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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
167/287

◆4-67 歓迎式典 挨拶 ジェシカの場合

ジェシカ視点




 「はじめまして、私は…領を治めております。…伯の…で…」


 …ああ!クソ!イライラする!

 駄目だ!駄目だ!駄目だ!

 父ちゃんの為にも我慢、我慢。


 この動きにくいモッサリした服も踵の上がった靴も、油でベトベトの頭も、凄く気持ち悪い。

 髪を解きたい、洗いたい!

 服を脱ぎたい!!

 靴を脱ぎ捨てたい!!!


 …今は駄目だ!我慢しろ、私!


 ナイフを振ったら腕から抜けて飛んでいきそうな邪魔なブレスレットも、走る時に足首に違和感を感じるアンクレットも気持ち悪い!

 耳や首元でジャラジャラしている装飾品は、気になって気が散る!

 大体こんなに装飾品つけてたら、忍び込んだり暗殺したりする時に不便じゃない…?

 これだけ色々な種類の音が混じったら、音を消すのも難しいし…。

 早く外して売り払いたい!


 「こちらがオマリー様のご令嬢ですか…。とてもお美しい。

 将来が楽しみですな」

 「ありがとう存じます…」


 キモい!気持ち悪い目で私を見るな!

 何が楽しみだ!?ああ…イヤだ…。


 私…この仕事が終わったら、最高級の帝国牛を買って帰るんだ…。

 ガチガチ肉の農耕牛じゃなくて、甘やかされて育った柔らかお肉!

 食べられる為だけに育てられた、お肉!!!


 こんな味の良く分からないお上品メシじゃなくて、トマホークステーキが食いたい!かぶりつきたい!肋骨持って骨ごと噛み砕きたい!

 太腿の肉を厚めに焼いて、甘じょっぱいタレで食べるのも、いいなぁ〜…

 牛の舌も美味しいのに、捨てる奴居るんだよなぁ…。スライスして焼くと、スッゲー美味いのに…。


 昔、クラウが作ってくれた、薄くスライスした肉を何枚も張り重ねて棒に巻き付けて焼いた料理…美味しかったなぁ。

 秘伝のタレ?とか言って塗りたくってたっけ…。

 焼けた部分をスライスしてパンに挟んで…ああ!食いたい!


 野宿の時に、父ちゃんが捕まえて絞めてくれた野生の水牛…。

 肉は硬かったし、味付けはハーブと塩だけだったけど、美味しかったなぁ…。

 食べ切れなくて捨てて帰った時は泣いたなぁ…。

 キツネかオオカミ達が還元してくれたかな?


 ああ…

 ガッツリ肉が食いたいのよ!私は!

 牛肉パーティしたいよぅ…じゅる…。

 仕事の報酬は、金じゃなくて牛を送ってもらおうかな?


 いかんいかん…よだれが…。

 今の私はお上品なお嬢様…。

 父ちゃんの為に我慢しろ…私。


 「まぁ…オマリー様にはお嬢様が居らしたのですね…。

 奥様は…いらっしゃらない?

 ああ!不躾な事を聞いてしまいましたわね。失礼致しました。

 …如何でしょう?

 男手一つで女の子を育てるのは大変でしょう?

 わたくしの姪が適齢期でして。もしよろしければご紹介させて頂きたく…」


 殺す!

 ハッ!いかんいかん…殺気が漏れそう。抑えなきゃ…。


 お肉…お肉…。

 牛、豚、馬、オオカミ、キツネ、イノシシ、ラクーン…。

 鳥やリスは食いでが無いし小骨も多いからなぁ…。

 鷲くらいあれば丁度いいのに。


 そうだ…!今度、父ちゃんに熊を狩って貰おう。

 ナイフが通らないから、私がやると時間が掛かるしね。

 その点、父ちゃんなら力尽くで絞め殺せるし。


 狩りの訓練中によく食べたっけ…。

 ああ…頭の中でご飯(おにく)の事を考えてると殺気が薄れていく…癒やされる。


 思考を他にズラしている内に、早くこの面倒くさいイベントが終わらないかなぁ…。

 ああ…イライラしちゃう…。


 イライラする本当の原因は、髪の油でも服でも靴でも装飾品でも無い…!

 大嫌いな貴族の振りもイライラするけれど、そんなのは仕事で何度もやっている。父ちゃんの為なら我慢出来る。

 本当に嫌な原因は他にある。


 この…魂がどす黒くなった連中!近寄られると鳥肌が立つ!


 さっきから、父ちゃんに話しかけて来る女どもは一体何なの?

 『支援』だの『後援』だのって…父ちゃんを自分の専属にしようとしやがって…!

 専属にして何するつもり!?

 姪だ?娘だ?妹だ?

 挙げ句は愛人契約か?

 父ちゃんに手を出すな!父ちゃんは私のものだ!


 男どもは男どもで、気持ちの悪い目で人の事をジロジロ見やがるし!

 うぇぇ…気持ち悪い!

 皆…よくこんなのに耐えられるわね…?


 ああ…クソッ!エレノア様に釘を刺されてなければ…こいつ等全員殺してたのに!



 私は、ニコニコしながらお淑やかな貴族令嬢を演じつつ、横目で周囲の様子を探る。


 ルーナへの挨拶は、サリーが代わりに受けている。

 サリーがキベレ家令嬢の振りをしている。

 挨拶に来る貴族達はサリーに向かって『ルナメリア様』と言うし、彼女もそれを否定しない。

 ルーナの事はサリーの妹だと思われているみたい。

 お陰で、ルーナはサリーの後ろに隠れながら、ただニコニコしているだけ。


 サリーは本当に凄いわ。

 こんな連中相手に、笑顔を絶やさずに応対し続けられるなんて。

 近付かれなくても視線を向けられるだけで、こんなにも気持ち悪いのに…。

 私なんて、ずっと鳥肌が立ちっぱなし。


 私にも、身代わりになる侍女が欲しいなぁ…。

 『笛』の補助要員から、誰か見繕ってもらおうかなぁ?


 そんな事を考えながら『作業』をこなしていると、同じ卓に座っていた王帝の娘が何も言わずに立ち上がって、静かに部屋を出ていった。

 あまりに自然な動きだったので、ごく一部の者達しか気付いていない。

 居なくなってしばらくしてから、何人かが王女が居ないことに気付いた様だ。

 しかし、気付いた人達もその事にあまり関心が無かったようで、騒ぎにもならなかった。


 …あれは訓練された人の歩き方。


 横に居た側仕えの女性は、かなりの手練れの様だった。

 王女の護衛を兼ねているなら当たり前かと、気にも留めなかったが、王女本人が訓練をしているのは珍しい。


 普通の王女様が私達みたいな訓練を?何故?

 王帝やエレノア様から聞いた情報にその様な物は無かった。

 有名な才媛である事くらいしか聞いていない。

 リリンなら知ってる?…いや、王帝が話さない事を喋るとは思えないわね。

 

 まだ挨拶の儀は終わってないよね?

 王帝と二人の夫人は残ってるし。

 飽きて昼寝でもしに行ったのかな?


 私もさっさと休みたい。

 …私も彼女みたいに逃げるか?

 いや、父ちゃんが困るから駄目だ…。


 「実に育ちの良さそうなお嬢様ですわね」

 「ありがとう存じます」


 節穴女が節穴な感想を述べた。


 お前らが驚くくらい良いお育ちだよ?アタシは。

 是非、一度ご招待したいわ。私の生まれ故郷(ゴミタメ)に。

 何日持つか賭けをしよう。

 …いや、生きては出られないか。


 「実はわたくし、バルト家とは遠い親戚筋にあたりますの」

 「まあ…。それは奇遇ですこと」

 「ええ、ですのでオマリー様とも血縁関係がございますのよ?つまり、貴女も私の親戚という事。

 もし、何か困った事があったら頼って頂戴ね」

 「その時は是非…」


 その時なんて来るか。嘘つきめ。

 こっちは、叔父様の縁戚関係は姻族まで含めて全て把握してるんだ。

 貴様のような奴は居ない。

 それに、バルト家の関係者なら父ちゃんが養子なのは当然知ってる。

 血縁関係なんてあるわけ無いだろ。ばーか。

 聖教国で暮らしている無知な箱入り娘なら騙せたかもな?


 …ふぅ…

 本当に汚い連中。


 生まれ故郷の仲間達は身なりは汚かったけど、魂は貴様らより綺麗だったわ。

 殺しや盗みや騙し等、何もかも色々としたけれど、それは生き残る為だった。

 私の仲間達の中には、貴様らの様に自己満足の欲望の為に人を騙そうとする奴は居なかった。


 こんなに疲れるなら、敵地に侵入して誰かを暗殺してくる方が楽だわぁ…。

 おや…?あれは、さっき出て行った王女付きの側仕え…?


 王帝の娘が部屋から出ていった後、しばらくして側仕えの女性だけが戻って来て、エレノアとクラウディアに話し掛けている。


 エレノア様達に何の用だろう?

 あれは側仕えと言うより暗部だろう?罠か?


 父ちゃんも、顔は挨拶に来る貴族に向けて和やかに話しているけれど、意識はエレノア様の方に向いている…。


 気になるから後をつけたいけど、挨拶の列が止まない。

 挨拶を無視したら父ちゃんに迷惑が掛かる。


 オマリーは、私がクラウディア達に意識を向けている事に気付いたのか、こちらに目配せをしてから小さく首を振った。


 父ちゃんが大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう…。

 ごめん、クラウ。エレノア様を頼んだ。



 

諸事情により、一週間程お休みします。

ごめんなさい(´;ω;`)


次回投稿は2月20日から行います。m(_ _)m



お祓いにでも行った方が良いのかなぁ…(・ัω・ั)

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