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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
133/287

◆4-33-2 クララベル対デミトリクス2

フローレンス視点




 デミトリクスが切られた!

 勢いよく振り抜かれたツヴァイヘッダーを見て、皆はそう感じた。


 皆の予想に反して、デミトリクスは相変わらずクララベルとは一定の離れた距離を保っていた。


 …え?デミトリクス様、いつの間に?


 見物人だけでなく、クララベルまで驚いて目を見開いていた。


 「へぇ…やるねぇ…。私が見逃すなんてな」

 クララベルの雰囲気が変わり、真っ赤な唇を舌で舐めた。


 突然、彼女は走り出した。


 大剣の持ち方を横薙ぎの大振りから、狭い範囲を素早く刺突する形に変えた。

 後ろ飛び退きで距離をとるデミトリクスを追いかけながら、彼女は長い刀身を何度も突き出す。

 自分の身長位の剣を、自身の身体と腕ごと前に出す。

 飛び出した剣を、鍔の持ち手に添えた左手で引き戻す。

 戻ると、またすぐに右手で剣を押し出した。

 それを何度も繰り返し、デミトリクスの逃げる方向を細かく潰した。

 とてもデミトリクスの武器では届かない距離なので、彼は相変わらず避け続けていた。


 …やっぱり卑怯ですわ!

 あんなに離れてちゃ、デミトリクス様は攻撃しようがないですわ!


 しかし…あの下品女は、あれだけの大剣をあんなに振り回して、疲れないのでしょうか?

 剣術指南の大柄な先生でも、あれだけ振り回したら倒れそうですけれど…

 あんなに長い鉄の剣を水平に持てるって、一体どんな力なら出来るのかしら?


 ギャリ!


 金属が擦れる音が響いた。


 今迄、足捌きと上半身の動きだけで剣を避け続けていたデミトリクスが、初めてレイピアを使った。

 クララベルのツヴァイヘッダーが、デミトリクスの身体に向けて伸び切った所を彼は狙った。


 彼が左手に持ったレイピアを彼女の刀身にピタリと添わせ、自身の身体を自分のレイピアに押し付けた。


 彼女の剣と彼の身体が、レイピアを挟んで1つになった。


 彼は自分の身体でツヴァイヘッダーの刀身を押し込みながら、一気に前に飛び出した。

 大剣を引く速さと同じ速度でクララベルの懐に入り込み、右手に持った小刀を彼女の首の左側を狙って振り下ろした。


 「くっ!」


 クララベルは剣を引く体勢のまま首を後ろに反らして小刀を避けた。

 未だにツヴァイヘッダーの刀身にピタリとくっつき離れないデミトリクスを、彼女は体勢を反らしたまま、自分の両手剣諸共持ち上げ振り抜いた。

 振り抜かれた勢いで、彼のレイピアが彼女の剣と離れた。


 クララベルの怪力で持ち上げられ、振り抜かれて投げ飛ばされ、デミトリクスは宙を舞った。

 彼は、空中でクルリと回転して音もなく着地する。


 見ていた生徒達はあまりに早い攻防に驚き、口を開けたまま声も出せず呆然と眺めていた。


 …なんですか、これは?なんですか、これは??


 デミトリクス様ごと吹き飛ばす下品女の怪力も異常ですけれど、デミトリクス様も達人じゃないですか!

 剣術指南の先生達より、遥かに動きが速いですわ!

 飛び込んだ姿が見えませんでした!


 横を見ると、私の表情に気付いたマリアンヌが、大丈夫でしたでしょ?と言いたげにニコリと微笑んだ。

 ヴァネッサも特段驚いた表情は無かった。

 ふと、クラウディアに視線を向けると、試合を気にもせずにリヘザレータと雑談をしていた。


 彼女達がデミトリクス様を心配しないのは、彼のこの実力を知っていたから…知らなかったのは私だけ?



 「あははは!スッゲー!やるじゃん!」

 「もう止めなさいクララベル!」

 「何いってんの?こんなに楽しいのはセタンタ以来だよ!

 止めれる訳無いじゃん!なあ?お前もそうだろう?」


 クララベルは速度を更に上げた。

 横薙ぎと突きを交互に織り交ぜて、激しく攻撃した。


 ギャリ!ギャリ!ギャリ!


 デミトリクスの持つレイピアの刀身とクララベルのツヴァイヘッダーの刀身が擦れ合い、火花が飛び散る。


 クララベルはデミトリクスに飛び込まれない様に、レイピアが触れたら突きを引き戻さず、そのまま横薙ぎした。

 横薙ぎにされた時、デミトリクスはレイピアを少し倒して彼女の攻撃を逸らした。

 その度に刀身から火花が飛び散り、耳障りな金属音が響き渡った。

 既に、その状態で数合(すうごう)打ち合っている。


 耳を押さえたくなる激しい音と、目に飛び込む眩しい火花で、試合を見るのも辛い筈なのに、全員目が離せなくなっていた。


 クララベルの鉄を叩きつける激しい音楽の様な攻撃にのせて、デミトリクスは華麗な舞を披露している。


 「楽しいなぁ!いいなぁ、お前!セタンタとは違った強さだ!」


 荒れ狂う嵐と稲妻の様なクララベルの演奏の中、いつもと変わらぬ表情で踊り続けているデミトリクス。

 激しく打ち付けられる攻撃と目にも止まらない回避。

 皆、目を逸らしてはいけない、そう強く感じてしまった。


 ギャリン!!


 強い金属音が響き渡った後、デミトリクスが先程と同じ様に宙を舞っていた。


 クララベルがわざと隙を作り、デミトリクスを飛び込ませた。

 ある程度深く入り込んだ所を横薙ぎにして、先程と同じ様に彼を投げ飛ばしたのだった。


 デミトリクスが再び空中でクルリと回転した時を見計らって、クララベルが飛び出した。

 彼が着地する場所に向かって飛び込み、躱せない範囲に、ツヴァイヘッダーを大きく横に薙いだ。


 「ひぃっ!」

 誰もがデミトリクスの死を予想した。


 ゴォン!ギャリン!


 クララベルのツヴァイヘッダーに、デミトリクスがレイピアを合わせた。

 その為に刀身が擦れあい、一際(ひときわ)大きな風切音と金属音が辺りに響き渡った。


 クララベルが横薙ぎした刀身の上から、空中に居たデミトリクスが自分のレイピアを斜めに添えた。

 更に彼は、自分の剣の刀身の上を踏んで、彼女の横薙ぎの攻撃を躱した。


 デミトリクスは、身体を回転させてクララベルの攻撃の威力を殺し、地面に降り立った、


 キン!


 金属が弾ける音がした。

 デミトリクスのレイピアが折れて飛んでいった。


 「そこまでよ!」

 マリアベルが声を掛けて試合を制止しようとした。


 「そこまで!!やめなさい!やめろ!クララ!!」

 「キャハハハハハハ!」

 しかし、興奮したクララベルは止まらなかった。

 彼女は着地したデミトリクスに向かって、勢いよく剣を振り上げた。


 生徒達から一斉に悲鳴が上がり、皆が手で目を覆った。

 その瞬間、デミトリクスの右手が素早く動き、彼が消えた。


 ドサッ…ガラン、ガラン…


 皆が閉じた目を恐る恐る開けると、デミトリクスの足元には、剣を手離したクララベルが倒れていた。

 彼女のツヴァイヘッダーは、彼女の後方、少し離れた場所で大きな音を立てながら転がっていた。

 彼女の右腕には彼の持っていた小刀が突き刺さっていた。


 「えっ…?今、何?えっ…?」

 マリアベルが目を見開いて呆然と眺めていた。


 「えっ?あれ?」

 「無事…ですわ!」

 皆、何が起きたか理解出来なかった。


 生徒達は口を開けて目を見開いたまま止まっていた。

 審判をしていたマリアベルすらも、現状把握が出来なくて、無言で立ち尽くしていた。

 デミトリクスを神格化している女子生徒達だけが、「当然の結果よ」と、うっとりと彼を眺めている。


 わぁ!

 サンクタム・レリジオの生徒達から、一斉に拍手が沸き起こった。

 妬いていた生徒達まで、興奮して彼に拍手を送っていた。

 女生徒達は貴族と言う事を忘れ、抱き合って飛び跳ねていた。


 シエンティアの生徒達側は、皆啞然としたまま時間が止まっていた。生徒達の中から、「やったぜ…ざまぁみろ…クソ女」という呟きが聴こえた。



 「お疲れ様、デミちゃん。格好良かったわよ」

 「ありがとう。お姉ちゃん…」

 勝つのが当然という顔で労う姉と、息も切らさず平然と応える弟。


 「レイピア、壊れちゃったけど、謝ったほうがいいの?」

 「必要無い。相手が壊したのだから」

 「うん…分かった」


 クラウディア姉弟は淡々と後片付けして、沸き立ったままの剣技場を後にした。

 そのすぐ後をヴァネッサ達がついて行き、マクスウェルとイルルカも追いかけた。


 「フローレンス様、そろそろ昼食の時間です。ホテルに帰らなければなりませんわ。

 戻って着替えないと…馬車を待たせてしまいますわ」


 リヘザレータに声を掛けられて、私の意識が戻った。


 一体何が起きましたの?

 最後、デミトリクス様が殺されたかと思いましたのに、倒れていたのは下品女でした。

 何故?いつの間に?目は逸らしていない筈なのに、分かりませんでした…彼が一瞬消えた様な…



 私はその時、初めてデミトリクスに対して恐怖を感じ、身震いした。



 

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