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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
148/287

◆4-48 盗人達と画策する者達

クラウディア視点




 翻訳家デリア女史。植物学者デリア。

 …そして、魔導科学者デリア=シモバナ。


 私の好きな本の著作者。憧れの女性。

 エレノアパパがくれた本も彼女の稀少本だった。

 私のコレクション。彼女の本達が私の宝物だった。


 数百年前に存在した、女性学者。

 言語学から数学、科学、植物学、そして魔導科学に至るまで。

 才能の塊の様な女性。

 言語はパズル、理系の領分。…が彼女の持論だったっけ。


 ガラティアお姉ちゃんに逢うまでは、彼女の本で基本的な魔導計算と魔導回路を学んだ。

 私にとって、お姉ちゃんの先輩にあたる人。


 聞き馴染みのない変わったファミリーネームは、彼女に流れる異国の血脈から来ている…らしい。

 こっちの人にとっては発音が難しいから、覚えてもらうのが大変…みたいな愚痴が後書きに書かれていたっけ。



 彼女の本は専門的過ぎて、一部の人間にしか価値はない。

 法律、政治、地政、商業等に関しては、知られている限り、彼女は本を残していない。

 彼女の興味は社会には向いていなかったらしい…と、言われている。


 そのせいで、政治家や官僚、商会の人達には、ほぼ無名。

 勿論、それらを纏める貴族、領主、王族にも人気は無い。


 学者や研究者の職業に就かない王族が必要とする資料ではない。


 だから、王宮図書館の監理者(王族)には、倉庫のコレクション(こやし)

 いちいち確認しに来ない。

 見せびらかすにしても、閉架書庫なら誰かに見せる機会も無い。


 …だから、バレないと考えたのかな?




◆◆◆




 「も…申し訳御座いません。『デリアの翻訳』と……

 あ…『古代希少植物想起図鑑』…も、か…貸出中の…様で…す」


 顔色を青くしながら、どもる司書。

 リストを持つ手が震えている。


 リストに記載されている本が、本来在るべき場所に無い事に気付いた男性司書は、しどろもどろになりながら言い訳を捻り出した。


 …閉架書庫の本の貸出なんて、そうそう無い事でしょうに…


 「どうしたのかしら…?顔色、悪いけれど…大丈夫?ひどい汗よ?」

 事情が理解らない風を装い、心配する振りをする。


 …管理者としては生きた心地しないだろうなぁ…。

 金庫を開けたら、一部の超高価な宝石が無くなっていた…みたいな事だからねぇ…。

 商家なら、管理者は首が無くなる位の事件だものね。


 「は…はは、此処は普段閉め切ってますから…。

 空気が悪いのかもしれませんね…。

 ははは…は…、今日は少々、暑いですね…」


 通常、図書館は本の保全のために、温度や湿度がほとんど変化しない様に建築、若しくは改築されている。

 外が暑くても、館内が暑い事は無い。


 男性司書は脂汗を浮かべながら誤魔化そうとしている。

 段々と顔色も青から白になり、本格的に倒れそうになってきた。


 「さっき言った他の本も『貸出中』かしら?」

 「え…、ええと、申し訳御座いません。題名は何でしたか?」

 来賓の手前、何とか気を持ち直して応対しようとする男性司書。


 …立派なプロ根性ねぇ…。

 本当なら、今すぐ意識を失いたい位でしょうにね。


 「科学者デリア女史の、『寒冷地植生記録』と『神代遺物解析覚書』よ」

 「そ…そうでした!し…少々お待ち下さい!」


 男性司書は震える声と脚を抑え込み、すぐにリストを確認した。


 リストに記載されている棚の番号と段の番号を何度も確かめ、間違いが無いように慎重に同じ番号の棚を調べた。

 まるで、呪詛の様にブツブツと番号を繰り返しながら。


 何度も番号を繰り返しながら、同じ棚の同じ段を真剣な眼差しで見つめる。


 結果…それらの稀少本が収められている()()の棚を確認した男性司書は、リストを落としてその場に膝から崩れ落ち気絶した。


 …あ…限界かな?

 可哀想な事をしてしまった。

 まぁいいや…。この隙に()()だけさせて貰おう。

 遠目だとハッキリしなかったから丁度良いわ。




◆◆◆




 私は、男性司書が服に吊り下げていた鍵束を手に取って観察した。


 鍵は10本程付いている。

 恐らく、玄関や中扉、修復室、茶会室、休憩室や仮眠室、裏戸や倉庫も含んでいるのかな?そして閉架書庫の鍵。

 似た様な形ばかりで区別は付き難い。慣れれば分かるのだろうけど。

 でも、閉架書庫の鍵だけはハッキリと違う。


 鍵は単純なウォード錠の鍵。でも魔石で出来ている…。

 大きい魔石を鍵状に削り出し、周囲を金属で豪華に装飾。


 外側からは見え辛いけど、装飾の内側にかなり細い導線で配線してある。

 導線は魔蚕の絹糸かな?多分超高価。


 そして配線の途中に、小型魔素抵抗器が、かなり古い時代の陶磁器の上に貼り付けてある。

 単なる陶磁器の小さな欠片。その上に付いた装飾の様な見た目。

 さらに樹脂で覆って、鍵の装飾の内側に貼り付けてある。


 知らない人には塵芥(ごみ)が混じった様にしか見えないだろう。

 実は魔素抵抗器自体はかなり昔から存在していた。しかし希少素材を使用する為、普及はしなかった。

 古い魔導遺物を研究した事のある魔導具士以外には、理解(わか)らない物だ。


 …昔の抵抗器は劣化し易くて壊れ易いけれど、絶縁樹脂で覆って劣化を防いでいるのね…。

 魔導遺物以外で現役で作動出来る物があるとは…かなり腕の良い魔導具士の作品だわ。


 …この魔導部品も金属装飾の内側に隠すように配置されている。

 抵抗器付きの鍵で、扉に流す魔素出力を調整しているのか…。設定した魔力量以外では反応しない仕組みかな?


 あの女性司書がやっていた通り、特定の角度に回して一定の魔力が流れる事で、扉内部のロックが外れる仕組みね。


 確かに…これを複製しようとしたら、凄くお金がかかる。

 材料費と職人の手間賃で古代文書一冊分程度の金貨は消える。


 管理者(司書)が持つ銀鍵と監理者(王族)が持つ黒鍵か…。

 黒鍵も銀鍵と同じ個数と同じ仕組みかしら?

 それなら、そちらも複製は無理そう。


 鍵は鍵束で繋がっていて、取り外しには特殊な器具が必要なタイプ。

 この場での鍵の入れ替えは無理ね。


 う〜ん…これは、面倒な事になりそうだわ…。




◆◆◆




 膝から崩れ落ち気絶した男性司書は、ほんの数分で意識を取り戻した。

 男性司書は目を覚ますと、すぐに跳ね起きた。


 「も…ももも…申し訳御座いません!大変失礼な行為で、お目汚しをしてしまいました!

 こ…ここ…この後、すぐに行わなければならない緊急の仕事を思い出しました!

 どうぞ…一時退室をお願いします!」


 彼はそれだけを早口で捲し立てると、私を置いて、こけつまろびつリオネリウスの所へ走った。

 途中途中に居る側仕えに、緊急事態である事を隠語で知らせつつ、入口付近でカーティを探している王子の下に向かった。

 緊急事態を知った他の側仕え達も散り散りに走り出して、閉架書庫内に居るルーナ達や他の側近達に知らせて回った。


 「あ!クラウ!この騒ぎは何?何かあったの?」


 ルーナとサリーが閉架書庫の奥の方から、ゆっくりとした足取りで私の所に来た。


 二人の監視役達も互いに情報交換を行い、リスト片手に本棚の本を一冊ずつ確認していた。

 彼女達は確認作業が忙しいらしく、私達は蚊帳の外になっていた。


 「どうやら不審者が本を盗んだみたいよ。怖いわ。

 そちらはどうだった?お願いした捜し物はあった?」

 私が尋ねると、ルーナは嬉しそうに頷いた。


 「うん!背表紙に同じ形の絵が描かれている本があったわ。

 場所はね………」

 まるで、自分の成果を褒めて欲しそうに、キラキラした笑顔で報告するルーナ。


 …善し!本当にあるなんて運が良い!!

 「…やった…!」

 私は思わずガッツポーズをとってしまった。


 …同じ様な古代文書が三冊もあったから、そのうちの二冊を市場に流した?

 一冊残せば誤魔化せると考えたのかな?

 理由はともあれ、一冊でも残されてて良かった!

 照合さえすれば修正が出来る。


 …あっと、こんな姿をカーティに見られたら面倒な事になりそう。落ち着け私。


 「ありがとう…、ルーナ、サリー…!

 …さっきも見事だったわ…腕を上げたわね」

 小声で感謝を伝え、彼女達の仕事を褒めた。


 褒められたルーナは嬉しそうに、可愛らしい笑顔で微笑む。

 そして、その喜ぶ彼女の笑顔を眺めながら、サリーは震えながらハンカチで自分の鼻を抑えていた。


 …ハンカチの赤い染みが拡がって行く…

 いつも通りのサリーだわ。



 私はルーナに案内されて古代文書類保管棚に行き、直接本を確認した。

 周囲の監視役達は、本を眺めて喜んでいる私達を横目に、確認作業を続けている。

 彼等は作業を続けつつも、私達が本に触れない様に目を光らせていた。


 …さて、今日のところはやる事は終わりかな?

 流石にこの状況で、この本に触る訳にはいかないしね。

 それに、見るだけではなく自分の本との照合作業があるから、何とかして()()ないと意味は無い…。


 …権力と金では無理だから…交渉か、裏の手か…どうしよう?


 「大変申し訳御座いません。

 こちらはこれから作業に入りますので、退室願います。

 どうぞこちらへ、ご案内致します」


 いつ迄も退室しようとしない私達に業を煮やした監視役の側仕えは、追い立てる様に私達を入口に誘導した。


 私達が、苛立つ案内役の急かしを無視しつつ、談笑しながら入口に到着した頃には、作業中の側仕えとカーティを除く全員が集まっていた。


 私が到着する時には、既に事情を聞いたであろうリオネリウスも、真っ青になりながら部下達に指示を出している。


 「すぐに来賓全員の退室を!カーティ!カーティは何処だ!?出てこい!」

 リオネリウスが怒鳴ると、カーティが彼のすぐ後ろに現れた。


 「なんで退室なの!まだ、全然見れてないよ!」

 カーティは頬を膨らませながら、不満気な視線をリオネリウスに向けていた。



 実行犯は判っても、どう考えても従犯。良くて共犯。

 最悪、精神支配って可能性も捨て切れない。

 そうなると自白も難しいし、そもそも帝国法で裁けるのかな?


 主犯は確定しないなぁ。

 此処に居ない確率の方が高いし…。


 …うーん、ヴァネッサを連れて来れば良かった。

 頼んだ仕事がまだ終わってなくて大変みたいだし、しょうが無いけど…。

 あの娘が居れば、この中に主犯が居るか否かだけでも分かったのよねぇ。



 もし、主犯がリオネリウスなら?

 普段の猫被りで鍛えているだけあって、彼も本当の感情を隠す事は上手いから…。


 私だと、質問しながら魔素を『覗』かないといけないのよね。

 精度も推定の域は超えないし、確定とまでは言えない。


 でもヴァネッサを使えないなら、私がやるしか無いか。

 本の窃盗は兎も角、確認だけでもしておかないと危ない。

 しかし、他人に見られる訳にはいかないし、本人に抵抗されたら出来ないし…。


 何とか、他者を排して彼に近付けないものかしら?



 やはり、ジェシカの調査通りだった。

 司書まで含めて10人前後…。


 最低でも、実行犯一人、主犯一人、…後は幇助犯か被害者か…。



 

今年の更新は今週末まで。少しお休みします。

帰省すると更新する暇があるか分からないので。

お休み宣言。


続きは、来年1月半ばからを予定しております。


いつも読んで下さっている皆様、ありがとうございます。


|ω・`)…休み中に少しでも書き溜めておかないと…。

忙しさにかまけて製作サボってたらストックが無くなってきちゃった…

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