 「やかましい!痛いんじゃ!」

 「がふ!」


 …おお!振り返りざまの肘打ちから、流れる様に膝蹴り、そのまま後ろ回し蹴りに繋げた!

 なんて滑らかな動き!

 相変わらず、見事な攻撃だ!


 背中に頭突きされたクラウディアは、ドレスのスカートを(ひるがえ)しながら見事な三連撃を加えて、教授を思いっ切り蹴り飛ばした。

 教授は宙を舞い、仰向けのまま頭から床に落ちた。


 うわぁ…死んだんじゃないか?これ…。


 一瞬何が起きたのか解らず、皆は目を見開いて固まった。

 マリアンヌの居る席の方から、小さく拍手の音が聞こえてきた。


 「ああ…。大変失礼しました。教授。

 いきなりセクハラされたもので、ビックリして振り解いて仕舞いました…」


 クラウディアは口でそう言いながら、仰向けで倒れているカーティ教授を冷たい目で見下ろしていた。

 失礼とは全く思っていない人間の目だった。


 …セクハラってなんだ?何か悪い事の意味の様だけれど?


 クラウディアは、倒れたまま目を回しているカーティ教授の側に行き、しゃがみ込んで彼女に何かを囁いた。

 耳打ちされた途端に、カーティ教授は目を見開き飛び起きた。

 彼女は、信じられない…と言うような顔をしてクラウディアを見ていた。

 その後、小声で一言二言囁やき合っていたが、やがてカーティ教授はニタァと笑みを浮かべて立ち上がり、スキップしながら広間から出て行った。


 …何だったんだ?

 あの教授(へんたい)が大人しく帰るなんて。

 何を話したんだ?


 「…やり過ぎな気もするけれど…、まぁいいか。

 皆様、お騒がせしました」

 エレノア司教が皆に向けて軽く頭を下げた。


 「なに…中々面白いものを見せて頂きました」

 「面白い…は、ちょっと…ふふ」

 ミヒャエラ夫人は口元を隠して横を向いた。

 彼女は少し笑った後、気を引き締め直してから、エレノア司教に向き直った。

 「では、エレノア様…大変申し訳ありませんが、貴女の貴重なお時間をわたくし達に分けて頂けますか?」

 真剣な顔でエレノア司教を見つめる二人。


 「ええ…。承知致しました。

 オマリー司祭、私は御二方とお話があります。

 子供達と先生をホテルまでお送りして頂戴。

 晩餐会の送迎もお願いするわ」


 「承りました。エレノア司教」

 大柄のオマリー司祭が小柄なエレノア司教の前に跪き、騎士としての礼をした。


 …絵になる二人だよなぁ。

 上司と部下と言うより、姫と護衛騎士の様だ。

 こういう関係、憧れるなぁ…。


 「さて…皆帰ろうか!

 王妃様、殿下。そして皆様、ご馳走様でした。

 貴方達の心尽くしの(もてな)し、感極まりました」

 オマリーが(うやうや)しく頭を下げると、将軍達が、

 「英雄殿、貴殿と飲めて儂等も楽しかった。晩餐会で待ってるぞ!

 盛り上がる宴にしようではないか!」

 そう言って大きく笑った。

 オマリーは軽く頷くと、皆に退室を促した。

 僕達は、エレノア司教とミヒャエラ王妃達に挨拶をした後、彼女達を広間に残したまま扉を出た。


 「そういえば、王女から受けた『利』って、何?」

 広間を出た所で、ジェシカが小声でクラウディアに尋ねた。

 彼女は腕組みをしながらう〜ん…と唸り、「後で話すわ」とだけ言って黙ってしまった。


 フローレンスとリヘザレータの二人は、なんだか少し様子がおかしかった。

 彼女達は、クラウディアに何かを尋ねたい様子で、何度か話し掛けようとしていたが、結局ホテルに着くまで何も話し掛ける事は無かった。




 

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