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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
165/287

◆4-65 歓迎式典 挨拶 カーティの場合

カーティ視点




 昼餐が終わった。

 そして、退屈でつまらない帝国貴族達の挨拶が始まった。

 私の前には、私と関係を持ちたい連中が長蛇の列を作っていた。


 …裏にある意図が透けて見えて反吐が出るわねぇ。

 帝国の連中…やっぱ、いけ好かねぇわ…。

 …どいつもこいつも面白味のない顔の奴等ばかり。

 少しは私の関心を引ける人間は居るかしら?


 そんな事を考えながら、長く延びた貴族の列を機械的に処理して行く。


 受け答えの基本は『さしすせそ』だっけ?


 さ…さぁ?興味ありませんわ。

 し…知ったか振りはみっとも無いですよ。

 す…少しは、その帽子掛けに脳みそを詰めてきて下さい。

 せ…せめて人間として、最低限の知能を所持して下さい。

 そ…それで?貴方と話している時間が勿体ないので帰ってもらえます?


 そう答えたら、クラウディアちゃんに頭を叩かれた。


 …なんか間違った?

 受け答えを修正させられちゃった…


 正直な感想を口にしない様に我慢中。

 クラウディアちゃんに3回も怒られちゃったから。

 私が失言ばかりするので、クラウディアちゃんが私のすぐ隣の席に移動して来たわ。ちょっと嬉しい。

 小声で受け答えを指示してくる。耳がこそばゆい。

 私は嬉しいから良いけれど、挨拶に来た貴族連中はやり難そうね。


 「ルトベック伯爵令嬢、私は帝国魔導具研究所の監査を務めるセドリック=ハルヴァと申します。

 ここだけの話ですが、我々は現在(いま)圧縮熱を反転させた冷凍技術を実用化させる研究中です。

 是非一度、我が研究所にお越し頂き、我々の研究成果を見て頂きたく…」


 「成る程…それは興味深いですわ」


 …その反転させた冷凍技術って…ミランドラ卿が既に実用化させているコンプレッサー式冷凍技術の事じゃないの?

 それと、このオッサン口臭い。…1点。


 「カーティ教授、我が家では教授の発明した連動型魔導灯を全ての部屋に設けております。

 是非、尊敬する教授には我が家にお越し頂き、貴殿の発明品の素晴らしさを…」


 「左様ですか…。ありがとう存じます…」


 …連動型魔導灯の発明者は私ではなくミランドラ卿だ。

 その程度の知識も無く私に話し掛けるな!…0点。帰れ。


 「カーティ教授。貴殿の発明した魔導銃、実に素晴らしいものですな。

 魔力の低い我が娘が、先日暴漢を撃退しました。

 是非、教授にはお礼を兼ねて我が家に招待したいと…」


 「それは光栄でございます。

 私の発明が人を助ける事に役立ったとは、大変嬉しく思いますわ」


 …コイツは多少は分かっているようね…。

 5点!ぎり合格ライン!

 でも面倒くさいから家には行かないけどね。


 やっぱり10点満点つけられるのはクラウディアちゃん位しか居ないわよねぇ…ああ…くそつまらねぇ…。



 来賓は着席したまま動かないで、帝国貴族達が興味のある相手に挨拶に来る方針。

 聖教国の式典とは随分違う。帝国の式典って変わってるわね。

 いや?学校交流会だからかな?

 子供達がウロチョロすると、どこで粗相をするか分からないから?

 まぁ…どっちでもいいか。私は楽でいいや。


 直接子供達に挨拶に来る貴族も居れば、子供達は無視して、その保護者に挨拶する者も居る。

 一応、今回の式典の主役は子供達なのだが、大人の私の前に長蛇の列。


 どの貴族が誰に話し掛けるかで、誰がどう考えているかを探る目的もあるんだろうなぁ…。

 ああ、だから来賓は席に座ったままにさせてるのか?

 見やすいように?

 まったく…いけ好かねえ熊男だことで…。

 でもこれだと、人気ある人と無い人がハッキリ分かれるわよねぇ…。


 一番長い列が出来ているのは、当然キベレ侯爵令嬢とオマリー司祭。

 ここらに声を掛けるのは無難な対応。

 若しくは、私は無難な貴族ですよ、警戒しないでね。と、見せる為かな?…考え過ぎ?


 次点で私。狂った魔導具士のカーティ。

 裏でなんて呼ばれてるかは知ってる。

 …まぁ、自覚はあるのよ?


 私に声を掛けるのは本当の魔導具好きか、魔導具好きを装って新兵器の情報を得たい奴のどちらかよね。

 …引き抜きもあるかも知れないけど。

 いや、派閥争いには参加しないよ、というアピールか?

 そこまでいくと分からん。


 ふと、隣の円卓に目を遣る。


 アデリンの横に居るのは…フローナントカちゃん…だっけ?

 確か、ハダシュト王国支持派の筆頭伯爵家のお嬢様。

 彼女の隣のオッサンの前に長い列。私並みの。


 そういえば、彼女の家は大商会の実質的な支配者だったか。

 貿易関係か?王国派閥を取り込む狙いか?

 経済にも政治にもそんなに興味無いわ。

 まぁ、アンタ達で勝手にやっておくれ。


 主賓級の席に居るのだし、王族の意向には反していないから目は付けられないでしょ。



 私と同じ卓の、エレノア司教に挨拶に来る連中もチラホラ居る。けれど、思ったより少ない。


 彼女自身がどの派閥なのか分かりにくいからかなぁ?

 聖教国の司教で、王国貴族の保護者である帝国貴族。

 うん…訳わからん。

 彼女の主軸は聖教国なのだろうけどね。

 彼女に何かすると、王帝と教皇の両方に目を付けられそうね。それが良い事でも悪い事でも。

 …だから、近づく人が少ないのか?


 王国支持派にすら貴族達が挨拶に来ているのに、やはり、ハダシュト王国出身の5人の所には誰も来ない。


 …聖教国を通してハダシュト王国と付き合うのは良いけれど、直接接触する度胸のある貴族(ヤツラ)は居ないか?

 紛争中だしね。仕方ないね。

 お陰でクラウディアちゃんの価値がバレないから、私としては良いのだけれど。


 このテーブル席で長蛇の列を作ってるのは私だけ。

 おかげで私だけ悪目立ち。

 悪い方で目立つのは慣れてるから、別に良いのよ。


 しかし、殆ど興味のわかない奴等ばかり。

 もっと対等に話せる相手が欲しいよ。

 …ああ、時間の無駄無駄…。

 クラウディアちゃんと論争したい…。



 次の貴族は…でっぷり肥えたオバサン…?

 う〜ん…。

 とても魔導具や兵器に関心があるようには見えないけれど…?


 「聞いたところ、カーティ教授は独り身だそうですわね。

 我が伯爵家にも、教授より歳上で未だに独り身の可愛い甥っ子が居りますのよ。

 歳も身分も釣り合うと思いません?

 もし宜しければ、仲を取り持って差し上げますわよ?」


 「御遠慮致します(しね。くそばばあ)


 …マイナス10…いや…マイナス100点!


 つい本音が…まぁ、良いか。


 「くそばば…?えっ…?」

 彼女は言われた意味が理解出来なかったらしく、目を丸くして口をパクパクさせている。


 ん…?

 …オバサンの脳味噌では理解できない位、難解な言葉だったかしら?


 「失礼、つい本音が…。次の方の邪魔になりますので、さっさと去れ、でございますわ」


 私はにこやかに微笑んで、出来るだけ丁寧な言葉で対応した。

 ここ数年で一番爽やかな笑顔であったと自負する。

 クラウディアちゃんも顔を逸らして何も言わない。

 対応としては間違って無いわよね?怒られないし。


 伯爵夫人の顔が、物凄い速度で真っ赤に変化していく。


 …ああ…これは面白いわね。少しは退屈が紛れるわ。

 罵ると、侮辱言葉に反応して顔が真っ赤になる魔導人形とか造ったら…面白いのかも?いや…面白いな!

 これは…、メモしておかなければ!

 

 「な…な…!これだから!この田舎者は!!」


 叫びだした伯爵夫人は、すぐに駆け付けた王帝の護衛騎士達に引きずられて追い出された。

 引きずり出されるまで、誰にも理解できない難解な発声を繰り返していた。

 …これはこれで面白いな…。


 …ふぅ…、碌な奴が居ねー…おっと。居ねーませんわね。

 あれ?敬語ってこれで良かったっけ?

 ()()()()()()()だっけ?修正修正…インプット…。


 一応リオンちゃんの顔を立ててやろうって気持ちで式典を壊さないであげてるけど、流石にそろそろ限界かな?


 懐に忍ばせた物でこの場を目茶苦茶にして、その間に逃げようかしら?疲れたし。


 前回クラウディアちゃんに怒られたから、今回は爆弾は止めたのよ。

 今回のアイテムは…発煙筒〜♪


 より見つけにくい様にする為に開発した、魔力起動式の超小型発煙筒。

 このサイズで起動回路を組み込むのは大変だったのよ?

 ミランドラ卿が居たら、是非採点して欲しいわ。


 片手にすっぽり収まるサイズなのに、この広間全体の視界を覆える量の煙が出せる高性能魔導具!


 今回も身体検査した奴等は誰も気付かなかったわ。

 くっくっくっ…本当に警備がザルよねぇ…。


 私は懐に忍ばせた発煙筒に手を伸ばす…。


 ガシッ!


 いきなり肩を掴まれた。

 そちらを見ると、こめかみに青筋を浮かべたクラウディアがニコニコしながら私を見下ろしていた。


 「な…何?どうしたのかしら?クラウディアちゃん…?」


 周囲の人達は彼女の行動に驚き、身動(みじろ)ぎしなかった。


 クラウディアは私の懐に入れた手を引きずり出すと、手の中に握っていた発煙筒をひったくった。

 その後、壁際に立っていた護衛騎士にそれを手渡し、再び着席した。


 「…何故、私のしようとする事がわかるの?」


 「なんの事でしょう。教授の深謀なるお考えは、凡人のわたくしには全く理解出来ませんわ」

 「こ…これが、以心伝心…?やはり愛し合っている者には理解出来るのね…」

 「理解できない…と言った、私の言葉をご理解下さいませ」


 …流石はクラウディアちゃん。

 やはり私の最大の理解者…!



 「…で我が家に伝わる古代の魔導具が御座いまして、是非一度おいでいただけたら…」

 その後も退屈な貴族達のお誘いを、欠伸をしながら右から左に流していた。


 その時…


 「クラウディア様…」


 有象無象の貴族達を、クラウディアに教えられた通り機械的に処理していると、誰かの声が耳に入った。

 聞こえた声に反応して反射的に振り向いた。


 誰かの侍女が、私の愛しい人(クラウディア)とエレノア司教に何かを話していた。

 …誰よ!その女!


 小さな声で、ボソボソと話しているので聞こえない。

 二人は何度か頷くと立ち上がり、彼女に付いて部屋を出ていった。


 …ああ…、行かないで、私の理解者(クラウディア)



 

何故か、カーティは書きやすい…楽しい。

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