表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
149/287

◆4-49 とばっちり

クラウディア視点




 結局、その日はそのままお開きになってしまった。

 図書館を出る前に、閉架書庫に入った者全員が念入りに身体検査をされた。


 「失礼致します。規則ですので御容赦下さいませ。

 女性の方はこちらへ…」


 私達は別室に連れて行かれて、リオネリウス、ゼーレベカルトルの女性側近総出で、所持品を微に入り細に入り調べられた。


 コルセットを外し、服の中まで調べられた。

 流石に下着は無事だったけれども。


 「普段はここまでの事は致しませんが…申し訳御座いません…」

 私の服の着付けをしながら、女性側仕えが申し訳無さそうに小声で謝った。


 …私は全く気にしないのだけどね。

 普通の貴族女性の中には侮辱と感じる人も居るかもね。



 ルーナには他者が触れられない。

 その為にサリーが、彼女達の指示に従いながら確認させた。


 「ごめんなさい。私の侍女は身体が弱くて…よく鼻血を出しますの…」

 ルーナが申し訳無さそうに呟く。


 サリーが部屋から出てきた時、彼女が握り締めているハンカチだけでなく襟元にまで血がついていた。

 血塗れなのに、至福の笑顔のサリー。

 周囲の女性側仕え達は何とも言えない顔で、ずっとサリーから目を逸らしていた。私も目を逸らした。



 カーティは全身をひん剥かれて、特別念入りに、女性騎士まで含めた女性側近達全員で何度も何度も検査されていた。

 検査する度に、何故か袖口や襟元、布の重ね目から菓子がポロポロと落ちてくる。

 その度に女性側仕え達が、殴りたそうに拳を握り締めていた。


 …こんな時に煽るな…全く。


 最後は口の中や耳の中まで調べられていた。

 しかし、肝心要の『魔導爆弾』だけは、誰も発見出来なかった。


 あそこまでやっても見つからないものなの…?

 …確かに、私も近くでしっかり確認したから発見出来た様なものだけれども…。

 ウンブラの加護って、思っていた以上に厄介なのね。

 もしかして、私以外だと誰も気付けなかった?


 私は、検査されている彼女を横目に、先に部屋を出た。


 「デミちゃん、どうだった?」

 私は、先に図書館を退館して待っていたデミトリクスに成果を尋ねた。


 「…うん。

 楽譜はどんなに古い物でも、そして何度修復されても、ほぼ正確に現代まで受け継がれるからね。

 複製だったけれど多分間違ってない。

 一応、彼女のものは全部暗譜したよ…」

 大した事では無いかの様に、彼は自分の仕事を報告する。


 「流石はデミちゃん!何やらせても天才ね。後で演奏して頂戴」

 私はデミトリクスの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 「デミにも何か頼んでいたの?」

 ルーナが尋ねてきた。


 「うん。ある作曲家の楽譜を覚えて貰ったの」

 

 「ふ〜ん?…それで結局、この騒ぎはジェシカの予想通り?」

 ルーナが小声で尋ねてきた。


 「そうね。主犯はまだ確定してないけど…。

 横領物が閉架書庫の本だし、実行犯は…ね。

 問題は動機と協力者の存在よね」

 「協力者かぁ…クラウは誰が怪しいと思うの?」


 …そうねぇ…


 本の流れは騎士団から。これは確定している。

 ただ、図書館員は騎士団にも市場に伝手はない。

 それにヘルメスの例もあるし、確実に従犯・共犯とも言いづらいか?


 三男リオネリウスは、騎士団の総監督。

 次男ゼーレベカルトルは、騎士団に子弟を送っている高位貴族達と繋がっているし、諜報部の一部は彼の手の者。

 長男ファルクカルトルは、騎士団の上位存在である軍隊の大将。逆らえる騎士団員は居ない。

 3人共、迂回して騎士団員から市場に流せる。


 …いや、3人だけじゃない。

 宰相も鍵を持っているし、騎士団だって逆らえない相手だ。


 王妃達も条件は同じ…だが、目立つ。

 普通の貴族女性が騎士団に出入りすれば、良からぬ噂を立てられる。


 …だがもし、セタンタの様な側近の筆頭が、主の代理を名乗り騎士団に本を持ち込めば…?

 結局、容疑者は減らないか。

 


 「方法は単純なのよね。

 問題は、なんの為にやったのか?なのよ…」

 指で下唇を撫でながら視線を上げて、主犯の思考を想像する。


 「…?お金の為じゃないの?」

 ルーナは頬に手を当てながら首を傾げる。


 「実行犯はそうかも知れない。でも、主犯の意図は違う様な気がする。

 多分、主犯はお金には困ってない。横領する意味が無い。

 それに、もう一つ重大な問題があるのよ」

 私は腕を組みながら唸る。


 「問題?」


 「私達には逮捕権は無いって事。

 逮捕権を持つ責任者自身が主犯である可能性が高いし、下手に藪を突付いて、こちらが咬まれても困るのよね…」


 ルーナも「確かに私達が首を突っ込む話じゃなかったわ…」と呟いて頷いた。



 「何々!?何の話〜?」


 私達が二人で唸っていると、私達の間に身体検査を終えたカーティが飛び込んで来た。

 一瞬の内に、サリーがルーナをカーティから引き離す。


 「きゃあ!出た…!」

 「カーティ様…お嬢様に近付かないで下さいませ…!」

 ドサクサに紛れて、サリーはルーナをしっかりと抱き締める。


 「何よ〜。人を魔物みたいに」

 「魔物はこんなに厄介じゃ無いのよねぇ…」

 「あははは。酷い言い方ねぇ〜」


 私の嫌味を聞いて、カーティは嬉しそうに笑っている。

 相変わらず、彼女の笑いのツボが分からない。


 「でも、一体何があったの?

 結局すぐに追い出されたから、アルダライア=ソルガの本は読めなかったじゃないの…クソが!」


 …『クソ』って…貴族の使う言葉じゃないわよね…?

 本当に高位貴族のお嬢様なのか…コレ?

 こんな貴族令嬢が存在して良いのか?…まったく。


 「私、一緒に居た司書の落とした閉架書庫のリストを見ましたけれど、アルダライアの名前はありませんでしたよ?」


 しつこいカーティを黙らせる為に、適当な事を言っておく。

 ある筈無いから嘘ではない。

 もしあれば、それは偽書だからね。


 「え!マジで!?もしかして骨折り損?」


 「…閉架書庫に無いからといって、図書館に無いとは言えないのですけれど。

 一階の書棚か、上階の壁際書棚に在るかもしれません。

 明日、また入館させて貰えば宜しいのでは?」

 私が、後は勝手に、ご自由にどうぞ…と、婉曲に突き放す。


 …出来れば、一日中図書館に籠もって居て貰えると嬉しい。

 コイツのイレギュラーな動きは、準備の妨げにしかならないわ。


 「それがね〜…ちょ〜っと、からかっただけなのに、リオンちゃんが凄く怒っちゃってさ〜。

 クラウディアちゃんかルーナちゃんが同行しないなら、私は入館させないって…。

 まったく…王子のクセして器の小さい坊っちゃんよねぇ」


 「げっ!私達、コレの保護者扱いなの!?」

 私だけでなく、ルーナまで目を剥いて絶望している。


 リオネリウスの奴め…

 コレが何かやらかしたら私達に責任を負わせる気か…!クソが!


 「だからね!お願い!協力して?何でもしますから!」

 私の腰に縋り付く、二十代大人の女性。


 「アンタが何でもすると、図書館が崩壊しかねないから何もしないで!」

 私は思わず叫んだ。


 それを聞いてカーティは、ポンッと手を打った。


 「私に何でもされたくなかったら、協力しなさい!」

 「初めて聞く脅しのフレーズ!?」


 何だコイツ!?何を言い出すか分からん!


 「ねー!元々、協力してくれる約束だったじゃないのよー」


 「…仕事の対価は後日払うと言ったでしょ。

 アンタの爆弾(まどうぐ)の事を黙っていてあげただけ、有り難いと思いなさい!」


 私は回転しながら、腰に纏わりつくカーティを振り落とそうとする。

 だが彼女は、歯を食いしばりながら、より強く力を込めて私の腰に抱き着いた。


 …力は無いくせに、こういう時のしつこさは驚嘆に値するわね。


 「…おい!…魔導具とはなんの事だ?」

 突然リオネリウスが声を掛けてきた。


 …おっと、ヤバ。


 「閉架書庫の扉型魔導具は珍しかったわねって話よ」

 私はカーティを腰にぶら下げたまま、誤魔化す。

 客観的に見ると、何だろう?このカオスな状態…。


 「カーティ教授の魔導具…と聴こえたが?」

 リオネリウスが、私達をじっと見ながら問い詰めてくる。


 「聞き間違えじゃないの?リ・オ・ンちゃん?」

 カーティは私の腰に抱き着いたまま、わざとらしく目を逸らした。

 リオネリウスの頬が、ピクピクと痙攣している。


 「コレの保護者はクラウディア、お前だ!

 今後、コレが何かをやったらお前に責任を取らせるからな!

 常に監視しておけ!」

 リオネリウスが怒りに任せて怒鳴りつけて来る。


 「やったぜ!!」「酷くない!?」

 カーティと私の声が被った。


 「私は被害者!コレは加害者!

 何で!?私がこれの保護者!?

 酷い!八つ当たりじゃないの!」

 私は必死に無実を訴える。


 …図書館を爆弾魔から護ってやった報酬がこれかい!


 「じゃあ、明日またクラウディアちゃんと一緒に図書館に行くから!宜しく!

 居なければ、勝手に入るね!」

 カーティは一方的に宣言して逃げ出した。


 な…なんて早い逃げ足…!


 彼女は、私に言い逃れさせないうちに逃げ出した。


 「私は行かないわよ!」


 私は大声で叫んだが、彼女は素早い逃げ足で、既に視界から消えていた。


 「お前が居ようが居まいが、カーティのやった事はお前の責任として追求するからな…」

 リオネリウスの追加攻撃!会心の一撃!


 「何で私が!?」

 「同族に責任を取らせるだけだ」

 「誰が同族か!?」

 「…お前ら、本当は姉妹じゃないのか?」

 「非道い!失礼過ぎない!?」


 ルーナとサリーは、頬を引きつらせながら顔を逸らした。


 …何故そこで笑う?


 「お姉ちゃん…。カーティ教授って僕達の姉だったの?」

 デミトリクスが、澄んだ瞳で見つめながら訊いてくる。


 「デミちゃん…。あんな変人が私達の血縁の訳無いでしょ?

 ほら…私達とは顔も性格も全然違うでしょ?」

 私は、デミトリクスの肩を優しく掴んで、丁寧に説明した。


 「…奇人変人同士…。お前ら良く似ているよ」

 リオネリウスの呟きが刺さった!痛恨の一撃!


 …誰も否定をしてくれない。

 デミちゃんまで…。くすん。



◆◆◆



 結局次の日も、カーティが馬鹿な事をしないように監視をする為に、再び図書館に訪れた。

 馬車に側仕えと御者を残して、表門の側に居るカーティの元に向かう。


 …色々と忙しいのに!酷いとばっちりだわ…


 私は憤慨しながら、カーティと合流した。

 図書館内で余計な事をする彼女を、どの柱に縛り付けるかを考えながら。


 しかしそれは、杞憂に終わった。

 図書館の表扉は施錠されていたのだ。


 カーティが、図書館の通用口に鍵を掛けようとしていた王宮の侍従を捕まえて事情を訊いた。

 『緊急の改装工事』『リオネリウス様は急病』と言われて、閲覧室に入るどころか玄関内部を見る事も出来なかった。


 「急病ねぇ…良かった。残念だけど諦めましょう!」

 私は喜んで踵を返し、馬車に向けて歩き出した。


 「私の感が囁くよ!リオネリウスは逃げたわ!間違い無い。

 王宮に行って引きずり出して来よう!!」


 そう言ってカーティは、いきなり王宮に向けて歩き出した。


 『…お前の責任として追求するからな』

 リオネリウスに言われた言葉が、頭の中で反響する。


 …ああ…くそ、面倒くさい。


 私は溜息を吐きながら、渋々カーティの背中を追いかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ