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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
141/287

◆4-41 ちょっとした悪戯の計画

???視点

前回の続き




 「そーいえばよー…」

 沈黙が流れた暗闇の部屋に、軽いチェルターメンの声が響いた。


 「潜伏していたベルゼルガ中佐を見つけ出した奴も、教皇の手の奴なんだろ?良いな。是非会ってみたい。

 ティーバ・アポストロの構成員は下町にまで拡がっているのかねぇ?

 あれはたしか…クリオ兄の作戦だったろ?」

 チェルターメンは、クリオの失敗を(なじ)りつつ話を振った。


 「…作戦と言っても、俺はルディクラに相談されたから、()()()()()()()()と言っただけだぜ。俺が直接手を貸したわけじゃねぇ。だから、俺の作戦とか言うな…」

 クリオはチェルターメンを睨めつけた。


 「私も『依頼人』から、聖教国と王国の両方を陥れられる方法が無いかと相談されたから、クリオ兄様の知恵を拝借し、教えて差し上げただけですわ。

 結果的に失敗した作戦の指揮官みたいな言われ方は、嬉しくありませんわね」

 ルディクラはそっぽを向く。


 「結果的に失敗という点で言えば、ソムニ姉の作戦もだよな。コピ姉にまで手伝わせたクセに。ウケる!」

 動かし難い身体をわざわざ動かして、ぎこちなく笑う仕草をし、ソムニウムを煽るチェルターメン。


 「手伝いもしなかった奴が口を出すんじゃないわよ!」

 馬鹿にされたソムニウムは、大声で怒鳴りつけた。


 「まぁまぁ…手伝えなかったのは仕方無いわよ。

 あの頃はルディクラもチェルターメンも、新しい身体が安定してなかったし。

 貴方もよ、チェルターメン。今回結果を出せなければ同じ様に罵られる事になるわよ?」

 コピに諌められて、チェルターメンは肩をすくめた。


 「ホーエンハイム侵略では、クリオの奴も無視決め込んでたしね!」

 ソムニウムは、怒りの矛先をチェルターメンからクリオに向けた。


 「俺だって仕方ねぇだろうが。

 ルディクラの馬鹿な(ネポテム)の巻き添えで突然死んだせいで記憶の保全が不十分だったし、長い事『石』のままだったからなぁ。

 侵略時は、やっとの事で入った身体に定着してから大した年数も経ってなかったから、記憶が戻って無かったんだよ。

 近年、ようやくまともに動かせる様になったんだわ。この身体」

 そう言って、腕を頭の後ろに組んで大欠伸をする…振りをした。


 「何よ。ちゃんとクリオ兄さんの新しい身体を探してあげたでしょう?20年だっけ…?も前の失敗をネチネチと…。

 大体ねえ!兄さんの注文が面倒くさ過ぎるのよ!

 合う身体を見つけるのに、どれだけ苦労したと…」

 いきなり失敗の責任を問う話を自分に振られて、慌てて言い訳をするルディクラ。


 「ハァ…まぁまぁ…喧嘩しないの。

 どうせ、クリオシタスは気が乗らなかっただけでしょう?」

 コピは、クリオをクリオシタスと呼び、全てを諦観したように話した。


 「バレてた?

 ホーエンハイムの『魔導遺物』には正直興味はあったけどな!

 計画を聞いた時から、こうなりそうな予感がしてたからな。

 関わりたく無かった!」

 クリオシタスは舌を出してニヤけた。


 「本当…クソの役にも立たねぇ弟ですこと!『石』のままで居れば良かったのに!」

 ソムニウムが、怒りに任せて机の脚を蹴飛ばすと、カーン…という高い音がした。


 「大体よぉ、(マーテル)の許可取らねえで事を進めたソムニ姉が悪いんじゃね?

 お陰で、ホーエンハイム領は魔素の冬の所為で使い物にならねぇ」

 「アンタには使い物にならない土地でも、私には都合の良い土地なのよ。遺物が使えなくともね」

 「まーた悪趣味な事すんの?ああ…嫌だ嫌だ。これだから腐れ科学者はよぉ」

 「ルディの(ネポテム)にもう一度殺されてこい!」

 ソムニウムは興奮して立ち上がろうとしたが、軋む音がするだけで、腰が上がらなかった。


 「ルディ姉のと違って、コピ姉の(ネポテム)は優秀だったよなぁ。まさか、引き籠もりババァの手下を利用するなんてなぁ!もし身体が動いていたら近くで見たかったぜ!」

 チェルターメンは、腕を組んで感心した様に頷いた。


 「…結果的にベヘモトに踏み潰されたけどね…。ヘルメスは意外と抵抗するし、…そろそろ新しい(ネポテム)を作りたいわ…」

 コピは頬に手を当てながら、誰か良い人居ないかしら…と呟いた。


 「(ネポテム)は身分の高い大人であれば良いと言うものでは無いしね。完全支配にするのにも時間は掛かるし、元の知能が低いと命令に対する応用もアドリブも効かなくなってバレやすくなるし…私も新しい子が欲しいわ…」

 ルディクラもコピの真似をして頬に手を当てた。


 「ルディ姉の20年前に死んだ(ネポテム)は、確か生物兵器研究所の所長だったろ?知能は高かったんじゃねぇのか?」

 「知能の高いバカってのも居るのよ。逆に知能は低くても軍人は結構役に立つわね。…人間って難しい生き物ね…」

 「ふーん…まだまだ良くわからねぇなぁ…人間ってよ」


 カン…カン…カン…

 コピが再び手を叩く。


 「閑話休題。話を戻しましょう。

 取り敢えず、今はチェルターメン達の計画をメインに据えて。

 ソムニウムの方の『遺物』解析に必要そうな人選は…クリオシタス、貴方が探してきなさい」

 コピはクリオシタスに向けて指差した。


 「えー!俺、今帝国よ?こっちで見つけたとしても、ホーエンハイムに持って行くのって無理じゃね?」

 「…良い獲物を見つけたらルディクラに連絡しなさい。誘拐すれば良いわ」

 「魔導具に詳しい人材ねぇ。一人心当たりはあるがなぁ…。

 丁度今、帝国に来てるけど…う〜ん…。どうなんだろう…アレは…

 役に立つのか未知数だなぁ。天才は天才なのだろうが…。

 政治的にも誘拐はマズイよなぁ…」

 クリオシタスは眉間に指を当てながら考え込んだ。


 「私は今、五体満足な手下が居りませんわ。

 ベルゼルガは片脚を失って、運ぶのは難しいでしょう。

 ソムニウム姉様、何か貸して頂けませんか?」

 ルディクラはソムニウムの方を見つめる。


 「…誘拐出来る手下か…。殺さない様に運ぶには…ワンちゃん達じゃ駄目よねぇ…いや…腕を増やせばいいかしら…?

 今すぐ準備すれば、帝国の式典に間に合うかな?」

 背中に?いや肩口から…2本?いや4本は必要?重心がズレると…う〜ん…。と、目をつむり、ブツブツと独り言を呟き出すソムニウム。


 「俺は常々、マッドサイエンティストには美意識が足りねぇと、思ってたんだ…」

 「クリオ兄、同感だ。腕は2本!このバランスが丁度いいんだ。増やすのは邪道だよなぁ〜」

 クリオシタスとチェルターメンが意気投合して頷きあう。


 「ああん?アタシの美的センスにケチつけんのかぁ?おめえ等よぉ…」

 ソムニウムがクリオシタス達に殺気を飛ばす。


 「いぇいぇ〜。麗しい腐れお姉様を侮辱するなんて…そんなそんな…なぁ?」

 「そうそう!ソムニお姉様の特殊な美的センスは、人間共には永遠に理解出来ないでしょう!」


 「死にてぇらしいな!」

 ソムニウムが机を叩く。



 「話が逸れてるっつってんだよ!」

 その場に居た全員が、一瞬で静かになった。

 コピは、一つ軽く咳払いをして姿勢を整えた。

 「失礼…少し言葉が乱れましたわ」


 「兎に角、ソムニウム。余った手駒を例の場所へ送るように。命令は出来るだけ単純に。予測不能な動きをされると困るわ。

 改造した手下はルディクラへ。指揮権をルディクラへと移譲して。

 ルディクラとチェルターメンは、計画を進めて。期日までに。

 クリオシタスは…邪魔しなければ良いわ…。

 誘拐の準備が整ったらルディクラに直接連絡しなさい」


 「お?俺の扱い雑ぅ!」

 クリオシタスは(おど)けた表現をする為に、肩を上げて手をゆっくりと持ち上げた。


 「邪魔って事と、仕事しないだろうって事に関しては信頼されてるわね。良かったわね」

 ソムニウムの追撃。

 「辛辣ぅ!」


 「お兄様はやれば出来る子なのに、何故やらないのですか?」

 「?出来る事やったって、つまらなくね?出来ないであろう事をやるのが楽しいんじゃん?」

 「意味わかりませんわ…」

 ルディクラは、溜息を吐く動作をする。


 「俺はクリオ兄と違って、楽しめれば何だっていいや。退屈な人生には、びっくりする様なスパイスが欲しいよな〜」

 「そう言って失敗しないでよ…?」

 「大丈夫だって。俺の仕事は単純だからな。

 作戦立案指揮はルディ姉。俺は暴れるだけ」

 「ほんと…アンタは尻拭いばかりさせて…」



 「…自分のやる事を理解しているなら良いわ。

 今回のお仕事は人間の依頼だとはいえ、成功すれば(マーテル)の目標に近づくかもしれない。

 ルディクラは、依頼人の籠絡の続きを宜しくね。必要なら(ネポテム)にしてしまっても良いわ」


 「…う〜ん、周囲のニンゲン達が感が良いかもしれないから、ギリギリまで孫候補に留まらせておきたいわ。

 そういう操作は私よりソムニ姉様やコピ姉様が得意よね。

 コピ姉様、お願い出来る?」


 「構わないわよ。裏切る気は出ない様に欲望を操作しておきましょう。ルディクラ、繋ぎをお願い」


 「分かったわ」



 「さてさて…会合も終わったし、俺は帰るかな…」

 「ちゃんと誘拐の下準備をしなさいよ。馬鹿クリオ」

 「気が向いたらね〜」

 そう言うと、クリオシタスとソムニウムの影が部屋から消えた。二人が座っていた席には、目も口も無い、重厚な黒いマネキンが鎮座していた。


 「じゃあ、俺達も戻って準備すっかな」

 「脳筋ゴリラ、ちゃんと武器の手入れはしなさいよ」

 「うわ!擬態ゴリラに言われちまったよ」

 「後で殺す」

 そう言って、ルディクラとチェルターメンの影も消えた。同じ様なマネキンだけが残された。


 「…はぁ…前途多難ね。本当に上手くいくのかしら…」

 最後に残ったコピも消えた。


 真っ暗な部屋には、豪華な衣装で着飾った黒い木で出来たマネキン達だけが残り、無言で円卓を囲んでいた。




 

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