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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
138/287

◆4-38 嘘偽りに塗れた私達が存在する理由

リリン視点




 学校交流会が始まる数日前。


 聖教国と帝国の学校交流会の為に、連日、聖教国の生徒達が国境の街を通過して行った。

 私は、テイルベリ帝国王帝陛下より密命を受けて、国境警備部隊に混ざっていた。


 帝国内で幾つか在る私の立場の一つ。

 今の職業は、テイルベリ帝国第一国境警備隊副隊長。

 地位は中尉。


 ()というのがポイント。


 隊長だと部隊から離れられない。

 副隊長なら、『隊長の命令』で自由が利く。

 数日居なくとも、『命令』の内容次第で不審がられない。

 ()()を行う上で、大切な()()()()



 今は、騎士団が聖教国のVIP達に失礼な行いをしないかどうかを監視する業務。

 国境警備隊副隊長として、相手が子供達だからと舐めた態度を取る騎士や兵士が居たら、裏に連れて行って優しく『再教育』をする。

 こちらは表向きの平和な仕事。


 本業は帝国諜報部の『目』としての監視任務。

 軍諜報部中佐が私の立場。

 国境警備隊隊長より、2つも上の地位。

 隊長は私の部下。


 舐めた態度の部下程度なら問題ない。

 表向きの仕事で裏に連れて行くだけ。


 危害を加える可能性のある奴等は、『裏』ではなく、『藪の中』に連れて行く。


 …藪の中と言うか、穴の中と言うか…?



 私の部下から、不穏な動きをしている連中の存在に関する報告が上がった。

 聖教国の生徒達の第一陣が到着する日に、私に急遽配置命令が下された。


 初日の子達は既に通過した後だった。


 一応、報告を上げた部下が監視を強化していたから、行動の抑制にはなったのだろう。問題は無かったそうだ。

 単に、初日に問題を起こして、他の獲物が逃げ帰る事を阻止したかっただけかも知れないけれど…。


 私は、すぐに配置に着いて()()の特定を開始した。


 不思議な事に、この数日で騎士が2名と兵士が5名、行方不明になった。彼等は巡回任務から帰って来なかった。

 捜索隊は、彼等の痕跡を一つも見つけられずに帰って来た。


 …きっと、お姉様のお友達は喜んでらっしゃるでしょう。

 お腹いっぱいになったかしら?


 確定した彼等は処理済み。

 後は、捜索隊を解散させれば問題解決。


 捜索隊を指揮していた私の部下でもある国境警備隊隊長が、行方不明の連中の荷物の中から、ある書類を発見した。

 それは返済期日の切れた証文。

 彼等はスラムの闇組織から金を借りていた…という事になった。

 荷物に忍ばせて於いたのも、その隊長だけれどもね…。

 行方不明の連中は返済出来なくて逃げたのだろう…そういう事になった。


 それが公表された日、捜索隊は解散した。


 状況を察知した、他の未確定だった連中は動きを止めた。


 …全員炙り出している間に、生徒達の内の誰か一人でも傷付けられたら負けだからね。しょうがない。

 喫緊の危険な奴等だけ処分出来たし。良しとしよう。



 「はぁ〜…可愛い子供達…。癒やされるわ。

 おっと、いけない。仕事、仕事」

 私は聞かされていた外見の特徴に一致する娘を探して、名前を確認した。


 聖教国の可愛い生徒達御一行、後半組の子達が街に到着する日、数日前からこの街に滞在していたお姉様から依頼を受けた。


 今日、関所を通る子供達の中に居る、『ある娘達』を私の滞在する部屋まで連れてきて。


 私は見つけた子供達に護衛として同行した。

 ホテルの支配人には既に話が通っていたらしく、お姉様の手配した者達が紛れ込んでいた。

 彼女らと協力して、確保した子達を指定された部屋に連れて行った。

 ヴァネッサという娘は仔鹿みたいに震えて…可愛いわぁ…。


 「この娘はリリン。私の可愛い妹よ。今は、ええと…国境警備隊副隊長をしているわ」

 お姉様がクラウディアという娘に私を紹介した。


 …なる程、お姉様の好きそうな娘ね。食欲的に。

 もう一人は突然倒れたけれど…お姉様との間に何かあったのかしら?




 学校交流会の話が出てから、帝国諜報部『目』が事前調査を行った。

 以前まで問題の無かった連中を、『金』と『女』の項目で調べ直した。


 貴族や騎士団を調べると出るわ出るわ。不穏な情報。

 奴等に流れるお金の量に、大きな変動があった。


 どちらの貴族から話が漏れたのだろうか?

 ヘルメス枢機卿の事はお姉様達が監視していたそうなので、それ以外にも籠絡されている貴族は居る様ね。


 その事を王帝陛下に報告すると、直接的に接触出来る立場の者以外は泳がせておく事になった。


 確定した奴等は、出来る限り事故に見せ掛ける。

 噂程度であっても、情報の拡散は止める。

 周囲に恐怖を伝播させない。これ重要。


 理由は容疑者の数が多過ぎたから。

 少なければ、容疑に関係なく全員捕らえて済む話だったのだけれど…。


 混乱と恐怖は相手の利になる。

 お客様滞在中に内乱になったら目も当てられない。


 イベントの中止は論外。

 帝国に統治能力が無い事を諸外国に喧伝する事になる。


 発表前だったけれど、平民の間ですら噂になっている今回のイベント。

 意図的に流した奴が居る。

 近隣諸国が知らない筈が無い。


 規模が思っていたより大きかった事から、王帝陛下は教皇猊下に連絡をとった。

 そして、聖教国の『笛』と合同調査をする事になった。


 『目』の仲間達は聖教国の諜報部に自国の縄張りを荒らされる事を嫌がったが、私はお姉様と久しぶりに会えるのが嬉しかった。



 仲間達は知らないが、私の直接の上司は諜報部長ではない。

 王帝陛下であり、教皇猊下でもある。


 どちらの指揮系統も同列。

 もし今現在、私が聖教国に居れば教皇猊下の下に。

 今は、帝国に居るので王帝陛下の下に着く。


 正確には、より高位存在の命令で二人の下に着いている。


 教皇と王帝との裏取引により、帝国諜報部『目』を監視する任務も受けている。

 王帝は帝国諜報部が、他の高位貴族や自分の息子である王子達に掌握される可能性を危惧している。

 私は、万が一そうなった時の為の警報器。

 決して、王帝以外の者には従わない制約がある。



 私は帝国貴族アヌア子爵の娘としての戸籍も持っている。


 アヌア子爵には自身の()()の家族の他に、二人の娘が存在して居る事になっている。

 それが、お姉様と私。

 他の兄弟達に紛れて存在している『二人姉妹』。


 今、私は帝国貴族と成っている。


 ()というのが重要。

 そもそも、私達姉妹は聖教国の民でも、テイルベリ帝国の国民でもない。


 私達は、豊穣の森の民だ。


 アヌア子爵領は黒の森に隣接しているから、黒の森経由で秘密裏に聖教国と行き来できる便利な土地。


 魔素濃度の低い場所を通れば、普通の人間でも通行可能。

 でも、普通の人間なら黒の森の魔獣や魔物達のご飯になるから、通るどころか近寄らないけど。

 森の中で産まれた私達には、心の落ち着く故郷でしかない。


 アヌア家でのお姉様の立場は、病弱で外に出られない深窓の令嬢。美しいお姉様にピッタリの立場。

 近隣の領民どころか、自領の領民ですら顔を知らない。

 仮のお父様達も侍従達も、お姉様が『居る』という演技はしているので、皆は『居る』と思っている。


 もし、お姉様が帝国で活動する必要がある時に、戸籍があれば便利だからって、万が一を考えて作ってある。



 お姉様は私とは逆。聖教国内の『笛』の監視。

 だから聖教国にも貴族としての戸籍がある。

 ほとんど帝国のアヌア家には来ないので、会うのは数年ぶり。


 …何年経っても、お美しさに変わりは無かったわ。

 本当の姿でも現在の仮の姿でも、相変わらずの美しさ。

 クラウディアやヴァネッサは怖がってましたが、私にとっては尊敬出来る大好きな姉。



 教皇猊下も王帝陛下も、私達姉妹を利用している。


 身内ですら信用出来ない二人が、お互いの身の安全を保証する為の割符として。

 身内より近い身内であるお互いの諜報部が、突然暴走しないようにする為の制動装置。

 暴走した場合、秘密裏に処理する役目もある。


 お互いがお互いの約定を違えない限り、私達は王帝陛下と教皇猊下の剣になる。


 約定は、それぞれの国の守護者である魔人達が交わした物。


 数百年を生きる魔人達の契約。

 数十年しか生きない人間には破れない約束。


 だから王帝陛下も教皇猊下も、国同士がどんなに仲が悪くなったとしても、二人は決して裏切らない、争わないという()()がある。


 約定を違えた方が消されて、別の者が据えられる事を理解している。

 そこには人間の様な感情や打算は存在しない。

 最も合理的に、争いを鎮める方に動く。


 …全ては真の主の為に。

 それが、私達の存在理由。



 

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