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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
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◆4-66 歓迎式典 挨拶 リヘザレータの場合

リヘザレータ=エッツォ視点




 私達の座る卓の周りには、大勢の参加者達が列をなしています。

 卓と卓の間が広いので、人が多く並んでいても狭苦しさはありません。

 ただ…何と無く、大人の男の人達が近くに居ると気持ちが落ち着かず、恐怖を感じてしまいます。


 列に並ぶ貴族達の目当ては、すぐ隣の卓に座っているルナメリア様とジェシカ様のお父様であるオマリー様です。

 しかし並んでいる人達の何割かは、私達の卓を目指してやって来ます。

 でも、来る方々の目当ては当然私ではありません。

 フローの家…メロヴィング伯爵家です。


 「ヴィラン=メロヴィング伯爵代行様、フローレンスお嬢様、お初にお目にかかります。

 私はソムノ貿易商会の後援者、アシュリー=クレイウッドと申します。こんななりですが、子爵位持ちでございます。

 メロヴィング様の扱う家具や魔導製品は、我が国でも大変好評です。

 もし、わたくしどもの商会を通して頂ければ、我が商会の販路を存分に活用して頂き…」


 …クレイウッド子爵が長々と説明します。

 ソムノ貿易商会といえば、帝国内の(おろし)と輸出品の掛金の事で揉めて、踏み倒した経歴のある商社です。

 聖教国の人間なら、その事を知らないと思っているのでしょうか?


 「ほぅ…。大変魅力的なお話ですな。是非、前向きに検討させて頂きたい」


 …知らない人間が身近に居たようです…。


 …フローレンス…フローの顔はニコニコしているけれど、凄く…イライラしてる…。

 幼い頃からの付き合いだから、彼女の気持ちは良く分かります。


 帝国の貴族は信用するな。…私達は、そう言われて育てられてきました。

 フローのお父上は立派な方です。

 帝国の人に対する偏見を除けば、貿易以外の…製造業等の分野でも成功を収めた優秀な経営者です。

 その優秀な方の弟が、何故こんなに無能なのでしょう?

 そして何故、こんな人が代表代行なのでしょう?



 この席はメロヴィング家を筆頭として、メロウビット家、エッツォ家等の、聖教国の大手貿易商会の後援者が纏められています。

 この周辺の卓は、帝国派とか、王国派とか、融和派とか関係なく、貿易関係で纏められているみたいです。

 ただ、私達の居るこの卓に関しては、大手商会の中の王国派閥の三家が占めています。

 私がフローの幼馴染というのを、王帝陛下が考慮してくれているのかもしれないですけれど…。


 『その方が、王帝にとっては挨拶に来る貴族たちの監視がやりやすいからじゃないかしら?

 毛色の変わった貴族が近づけば、目立つでしょう?』


 なんて、クラウディア様はおっしゃっておりましたが…。

 相変わらず、斜に構えた見方をする方ですわ。

 まるで…苦労した大人の男性の様な…。いえ、失礼な考え方ですね。

 でも、あの方の言動も行動も、『女性はこうあるべき』という伝統を壊すような…なんだか凄く新鮮な様な…憧れる様な…。



 話しかけて来る人達は、ほとんどが貿易商会関係者ばかり。

 彼等の話は、メロヴィング家を通しての聖教国の商会との契約か、フローの婚約話です。


 フローの婚約話…これが厄介です。


 聖教国と帝国の力関係上、下位貴族からの申込みは、流石のヴィラン様も歯牙にも掛けません。

 しかし、伯爵位以上からの申込みで心が揺れている様でした。


 彼女自身が目的の人なんて…当然居ません。

 彼女を踏み台にしてメロヴィング家に食い込み、聖教国内の販路を奪う事が目的なのですが…。

 保護者として、代行として出席している叔父のヴィラン様は、ちゃんとそこまで理解しているのでしょうか?

 これまでの言動から、信頼は置けません。


 「はじめましてヴィラン殿。

 私はアッシャー侯爵様の代理で参りました。

 アッシャー侯爵家は帝国の各派閥内に強力な繋がりを持っている事はご存知でしょう?

 フローレンス様のお気持次第ですが…。如何でしょう?

 我が家と(よしみ)を結んで頂ければ、帝国内の巨大な販路をメロヴィング家が利用する事も叶いますが…」


 「それは…!とても魅力的なお話ですな…!

 我々も、帝国の方々とは良い関係を構築したいと考えております。

 是非、後程詳しくお話を伺いたい」


 …ああ、フローのイライラが募っていくのを感じる…。

 アッシャー侯爵といえば、既に50に手が届く妻子持ちではありませんか…。気持ち悪い。

 それに、王国派閥を纏めてきた方の弟とは思えない発言。


 子供の頃から私達に、帝国の奴等は嘘つきばかりだから信じるな、近づくな…と、教え込んできたくせに…。

 そして、女は男に意見を言ってはいけないと、会う度に言ってくる…嫌いな人です。


 ヴィラン様は、フローの気持ちに全く気付いていません。

 いつも彼女が、デミトリクス様以外の男に対して毛虫を見るような目で見ていたのは、多分彼のせい…。

 フローの為にも、王国派閥の為にも、彼を止めないといけない…のだけれど…。


 フローのメロヴィング家が、貿易と加工家具や魔導具製造の複数の商会の後援者です。


 後援者と言っているのは、貴族である建前上、お金にガツガツしていない事を示す為の建前です。

 『金』や『資』の言葉を隠し、経営からも離れている風を装います。

 言い換えない開き直った貴族もありますが、高位貴族になればなるほど、出資者等の事を『後援者』という言い方にします。

 フローのお父様は、実質的に全商会の財務の全てを握っている経営者です。


 そして、アデリン先生のメロウビット家の商会が魔石の輸入や加工を、私の家が各種材木や聖教国で出土しない鉱石の輸入を扱います。

 それをメロヴィング家の商会の製造部門が、売れる商品に作り変えて輸出します。

 つまり、私達の家は大手商会の下請け。使い走り。

 メロヴィング家が無ければ、私達の品は二束三文です。

 ヴィラン様が、フローに対してどれだけ失礼な事を言おうとも、私では口を挟む事さえ…。


 「ヴィラン様。本日の主目的は学校交流会です。

 もし、フローレンス様の意向を無視して話を進めるのでしたら、王帝にお願いして並んでいる全ての貴族達を解散させますよ?」


 アデリン先生が、珍しく強い口調でヴィラン様に諫言(かんげん)しました。

 並んでいる貿易商会の貴族達や富豪がざわつきました。


 「な!貴様…!誰に向かって!」

 思っても見ない所から正論をぶつけられ、ヴィラン様が怒りで震えています。

 アデリン先生は珍しく、凄く冷たい目で彼を見下しています。


 「どうかしたか?

 何か問題でも起こりましたかな?」

 王帝のベルンカルトル様がこちらを見て、大声で話しかけて来ました。

 これだけ多くの人達が色々な箇所で挨拶をしている中、問題を起こしそうな所はしっかりと把握して、すかさず助け舟を出す…。

 やはりこれだけの国を纏める人は、端々の細かい事にまで気を配っているのですね。流石です。


 「ヴィラン殿?、ああ…君はアッシャー侯の甥っ子だったな?

 どうした?私が話を聞こうじゃないか?」


 王帝ベルンカルトル様は、ニコニコした顔でこちらを見ていますが、凄い威圧感です。

 彼等が話していた内容を聞いていたようですね。

 顔は笑っていても眼光は鋭く、殺気がこもっています。

 私に向けられたものではないのに、足がすくみます。


 王帝に視線を向けられたヴィラン様は、顔を真っ青にして俯いてしまいました。

 迫力に圧されたアッシャー侯爵の遣いは、逃げる様に広間を出て行きました。


 …フローも私も驚いて目を見開いてしまいました。

 勿論、王帝陛下の迫力に対しても…なのですが…。


 普段おちゃらけていて、先生らしい事を全然しないアデリン先生が、怒りに震えているフローの気持ちを汲んでヴィラン様に意見を言いました。


 私の父は口を挟めずにオロオロとしてましたのに…。

 ヴィラン様の暴走を諌める事も出来ないなんて…情けない。

 …私も含めて…ですが。


 いざ、友人が危機に(ひん)した時に動けないなんて、私は…なんて情けないのでしょう…。


 「…アデリン、立場をわきまえなさい。それと…ありがとう…」

 フローが彼女を叱りました。小声でお礼を付け加えながら。


 「ごめんなさいね。フローレンス様」

 叱られたアデリン先生はニコニコしています。

 まるで、仲の良い姉妹の様ですね…。


 フローはこちらを見ていません。反対側に座る先生に笑顔を向けています…。

 私のすぐ隣に座るヴィラン様は、凄く居心地が悪そうです。


 …叱られても、殴られても、フローの為にヴィラン様を諌めるべきでした…。

 本当は、先生がやることでは無く幼馴染で同派閥の私がやるべき事。

 私は自分を先生と比べてしまい、落ち込んでしまいます。


 「貴女も…私のせいで落ち込ませたわね。ごめんなさい」

 フローは、私の方を見ずに、小声で話しかけて来ました。


 私がフローの気持ちを察していたのと同じ様に、フローも私の心の葛藤に気付いていたようです。


 「…ごめんなさい…」

 私は思わず涙をこぼしてしまいました。

 眼の前のヴィラン様も私の父も、ギョッとして固まって仕舞いました。

 挨拶に来た他の貴族達も、気まずそうにしています。


 「フローレンス様…謝らせてごめんなさい…」

 泣き顔を見られないように、顔を伏せてハンカチで顔を隠します。

 フローは何も言わず、こちらに視線を向けない様に気を遣ってくれていました。


 …本当に…情けない。

 強くならないと…フローを護れるくらいに…。

 クラウディア様みたいに…なりたい。



 

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