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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
139/287

◆4-39 不穏な空気

リリン視点




 クラウディア達を部屋に送り届けた後、私はお姉様達の部屋に戻った。


 「手間を取らせたわね。ありがとう、リリン」

 …お姉様から『ありがとう』なんて言葉を頂きました!


 お姉様とエレノア様のご尊顔を拝謁し、エレノア様の秘蔵娘達のお世話をさせて頂けました。

 お姉様の妖艶な美貌もさることながら、エレノア様の冷たい美貌も素晴らしかったわ。目の保養ですね。

 その上、お姉様から感謝されるなんて…至上の喜び!

 クラウディアとヴァネッサには感謝しかありません!



 次の日、二人を含めた子供達を交流会の通常の行程に戻して、私は一足先にエレノアと一緒に首都に向けて出発した。


 …お姉様は秘蔵娘達の警護があるから、離れられないのだとか…。とても残念です。

 でも尊敬しているエレノア様と(くつわ)を並べられただけでも幸せですし。良しとしましょうか。

 離れて私達の後ろをついて来る『トゥーバ・アポストロ』の連中が少しウゼェ…いえ、少々ウザいですけれど。

 離れてくれているだけ気が利くのだと解釈してあげましょう。


 私が、チラチラと後ろを確認している所をエレノアに見咎められた。


 「やっぱり気になるかしら?ごめんなさいね。護衛だけでなく監視も兼ねてるから外せないの」

 「いえ!全く気にしておりません!」

 「気にしないのは、それはそれで困るのだけれどね…」


 …エレノア様を困惑をさせてしまうなんて!お姉様に怒られてしまいます。困りました。



 暫く馬を疾走させていると、馬借の中継村が見えた。


 「エレノア様!あの村で馬を交換します。少々休んでいきましょう」

 「交換は良いけれど休む暇は無いわね。今日中にやらなきゃいけない予定が入ってるのよ」

 「そうですよね!エレノア様はお忙しい身。先を急ぎましょう!」


 …ちくせう…。エレノア様とのせっかくのデートが、ただ無言で疾走するだけなんて…。

 後ろからは覗き虫がついて来るし。


 エレノア様やお姉様とお食事デートやお買い物デートがしたかったなぁ…。

 野盗狩者(かりもの)競争とか、闇ギルドの連中を蛇穴に引き摺り込む遊びとか、無能な部下をお姉様のお友達の御馳走にするとか…色々と一緒に遊びたかったなぁ…くすん…。


 私達は疲れた馬を元気な馬に交換すると、すぐに村を出発した。


 …追跡してくる奴等を引き離すつもりで走ってるのに、ピッタリついて来るわね。


 ウザいけれど、流石は教皇猊下の部下…といったところか。しっかり鍛えられているようね。

 ああ…でも、邪魔…◯したくなる。

 …いけない、気を付けないと。


 「貴女達の特性は知ってるけれど、私の護衛に殺気を向けるのはやめてくれないかしら?」

 エレノアは苦笑いしながら窘めた。


 「も…申し訳ありません!」


 …うう…エレノア様に怒られてしまいました…。


 私達は、ほとんど休憩をせず、馬を交換しながら走らせたお陰で8の鐘を過ぎた頃には首都に到着出来た。

 通用門の窓から騎士団第一国境警備隊副隊長の紋章を見せると、知己の首都第一警備隊騎士団長が顔を出し、すぐに開けてくれた。


 「おう!リリン。予定より早かったな」


 首都第一警備隊は帝国のエリート部隊。

 私は諜報部員として、この隊長に話を通す事がよくあるので、気のおけない関係だ。


 「ん?今日は第一首都警備隊が当番なんだっけ?」

 「この数日間は聖教国のお坊ちゃん達が来るからな。()()()()()()俺達に連日当直しろってよ。その代わり、これが済めばしばらく休みをくれるらしい」

 「最後尾が後2日くらいで到着するからね。頑張って」

 「ありがとうよ。お前も、そこのお偉い様の護衛をしくじるなよ」

 騎士団長はエレノアを一瞥した後、私と拳を合わせてから、門を閉めて戻って行った。


 …エレノア様の護衛役達は、どうやって閉じられた門を抜けるのかな?

 少し興味はあるけれど、お姉様の同僚達なら造作もない事かしらね。


 「リリン、先に到着している娘と合流するわ」


 了承して、私達は待ち合わせの為に予約しておいた店に入った。


 「アヌア家のお嬢様、お待ちしておりました」


 店主が挨拶をしながら店の2階奥の個室に案内してくれた。

 エレノアはフードを目深に被り顔を隠しているが、店主は出来るだけ視線を向けない様に気を遣ってくれている。


 …有名人だから仕方無い事とはいえ、お美しいエレノア様を皆に自慢出来ないのは歯がゆいわね。


 私とエレノアが席に着くと、すぐに3人分の食事が運ばれて来た。私が先に毒見をしてから、彼女に食事を勧めた。


 「ところで、待ち合わせ予定のジェシカ様は、どの様な方でしょうか?オマリー様は兎も角、ジェシカ様の容姿は知られてませんので…。

 店主に知らせておかないと、門前払いされてしまいます」

 「大丈夫よ。あの娘は門から入らないから」


 …?エレノア様の秘蔵娘達は変わった娘ばかりなのかしら?


 そんな事を考えていたら、路地から微かな口笛が聞こえた。

 エレノアが路地に面した窓を見た。


 「リリン、そこの窓を大きく開けて頂戴」

 「…?畏まりました」


 窓を左右に大きく開くと、突然、(ひさし)の上から少女の顔が飛び出て来た。


 …私が全く気配を感じなかった…?まるでお姉様の様だわ。


 「そこに立っているとジェシカが入れないわ」

 エレノアに声を掛けられ、咄嗟に脇に避ける。

 少女は庇に手を掛けながら一回転して部屋に飛び込んで来た。


 …ここ、地上から10メートル以上あるのだけれどね…。

 お姉様の同僚達がこんなのばかりなら、たしかに城壁は意味無いわよねぇ…。


 ジェシカと呼ばれた娘はこちらを警戒しながら、黙ったままエレノアの後ろに控えた。


 「ジェシカ、こちらはリリン。帝国の第一国境警備隊副隊長よ。表向きは」

 「表向き?」

 「本職は、帝国の諜報部監察課『目』所属のセルペンス中佐よ」

 「げっ!セルペンス!?」

 「そ…貴女の知ってる彼女の妹」

 「人間に見えますけど…?」

 「人間だからね」

 「えっ?」


 …お姉様、どれだけ正体バレてるのかしら?

 それとも、正体隠さなくても迫害されてないの?それなら良いんだけど…。


 「裏の仮名はセルペンス=サンギス=アヌア。アヌア子爵家の次女をしております。表向きの仮名はリリン=アヌアです」

 「両方とも仮名なんだ…」

 「私達みたいな立場だからね。

 取り敢えず座りなさい。食事にしましょう」

 「はーい」


 ジェシカは警戒を解いて、席に着いた。


 …この娘、強いわね…。

 お姉様には及ばないけれど暗殺者としては高レベルね。


 普通の兵士…騎士…団長…勝てない。近衛…正面から戦えば…。

 馬鹿正直に正面から戦うなんてしないだろうから…、私やリオネリウス殿下の近衛筆頭くらいでないと歯が立たないか。

 彼女の隠し玉次第では、私が後れを取る可能性も…。


 「エレノア様、この人から不穏な気配が漂ってきます。落ち着かないのですけれど?」

 「戦って勝てるかどうかを考えてしまうのが彼女の癖なのよ。我慢して」


 …私のほんの僅かな殺気に気付かれたか…。流石ね。


 「ジェシカ様…強いですね。流石はエレノア様の秘蔵娘」

 「そーよ。自慢の娘なのよ」

 「く…エレノア様の自慢対象にされるなんて…羨ましい…!」

 「…エレノア様…、この人怖いです」

 「姉と同じ様な性格だから」

 「なるほど…」


 …お姉様と同じと言われるのは嬉しいですけれど、何故か嫌味が入っている気がしますわね…。


 「取り敢えず食事をしながら、到着からこれ迄の調査結果を教えて頂戴」

 「畏まりました。まず…」


 ジェシカは到着してからほとんど時間が経っていないにもかかわらず、不審な騎士団員に関する情報や、軍部で対応している反帝国勢力や麻薬取引に関する情報、鍵のかかった引き出しの中にあった誰かのラブレターまで見せてくれた。


 「こんな…短期間で…凄いわね」

 「ほんの一部しか探れてませんけど。流石にまだ、帝国諜報部と各所の金庫は漁ってませんよ?難しそうだったので」


 …まだ…ねぇ。目を離したらやられるわね。

 何とか管理下に置かないと、私達の行動まで暴かれそう。

 一流の暗殺者ではなく、超一流の諜報員だったか。

 エレノア様が重用する訳だわ。


 「ねぇ…リリン。ジェシカの情報と被る奴は…居る?」

 「はい…以前から監視していた者達がほとんどですが、ここの数名だけノーマークでした…。すぐに手配させます」

 「明日からクラウディア達到着までは、この娘と一緒に調査をお願いね。…はぁ…、せっかく休めるかと思ったのに…」

 エレノアは至極残念そうに溜息をつく。


 …一緒という事は、管理下に置けという意味よね。

 流石はエレノア様。ジェシカ様がやり過ぎている事を婉曲に諌めてくれたわ。


 「そうだ…エレノア様。調査途中に気になった事が…」

 「騎士団や軍やラブレター以外で?」

 「ええ…実は…」


 私は、それを聞いて酷く驚かされた。

 「まさか…殿下が…?」



 

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