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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第二章 国立学校サンクタム・レリジオ
14/287

◆2-1 そうだ、学校へ行こう! 1

第三者視点


この宗教と国の文化を少し紹介。




 ハルム砦での仕事が終わり、約一月後、雪は全て土に溶け、浸潤した土が次の命を芽吹かせている。

 人々は一年ぶりの春の訪れを喜んでいた。


 教会では春を言祝ぐ(ことほぐ)祈祷祭が執り行わた。



 エレノア司教が祭壇に向かい、最初に、冬の神ヒエムス=ソムノに『無事に冬を越した事への感謝』と『眠りの祈祷』を捧げる。

 続けて、春の女神フォンス=ヴィシタに『温もりの風と芽吹きの祈祷』を捧げる。



 エレノア司教の次に、オマリー神父が『神々が授けし神代の魔導具』の話と、『女神降臨と方舟伝説』の話をする。ヘルメス枢機卿も参加しているので、『声』の魔術は使用しない。


 (…枢機卿がじっと見ている…やりにくい…)



 そして、黒髪黒目、穏やかな雰囲気のマジス神父が、『洗礼式』と、『成人式』を執り行った。


 この国では、生まれ年を0歳、冬の年明けで一斉に一つ歳を取る。

 冬の間の年明けで7歳になった者に国民としての洗礼をして、個人名と家族名を戸籍に記す。

 同じく、冬の間の年明けで15歳を迎えた者は成人となり、『結婚の権利』、『土地の取得権利』、『神の名を用いた契約締結の権利』を与えられ、それと同時に納税義務者としても登録される。



 最後に、エレノア司教が、『神の御名』を『浸礼名(しんれいめい)』として欲する信徒に対して『浸礼(しんれい)』の儀式を執り行う。


 教会の用意した聖水に身体を(ひた)す事により、神の御力を貸与されると信じている。

 その際、自身の魔力に最も近い神を感じる事が出来るとされていて、感じた神の御名の一部を自身の名前に加える。


 浸礼名を取得した者は戸籍に、個人名=浸礼名=家族名として記され、『神の名を用いた契約』で浸礼名を使用出来る様になる。

 この契約は、教会の第三者の前で、お互いの浸礼名を記し締結されることで、破ることの出来ない『浸礼契約』となる。


 浸礼契約は、それを害したり、(ないがし)ろにした場合、聖教国全ての教会と信徒を敵に回すことになる。

 また、浸礼契約を途中で破棄したい場合は教皇の許可が必要になる為、『破ることの出来ない契約』とされている。


 この契約は主に、身分差を盾に契約を一方的に破棄しようとする高位貴族達を縛る物として使用されている。


 ただ、『浸礼の儀』で浸礼名を取得するにも、『浸礼契約』をするにも、それなりの『寄付金』が必要な為、平民で浸礼名を持つ者は少ない。

 浸礼名を用いない契約に関しては教会は対応しないので、結局、浸礼名を持たない平民の契約は、一方的に破棄される事も多い。



 エレノア司教の浸礼の儀式に続いて、信徒全員で聖書の一部を斉唱して、祈祷祭は終了した。




◆◆◆




 人払いをしたエレノア司教の執務室に、クラウディア、デミトリクス、ジェシカ、ルナメリアの4人と、おまけの妖精パックが集められた。


 エレノアはいきなり、

 「という訳で、貴女達には学校に通って貰います。」と言った。


 はい!と手を挙げてジェシカが、

 「何が『という訳』なのか分かりません」と突っ込む。


 エレノアは上を向いて、顎に人差し指を当てながら考え込み、「なんて言うかな〜」と言いながら、


 「これから輝かしい未来が用意されている有能な若者達の為に、勉学の場と新たな可能性を!

 そして、新たな友人、知人との出会いの場を、我が身を削って用意してあげねば!と考えた訳よ」と言うと、


 「建前はどうでもいいです。本音は?」とジェシカが再び突っ込む。


 「ちょっと楽したい」と本音をポロリ。


 「え?」と皆が聞き返すと、


 「戦争と殺人の技術ばかり上手くなりすぎて、貴女達、周囲と結構ズレてるのよ。おかげで、『無垢な子供達』の仮面が剥がれ掛けているのに気付いてないし。それを誤魔化すのも大変なのよ」と長椅子に寝そべる。

 「学校に貴方達の性格の修整を丸投げしようと思ってね。

 ついでに貴女達を学校に放り込んでいる間に、ココのネズミを少し掃除する予定。既に狸に許可を貰って、ここでの笛の仕事を減らしているし」


 「『笛』の仕事を減らす事なんて出来るのですか?」とクラウディアが尋ねると、


 「他にも要員はいるからね」と答えて、

 「子供達の性格修整を説明したら狸も納得してたわよ。あの性格の悪い狸が納得するくらいだから、貴女達は『笛』でも目立ってるって事よ。悪い方にね。

 ただ…緊急な案件は出てもらわざるを得ないけれどね。」


 ルーナが、「私達が悪目立ちするのは、主にエレノア様とノーラのせいだと思いますけど…」と、小さな声で呟いた。


 「ゴホン…本来なら貴女達、貴族籍を持つ子供達が、学校にも行かずに教会でお務めしている方が目立つのよ。

 狐も嗅ぎ回ってるし、避難の意味もあるわね」


 ジェシカが「貴族籍?」と聞くと、エレノアは「聞いてなかったの?」と言い、


 「ジェシカはオマリーの養子になったでしょ。オマリーはああ見えて男爵位を持ってるわ」と答える。


 ジェシカは驚いて、父ちゃん貴族だったの…?と呟いた。


 「オマリーは私の洗礼式前から仕える護衛騎士だったのよ。私が教会に入れられた際に私達の関係を隠して入ったの。

 お父様が教皇にお願いして、近くに配置してもらえるよう手を回してもらったの」と説明した。


 ジェシカは目を丸くして驚いていた。


 「それにノーラが貴女達に貴族の基本教育を施したでしょう?特にジェシカ。貴女には厳しく教えていた筈だけれど」

と言った。続けて、

 「オマリーの家はテイルベリ帝国のバルト男爵家。今はお兄さんが継いでいるけれど、お兄さんと甥っ子達に何かあった場合はオマリーが帰って継がなきゃいけなくなるの。

 そうなると、オマリーには貴女しか跡継ぎがいないから、貴女は貴族と結婚する事になるでしょ? 万が一を考えてオマリーがノーラに、貴女の貴族教育を頼んだのよ。」


 エレノアの説明にジェシカはショックを受けた様だった。


 「私が…貴族と結婚…? うぇぇ…嫌ぁ……

 …仕事で必要になる事もあるから、演技を覚えるだけかと思ってたのにぃ…」


 「ショックを受けると思って言ってなかったのね…。そうなる確率はかなり低いと思うから安心しなさい。

 …ただ、そうなった時に動揺しないように、一応覚悟はしておきなさい」と言った。そして、


 「オマリーが男爵位を持っている事を知っている人は割と居るけど、私との関係を知ってるのはノーラくらいかしらね。

 高位貴族の娘の護衛を下位貴族がやっていると思う者は普通はいないだろうし、都合が良かったから秘密にしていたの。

 だから、この事は他言無用よ?」と口に指を当てた。



 デミトリクスが手を挙げて、

 「ところで学校と言っても、どの学校ですか?」と尋ねた。


 「聖教国国立サンクタム・レリジオ。

 聖教国のみならず、外国も含めて全てに開かれた学校よ…表向きはね」


 「と言いますと?」とデミトリクスが聞くと、


 「貴族と平民の間で建物を分けてるの。問題が起きるからね」と答える。


 ジェシカが「そうよね。平民からしても分けてくれた方が安心するわ」と言うと、クラウディアが「貴女は貴族だけれどね」と返す。

 ジェシカは頭を抱えて唸った。


 突然、ルーナが、

 「行きたくないわ!」と言い出した。

 「私、嫌よ。必要ないわ。知らない人の多い所に行きたくないの!」と言うと、


 エレノアが、「わざわざ、皆同じクラスにしてあげたのに?」と聞く。すると、


 「私、行きたいわ。昼も皆と一緒に居られるのよね?」と意見を翻す。


 そこでパックが、「待って、待って、待ってよ!」と言い、

 「僕はどうすんのさ!一人でルーナの帰りを待つの!?」と騒ぎ始める。


 エレノアは、「問題ないわ。魔獣でも使い魔は一匹までは認められてるし。護衛騎士の代わりに調教した魔獣を連れて行く者も居るわ」と言うと、


 「僕、魔獣扱い!? 匹って言うなー!」と拗ねた。



 クラウディアが、「聖教国立サンクタム・レリジオは小等部(プライマリ)と高等部は別れてましたよね?どうやったのですか?」と聞くと、


 「私、司教なの」と答えた。


 皆が、突然何?と言う顔をすると、


 「サンクタム・レリジオ校長がホウエン司祭なの」


 理解したクラウディアが、「つまり教会権力で、のみ込ませた?」と聞くと、エレノアは頷きつつ、「正確には、中央区の司教とはちょっとした繋がりがあってね。その司教から校長に話を付けてもらったのよ。」


 ジェシカが「?」という顔をしていたので、クラウディアが、「ルーナは小等部(プライマリ)に籍を置いたまま、私達のクラスに参加させると、校長に権力を使って許可させたと言う事」と説明した。


 ジェシカが「大人って汚い…」と言うと、エレノアは

 「失礼ね。権力だけじゃなく、金と暴力も振りかざしたわよ」とぶっちゃけた。


 クラウディアは、「でもまぁ、私はデミちゃんが居ればどこでも良いわ」と言い、デミトリクスは「僕もお姉ちゃん達と一緒なら、いいよ」と言う。


 ジェシカは、「貴族の学校なんて行きたくないけど、断れないですよね?」と聞くと、エレノアが

 「貴女には、特に行って貰いたいの。今、教会はネズミが多くて困ってるのよ。学校なら狐のネズミも接触が難しいでしょうし。『お父ちゃん』の弱点になるのは嫌でしょ?」と答えた。

 ジェシカは渋々頷いた。


 デミトリクスが挙手して、「邪魔なら狐もネズミも処理しますが…」と言う。


 「それも狐の出方と狸の判断次第ね。現状、狐がオマリーに集中してくれているなら、そのままそれを利用した方がいいと狸は考えているようよ。

 狸としては、狐が勝手に疑心暗鬼に陥って、右往左往しているのを見てるのが面白いらしいわ。ついでに狐の後ろの奴を引き摺り出せないかな、とか考えてるっぽいわね。何か進展があれば狸から指令が下るでしょ」


 「後ろの奴?」とクラウディアが聞くと、


 「狸の情報網を私が把握している訳じゃないから、正確には言えないけれどね。この数年間に起きた出来事に黒幕が居るみたい。狐自身は、知らずに操られている可能性があるみたいだけれど、狐の裏には『そいつ』が居ると思ってるみたいよ。狸は」


 「父ちゃんは大丈夫ですよね?」


 「貴女の『父ちゃん』が狐如きに狩られるとでも?貴女が人質にならない限りあり得ないわ。だから貴女を避難させるのよ」


 ジェシカは悲しそうに(うつむ)いた。



 「因みに学費と寄宿舎(ドミトリー)の代金は全て出すから安心して。寄宿舎(ドミトリー)は学生以外は近づけないから、そこで過ごすようにね。緊急時は、学校経由でこちらから使いを出すわ」

 皆が一斉に頷いた。


 「それと…分かっているとは思うけれど、学校内では『殺人』禁止よ。短絡的に問題を解決しようとしないでね。

 …こんな注意をしないといけない子供達って、普通じゃ無いわよね…」


 デミトリクスが「わかりました。『学校内では』ですね」と言ったので、エレノアは慌てて「『生徒に対する殺人は禁止』! 学校内外関係なく!」と付け加える。


 「分かっています。冗談ですよ」と無表情のまま答えると、「デミちゃんが…冗談を言うなんて…」とクラウディアが感動して、デミトリクスの頭を撫でた。


 ジェシカとルーナが「この二人のせいで私達が普通じゃ無いみたいに思われてるのよねー」「ねー」と話しているのを聞いて、エレノアは頭を抱えた。



 皆が司教執務室を退室しようとした時、エレノアとクラウディアだけが何事か、相談していた。


 暫く話した後、遅れて皆に合流した。


 皆が、どうしたの?と聞いても、クラウディアはヒミツと言って答えなかった。



挿絵(By みてみん)

マジス神父

マジス神父、プロットで初めの頃に作ったのに、役割的にプロローグで出番が無かった為に、こんな所で急に出演…


しかも、出番少ない…(´;ω;`)


※浸礼名はこの宗教オリジナルです。

女性が司祭やら司教やってる時点で某国の某宗教とは別物。

『浸礼契約』は公証人役場での契約みたいなモノだと思ってもらえればいいかな。


因みに、クラウディア姉弟は

クラウディア=ガラティア=ヨーク、

デミトリクス=トニトルス=ヨークです。今更ですが。

主要人物は全員浸礼名を持ってるけど、自然に紹介するにはどうすればいいのやら…


下手に名前が長すぎると…ちょっとウザくて読みにくくなるし…

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