表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
145/287

◆4-45 奇人の思考方法

クラウディア視点




 あの阿呆!


 カーティ狂…教授が不審な動きしていたから魔素の動きを探ったら、懐に魔導時限爆弾を隠し持ってるのを発見してしまった。

 何を考えてるのよ?あの狂人は…。


 大方、爆弾騒ぎでも起こして、その隙に貴重な本を盗むつもりだったんでしょうけど…

 本が傷付いたらどうしてくれるのよ!!!


 しかし…流石は隠蔽と隠密が得意なウンブラの加護持ち。

 あれだけ厳重な身体検査を潜り抜けて爆弾を持ち込むなんて…。要警戒ね。


 ちょっと脅したら怯えて大人しくなるかと思ったら、何故か頬を染めて潤んだ瞳でこちらを見つめて来る…。

 今度は何を企んでいるのかしら…?


 「どうかしたのか?」

 私達の不審な行動を見て、リオネリウスが訝しげに見つめて来る。


 余計な警戒されたでしょうが…皆が苦手とするだけの事はあるわ。

 狂人と変態は紙一重という奴?


 「いえ、何でも無いわ。必要な本は閉架書庫にあるのでしょうね…と、教授と話してただけよ」

 「そうよ〜。やっぱりクラウディアちゃんは私の事を良く分かってるぅ!私を理解出来るのは貴女だけね!一緒に閉架書庫に行きましょう!」


 …狂人の思考方法なんて分からないわよ。

 やめてくれないかな?同類だと思われる。


 「閉架書庫?あそこは立ち入れないぞ。本の内容が判るなら司書に取ってきてもらえ」

 リオネリウスが二人の司書に目配せをすると、お任せ下さいと言うように、司書達が頭を下げた。


 「私の欲しい本は古代語で書かれてるのー。

 司書様は古代語読めるの?内容言っても探して来れるぅ?」


 カーティが首を傾げながら、どうせ読めないだろう?という表情で司書達を見つめる。

 見た人がイラッとする様な、嘲る顔。


 …いやらしい。

 若い男性司書は、眉尻を下げて困った顔をしているけれど、壮年の女性司書の方は、ニコニコしながら青筋浮かべているじゃないの。

 おお、怖い怖い。


 「むっ…うーむ…確かに…。教授は読めるのか?」

 リオネリウスが、顎に手を当て首を傾げる。


 「当然!私天才ですから。

 古代世界共通言語だけ。それと単純な語彙限定だけどね!」

 カーティは、腰に手を当て胸を反らした。


 …微妙に自慢し難くない?それ。

 凄いっちゃ凄いのだけれど。


 「しかし…規則で司書以外の立ち入りは…」

 「まぁまぁ。良いではないか、リオン。

 せっかく聖教国からわざわざ来て頂いたのだ。御二人を案内してあげなさい。

 くれぐれも失礼の無い様に」


 断ろうとしたリオネリウスの言葉に割って入り、ゼーレベカルトルが嬉しそうにリオネリウスの肩を叩いた。


 「お待ち下さい。兄上。

 カーティ教授は兄上が相手する筈では?」

 リオネリウスは、肩に置かれた彼の手を払い除けて、睨みつけた。


 「私は、お前の代わりにデミトリクス様に対して失礼の無い様に対応しなければならない。忙しくて手が離せないのだ。実に残念だ!

 私はここに居るから、お前が案内しなさい」

 肩をすくめて、わざとらしく首を振る兄。


 「デミトリクスは大人しく本を読んでます。兄上がやる仕事は無いですよ?

 兄上が教授を案内するのに、問題は無いでしょう?」


 「クラウディア嬢が閉架書庫の本が見たいと言っているのだ。

 閉架書庫内は通路が狭い。

 クラウディア嬢と教授。お前と私。そして司書と側近達。

 身体の大きい私が、身体の大きな側近達まで引き連れて入ったら、流石に窮屈になってしまうだろう?

 リオンがお二人を案内すればよい。お前の側近は女性も多い。女性の賓客のお相手なら丁度良かろう。

 それに…お前なら、すれ違うのにも困るまい?」


 抵抗する弟対、返す刀で滅多斬りにしてくる兄。


 …リオネリウスじゃ、言葉で勝つのは難しいかな?


 「なら、カーティ教授にはこちらでお待ち頂き、希望する本をクラウディア嬢に選んで頂ければ宜しいのではありませんか?

 お前は古代文字読めるよな?な?

 簡単なモノでも構わんから!」

 リオネリウスの圧に押されて、私は反射的に頷いた。


 押される弟、必死に打開策をひねり出す。そして、巻き込まれる私。


 …私は、その方が面倒が無くて良いのだけれど。

 ガラティアお姉ちゃんが古代語も読めるし…。


 「えー!私も中見たい!!見たいったら見たいの!」

 空気を読まないカーティが叫んだ。リオネリウスは眉をしかめる。


 …コイツなら、絶対そう言うと思った。


 「な…なら、私は下で待っておりましょう。

 兄上が御二人を案内すれば問題無いではないですか」

 「私にとっては、閉架書庫は狭いと言っただろう?

 それに、クラウディア嬢のお相手をすると言ったのはお前だ」

 「ぐ…」

 リオネリウスは言葉に詰まった。


 リオネリウスはクラウディア達の対応をすると宣言したが、ゼーレベカルトルはカーティの対応をするとは言っていない。


 「そ…そうだ!私はルナメリア嬢のお相手もしなければ!

 …ルナメリア嬢の事はいかが致します?兄上は近寄れないでしょう?

 彼女を此処に一人で放って行く訳にもいかない!」

 今度はルナメリアを理由にして逃げ道を探す。


 「あ…あの〜。私も閉架書庫の中を見たいのですけれど…」


 ルーナがおずおずと手を挙げると、リオネリウスが絶望して目を剥いた。

 彼の声を出さずに動く口が、『空気読め!』と言っていたが、ルーナは敢えて無視した。


 「…だそうだ。残念至極!私では彼女と一緒に閉架書庫には入れんな!

 丁度良いではないか。纏めて御案内して差し上げなさい」

 教授(やっかいごと)を手放せて、とても上機嫌な兄。


 「ちっ…クソ兄貴め…。お前達、ついて来い!」

 リオネリウスが、渋々側仕え達を呼び寄せた。


 「さて、私は閲覧室の前室にある茶会室で休んでいるので、何かあったら呼びに来なさい。気が向いたら駆けつけよう」

 ゼーレベカルトルはそう言って、護衛騎士達だけを館内に残して部屋を出た。


 「俺に全部押し付ける気かー!デミトリクスはどうする気だー!」

 リオネリウスの悲痛な叫びは、図書館の分厚い扉と壁に阻まれてゼーレベカルトルには届かなかった。



 憐れなリオネリウスの為に祈りましょうか…。

 マイア様の御加護が…あるかな?

 …気が向いたらあげて下さい。マイア様。


 私は軽く手を組んだ。


 私が不憫な第三王子の冥福を祈っていると、気配を消しながら近付いて来た教授が、私の肩を叩いた。


 「…クラウディアちゃん。

 ギブ・アンド・テイクはお好き?」

 教授は、周囲に聞こえない声で囁いた。




◆◆◆




 帝国に到着した後、ジェシカから調査報告を受けた。

 …現在この国が、凄くきな臭い事が分かった。


 『知識の泉』で、欲しかった古代文書の一部を手に入れた。

 …一冊は違う物だったけれど。稀少本ではあった。


 古代文書を解析したら、次に繋がる鍵を手に入れた。

 稀少本を解析したら、思わぬ事を知ってしまった。

 両方とも、とても価値のある本だった。


 …この国の現状が、二冊の本達が、私の背中を押してくれている気がする。



 きな臭い元凶達が何を欲しているかは、おいおい判明するだろう。

 大切なのは、奴等が何を()()()()()なのか。



 ジェシカとリリンの調査で、奴等のしようとしている事は大方把握できた。

 ただ…未調査の分や、単独で起こそうとしている事件に関しては当日にならないと分からなし、警戒のしようがない。


 …出来るだけ混乱が起きると良いな…。

 私達の仕事も、し易くなるし。

 ついでに、ドサクサに紛れて個人的利益を得たい。


 見つかるかな…?多分見つかる。

 問題は、『問題無く』手に入れる事が難しいって事。



 …そういえば、他にも問題があったわね。


 ジェシカの気付きと、リリンの追加調査で判明した事があったので、そちらにも気を払わないといけない。


 『王子達の不審な行動』に関して。



 ジェシカが見たのは三男リオネリウス。


 明け方や昼間に、伴も付けずに一人でフラフラと何処かに出ていく。

 特定の建物内に入って行き、すぐに出て行くを繰り返している。

 時折、手荷物を持って入り、手ぶらで出て来る。


 後日私が、セタンタがリオネリウスに問い質している場面を覗き見…いえ、覗き聴きした。

 リオネリウスは、なんの事だ?と言って話を逸らしていたけど…。


 セタンタを警戒して部屋の中を覗かなかったから、二人の表情の確認が出来なかった。

 だから、嘘をついているか否かは、不明瞭。


 リオネリウス…

 招待主なのに学校交流会にも来なかったし、確かに不審。

 出席者名簿には名前が載っていたのに。



 リリンの調査で判明したのは次男ゼーレベカルトル。


 不審人物達との接触の確認。

 不明瞭なお金の流れの帳簿。

 高位貴族達との密談したとの情報も入ったらしい。

 兵士を集める連絡をしていた、と高位貴族家に潜入している『目』と呼ばれる諜報機関からの入電。


 …あり得ない金額をバラ撒いているとの噂まで流れている。

 まるで、俺を怪しめと言っているかの様。



 エレノアの接触で分かったのが長男ファルクカルトル。


 パーティの警備の打ち合わせに代理の者しか来ない。

 エレノアの側仕え、兼、諜報員の司教補佐が、長男は軍隊を率いて現在遠征中という内部情報を入手してきた。

 賓客が訪れると判っているこの時期に、聖教国とホーエンハイム領と接する帝国北側の国境付近で謎の軍事行動。

 大勢の兵士を北辺の自領に集めているらしい。


 …実にきな臭いわ。

 上手く便乗しないと!



 あ…鳩も飛ばしておかないといけない。

 …サムエルは帝国の現状を知っていて鳩を渡したのかな?

 田舎の農夫に見えても、彼もトゥーバ・アポストロの構成員。

 帝国にも独自の調査網を持ってるのかな?

 エレノアパパと繋がっていても不思議じゃないか…。



 そして…これだけきな臭いと、メンダクスの脱出方法も利用する事になるわね。きっと。

 セルペンスに繋ぎを入れてもらわねば!


 クサントスに会える…。

 メンダクスの言っていた事が確かなら、高確率で彼が来る。

 会う時までに必要条件を揃えて於かないと…。


 上手くいけば、エレノア姉様だけでなくメンダクスも出し抜ける。

 説明したら、絶対阻止されるから。


 『デミトリクスはどうするの?』

 ガラティアお姉ちゃんが、私の思考に割り込む。


 …きっと、…ヴァネッサが支えてくれるわ。

 いつまでも姉が口出しする事は、あの子の為にはならない…。




◆◆◆




 「クラウディアちゃん!早く行くよ!早く行かないと、全部食べちゃうよ!無くなっちゃうよ!いいの?」


 カーティが閉架書庫に続く螺旋階段の上から、下に居る私達に声を掛ける。


 カーティ狂獣が騒がしく啼く。


 …問題はコイツだ。

 意味分からん。何をするか分からん。

 目的の為には、それ以外は平気で犠牲にするタイプ。

 これだから狂人は…。


 「教授!くれぐれも、閉架書庫の扉に触れない様に!」


 凄い速さで閉架書庫に繋がる階段を昇るカーティを、息を切らしながら追い掛けるリオネリウスと司書達。


 …頑張れ調教師達!閉架書庫の未来は君達の手に掛かっているぞ!



 「あっ…と、失礼致しました。

 階段に足を引っ掛けてしまいましたわ」

 「サリー、大丈夫?」

 「あ…。心配して下さり、ありがとうございます。お嬢様…」

 階段の途中でルーナに手を握られて興奮するサリー。


 「良い天気ね。

 ほら見て。天窓から柱みたいに落ちる光が、図書館内を照らしているわ。

 まるで天使降臨の絵画に出てきそうな場面。

 今にも、天使達がラッパを吹きながら舞い降りて来そうね」


 …それ、世界が終わるから。


 「私の目には既に、光に包まれて階段に立つ美しく凛々しい熾天使様が映っておりますわ。ああ…お嬢様…」


 …誰を断罪しに来たんだ?幼女好きのメイドをか?


 螺旋階段を舞台に阿呆な事を言っている二人。

 天窓を指差して喜ぶルーナと、頬を赤らめてルーナを見つめるサリー。

 彼女達のすぐ後ろで、何とも言えない顔をしているリオネリウスの側仕え達。



 …ルーナに頼んだ事は、やってくれてる…わね。

 うん。上手い。魔術式の調整、凄く上手い。

 集中する時に指を向ける癖は、なかなか直らないけれど。


 サリーも、相変わらず阿呆だけれど腕は超一流よね…。

 すぐ後ろをついて歩く側仕え達は、彼女が何をしたかに気付きもしない。

 あれで阿呆でなければ完璧なのに。本当…残念美人。



 さて、頼んだ仕込みは上手く行っている。

 問題は、カーティ狂獣かな?


 彼女の持ち掛けてきた『取引』。

 私は取引として、閉架書庫内でのリオネリウスの引き付けを頼んだ。


 バラバラに動いたほうが調査はし易いし、カーティが側にいると色々と厄介な事になりそうだから。

 カーティやリオネリウス共々、私から離れてくれれば助かるわ。


 調べなきゃいけない事がアルダライア=ソルガの本の有無だけじゃないし。私…忙しいのよ。


 仕事の対価は私の本…とか言ってたけど…?

 適当な本でも良いのかな?

 …マイア教の教典でもあげるか。二束三文の印刷物だけど。


 …爆弾…使わないように、もう一度念押ししておくか?

 教授の不測の行動を制限する為にも、爆弾を使わせない為にも、取引せざるを得ないわよねぇ…。



 兎に角、取引を行使している間は、彼女も私の方に気が回らないでしょう。


 ウンブラの加護持ちで何をするか分からない彼女には、私の本当の目的がバレないようにしないと。

 …知ったら、絶対に首を突っ込んで荒らしてくるだろうし、私の素性を推測されると困るからね。


 ああ…本当に厄介な性格。はぁ…




 

自分の目的の為には、周りを犠牲にする教授。

周りの犠牲を餌に、目的を遂行しようとするクラウディア。


能動的か受動的かの違いだけ。

結局、似た者同士。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ