表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
156/287

◆4-56 深夜の図書館 侵入者達

ジェシカ視点




 「サリー、こっちの端を持って。ジェシカ、貴女はこちらの端を…。それでね…」

 クラウディアがサリーに予備の『実存の糸(エッセ)』を手渡し、これから私達がやる事を説明した。


 サリーは鉄串を石造りの屋根の隙間に深く挿し込み支点を作った。そして、そこにクラウディアから渡された糸を巻き付ける。

 仕掛けの下準備兼、私の命綱用。

 私は、糸のもう片端を持ち、開けた天窓から身体を滑り込ませて図書館に侵入した。



 図書館の中は灯りが全て消されていたが、月光のお陰で意外と明るかった。

 月から降り注ぐ光が、屋根のステンドグラスや磨りガラスを透過して、乱反射している。

 色とりどりの光の波が、静寂に包まれた館内に夢想的な美しい模様を描き出していた。


 明るい光が射し込む反面、光の当たらない場所には真の闇が作り出されていた。

 光と闇の境界線が、手で触れるのではないかと感じてしまう程、くっきりと別離()けられていた。

 

 私は、その中をゆっくりと進む。

 ナイフの刃先の様な細い糸の橋の上を。

 下を見ると、一階まで貫通している大きな吹き抜け。

 一階の床までは目も眩むような高さ。

 気を抜くと私でも危ない。


 …まぁでも、落ちても途中の渡り廊下に飛び移れるかな?私なら。

 この位の高さには慣れているから。

 心配症のクラウが持たせた命綱もあるしね。


 領域をキッチリと分け合っている光と闇が、糸の上を歩く私を交互に照らす。

 私は、意識的に光を避けて闇の中で和む。

 真の闇に身体を溶け込ませていると、心が落ち着く。


 …でも光も好きよ。闇を濃くして私を隠してくれるから。


 天窓から建物の中心にある螺旋階段に向けて、斜めに張られたクラウディアの糸の上を、綱渡りの要領で降りていく。

 糸そのものは全く見えないが、靴底に貼られた革を挟んで、クラウディアの糸の弾力を感じる。

 恐怖心は無い。


 降りている途中の暗闇の中、左下の丁度いい位置に空中廊下が見えた。

 図書館の巨大な吹き抜けを、真っ直ぐ東西に貫く渡り廊下。

 閉架書庫の扉に繋がる最上階の空中廊下だ。


 …距離は4メートル…高さは…3メートルくらいかな?

 丁度いい距離ね。


 私は手渡された糸の端を掴んだまま、闇の中に浮かぶ橋を目掛けて飛んだ。

 そして幅広い空中廊下の床上で一回転しながら着地した。


 ふかふかの絨毯まで敷かれてるなんて…くそ…金持ちめ…。

 お陰で痛くなかったけどさ。

 今だけは…ほんのちょっぴりだけ感謝してやる。


 閉架書庫の扉のある方向とは反対の壁際まで進み、周囲を見て回る。

 建物の中央の大黒柱の周りを回る閉架書庫に繋がる螺旋階段。

 その螺旋階段の頂上から真っ直ぐ東西にのびる空中廊下。

 空中廊下の両端から繋がる円筒状の壁際の回廊には、閉架書庫と図書館内の場を仕切る壁がぐるりと一周している。


 あの壁の内側全部が閉架書庫?

 通路状になっているとは聞いていたけれど。

 広いのか狭いのか分かりにくいわね。


 ドーナツ状に造られた最上階の空中回廊は、閉架書庫にスペースを取られている為に通路は狭くて書棚は無い。

 書棚は無いが、装飾の為か構造上の問題かわからないが、狭い空中回廊に柱だけが均等に並んで立っていて、ドーム状の屋根を支えている。


 私は、入ってきた天窓から回廊まで、なだらかに一直線上になる丁度いい場所を見つけた。

 普段の天窓の開け閉めはこの辺りからやってるらしく、壁際には数メートルはある鈎付の棒が立て掛けられていた。


 …クラウやサリーだけなら、糸を渡って来い…って言えば済む話なんだけどなぁ…。

 王子様に曲芸なんてさせたら、エレノア様に怒られちゃうからね。

 あの天窓の位置なら、螺旋階段よりこっちの方が近いし、この辺りが良いよね?

 安全確保までしないといけないのは手間よねぇ…。


 その近くの手摺に持っていた糸を通した後、先端に(おもり)をつけ、入ってきた天窓に向けて錘ごと糸を投げ返した。


 サリーは、私から投げ返された糸を受け取り錘を外し、その代わりにロープを結び付けた。

 そして鉄串に巻き付けていた糸を外して、ゆっくりと引っ張る。

 ロープが結ばれた方の糸が引っ張られ、ロープが館内にゆっくりと引き込まれていく。

 天窓から入っていくロープは、まるで空中を泳ぐ蛇の様に動き、ゆっくりと私の居る方向へと進んで来た。

 そして、私の居る回廊の手摺まで辿り着いた。


 …知らない人が見たら、ロープが自分の意思で空中を泳いでいる様に見えるわよね?

 たしか旅芸人がやる手品…とか言ったっけ?興味無いから見たこと無いけど。

 それの正体(しくみ)もクラウの糸みたいな物を使っているのかな?

 空中にあの娘の糸を張って、その上を歩けば、空を歩いてる様に見えないかしら?

 …あの娘と一緒なら、芸で食べて行くことも出来るかも。


 下らないことを考えていた私の眼の前の手摺に、体を擦り付けながら曲がり、入ってきた天窓の方へと帰っていく蛇の様なロープ。

 サリーは、そのまま窓を抜けるロープを手に取り、戻って来たロープと手元のロープを結び、大きな輪を作った。


 天窓と私の眼の前の手摺を繋ぐ、ロープの輪っか。

 彼女は、ロープの輪を(たる)みが無くなるように捻って、屋根に挿した鉄串に引っ掛けた。

 捻って張力が増した事で、私の居る回廊とサリー達の待機している天窓を真っ直ぐに繋ぐロープの橋が出来あがった。


 触った感じ、2〜3人が同時に乗っても弛まない位には張力がある。


 …ここまで強く捻れるとは、流石サリーの馬鹿力。

 変態だけれど、本当に優秀よね。


 「いいわよ」

 私はロープの張り具合を確かめてから、合図を送った。

 私の合図で、クラウディア達が橋になったロープを伝ってゆっくりと降りて来る。

 今度はリオネリウスが最後だった。


 リオネリウスが降り立ったところで、橋になったロープの一端をナイフで切る。

 慎重に捻じりを(ほど)きながら、引っ掛からない様にロープを回収した。


 「これで、侵入跡は残らない。…初めに螺旋階段に通した方の糸はまだ残ってるけど。

 万が一、帰りに必要になった時を考えて残しておきましょう。

 予定通りなら玄関から出れると思うけれど、念の為。

 垂らしたままの縄梯子や鉄串も、後で回収しないといけないしね」


 「お前達にかかると、こんなに簡単に侵入されてしまうのだな…」

 リオネリウスは、ショックを受けたらしく肩を落としていた。


 …警護をしていた帝国(じぶんたち)自慢の騎士達の質の低さや、信頼していた防犯設備のある図書館への、跡を残さない侵入方法を見せつけられてはね…。


 「…でも、この方法は一度館内に入る必要はあるけどね。

 今後の防犯対策の参考にでもしなさいな…」

 クラウディアは、軽く笑った。


 …近頃は、この娘も本当に自然な表情が出来る様になってきた。良い傾向だわね。



 「それで…俺を此処に連れてきて何をさせるつもりだ?」

 「リオネリウスには、この辺りに隠れて成り行きを見ていて欲しいだけ。

 何かあったら、王族の御威光を利用させてもらうわ」

 「…?…犯罪なら協力せんからな…」

 クラウディアの話を聞いて、彼は訝しげに眉をしかめた。


 …私も、これから何が起きるかは聞いてないのよね。


 その時、図書館の入口に繋がる通路の方から、玄関扉のノッカーを叩く音が微かに響いて来た。

 それに呼応する様に、誰かが走る音が聞こえる。


 「皆、静かに隠れていて。パック、お願いね」

 「はいは〜い。やれば良いんでしょ〜」

 「上手にやってくれて、更に静かにしていてくれたら、ルーナにパックが凄く優秀だったと伝えてあげる」

 「まっかせて!ボクが超優秀なとこ、見せてあげる!!」

 「…静かにね」


 クラウディアの合図で、私達は一斉に黒いマントで身体を覆いフードを深く被り直し、柱の陰の中に潜み気配を消した。

 リオネリウスも、慌てて柱の裏に身を隠す。

 それに併せてパックが魔術式を発動させた。


 闇の中の黒ずくめの集団。

 更に光の屈折(とうめいか)の魔術式が掛けられている。

 これを発見出来る者は居ないだろう。


 私達が隠れた場所は、斜め横方向に閉架書庫の入口扉が見える位置だった。



 

リオネリウス達、レヴォーグ家への助力に関してはクラウディア達の業務内容に入ってます。

だから、深夜残業割増手当等はちゃんと支払われます。

うち、ブラックじゃないよ?

by 教皇


特殊な形状の建物の内部の形態を、言葉だけで表現するのって…めっちゃ難しい…(-_-;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ