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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
151/287

◆4-51 手のひらの上

クラウディア視点




 私は、図書館からホテルに戻った後、すぐに目当ての部屋に突撃した。


 コン…コココン…

 「どうぞ~。開いてるわよ」

 私は遠慮なく扉を押し開けた。


 部屋の奥のベッドの上で、ミニスリップにかぼちゃパンツを穿いている赤毛の猫の様な娘が丸くなっていた。

 下着姿のままベッドでゴロゴロしているジェシカだった。


 「また、そんな格好で…誰かに見られたらどうするのよ…」

 「私の部屋なんて、アンタかルーナくらいしか来ないわよ」


 彼女は、朝の運動に出て軽く湯浴みをした後、久し振りの休みをダラダラと楽しんで居たところだった。

 私は、今朝の王宮での出来事を彼女に話した。


 「あー…やっぱりね。…だからかぁ…」

 ジェシカは仰向けに寝そべりながら、自分の赤毛をいじっている。


 「ジェシカは予想してたの?アイツの状況」

 私は聞いてないのだけど?と、暗に非難しながら尋ねた。


 「私が調査の為にアイツの後を付けていた時にね。

 何度かヤツの目を見たのよ。

 焦点の合わないぶれた視線だったわ。

 まるで、寝惚けながら歩いているみたいに。

 誤解しないで欲しいけれど、私はちゃんと報告したわよ?」

 髪の毛の先を指で引っ張ったりして、クセ毛を伸ばしている。


 「操られてるっぽかったからねぇ…。

 何かの計画に巻き込まれてるのかも…と書いてね。

 でも、遠目だったしねぇ…。

 確定はしてなかったから、報告書には付記程度に記載しただけだけれども…」

 エレノア様は余計な先入観を与えない為に、皆に教えてなかったのね…と小さく呟いた。


 彼女は気怠そうに、枝毛をプチプチと抜いている。


 「止めなさい。髪が痛むわよ…。それで犯人は?」


 「私の観測中は一度も接触してない…と思う。

 …王宮の中で遭っていたり、アイツの側仕えや護衛に紛れてたら分からないけど。

 外で接触した人間の中では…怪しい奴は見てないわね。

 …あくまで、私の観測中のみの話だからね。一日中監視していた訳じゃないからね」

 「分かってるわよ…何度も言わなくても」


 そう言いながら、ジェシカは抜いた枝毛を息で吹き飛ばした。


 「兄のゼーレベカルトルか、もう一人の…えーと…ホニャララカルトルの可能性は?」


 私は、ジェシカの部屋の応接椅子に腰掛けて、飲みかけで放置されていた冷めた紅茶を勝手にいただく。


 …うん。不味い。これ、出涸らしだわ。


 「ホニャララ何とかは誰だが知らないけどね。

 リリンの話では、長男のファルク何とかは暫く首都に帰ってないらしいわ。

 明日の式典には戻るらしいけれど。

 …一体何が起きてるのかしらねぇ?」


 そう言いながら、赤毛を指でクルクルと巻き取る。

 今度はカールを付けようとしている。


 「今のところ一番怪しい次男のゼーレベ何とかは、他人を操る魔術式は登録されてないわね。

 でも、登録は任意だし、隠している奴も多いから確定じゃないけれどね。

 浸礼名からして、あの兄弟は3人とも炎遣いよね?浸礼名が嘘でなければ。

 精神支配や精神汚染が得意なフラメア信者は聞いた事ないから…多分、他に居るんじゃない?」


 「リオネリウスはガキだけど一応王子。魔力は馬鹿みたいに大きいわよ?

 それを操れるとなると、同程度の魔力持ちでないと無理じゃない?」


 ジェシカが残した保存食のビスケットを勝手にいただく。

 表面は湿気ているのに、中身は石。

 全粒粉に水と僅かな塩のみ。勿論砂糖等入っていない。

 端的に言って不味い。歯を砕く為に存在している食べ物。


 空腹は最高の調味料とか言うけれど…限度がある。

 …カーティの事が気になって、朝食を摂らずに図書館に行ったからなぁ…ああ、お腹空いた…。


 「聖教国(うち)にだって、ヘルメスを操れるレベルの癖に未登録の奴がいるのだから、帝国(ここ)にも居るんじゃないかな?

 魔力の大きさは、ある程度誤魔化せるしね。見た目じゃ分からないわよ?

 それとも、クラウが目を離した隙にアイツがリオネリウスに接触したとか?」


 …アイツか。

 私達がマークしているヘルメスを操作している容疑者。

 現在、アイツの監視担当は私になっている。


 「私が監視しているのよ?

 アイツは旅行中、一度もリオネリウスには近付いてないわ…多分だけど…」


 …私の探知をすり抜けて…?

 私は、ほぼ正確に魔力の流れを読めるのよ?

 …但し、カーティは除く。本当に厄介なヤツ。


 …でも、確かに…

 ヘルメスを操れる奴…アイツは大した魔力は持ってないのに、遥かに大きな魔力持ちのヘルメスを操ったわね。


 ああ…そういえば、奴等は魔力量の擬態も出来るのだったわ。

 となると、アイツみたいなのが他に紛れ込んで居る可能性は高いか?


 一度は容疑を外した奴等も洗い直しが必要かな…

 カーティの操獣(そうじゅう)も必要なのに?うう…忙し過ぎる。


 「多分ねぇ…アンタにしては自信無さげね」


 「しょうがないじゃない。

 探知にも限界範囲があるし、メンダクスの計画のために首都を離れていた時もあったのだから。

 私も四六時中監視し続けられないわよ」


 「それは分かってるから。責めてる訳じゃないわよ。

 それに、本来リオネリウス達の監視はリリン達の仕事だしね。

 私達が首を突っ込む話ではないのよね…」


 ジェシカはベッドから起き上がって、向かいの席に着いた。


 「それはそうだけど、リオネリウスを操った奴が聖教国の人間である可能性もあるし。完全に手放しとはいかないわ」


 私がそう言うと、ジェシカは溜息を吐いた。


 「リリンの奴め。面倒な事を押し付けやがってぇ…

 せっかくの休みが台無しじゃないか…!」

 「なんの事?」


 私が尋ねると、ジェシカは机の上の小箱を開けて、大きめの鍵を取り出した。


 無骨で重そうな鉄製の鍵。

 鍵の様相からして、対になる錠は古くて大きい扉用だと分かる。


 「これは?」

 「リリンがさぁ…自分が表から行くと立場上マズイからって…。コレを無理矢理押し付けてきたのよ。昨夜。

 監視は理由を付けて薄くするとか何とか…。

 意味が分からなかったけど、私達にやらせるつもりだったのね」


 ああ…アイツの監禁場所の鍵か。

 …と言う事は、私が事情を聞いてジェシカに相談に来るところまで、リリンは読んでいたという訳か。


 「アイツがどこに監禁されているか分かってるの?」


 「昨日突然、王宮北にある古い建物の話をしだしてね。

 その時は、何でそんな話を私に聞かせるのか、全く意味が分からなかったのだけれど…」


 …成る程、流石は蛇姉妹。

 姉と同じで、やる事がいやらしいわ。


 「流石…と言うべきか、丁度良い…と言うべきか、仕方無い…と言うべきか…」

 「手のひらの上で転がされている感じが嫌なのよ…」

 「アレがセルペンスの妹じゃなかったら、絶対に信用出来ないわね」

 「セルペンス自身も信用に値するのか…?」

 「…う〜ん…」


 私とジェシカは鍵を挟んで、唸った。


 「取り敢えず、監禁されてるリオンお姫様に会いに行きましょうか…。

 本当に精神汚染されているかどうかだけでも、確認しておかないとね。

 汚染されてないなら閉じ込めて御仕舞だけど、汚染されてたら…はぁ…面倒くさ…」

 私が重い腰を上げる。


 「ちょっと待って。

 私達が会いに行くと、私達の立場をアイツに曝す事にならないかな?

 エレノア様に許可取った方が良い?」


 「今更でしょう?

 リリンがこの鍵を私達に渡した時点で、曝さない選択肢は無いわよ。

 アイツも一応王族なのだから、諜報部員(スパイ)が周囲に居る事くらいは覚悟しているでしょう」


 私がそう言うと、ジェシカは少し考えた後、躊躇しながら口を開いた。


 「もし…、セタンタが居たら…どうする?」


 ジェシカの一言で、私は椅子に座り直した。

 そして、声を潜めながら話した。


 「不確実な予定は好きではないのよ。

 出来れば相対したくはないわね。居ない事を祈るしかないわ」


 「やっぱり、クラウでもそう思う?

 アイツは強さが良く分からないよ…分からない奴は怖いね」


 …いつもニコニコしている朴念仁。

 実力を隠して目立たない。

 ああいうのが、結構厄介だったりするのよね。


 「リオネリウスの態度から、敵にはならないと思うのだけれど…。希望的観測だけどね。

 一応、万が一を考えて行動しましょう。アレが居たら撤退で。敵対は禁止」


 「了解」


 私達は万が一の時の脱出のタイミングを決めた後、準備を始めた。


 私達は年齢を少し上に見せる化粧をし、ひっつめ髪にして纏める。

 それから上げ底の靴を履き、目立たない侍女の服装に着替えて、人目につかない様に裏口からホテルを出た。


 …さて、囚われのお姫様は何をしたのか?

 それとも…されたのかな?



 

今年の更新は今日までです。

読んでいただき、ありがとうございました。


次話は1月16日を予定してますが、ストックの状況によっては早まるかも…早まればいいな…。


第四章が思ったより長くなり過ぎた…orz

まだ、暫くかかる予定です…

お付き合い頂けましたら幸いです。

m(_ _)m


…こんなに長くなるなら前後編にするべきだったかな…?

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